新製品批評
Phile-web >> 製品批評 >>KENWOOD「Kseries Esule」



ケンウッド・ブランドの前身であるTRIO(トリオ)は1960年代、コンポーネント・ブームを迎えた我が国のオーディオ界を代表するブランドとして多くのファンの支持を受けていた。その後、単品コンポーネントの性能を確保しながら凝縮・小型化した感のあるコンパクトなコンポーネント群をK's シリーズとして発売。欧米で「ラック・システム」と呼ばれる安価なセットものとは一線を画するクオリティと品質から高い評価を獲得した。今回、登場した“Kseries Esule”は、そのネーミングからいって、かつてのK'sシリーズ同様コンパクトでありながら高級な単品コンポーネントに負けないクオリティを目指した同社の意欲作といえるだろう。




今回の“Kseries Esule”はいわゆるCDレシーバーのR-K1と小型スピーカーシステムLS-K1で構成される。とはいってもセットで販売される訳でなく、両機は単独販売され其々プライスタグがつけられている。当然、両機の設計はデザイン面でのマッチングなどが図られているが単品販売するには個々の製品が高い完成度を有していなくてはならない。何故ならば、この両機だけで音作りをしてしまうと他社の製品と組み合わされた場合に欠点や弱点を顕にしてしまう可能性があるからだ。その意味から今回の“Kseries Esule”はオーディオ・ファンが聴いても納得できるサウンド・クオリティを有しているというのは想像に難くない。

CDレシーバー「R-K1」。必要最小限に抑えられた操作部はシンプルかつ高いデザイン性を備えている スピーカーシステム「LS-K1」。3つのユニットを高密度MDF材が支える セッティングは至ってシンプル。試聴は音元出版オーディオ試聴室で行った

R-K1はCDプレーヤー、FM/AMチューナー、そしてプリメイン型アンプを一体化した製品で、安さと多機能が売りのセットものでは珍しくない形態だ。しかし音質重視の思想で貫かれた製品となると稀な存在になるだろう。R-K1の内部はCDメカニズム、アンプ部、デジタル処理部、電源部などを独立分離するように絶妙な位置関係で配置されている。その一環としてCDメカニズムは専用ケースに収めた外乱光遮断構造を採っている。さらにボトムのメカシャーシは下部にある電源トランスの電磁波の干渉も遮断している。またデジタル信号処理部に同社オリジナルの“Supreme EX”を搭載しているのも特徴だ。これはCDの作成過程でカットされてしまう20kHz以上の帯域を再生するための同社オリジナル技術であり、生楽器の持つ美しく繊細な響きやホールの空気感をリアルに引き出せる。その信号は定評ある英国Wolfson社のDACチップを左右独立で搭載、差動出力信号を生成。クリーンな音楽信号をアンプ部に伝送する。そのアンプ部は38W/ch(6Ω)という実用上十分なパワーを有している。フロントパネルはシンプルで機能的、大人の趣味の道具にふさわしい雰囲気を漂わせている。

▼R-K1回路構成


R-K1と同時に開発されたスピーカーシステムLS-K1は、伝播速度の速いクロスカーボンと内部損失の高いパルプ素材を貼り合わせた新開発のハイブリッド・クロスカーボン振動板を採用した、12cm口径ウーファーを搭載したバスレフ型3ウェイ機。クロスオーバー周波数から考えると2ウェイ+スーパー・トゥイーターという構成にある。中高域は25mm口径ソフトドーム型トゥイーター、20mm口径のスーパー・トゥイーターを採用。これらは30mm厚バッフル内の独立したキャビティに取り付けられている。エンクロージャーは高密度MDFを採用、表面は美しい木目のサテンシカモア材の突き板仕上げを施すなど価格以上の性能と高級感を実現している。


R-K1の背面端子部。電源ケーブルを付け替えてグレードアップを図ることも可能だ センターフレームを設け、筐体内部を前後にセパレート。不要振動や磁束により悪影響を及ぼす電源部を分離することで、アナログ回路の独立性を確保している 付属のリモコン。専用ケーブルで接続した同社デジタルオーディオプレーヤーの操作も行うことが可能だ

