公開日 2020/12/04 10:41
デジタルカメラグランプリ2021受賞インタビュー
フルサイズミラーレスを“持つ”喜び、“撮る”感動を心の奥底まで響かせる「Z 5」の魅力をニコンIJ若尾氏に聞く
PHILE WEB ビジネス編集部・竹内純
受賞インタビュー:ニコンイメージングジャパン
ニコンZシリーズから登場したフルサイズミラーレスカメラのエントリー機「Z 5」が大きな反響を呼んでいる。上級機「Z 7」「Z 6」の魅力のひとつとして評価の高いファインダーを覗いた際の “見え” やカメラを手にして感じる質感は上級機と変わらぬまま。コロナ禍でイベント開催も困難な中、月額制レンタルモール「airCloset Mall」(エアクロモール)で、 “三密” を解消し、カメラを存分に試せる新たな体験機会の提供にもチャレンジする。若い世代を中心に台頭する新しい “写真趣味層” に対し、カメラの魅力をいかに語りかけていくのか。ニコンイメージングジャパン・若尾郁之氏に話を聞く。
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株式会社ニコンイメージングジャパン
執行役員 マーケティング本部長
若尾郁之氏
わかおふみゆき Fumiyuki Wakao
1968年11月26日生まれ、神奈川県出身。1991年 (株)ニコンに入社、二度の海外販売子会社への駐在を経て、現在、(株)ニコンイメージングジャパンでマーケティング本部に所属。好きな言葉は「一期一会」。趣味はテニスと写真。
■カメラにときめくコミュニケーションの創造が大切
―― 年々シュリンクするデジタルカメラ市場ですが、どのように分析されていますか。
若尾 新型コロナによる非常に大きな影響を受けていることはもちろん、スマートフォンによるデジタルカメラ市場の縮小をつくづく感じています。ここ数年の間にも、スマートフォンのカメラ機能の高性能化は目覚ましく、さらに、SNSにすぐ送ることができる利便性の高さから、今では多くの人が「写真=スマホで撮る」という認識を持っています。
デジタルカメラ市場が縮小しているのはもっともなのですが、一方、「写真趣味層」という言葉がありますが、その実態が変化していることに注目しています。既存の写真趣味層とは違う、写真や映像で自分自身を表現する “新しい趣味層” が誕生しています。デジタルカメラ市場全体を見れば縮小しているものの、そうした新しい動き、新しいユーザー層をしっかりと捉え、自分自身を表現する中で、カメラという媒体を通して、その手助けをできると確信しています。
コンパクトカメラでは、スマートフォンとの差別化は難しいですが、写真趣味層をターゲットとして捉えれば、デジタル一眼というカテゴリーは、いまだ趣味を豊かにする機械のひとつとして存在しています。
―― ミラーレスへのシフトが進んでいますが、デジタル一眼レフの膨大な資産をお持ちのご年配の方が、例えば、年齢を重ねて持ち運ぶ機材の重量が負担に感じ、撮影することを断念してしるとしたら、ミラーレスへ移行することで、ふたたびかつての趣味を取り戻すことができるといったメリットもよく指摘されます。
若尾 ミラーレスの利便性は誰しも感じる良さです。しかし、未だ多くの一眼レフユーザーが、ミラーレスの利便性よりも、一眼レフならではのシャッター音に、ミラーレスのファインダーがいかに見えやすくなろうとも、一眼レフならではのオプティカルビューファインダーのメカニックさに。そうした魅力がたまらず手放せないというご意見もお聞きします。それは十分に理解しており、弊社の方でミラーレスのベネフィットをどうお伝えできるかが課題でもあります。
ミラーレスカメラの魅力を伝えきれていない方に、きちんと情報をお届けしていくと同時に、今回、「D780」が前回に続いてデジタル一眼の総合金賞を受賞しておりますが、デジタル一眼を愛してやまないユーザーに対し、デジタル一眼の魅力をしっかりと感じていただける世界を引き続き広げていきたいと思います。
デジタルカメラ市場全体のボリュームは確かに下がってきていますが、写真を撮る人も撮影枚数も圧倒的に増えてきています。カメラにも可能性はまだまだ十分にあります。まだ、カメラを手に取ったことがない方に、「カメラで撮ってみたいな」「使ってみたいな」と思わせるコミュニケーションが大事になります。
