公開日 2023/01/23 06:40
DGPイメージングアワード2022受賞:キヤノンMJ 橋本圭弘氏
<インタビュー>キヤノン旋風を「EOS R10」が加速。お客様本位の現場品質を磨き、顧客接点をさらに拡充
PHILE WEB ビジネス編集部・竹内純
DGPイメージングアワード2022
受賞インタビュー:キヤノンマーケティングジャパン
EOS Rシリーズに2022年8月、待望のAPS-C機「EOS R7」「EOS R10」が登場。DGPイメージングアワード2022でも「EOS R10」が審査委員特別賞を受賞した。また、積極展開が目につく充実急なRFレンズからは、超望遠の世界をぐっと身近に引き寄せた「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」が総合金賞を獲得。勢いに乗る強力布陣を背景に、フォトイメージング市場活性化へ向けた意気込みをキヤノンマーケティングジャパン・橋本圭弘氏に聞く。
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
コンスーマービジネスユニット
カメラ統括本部 担当統括本部長
橋本圭弘氏
プロフィール/1964年生まれ。滋賀県出身。1987年入社。営業職、インクジェットプリンターのマーケティング部門、サービス&サポート部門を経て2020年より現職。座右の銘は「信頼すること、感謝すること」。趣味は学生時代より続けている男声合唱。
―― 2022年夏に発売された「EOS R10」がDGPイメージングアワード2022で審査委員特別賞を受賞されました。おめでとうございます。市場でも大きな反響を集め、発売以来高い人気となっています。
橋本 EOS Rシリーズのラインナップも着実に厚みを増すなか、2022年夏には、シリーズ初のAPS-Cセンサーを搭載した「EOS R7」「EOS R10」を投入しました。これまでフルサイズ機ではお応えできなかったお客様にも、真剣に購入をご検討いただけることができ、手応えを感じています。
とりわけEOS R10はエントリーからミドルまでの広い層を強く意識したモデルとなり、実際に手に取っていただけば、驚くほどの小型・軽量にまとめられた“手頃感”を実感いただけるはずです。フルサイズユーザーのサブ機としても注目を集め、発表直後からEOS R7とともに大きな反響となり、ご予約も大変多くいただくことができました。EOS Rシリーズの新しいチャレンジができたと確信しています。
―― 各社から発売される新製品には高額なフルサイズ機が多く、店頭からも待望のエントリー機として大きな期待を集めています。
橋本 同じAPS-Cセンサーを搭載したモデルでも、EOS R7とEOS R10とでは向いている方向が少し違います。EOS R7は、デジタル一眼レフカメラのAPS-Cフラグシップ機「EOS 7D Mark II」のお客様からの買い替えなども意識しており、高速で複雑な動きをする被写体の動きを狙った撮影や望遠での撮影を望まれる方にも適しています。一方、EOS R10はさらにライトなお客様にもカメラの世界に入って来ていただけるモデルとしたもので、実際に若い人や女性など、より幅広い方にお求めいただいています。
―― 2018年10月にスタートしたキヤノン「EOS Rシステム」は、カメラのみならずRFレンズの充実も目覚ましく、そのなかから今回、「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」が総合金賞を獲得しています。小型軽量なことに加えて、価格も大変手頃で人気を集めています。
橋本 「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」はフルサイズ対応のレンズですが、APS-CセンサーのEOS R7、EOS R10に装着してもバランスが良いのです。実際にEOS R7のカタログでも「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」を付けたカットを表紙にしています。撮像素子がAPS-CサイズのEOS R7、EOS R10の場合は、レンズに記載された焦点距離の約1.6倍相当の640mmになり、このレンズで多くのユーザーにお手軽に望遠に親しんでいただいています。実は私も購入して愛用するひとりです。
