公開日 2015/05/13 11:48
ソニー新“ブラビア”X9400/9300Cの画質&音質を速攻チェック!
折原一也がレポート
HDRは映像の”表現力”を底上げしてくれる
X9400/9300Cのもう一つの画質関連のアピールポイントは、「HDR」(ハイダイナミックレンジ」に対応予定であること。HDRと聞くと、バックライトの最大輝度を引き上げて明るい画面にするものだと誤解されがちだが、ソニーによるとX9400/9300Cの輝度ピークは従来機種とさほど変わらないとのこと。むしろ、ソニーとしては2014年から強調している「X-tended dynamic range」という、画面内の暗部分の電力を明部に回し、画面内のピーク箇所のみの輝度を突き上げる処理を特長としている。
色についてはBT.2020信号にまで対応しながら、他社の広色域テレビにありがちな、赤が蛍光色に見えてしまう不自然さもない。ソニーが「トリルミナス」の名前で4Kテレビに広色域を導入したのは2013年からだが、その色域表現の手加減もマスターし、自然に美しい色をみられるというバランスにまとめている訳だ。
ここからは、暗室で行った検証を元に、X9400/9300CのHDR関連の画質インプレッションをお届けしよう。
X9400Cで4K/HDRのデモコンテンツの映像を観ると、その効果は歴然。以前から展示会や有機ELのデモでも用いられていたリオのカーニバルを撮影した映像(4K/HDRマスター版)では、輝度ピークが向上したことで黄金色に光を反射する衣装の煌めきが再現される。輝度方向も階調表現が現れるので、そのピークに埋もれていた映像ディテールが浮き出し、奥行き感が生まれ、解像感も向上する。
「HDR」と聞くとギラギラ明るく、画面全体が眩しい店頭でのデモ映像のようなものを想像するかもしれないが、実物の印象は全く異なる。HDRの映像でも、明所を除く画面全体の輝度は同じままで、暗所は従来通り沈むし、光る箇所のみ画面内でより印象的に、身に迫るような現実感を持って浮かび上がる。その差は、画質というより”表現力”と呼ぶべき領域だろう。
HDRは各種VODサービスで配信が予定されていたり、次世代BD「Ultra HD Blu-ray」規格にも盛り込まれるなど普及推進の動きは水面下で進んでいるものの、HDRコンテンツは現時点では数少ない。そこで問われるのが、現在あるソースをHDR化した際の画質だ。
X9500BとX9400はどう違う?
BDの再生画質については、まずX9400/9300Cでは映像モードのネーミングが変更されている。視聴に用いた英語版の表記では、マスターモニターに近い特性を目指した従来のシネマ1が「Cinema PRO」の名称になり(暗室向けの設定、色域はBT.709、XDRはオフがデフォルト)、最新技術をすべて働かせるシネマ2は「Cinema Home」と名称変更が行われた(明室向け設定、色域はDCI、XDRは3段階の中がデフォルト)。
その両方のモードを使い、映画『ハリー・ポッターと死の秘宝』のBDを観たところ、エッジライトのX9300Cであっても非常に良く黒を沈めつつ暗部階調も巧みに出していた。暗室で通用するほど漆黒の中のディテールを再現してくれると感じる。
直下型LEDのX9400Cはもちろん、エッジライト型LEDのX9300Cでも他社の直下型LEDモデル級に黒を沈め、エリア駆動の悪影響(制御が上手くいかないメーカーでは画面内の明るい箇所の周辺が白く浮き上がる)を抑えられた理由は、LED部分制御のアルゴリズムにあるという。ソニーには、相当蓄積されたLEDエリア駆動のノウハウがあるのだろう。
「Cinema Home」では輝度方向のピークに近い映像を検出してHDRに作り変えるのだが、特に筆者の持参したデヴィット・フィンチャー監督『ゴーン・ガール』のBDでは、夜の集会のシーンで画面内にランプを持った人々の光源のピーク、画面全体が暗い中でのリッチな色乗りが素晴らしく、4K上映をしているデジタルシネマのような艶かしい高画質を楽しめた。X9400/9300Cの光の再現力は、画質チューニングの職人芸の域も含めて実に完成度が高い。
そうなるとAVファンとして気になるのが、昨年発売したフラグシップ機「X9500B」との画質の違いだ。X9500Bも直下型LEDを採用しており、今期も継続販売される。画面サイズのラインナップが異なる(X9500Bは85/65型、X9400Cは75型)ため直接のライバルにはならないとも言えるが、実際どうなのだろうか。
今回はX9400CとX9500Bを並べての画質比較はできなかったが、やはり画質は9500Bの方が一枚上手になるとのことだ。
さて、画質についてばかり語ってしまったが、X9400/9300Cのファーストインプレッションをお届けした。もう一つのウリであるオーディオ面については「もはやテレビ内蔵スピーカーの基準を外れた、まさしくハイレゾオーディオの音質に到達している」という言葉につきる。音質については、また機会があればよりマニアックにチェック&レポートしたいと思う。