■一切妥協のないZ 5、SNS世代へ高らかにアピール
―― デジタルカメラグランプリ2021では、価格設定や携行性をより身近にしながらも、本格的な撮影が楽しめるZシリーズの新スタンダードモデル「Z 5」が審査委員特別賞を受賞されました。本機の開発にはどのような想い、狙いが込められているのでしょうか。
若尾 このたびは、「Z 5」を『審査委員特別賞』にお選びくださりありがとうございます。「Z 5」は、高い基礎性能は保ちつつ、より多くの方々にフルサイズの魅力を感じて楽しんでいただくことをコンセプトに開発しました。SNS世代にいかにアピールできるかが大きなテーマとなります。道具としての品質の高さを強く意識し、写真を本格的に撮られる方にも満足のいく基本性能の高さを備えつつ、ニコンならではの操作性や使い心地にもとことんこだわっています。われわれのそうした想いを審査委員の方々にご評価いただけたことを本当にうれしく思います。
キットレンズの「NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3」は、日常をいかにドラマチックに撮れるかをコンセプトに国内市場に投入しました。いままでニコンが獲得できなかった新規層にリーチする最強の組み合わせが実現できました。これまでのインスタではなかなかできなかった、ドラマチックな写真が撮りやすいカメラとして多くの方に意識していただくことができ、立ち上がりから大変好調で、「フルサイズを楽しんでみたい」というお客様が増えていく手ごたえを実感しています。
発売当初、キットレンズは「NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3」のみでしたが、市場に数多く寄せられた声にお応えして、「NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR」を追加ラインナップしました。こちらは「旅をよりドラマチックに」を謳い文句に10月から販売を始めています。交換レンズとしての「NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR」も動きが良く、ワイドからテレまで1本でカバーできる商品として魅力を感じていただいているお客様が多いようです。
また、12月11日にS-Lineの「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」をキットレンズにした「Z 5 24-70 限定セット」を発売することとなりました。こちらはオリジナルパッケージにアクセサリーもセットにした数量限定のセットになります。お客様の撮影スタイルに応じてレンズをお選びいただき、撮影をお楽しみいただければと思います。
―― とても手が出ない高価格では眼中にも入りにくいですが、頑張れば手にできる価格設定も心をくすぐります。上位機のエッセンスが引き継がれ、質感にもチープさをまったく感じません。このカメラを入り口にZの世界に入っていくことができる、まさに新しい層を取り込める商品ですね。
若尾 「Z 5」という商品を世に送り出すにあたり、開発サイドがもっとも意識したポイントのひとつがファインダーの “見え” でした。「Z 7」「Z 6」でも大変高い評価をいただいているポイントですから、エントリーモデルだからといって、それが変わってしまうことは絶対に避けたかったからです。手に取った質感やファインダーを覗いた際の “見え” の感覚は「Z 7」「Z 6」と変わらない。高品質をしっかり実感いただきたいとの気持ちを開発サイドも強く持っていました。
―― 冒頭に指摘された写真や映像で自己を表現する新しい写真趣味層は、年代としてはどのあたりが中心になりますか。
若尾 10代というよりも、20代から30代、さらに40代前半までと見ています。
―― そこへ「Z 5」や「Z 50」がうまくリーチできている感触ですか。
若尾 既存の一眼レフを使われているお客様がセカンドカメラとしてお持ちいただいているケースもよく見られますが、比較的若い年代の新しい写真趣味層の方から関心を持っていただいていることは確かです。発売後の時間軸でも変化してきますから、今後、年齢層はより低くなってくることも想定しています。