―― 御社のオンラインショップでの価格が93,500円(税込)と10万円を切ります。
橋本 超望遠ズームレンズには「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」もございます。望遠側が100mm長く、潤沢な光学設計とコーティングにより、あらゆるシーンで高画質を実現するこちらも人気ですが、スペック相応の価格となります。至近から遠景まで1本で幅広いシーンをカバーできるズームレンズを、諦めることなく手にできる機会をご提供する上で、RF100-400mm F5.6-8 IS USMをラインナップできたことには大きな意義があります。
―― 積極的な提案が目につくRFレンズは現時点で33本(エクステンダー2本を含む)までラインナップが拡充しました。
橋本 2018年10月のスタート時には「ラインナップが少ない」といったご指摘をいただきました。新しいマウントを採用し、“大口径・ショートバックフォーカス”によるさらなる高画質の実現を謳うからには、カメラもレンズもお客様が納得いくラインナップを揃えなければなりません。お客様のご要望をすべて満たすまでには至っていませんので、広角から望遠、明るさも含め、レンズもさらなるラインナップの充実を図って参りますので、どうぞご期待ください。
―― 12月にハイアマチュアモデル「EOS R6 Mark II」を発売されました。ディープラーニング技術を活用してトラッキング性能が進化するなど、静止画・動画の撮影性能を追求したフルサイズ機となっています。
橋本 AF性能をさらにもう一段向上させ、アグレッシブに動く被写体にも、高精度でスピーディーなAFを実現します。被写体を検出する機能も優れており、人物の瞳・頭部・胴体の認識精度が向上、露出や姿勢の急な変化があっても検出し続けるようになりました。また、乗り物ではモータースポーツの車・バイクに加えて飛行機・鉄道に、動物では犬・猫・鳥に加えて馬も検出対象となりました。
ニーズが高まる動画撮影については、どのような要望があるのかを常に強く意識して商品づくりを行っています。EOS R6 Mark IIでは、これまで29分59秒に制限されていた1回あたりの動画記録時間の上限を最大6時間まで対応可能としたことで、長回しやドキュメンタリー撮影にも安心して使用できるとご評価いただいています。
―― EOS R6の発売から2年4ヶ月での市場投入となりました。
橋本 カメラを取り巻く環境は急速に進化しています。そこへ少しでも早くお応えしたい気持ちから、EOS R6から今回のEOS R6 Mark IIの発売まで、インターバルが2年4ヶ月とこれまでに比べてやや短くなりました。EOS R6を使用するお客様からも買い替えに悩んでいるといった声をお聞きします。実際に手に取って新機能をお試しいただいた方には「やっぱりMark IIだね」と買い替えられる方が多い状況です。
センサーの大きさやレンズの明るさなどのスペックも比較検討する上で大切な要素ですが、それ以上に大事な選択基準となるのは、自分が撮りたいものにいかにマッチしているか、フィットしているかです。お客様が求めているのは製品品質だけではなくて、お客様が実際に使用する現場品質を含めてのものだということ。そのために、被写体別にどういう使い方や撮り方があるのか、レンズにはどんなバリエーションがあるのか。お客様にご理解いただけるように、もっとわかりやすくお伝えしていく必要があります。
ただし、カメラには2つの面があります。ひとつは、生活や仕事のための道具と捉えていらっしゃる方。写真や動画という成果物を生み出すためのカメラです。その一方で、モノとしてカメラを持つことに喜びを感じる方。趣味としてのカメラがあります。デザインの良さや手にしたときのグリップ感など、感性的な要素も欠かせない大事なポイントとなります。
―― 新型コロナの行動制限が緩和され、旅行やイベントなど日常の風景が徐々に戻り、カメラを手に取り撮影する機会も増えてきました。今後のイメージング市場をどのように展望されますか。