新開発ユニットと分離構造ユニットが高い再生能力を獲得した 背面ターミナル部 バスレフポートは背面上部に備えている



R-K1とLS-K1を統合したものが“Kseries Esule”ということになるが、R-K1はアンプやCDメカなど、機能ごとに独立させた各パーツを統合した単品コンポーネンツの集合体といえるコンストラクションだけあり、質の高いクリアなサウンドが聴ける。再生帯域内にエネルギーを集中させるなどしてメリハリを強調するような傾向はなく、バランスの整ったナチュラルな再生音を実現している辺りも単品コンポーネントの性能を一体化しながら実現した感がある。またSupremeEXとスーパー・トゥイーターを搭載したLS-K1のパフォーマンスが十分に発揮されたと思える高域レンジの広さが感じられ、ストリングスの高音部など繊細感のある滑らかなトーンで再生する。また空間の透明度も高くホールの残響成分などもクリアに描き出す解像度が確保されており、音場に自然な広がりが感じられた。低域も12cmというウーファー口径から想像する以上の伸びと充実感があり低音楽器の質感や音像に実体感がある。また小型機では難しいコンテンポラリー系音楽のマッシブなキックドラムなどは適度な厚みを感じさせながらタイトさもありビートの切れを曖昧にすることもない。

高音質を追求しながらもポータブルタイプのデジタル・プレーヤーに対応している辺りに時代の流れを感じるが、iPodを聴くとやはりSupremeEXの効果だろう、十分なレンジを確保し伸びやかなサウンドで音楽を十分に楽しむことができた。iPodは本体で操作しなくてはならないが同社の“Media KEG”などのDAPであればリモコン操作も可能なので手軽に多くの音楽を楽しみたいという音楽ファンは利用するのも良いだろう。

CDをじっくりと聴き込む小林氏 ケンウッドのデジタルオーディオプレーヤー“MediaKEG”を専用ケーブルで接続すればリモコンでの選曲も可能に 手持ちのiPodも接続して試聴。SupremeEXの効果が実感できる

R-K1とLS-K1を接続するだけで音楽を楽しめるが、単品コンポーネントの実力を有しているだけにLS-K1はスピーカースタンドを使いフリースタンディングの状態にセットすべきだろう。またR-K1も良質なオーディオラックを使いたい。またスピーカーケーブル、ACケーブルなどを変えても、その効果を確実にサウンドに反映させるだけのパフォーマンスを有しているだろう。メカニズムを意識せず良い音で音楽を楽しみたいという人、リビングルームなどにさり気なくセットして家族で音楽を楽しみたいという大人の音楽ファンも多いだろう。そんな人々の思いを叶えてくれるのが、この“Kseries Esule”ではないだろうか。


著者プロフィール
小林 貢 Mitsugu Kobayashi
東京・浅草生まれ。ビートルズやヴェンチャーズの登場に触発され中学時代からギターを初め、高校時代までロックを中心にバンド活動を行う。高校3年になる頃ベースに転向、大学入学と同時にジャズを始める。日本大学法学部へ通うかたわら尚美高等音楽院にてコントラバスを習得。大学卒業後、70年代の日本ジャズ界をリードしたスリーブラインドマイス(TBM)レコードに入社。企画制作に携わると同時にマスタリング監修も務めた。その頃からオーディオ専門誌で執筆活動を開始。国内外のハイエンドからエントリーモデル、クラフトやカーオーディオ関連までと守備範囲は幅広い。近年、再び音楽制作に乗り出し、自身のレーベル「ウッディ・クリーク」を興す。高音質かつ音楽性の高いCDを発売し、内外から高い評価を受けている。


製品スペック


CDレシーバー
R-K1 199,500円(税込)
<アンプ部>●定格出力:38W+38W(20Hz〜20kHz、0.07%、6Ω)、45W+45W(20Hz〜20kHz、0.07%、4Ω) ●実用最大出力:55W+55W(JEITA 6Ω)、70W+70W(JEITA 4Ω) ●全高調波歪率:0.015%(20Hz〜20kHz,10W、6Ω)、0.003%(1kHz,10W,6Ω) ●SN比:105dB(AUX、TAPE、MD、D.AUDIO)、95dB(PHONO)<CD部>●周波数特性:20Hz〜20kHz ●SN比:110dB以上 ●ダイナミックレンジ:100dB ●再生可能ディスク:CD、CD-R、CD-RW(CD-DAフォーマット)<総合>●定格消費電力:120W ●外形寸法:約280W×151H×407Dmm ●質量:約9.6kg
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スピーカーシステム
LS-K1 98,700円/ペア(税込)
●形式:3ウェイ3スピーカーシステム、バスレフ方式 ●防磁設計(JEITA) ●定格インピーダンス:6Ω ●定格入力:40W ●最大入力:80W ●ウーファー:12cmコーン型 ●トゥイーター:2.5cmソフトドーム型 ●スーパートゥイーター:2cmハードドーム型 ●出力音圧レベル:85dB ●再生周波数特性:45Hz〜40kHz ●クロスオーバー周波数:3kHz、20kHz ●外形寸法:180W×330H×275Dmm ●質量:約5.7kg(1本)
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