―― 20代から40代は比較的自由に使えるお金がありながら、カメラ業界ではこれまでうまく取り込めていませんでした。さらに、スマホとの差異化によるカメラの高付加価値化に軸足が移り、高価になり、昔のようには手を出しにくい面も見受けられます。そうした中で、20代から40代の気持ちを掴み、手応えがあることは業界全体にとっても大変心強い話だと思います。若い人をどうしようかと、そこに目が行きがちですが、従来の写真趣味層の下の世代を確実に捕まえていくことも大事なテーマです。
若尾 そうですね。その世代の方にもユーザーになっていただけるようしっかりアプローチをし、いかに広げられるかがメーカーの大きな課題のひとつであると認識しています。
■密も解消できるサブスクリプションサービスにチャレンジ
―― 熟成された品質の高さは、ある意味で地味でわかりにくいですが、昔のような飛び道具的なスペックが無い今、その魅力を正面からしっかり伝えていくためにも、手に取って実感いただくことが大切ですね。
若尾 特にこのコロナ禍で、いまだ外出を自粛される傾向も見られ、店頭やニコンプラザまで足を運んでも、商品を実際に触っていいものかどうかお悩みになる、そんな雰囲気が漂っています。触って良さを感じてもらう術が限られていることは、大きな悩みの種になっています。果たしてこうした状態がいつまで続くのか。または、こうした状態が当たり前になってしまうのか。早急に解決しなければならないポイントです。
―― 100周年の際に開催されたファンミーティングが大成功しただけに、そうした接点が今は持てないことはやるせないですね。
若尾 いままで愛用してきてくださったニコンファンの皆様に、感謝の気持ちをお伝えできればという気持ちで臨んだファンミーティングでしたが、いざふたを開けてみると、愛して止まない愛用機や弊社に対する期待を熱く語るファンの熱量に圧倒されました。耳に入るのはポジティブな言葉ばかりで、大きな勇気をいただくと同時に、実際にお会いして話す場を設けることの大切さを痛感しました。
しかし、コロナによりイベントの開催も難しくなり、「このカメラを使ってみよう」と実感いただくにはどうすればいいのか。そこでひとつのアイデアとして、エアークローゼット社が運営される月額制レンタルモール「airCloset Mall」(エアクロモール)でのレンタルサービスを、10月12日よりスタートしました。
自分だけが使える環境を提供することができますから、特定の場所に集まっていただくことで密が生じてしまう従来のイベントの課題を解消できます。しかも、自分がいつも撮っている環境で、自由にじっくりと試すことができることも見逃せないポイントになります。また、購入するとなればどうしても、十数万から数十万円の初期投資がかかり、覚悟が必要ですが、その前にとことん納得いくまで触って確かめることができます。コロナ禍の影響を受けずに撮影体験を提供できる、新しいチャレンジとなります。
―― 非常に興味深い内容ですね。「Z 5」がSNS世代を中心とした新規層に魅力を伝え、需要を掘り起こしていく上でも、非常にマッチングするサービスと言えます。
若尾 エアクロモールはもともとアパレル関係を対象としたお買い物サポートサービスで、買う前に自宅で試せる新たなショッピング体験を謳っています。そこにいらっしゃるお客様は必ずしもカメラ趣味層ではなく、女性比率が高いのが特徴です。いろいろなカタチでお客様の層を広げていきたい同モールと、新規のお客様にカメラの良さを感じてもらいたい私たちの狙いが合致し、現在、「Z 5」と「Z 50」 を展開しています。料金は、「Z 50ダブルズームキット」が月額6,900円、「Z 5 24-50レンズキット」が月額9,900円になりますが、想像以上の手応えです。自分の生活シーンの中で納得いくまで使ってみることは、次の一歩に足を踏み出す最善の手段のひとつと言えます。
―― 購入する前に、できれば納得のいくまで使ってみたい気持ちは誰もが持っています。生活様式が変化するニューノーマル時代に向き合い、店頭でも展示や販売手法など、従来の概念に捕らわれないアイデアを試行錯誤していく必要がありそうですね。