橋本 約3年近く苦しい時間を過ごしてきました。カメラ市場も一時はどうなってしまうのかと心配しましたが、どうにか持ちこたえることができました。行動制限が徐々に緩和されるのに伴い、市場でのカメラやレンズ販売の盛り上がりはもちろんのこと、メンテナンスのご依頼も高まってきて、カメラが使われはじめていることを強く実感します。
まだまだコロナ以前の状況に完全には戻っていませんが、やはり外に出て撮影が楽しめないと、次のモデルへ買い替える意欲も湧きません。手持ちのEOS Rシリーズから、次のEOS Rシリーズへの買い替えの方も出てきています。マウントアダプターでEFレンズを使用されていた方が、「そろそろレンズもRFレンズにするか」と腰をあげる方も少なくなく、そうしたきっかけになるのは、やはり撮っていただくことが一番です。
―― スマホによるカメラ離れも指摘されますが、コロナ禍でVlogなどカメラが見直される動きもありました。これからの店頭での施策やイベント開催など、フォトライフを充実させる取り組みについてお聞かせください。
橋本 店頭ではEOS Rシステムが新しいシステムであることをもう一歩深くご理解いただけるような展示、動画による説明、実際に手に取っていただける機会をいかに増やすかなど工夫を凝らして展開して参ります。オンラインだけでカメラの良さが伝わるかと言えば、やはり限界があります。ボディを手の中に収めて、ファインダーをのぞいて、撮りたい被写体に向きあっていただくことが大切です。
キヤノンでは、プロ写真家の作品や会員の皆さまから寄せられた数多くの優秀作品を掲載した写真誌を毎月お届けして、プロ写真家による撮影テクニックやテーマ別の撮り方などを楽しく学べる「キヤノンフォトサークル」を展開しています。そのなかで「写真イベントに参加したい」という皆様からの声にお応えして力を入れる「部活」の人気が高まっています。
被写体別に「風景部」「鉄道部」「飛行機部」「ポートレート部」「生きもの部」「旅スナップ部」「ペット部」「花部」と全部で8つの部活があります。例えば、飛行機部なら空港での離着陸で400mm以上の超望遠レンズを、花部ではマクロや広角レンズを使って撮影を体験していただくのはもちろんのこと、あじさいの名所として知られる鎌倉の長谷寺や美しい紅葉で有名な京都の圓光寺に、一般の開館時刻前に特別に入場させていただき撮影する企画などもあり、大変ご好評をいただいています。
レンズやカメラの製品体験はもちろんですが、見逃せないのは参加者の横のつながりです。集まられたお客様同士が友達になられて、撮影旅行に行かれる例も珍しくないそうです。そうした機会を提供できる場としても重要な意味を持っています。
こうしたひとつひとつの取り組みやご提案こそが、ファンベースのマーケティングにつながる大切なもの。キヤノンのファンだけではなく、写真が好きなすべての方へご提供しています。実際にカメラやレンズに触れたり、自分の興味がある被写体にカメラを向けてみたりしないとわからないことがたくさんあります。カメラやレンズなどの道具を担う私たちは、お客様の撮る楽しみを支える裏方というわけです。
―― 2月23日から「CPプラス2023」も開催されます。イメージング市場をけん引されるリーディングブランド「キヤノン」の新しい年への意気込みをお願いします。
橋本 撮影する魅力をお客様にお伝えするために、どのようにコミュニケーションをとり、どのような場を提供していくか。モノ以外の担う役割はこれからますます重要になってくると考えています。
メンテナンスもその一部です。豊かなカメラライフを送るために欠かせない、カメラやレンズを一番いい状態でご使用いただくためのメンテナンスの啓発を行っており、機種を知り尽くすメーカーだからこそできる、プロによるきめ細やかな点検・クリーニングサービス「あんしんメンテ」では、愛用する機材の使用年数や状態に合わせて、簡単なクリーニングから本格的なオーバーホールまでご用意しています。
「文化継承」も私たちが担う大事な役割です。「キヤノンフォトコンテスト」は2022年の開催で56回を迎え、2万7000点を超えるプリントの応募が集まり、多くのお客様が写真を楽しまれていることを毎回つくづくと実感します。もちろん他社のカメラやレンズで撮影した写真でも応募することができます。