若尾 いままでのやり方だけでなく、何か他に違う方法があるのではないかと強く意識しています。エアクロモールの件はプレスリリースでもお伝えしていますので、写真趣味層の方にも来ていただいています。「Z 5」に強い関心を持ち、購入を念頭にアクションを起こしていただいています。とりわけ、カメラを初めて買われる方が、実際に使ってみることで、スマートフォンとの違いを感じていただくきっかけとすることができれば本当にうれしい限りです。
―― 使い勝手や予算面と同時に、果たして自分には使えこなせるのだろうかという心配もあります。そうした使い方をレンタルの時にサポートしてあげられるといいですね。
若尾 まだ実施段階の一歩手前ですが、レンタルされた方限定で、オンライン講座を提供するなどのアイデアをまとめているところです。レンタルしている間により良い経験をしてもらい、より良いものを撮っていただくことができれば、次のステップをさらに強く意識していただけるはずです。「もう少しプロダクトラインナップを増やしてほしい」との要望もいただいており、カメラに興味を持っていただけるお客様は決して少なくないと感じています。
―― 新規層を開拓し、実売につなげていく手腕が試される重要な局面でもあります。ライフスタイルや価値観が多様化し、メルカリに代表されるように中古に対するマイナスイメージを全く持たない層が下からどんどん上がってきます。モノへの執着が薄れてきた若い世代に対し、エアクロモールでのレンタルサービスのような、新しいアプローチの手法や気づきがより大切になってきているように思います。
若尾 かつての高度経済成長期とは比べるべくもない、右肩上がりではなくなった経済環境の中でどう対応していくかを若い世代の人たちはきちんと考えています。変化に対してより機敏な対応が求められています。
■大三元レンズも揃い着実に高まる戦闘力
―― Zマウントのレンズにも待望の大三元が揃い、話題となっています。
若尾 フルサイズミラーレスでは後発となり、レンズのラインナップの少なさに対してご意見もいただきましたが、Zマウントのレンズも18本のラインナップまで拡充しました。とりわけ10月末に「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」を発売し、いわゆる大三元と呼ばれる解放F値2.8のズームレンズも揃えることができ、12月に発売する「NIIKOR Z 50mm f/1.2」も非常に関心が高く、大変多くのご予約をいただいています。レンズは公開しているロードマップの通り、これから先もさらに魅力ある商品を投入していきます。Zシステムの総合力は着実に上がっています。
―― 各社から発売される新製品で、売り場も徐々にですが明るさを取り戻しつつあるように感じます。年末商戦、さらに2021年へ向けての意気込みをお聞かせください。
若尾 コロナ禍で一進一退の状況が続いており、引き続き、万全な対策のもとに取り組んで参ります。11月には「Z 6II」を、12月には「Z 7II」を発売し、18本まで揃ったZマウントのレンズを含め、非常に尖った、魅力を感じてもらえるラインナップになってきています。その魅力をしっかりとお伝えしていくと同時に、引き続き、お客様に信頼される商品、楽しく使ってもらえる商品を継続して開発、発売して参りますのでどうぞご期待ください。そして、手に入れたカメラやレンズがお蔵入りしてしまうようなことがないように、撮る楽しみ、アウトプットする楽しみ、それをシェアしてみんなから「いいね」をもらう楽しみ、そうした満足感や楽しさの循環をうまくつくりあげるための手助けができればと考えています。
わたしも街へ出て、カメラで写真を撮るのですが、コロナ禍で、スマホで撮っているシーンを見かける機会すら大変少なくなっていることにハッとさせられます。いろいろな場面で、皆さんの写真への欲求が溜まっていることを肌で感じており、とにもかくにも、状況が少しでも改善していくことを願うばかりです。
ニコンには一眼レフカメラ、ミラーレスカメラ、さらにはコンパクトデジタルカメラがあり、多様な撮影ニーズにお応えしていきます。今はその中でも、ミラーレスカメラの「Zシステム」の構築に力を入れており、レンズを含めたラインナップも充実してきました。引き続き皆さんに信頼していただけるシステムを目指し、強化を進めて参ります。
ニコンZシリーズから登場したフルサイズミラーレスカメラのエントリー機「Z 5」が大きな反響を呼んでいる。上級機「Z 7」「Z 6」の魅力のひとつとして評価の高いファインダーを覗いた際の “見え” やカメラを手にして感じる質感は上級機と変わらぬまま。コロナ禍でイベント開催も困難な中、月額制レンタルモール「airCloset Mall」(エアクロモール)で、 “三密” を解消し、カメラを存分に試せる新たな体験機会の提供にもチャレンジする。若い世代を中心に台頭する新しい “写真趣味層” に対し、カメラの魅力をいかに語りかけていくのか。ニコンイメージングジャパン・若尾郁之氏に話を聞く。
デジタルカメラグランプリ2021受賞一覧はこちら
株式会社ニコンイメージングジャパン
執行役員 マーケティング本部長
若尾郁之氏
わかおふみゆき Fumiyuki Wakao
1968年11月26日生まれ、神奈川県出身。1991年 (株)ニコンに入社、二度の海外販売子会社への駐在を経て、現在、(株)ニコンイメージングジャパンでマーケティング本部に所属。好きな言葉は「一期一会」。趣味はテニスと写真。
■カメラにときめくコミュニケーションの創造が大切
―― 年々シュリンクするデジタルカメラ市場ですが、どのように分析されていますか。
若尾 新型コロナによる非常に大きな影響を受けていることはもちろん、スマートフォンによるデジタルカメラ市場の縮小をつくづく感じています。ここ数年の間にも、スマートフォンのカメラ機能の高性能化は目覚ましく、さらに、SNSにすぐ送ることができる利便性の高さから、今では多くの人が「写真=スマホで撮る」という認識を持っています。
デジタルカメラ市場が縮小しているのはもっともなのですが、一方、「写真趣味層」という言葉がありますが、その実態が変化していることに注目しています。既存の写真趣味層とは違う、写真や映像で自分自身を表現する “新しい趣味層” が誕生しています。デジタルカメラ市場全体を見れば縮小しているものの、そうした新しい動き、新しいユーザー層をしっかりと捉え、自分自身を表現する中で、カメラという媒体を通して、その手助けをできると確信しています。
コンパクトカメラでは、スマートフォンとの差別化は難しいですが、写真趣味層をターゲットとして捉えれば、デジタル一眼というカテゴリーは、いまだ趣味を豊かにする機械のひとつとして存在しています。
―― ミラーレスへのシフトが進んでいますが、デジタル一眼レフの膨大な資産をお持ちのご年配の方が、例えば、年齢を重ねて持ち運ぶ機材の重量が負担に感じ、撮影することを断念してしるとしたら、ミラーレスへ移行することで、ふたたびかつての趣味を取り戻すことができるといったメリットもよく指摘されます。
若尾 ミラーレスの利便性は誰しも感じる良さです。しかし、未だ多くの一眼レフユーザーが、ミラーレスの利便性よりも、一眼レフならではのシャッター音に、ミラーレスのファインダーがいかに見えやすくなろうとも、一眼レフならではのオプティカルビューファインダーのメカニックさに。そうした魅力がたまらず手放せないというご意見もお聞きします。それは十分に理解しており、弊社の方でミラーレスのベネフィットをどうお伝えできるかが課題でもあります。
ミラーレスカメラの魅力を伝えきれていない方に、きちんと情報をお届けしていくと同時に、今回、「D780」が前回に続いてデジタル一眼の総合金賞を受賞しておりますが、デジタル一眼を愛してやまないユーザーに対し、デジタル一眼の魅力をしっかりと感じていただける世界を引き続き広げていきたいと思います。
デジタルカメラ市場全体のボリュームは確かに下がってきていますが、写真を撮る人も撮影枚数も圧倒的に増えてきています。カメラにも可能性はまだまだ十分にあります。まだ、カメラを手に取ったことがない方に、「カメラで撮ってみたいな」「使ってみたいな」と思わせるコミュニケーションが大事になります。
■一切妥協のないZ 5、SNS世代へ高らかにアピール