キヤノンフォトコンテストはアマチュアを対象としたものですが、プロの分野では、新人の写真・映像作家の発掘・育成を目的としたオーディション「GRAPHGATE(グラフゲート)」の立ち上げを発表しました。2023年4月から応募作品の受付を開始します。これまで30年にわたり数多くの作家さんの登竜門として「写真新世紀」を開催してきましたが、動画作品も対象に含めて新しいスタートを切りました。
カメラやレンズは、結局は道具に過ぎません。ですから、お客様に触っていただき、撮っていただき、そして、観て楽しんでいただくことが重要なのです。ギャラリーやコンテストはそのために欠かせないものとなります。
―― 高品質写真集シリーズ「PHOTOGRAPHERS’ ETERNAL COLLECTION」も注目を集めています。
橋本 写真家はかけがえのない一瞬を捉えるために人生をかけてシャッターを切っています。多くの人の心を打つ映像群は永遠に遺すべき「作品」であり、デジタルデータに留めず、「本」として遺していくことが、「写真文化」を創造し、未来に受け継ぐ大切な役割だと考えてスタートしました。
キヤノンのインクジェット技術には、オフセット印刷では出しにくい色彩表現を出すことができる絶対的な技術力があります。「ずっと残しておきたい写真集」として、お客様に写真に親しんでいただくのも重要なこと。現在、ルーク・オザワ氏、福田幸広氏、中西敏貴氏、石橋睦美氏、西澤丞氏の5作品を発表しています。
写真を楽しんでいただく「キヤノンギャラリー」、さきほどご紹介した「フォトサークル」、写真教室の「EOS学園」の活動もますます充実させて参ります。また、北海道東川町で毎年開催されている「写真甲子園」のお手伝いも、2023年で30年目になります。ハードウェアだけではお客様の望みを叶えることはできません。フォトイメージングのソリューションやシステムをどれだけ、どのようなカタチで提供することができるのか。コミュニケーションや販促、サポート、文化活動を、お客様に価値としてお届けしていくためにさらに力を入れて参ります。
受賞インタビュー:キヤノンマーケティングジャパン
EOS Rシリーズに2022年8月、待望のAPS-C機「EOS R7」「EOS R10」が登場。DGPイメージングアワード2022でも「EOS R10」が審査委員特別賞を受賞した。また、積極展開が目につく充実急なRFレンズからは、超望遠の世界をぐっと身近に引き寄せた「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」が総合金賞を獲得。勢いに乗る強力布陣を背景に、フォトイメージング市場活性化へ向けた意気込みをキヤノンマーケティングジャパン・橋本圭弘氏に聞く。
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
コンスーマービジネスユニット
カメラ統括本部 担当統括本部長
橋本圭弘氏
プロフィール/1964年生まれ。滋賀県出身。1987年入社。営業職、インクジェットプリンターのマーケティング部門、サービス&サポート部門を経て2020年より現職。座右の銘は「信頼すること、感謝すること」。趣味は学生時代より続けている男声合唱。
■EOS R7/R10とRF100-400mm F5.6-8 IS USMは相性も抜群
―― 2022年夏に発売された「EOS R10」がDGPイメージングアワード2022で審査委員特別賞を受賞されました。おめでとうございます。市場でも大きな反響を集め、発売以来高い人気となっています。
橋本 EOS Rシリーズのラインナップも着実に厚みを増すなか、2022年夏には、シリーズ初のAPS-Cセンサーを搭載した「EOS R7」「EOS R10」を投入しました。これまでフルサイズ機ではお応えできなかったお客様にも、真剣に購入をご検討いただけることができ、手応えを感じています。
とりわけEOS R10はエントリーからミドルまでの広い層を強く意識したモデルとなり、実際に手に取っていただけば、驚くほどの小型・軽量にまとめられた“手頃感”を実感いただけるはずです。フルサイズユーザーのサブ機としても注目を集め、発表直後からEOS R7とともに大きな反響となり、ご予約も大変多くいただくことができました。EOS Rシリーズの新しいチャレンジができたと確信しています。