―― デジタルカメラグランプリ2021では、価格設定や携行性をより身近にしながらも、本格的な撮影が楽しめるZシリーズの新スタンダードモデル「Z 5」が審査委員特別賞を受賞されました。本機の開発にはどのような想い、狙いが込められているのでしょうか。
若尾 このたびは、「Z 5」を『審査委員特別賞』にお選びくださりありがとうございます。「Z 5」は、高い基礎性能は保ちつつ、より多くの方々にフルサイズの魅力を感じて楽しんでいただくことをコンセプトに開発しました。SNS世代にいかにアピールできるかが大きなテーマとなります。道具としての品質の高さを強く意識し、写真を本格的に撮られる方にも満足のいく基本性能の高さを備えつつ、ニコンならではの操作性や使い心地にもとことんこだわっています。われわれのそうした想いを審査委員の方々にご評価いただけたことを本当にうれしく思います。
キットレンズの「NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3」は、日常をいかにドラマチックに撮れるかをコンセプトに国内市場に投入しました。いままでニコンが獲得できなかった新規層にリーチする最強の組み合わせが実現できました。これまでのインスタではなかなかできなかった、ドラマチックな写真が撮りやすいカメラとして多くの方に意識していただくことができ、立ち上がりから大変好調で、「フルサイズを楽しんでみたい」というお客様が増えていく手ごたえを実感しています。
発売当初、キットレンズは「NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3」のみでしたが、市場に数多く寄せられた声にお応えして、「NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR」を追加ラインナップしました。こちらは「旅をよりドラマチックに」を謳い文句に10月から販売を始めています。交換レンズとしての「NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR」も動きが良く、ワイドからテレまで1本でカバーできる商品として魅力を感じていただいているお客様が多いようです。
また、12月11日にS-Lineの「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」をキットレンズにした「Z 5 24-70 限定セット」を発売することとなりました。こちらはオリジナルパッケージにアクセサリーもセットにした数量限定のセットになります。お客様の撮影スタイルに応じてレンズをお選びいただき、撮影をお楽しみいただければと思います。
―― とても手が出ない高価格では眼中にも入りにくいですが、頑張れば手にできる価格設定も心をくすぐります。上位機のエッセンスが引き継がれ、質感にもチープさをまったく感じません。このカメラを入り口にZの世界に入っていくことができる、まさに新しい層を取り込める商品ですね。
若尾 「Z 5」という商品を世に送り出すにあたり、開発サイドがもっとも意識したポイントのひとつがファインダーの “見え” でした。「Z 7」「Z 6」でも大変高い評価をいただいているポイントですから、エントリーモデルだからといって、それが変わってしまうことは絶対に避けたかったからです。手に取った質感やファインダーを覗いた際の “見え” の感覚は「Z 7」「Z 6」と変わらない。高品質をしっかり実感いただきたいとの気持ちを開発サイドも強く持っていました。
―― 冒頭に指摘された写真や映像で自己を表現する新しい写真趣味層は、年代としてはどのあたりが中心になりますか。
若尾 10代というよりも、20代から30代、さらに40代前半までと見ています。
―― そこへ「Z 5」や「Z 50」がうまくリーチできている感触ですか。
若尾 既存の一眼レフを使われているお客様がセカンドカメラとしてお持ちいただいているケースもよく見られますが、比較的若い年代の新しい写真趣味層の方から関心を持っていただいていることは確かです。発売後の時間軸でも変化してきますから、今後、年齢層はより低くなってくることも想定しています。
―― 20代から40代は比較的自由に使えるお金がありながら、カメラ業界ではこれまでうまく取り込めていませんでした。さらに、スマホとの差異化によるカメラの高付加価値化に軸足が移り、高価になり、昔のようには手を出しにくい面も見受けられます。そうした中で、20代から40代の気持ちを掴み、手応えがあることは業界全体にとっても大変心強い話だと思います。若い人をどうしようかと、そこに目が行きがちですが、従来の写真趣味層の下の世代を確実に捕まえていくことも大事なテーマです。
若尾 そうですね。その世代の方にもユーザーになっていただけるようしっかりアプローチをし、いかに広げられるかがメーカーの大きな課題のひとつであると認識しています。
■密も解消できるサブスクリプションサービスにチャレンジ
―― 熟成された品質の高さは、ある意味で地味でわかりにくいですが、昔のような飛び道具的なスペックが無い今、その魅力を正面からしっかり伝えていくためにも、手に取って実感いただくことが大切ですね。
若尾 特にこのコロナ禍で、いまだ外出を自粛される傾向も見られ、店頭やニコンプラザまで足を運んでも、商品を実際に触っていいものかどうかお悩みになる、そんな雰囲気が漂っています。触って良さを感じてもらう術が限られていることは、大きな悩みの種になっています。果たしてこうした状態がいつまで続くのか。または、こうした状態が当たり前になってしまうのか。早急に解決しなければならないポイントです。
―― 100周年の際に開催されたファンミーティングが大成功しただけに、そうした接点が今は持てないことはやるせないですね。
若尾 いままで愛用してきてくださったニコンファンの皆様に、感謝の気持ちをお伝えできればという気持ちで臨んだファンミーティングでしたが、いざふたを開けてみると、愛して止まない愛用機や弊社に対する期待を熱く語るファンの熱量に圧倒されました。耳に入るのはポジティブな言葉ばかりで、大きな勇気をいただくと同時に、実際にお会いして話す場を設けることの大切さを痛感しました。
しかし、コロナによりイベントの開催も難しくなり、「このカメラを使ってみよう」と実感いただくにはどうすればいいのか。そこでひとつのアイデアとして、エアークローゼット社が運営される月額制レンタルモール「airCloset Mall」(エアクロモール)でのレンタルサービスを、10月12日よりスタートしました。
自分だけが使える環境を提供することができますから、特定の場所に集まっていただくことで密が生じてしまう従来のイベントの課題を解消できます。しかも、自分がいつも撮っている環境で、自由にじっくりと試すことができることも見逃せないポイントになります。また、購入するとなればどうしても、十数万から数十万円の初期投資がかかり、覚悟が必要ですが、その前にとことん納得いくまで触って確かめることができます。コロナ禍の影響を受けずに撮影体験を提供できる、新しいチャレンジとなります。
―― 非常に興味深い内容ですね。「Z 5」がSNS世代を中心とした新規層に魅力を伝え、需要を掘り起こしていく上でも、非常にマッチングするサービスと言えます。
若尾 エアクロモールはもともとアパレル関係を対象としたお買い物サポートサービスで、買う前に自宅で試せる新たなショッピング体験を謳っています。そこにいらっしゃるお客様は必ずしもカメラ趣味層ではなく、女性比率が高いのが特徴です。いろいろなカタチでお客様の層を広げていきたい同モールと、新規のお客様にカメラの良さを感じてもらいたい私たちの狙いが合致し、現在、「Z 5」と「Z 50」 を展開しています。料金は、「Z 50ダブルズームキット」が月額6,900円、「Z 5 24-50レンズキット」が月額9,900円になりますが、想像以上の手応えです。自分の生活シーンの中で納得いくまで使ってみることは、次の一歩に足を踏み出す最善の手段のひとつと言えます。
―― 購入する前に、できれば納得のいくまで使ってみたい気持ちは誰もが持っています。生活様式が変化するニューノーマル時代に向き合い、店頭でも展示や販売手法など、従来の概念に捕らわれないアイデアを試行錯誤していく必要がありそうですね。