―― 各社から発売される新製品には高額なフルサイズ機が多く、店頭からも待望のエントリー機として大きな期待を集めています。
橋本 同じAPS-Cセンサーを搭載したモデルでも、EOS R7とEOS R10とでは向いている方向が少し違います。EOS R7は、デジタル一眼レフカメラのAPS-Cフラグシップ機「EOS 7D Mark II」のお客様からの買い替えなども意識しており、高速で複雑な動きをする被写体の動きを狙った撮影や望遠での撮影を望まれる方にも適しています。一方、EOS R10はさらにライトなお客様にもカメラの世界に入って来ていただけるモデルとしたもので、実際に若い人や女性など、より幅広い方にお求めいただいています。
―― 2018年10月にスタートしたキヤノン「EOS Rシステム」は、カメラのみならずRFレンズの充実も目覚ましく、そのなかから今回、「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」が総合金賞を獲得しています。小型軽量なことに加えて、価格も大変手頃で人気を集めています。
橋本 「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」はフルサイズ対応のレンズですが、APS-CセンサーのEOS R7、EOS R10に装着してもバランスが良いのです。実際にEOS R7のカタログでも「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」を付けたカットを表紙にしています。撮像素子がAPS-CサイズのEOS R7、EOS R10の場合は、レンズに記載された焦点距離の約1.6倍相当の640mmになり、このレンズで多くのユーザーにお手軽に望遠に親しんでいただいています。実は私も購入して愛用するひとりです。
―― 御社のオンラインショップでの価格が93,500円(税込)と10万円を切ります。
橋本 超望遠ズームレンズには「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」もございます。望遠側が100mm長く、潤沢な光学設計とコーティングにより、あらゆるシーンで高画質を実現するこちらも人気ですが、スペック相応の価格となります。至近から遠景まで1本で幅広いシーンをカバーできるズームレンズを、諦めることなく手にできる機会をご提供する上で、RF100-400mm F5.6-8 IS USMをラインナップできたことには大きな意義があります。
―― 積極的な提案が目につくRFレンズは現時点で33本(エクステンダー2本を含む)までラインナップが拡充しました。
橋本 2018年10月のスタート時には「ラインナップが少ない」といったご指摘をいただきました。新しいマウントを採用し、“大口径・ショートバックフォーカス”によるさらなる高画質の実現を謳うからには、カメラもレンズもお客様が納得いくラインナップを揃えなければなりません。お客様のご要望をすべて満たすまでには至っていませんので、広角から望遠、明るさも含め、レンズもさらなるラインナップの充実を図って参りますので、どうぞご期待ください。
■製品品質だけでなく“現場品質”をわかりやすく伝えたい
―― 12月にハイアマチュアモデル「EOS R6 Mark II」を発売されました。ディープラーニング技術を活用してトラッキング性能が進化するなど、静止画・動画の撮影性能を追求したフルサイズ機となっています。
橋本 AF性能をさらにもう一段向上させ、アグレッシブに動く被写体にも、高精度でスピーディーなAFを実現します。被写体を検出する機能も優れており、人物の瞳・頭部・胴体の認識精度が向上、露出や姿勢の急な変化があっても検出し続けるようになりました。また、乗り物ではモータースポーツの車・バイクに加えて飛行機・鉄道に、動物では犬・猫・鳥に加えて馬も検出対象となりました。
ニーズが高まる動画撮影については、どのような要望があるのかを常に強く意識して商品づくりを行っています。EOS R6 Mark IIでは、これまで29分59秒に制限されていた1回あたりの動画記録時間の上限を最大6時間まで対応可能としたことで、長回しやドキュメンタリー撮影にも安心して使用できるとご評価いただいています。
―― EOS R6の発売から2年4ヶ月での市場投入となりました。
橋本 カメラを取り巻く環境は急速に進化しています。そこへ少しでも早くお応えしたい気持ちから、EOS R6から今回のEOS R6 Mark IIの発売まで、インターバルが2年4ヶ月とこれまでに比べてやや短くなりました。EOS R6を使用するお客様からも買い替えに悩んでいるといった声をお聞きします。実際に手に取って新機能をお試しいただいた方には「やっぱりMark IIだね」と買い替えられる方が多い状況です。
センサーの大きさやレンズの明るさなどのスペックも比較検討する上で大切な要素ですが、それ以上に大事な選択基準となるのは、自分が撮りたいものにいかにマッチしているか、フィットしているかです。お客様が求めているのは製品品質だけではなくて、お客様が実際に使用する現場品質を含めてのものだということ。そのために、被写体別にどういう使い方や撮り方があるのか、レンズにはどんなバリエーションがあるのか。お客様にご理解いただけるように、もっとわかりやすくお伝えしていく必要があります。
ただし、カメラには2つの面があります。ひとつは、生活や仕事のための道具と捉えていらっしゃる方。写真や動画という成果物を生み出すためのカメラです。その一方で、モノとしてカメラを持つことに喜びを感じる方。趣味としてのカメラがあります。デザインの良さや手にしたときのグリップ感など、感性的な要素も欠かせない大事なポイントとなります。
■「キヤノンフォトサークル」“部活”が大好評のワケ
―― 新型コロナの行動制限が緩和され、旅行やイベントなど日常の風景が徐々に戻り、カメラを手に取り撮影する機会も増えてきました。今後のイメージング市場をどのように展望されますか。
橋本 約3年近く苦しい時間を過ごしてきました。カメラ市場も一時はどうなってしまうのかと心配しましたが、どうにか持ちこたえることができました。行動制限が徐々に緩和されるのに伴い、市場でのカメラやレンズ販売の盛り上がりはもちろんのこと、メンテナンスのご依頼も高まってきて、カメラが使われはじめていることを強く実感します。
まだまだコロナ以前の状況に完全には戻っていませんが、やはり外に出て撮影が楽しめないと、次のモデルへ買い替える意欲も湧きません。手持ちのEOS Rシリーズから、次のEOS Rシリーズへの買い替えの方も出てきています。マウントアダプターでEFレンズを使用されていた方が、「そろそろレンズもRFレンズにするか」と腰をあげる方も少なくなく、そうしたきっかけになるのは、やはり撮っていただくことが一番です。
―― スマホによるカメラ離れも指摘されますが、コロナ禍でVlogなどカメラが見直される動きもありました。これからの店頭での施策やイベント開催など、フォトライフを充実させる取り組みについてお聞かせください。
橋本 店頭ではEOS Rシステムが新しいシステムであることをもう一歩深くご理解いただけるような展示、動画による説明、実際に手に取っていただける機会をいかに増やすかなど工夫を凝らして展開して参ります。オンラインだけでカメラの良さが伝わるかと言えば、やはり限界があります。ボディを手の中に収めて、ファインダーをのぞいて、撮りたい被写体に向きあっていただくことが大切です。
キヤノンでは、プロ写真家の作品や会員の皆さまから寄せられた数多くの優秀作品を掲載した写真誌を毎月お届けして、プロ写真家による撮影テクニックやテーマ別の撮り方などを楽しく学べる「キヤノンフォトサークル」を展開しています。そのなかで「写真イベントに参加したい」という皆様からの声にお応えして力を入れる「部活」の人気が高まっています。
被写体別に「風景部」「鉄道部」「飛行機部」「ポートレート部」「生きもの部」「旅スナップ部」「ペット部」「花部」と全部で8つの部活があります。例えば、飛行機部なら空港での離着陸で400mm以上の超望遠レンズを、花部ではマクロや広角レンズを使って撮影を体験していただくのはもちろんのこと、あじさいの名所として知られる鎌倉の長谷寺や美しい紅葉で有名な京都の圓光寺に、一般の開館時刻前に特別に入場させていただき撮影する企画などもあり、大変ご好評をいただいています。