若尾 いままでのやり方だけでなく、何か他に違う方法があるのではないかと強く意識しています。エアクロモールの件はプレスリリースでもお伝えしていますので、写真趣味層の方にも来ていただいています。「Z 5」に強い関心を持ち、購入を念頭にアクションを起こしていただいています。とりわけ、カメラを初めて買われる方が、実際に使ってみることで、スマートフォンとの違いを感じていただくきっかけとすることができれば本当にうれしい限りです。
―― 使い勝手や予算面と同時に、果たして自分には使えこなせるのだろうかという心配もあります。そうした使い方をレンタルの時にサポートしてあげられるといいですね。
若尾 まだ実施段階の一歩手前ですが、レンタルされた方限定で、オンライン講座を提供するなどのアイデアをまとめているところです。レンタルしている間により良い経験をしてもらい、より良いものを撮っていただくことができれば、次のステップをさらに強く意識していただけるはずです。「もう少しプロダクトラインナップを増やしてほしい」との要望もいただいており、カメラに興味を持っていただけるお客様は決して少なくないと感じています。
―― 新規層を開拓し、実売につなげていく手腕が試される重要な局面でもあります。ライフスタイルや価値観が多様化し、メルカリに代表されるように中古に対するマイナスイメージを全く持たない層が下からどんどん上がってきます。モノへの執着が薄れてきた若い世代に対し、エアクロモールでのレンタルサービスのような、新しいアプローチの手法や気づきがより大切になってきているように思います。
若尾 かつての高度経済成長期とは比べるべくもない、右肩上がりではなくなった経済環境の中でどう対応していくかを若い世代の人たちはきちんと考えています。変化に対してより機敏な対応が求められています。
■大三元レンズも揃い着実に高まる戦闘力
―― Zマウントのレンズにも待望の大三元が揃い、話題となっています。
若尾 フルサイズミラーレスでは後発となり、レンズのラインナップの少なさに対してご意見もいただきましたが、Zマウントのレンズも18本のラインナップまで拡充しました。とりわけ10月末に「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」を発売し、いわゆる大三元と呼ばれる解放F値2.8のズームレンズも揃えることができ、12月に発売する「NIIKOR Z 50mm f/1.2」も非常に関心が高く、大変多くのご予約をいただいています。レンズは公開しているロードマップの通り、これから先もさらに魅力ある商品を投入していきます。Zシステムの総合力は着実に上がっています。
―― 各社から発売される新製品で、売り場も徐々にですが明るさを取り戻しつつあるように感じます。年末商戦、さらに2021年へ向けての意気込みをお聞かせください。
若尾 コロナ禍で一進一退の状況が続いており、引き続き、万全な対策のもとに取り組んで参ります。11月には「Z 6II」を、12月には「Z 7II」を発売し、18本まで揃ったZマウントのレンズを含め、非常に尖った、魅力を感じてもらえるラインナップになってきています。その魅力をしっかりとお伝えしていくと同時に、引き続き、お客様に信頼される商品、楽しく使ってもらえる商品を継続して開発、発売して参りますのでどうぞご期待ください。そして、手に入れたカメラやレンズがお蔵入りしてしまうようなことがないように、撮る楽しみ、アウトプットする楽しみ、それをシェアしてみんなから「いいね」をもらう楽しみ、そうした満足感や楽しさの循環をうまくつくりあげるための手助けができればと考えています。
わたしも街へ出て、カメラで写真を撮るのですが、コロナ禍で、スマホで撮っているシーンを見かける機会すら大変少なくなっていることにハッとさせられます。いろいろな場面で、皆さんの写真への欲求が溜まっていることを肌で感じており、とにもかくにも、状況が少しでも改善していくことを願うばかりです。
ニコンには一眼レフカメラ、ミラーレスカメラ、さらにはコンパクトデジタルカメラがあり、多様な撮影ニーズにお応えしていきます。今はその中でも、ミラーレスカメラの「Zシステム」の構築に力を入れており、レンズを含めたラインナップも充実してきました。引き続き皆さんに信頼していただけるシステムを目指し、強化を進めて参ります。
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