レンズやカメラの製品体験はもちろんですが、見逃せないのは参加者の横のつながりです。集まられたお客様同士が友達になられて、撮影旅行に行かれる例も珍しくないそうです。そうした機会を提供できる場としても重要な意味を持っています。
こうしたひとつひとつの取り組みやご提案こそが、ファンベースのマーケティングにつながる大切なもの。キヤノンのファンだけではなく、写真が好きなすべての方へご提供しています。実際にカメラやレンズに触れたり、自分の興味がある被写体にカメラを向けてみたりしないとわからないことがたくさんあります。カメラやレンズなどの道具を担う私たちは、お客様の撮る楽しみを支える裏方というわけです。
■フォトイメージングのソリューション充実へ重責を果たす
―― 2月23日から「CPプラス2023」も開催されます。イメージング市場をけん引されるリーディングブランド「キヤノン」の新しい年への意気込みをお願いします。
橋本 撮影する魅力をお客様にお伝えするために、どのようにコミュニケーションをとり、どのような場を提供していくか。モノ以外の担う役割はこれからますます重要になってくると考えています。
メンテナンスもその一部です。豊かなカメラライフを送るために欠かせない、カメラやレンズを一番いい状態でご使用いただくためのメンテナンスの啓発を行っており、機種を知り尽くすメーカーだからこそできる、プロによるきめ細やかな点検・クリーニングサービス「あんしんメンテ」では、愛用する機材の使用年数や状態に合わせて、簡単なクリーニングから本格的なオーバーホールまでご用意しています。
「文化継承」も私たちが担う大事な役割です。「キヤノンフォトコンテスト」は2022年の開催で56回を迎え、2万7000点を超えるプリントの応募が集まり、多くのお客様が写真を楽しまれていることを毎回つくづくと実感します。もちろん他社のカメラやレンズで撮影した写真でも応募することができます。
キヤノンフォトコンテストはアマチュアを対象としたものですが、プロの分野では、新人の写真・映像作家の発掘・育成を目的としたオーディション「GRAPHGATE(グラフゲート)」の立ち上げを発表しました。2023年4月から応募作品の受付を開始します。これまで30年にわたり数多くの作家さんの登竜門として「写真新世紀」を開催してきましたが、動画作品も対象に含めて新しいスタートを切りました。
カメラやレンズは、結局は道具に過ぎません。ですから、お客様に触っていただき、撮っていただき、そして、観て楽しんでいただくことが重要なのです。ギャラリーやコンテストはそのために欠かせないものとなります。
―― 高品質写真集シリーズ「PHOTOGRAPHERS’ ETERNAL COLLECTION」も注目を集めています。
橋本 写真家はかけがえのない一瞬を捉えるために人生をかけてシャッターを切っています。多くの人の心を打つ映像群は永遠に遺すべき「作品」であり、デジタルデータに留めず、「本」として遺していくことが、「写真文化」を創造し、未来に受け継ぐ大切な役割だと考えてスタートしました。
キヤノンのインクジェット技術には、オフセット印刷では出しにくい色彩表現を出すことができる絶対的な技術力があります。「ずっと残しておきたい写真集」として、お客様に写真に親しんでいただくのも重要なこと。現在、ルーク・オザワ氏、福田幸広氏、中西敏貴氏、石橋睦美氏、西澤丞氏の5作品を発表しています。
写真を楽しんでいただく「キヤノンギャラリー」、さきほどご紹介した「フォトサークル」、写真教室の「EOS学園」の活動もますます充実させて参ります。また、北海道東川町で毎年開催されている「写真甲子園」のお手伝いも、2023年で30年目になります。ハードウェアだけではお客様の望みを叶えることはできません。フォトイメージングのソリューションやシステムをどれだけ、どのようなカタチで提供することができるのか。コミュニケーションや販促、サポート、文化活動を、お客様に価値としてお届けしていくためにさらに力を入れて参ります。
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