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公開日 2023/01/26 06:40
DGPイメージングアワード2022 受賞:ニコンIJ 辻卓英氏

<インタビュー>ニコン「Z 9」で掴んだ手応え。コロナ禍で進化するイメージング市場をZマウントシステムで切り拓く

PHILE WEB ビジネス編集部・竹内純
DGPイメージングアワード2022
受賞インタビュー:ニコンイメージングジャパン


“2022年を代表するカメラ”として大きな反響を得るニコンのフラグシップ機「Z 9」が、「DGPイメージングアワード2022」総合金賞を受賞した。Zマウントシステムで進化を遂げるレンズは「Zレンズに外れなし」といずれも高い評価を獲得。コロナ禍の変化も追い風に変え、イメージング市場を盛り上げるニコンイメージングジャパン。マーケティング本部長として指揮を執る辻卓英氏に話を聞く。


株式会社ニコンイメージングジャパン
取締役兼執行役員
マーケティング本部長
辻 卓英氏


プロフィール/1971年8月12日生まれ。滋賀県大津市出身。1995年(株)ニコン入社、同年ニコンカメラ販売(株)(現ニコンイメージングジャパン)出向、2012年(株)ニコン 映像カンパニー事業企画部経営管理課長、2016年 Nikon Inc.(アメリカ) Vice President、2021年 現職。座右の銘「やってみせ 言って聞かせて させてみて 誉めてやらねば 人は動かじ」

■期待を超えたフラグシップ機「Z 9」。コロナ禍の開発に苦労も



―― 2021年12月に発売された「Z 9」がDGPイメージングアワード2022で総合金賞を受賞されました。審査会でも“この1年を代表するカメラ”として高い評価が集まりました。発売から1年、かなりの手ごたえを感じていられるのではないでしょうか。

総合金賞を受賞したフラグシップ機ニコン「Z 9」

 前年度のZfcに続き、栄誉ある総合金賞にZ 9を選んでいただき誠にありがとうございます。Z 9は静止画、動画ともに一切の妥協なく企画・開発したもので、一昨年10月の製品発表会の生配信では、これまでで国内最高となる1万人以上の方に視聴していただき、SNSでも「Z 9」がトレンド入りするなど、私たちの想定を大きく上回る反響をいただきました。今回、併せて2つの「技術/企画賞」もいただくことができましたが、ユーザーの期待を超える機能やスペックを搭載することができたことが市場から高くご評価をいただいている理由でもあると考えています。

さらにこの1年間、発売当初搭載が叶わなかった機能やお客様からの要望のフィードバックとして、2回の大型のファームウェアアップデートを実施しています。2022年10月26日に行った2回目の大型ファームウェアアップデートでバージョン3.0となり、静止画と動画の両面において機能をさらに拡充しました。決して安くはない商品とは思いますが、発売後も進化を続けることで、お客様が安心して購入できる商品としても高い評価をいただいています。

―― “別のカメラ”は言い過ぎかもしれませんが、「この機能が欲しかった」という願望がどんどん実現されて搭載される、本当に“大型”と呼ぶに相応しいアップデートで、1年の間にこれほどまでに成長したモデルも珍しいのではないでしょうか。

 お客様からは非常に多くの要望をいただいており、開発陣にとってはプレッシャーであると同時に大変よい刺激になっています。現状に甘んじることなく、お客様の期待を超える製品を提供して参りますので、どうぞご期待ください。

―― お話しにもありましたが、Z 9に搭載された新開発の「Real-Live Viewfinder」「被写体検出オート設定」も技術/企画賞を受賞しています。

 「Real-Live Viewfinder」は、従来の一眼レフでは避けられなかった撮影中のミラーによる画像消失を初めて解消した画期的な機能になります。ユーザーにはプロフェッショナルな方が多く、フラグシップ機として、EVF(Electric View Finder)でもリアルに被写体を追えなければなりません。限りなくOVF(Optical View Finder)に近い見えを実現するとともに、EVFを採用したメリットもきちんと感じられるファインダーにしなければいけない。この両立を実現するためには困難を極めました。

理想的なEVFを実現したZ 9に実装する「Real-Live Viewfinder」と同じくZ 9に搭載された撮影に集中できる画期的な機能「被写体検出オート設定」が技術/企画賞を受賞

デジタル一眼レフカメラのフラグシップ機「ニコンD6」を基準として、解像度をはじめとするスペックはもちろんのこと、見え方などの感触の部分についての最適解を模索しました。その答えとして実現したのが、OVFを越えるEVFを目指した「Real-Live Viewfinder」となります。

一方の「被写体検出オート設定」は、世界最多となる人物、犬、猫、鳥、車、バイク、自転車、列車、飛行機の9種類の被写体検出を可能としました。被写体検出9種類の実現と、複数被写体の同時検出を実現する上で、1秒当たり約20コマの高速連写で撮影1コマにかかる時間が非常に短くなっているなか、CV(Computer Vision)の演算、AF(Auto Focus)の演算、レンズの駆動、被写体の種類を判別するなどの処理を入れ込むことの実現にも非常に苦労したと聞いています。

また、優れたAFを実現するためには高性能の画像処理エンジンが不可欠であり、ミラーレスに最適化された画像処理エンジンにより被写体検出を可能としており、まさに“総合力”が求められる技術と言えます。非常に集中していたピント合わせから解放され、「撮影に集中できるようになった」という声が多数寄せられています。

実は、より完成度の高いフラグシップ機をお届けしたとの想いから、開発途中の早い段階でフォトグラファーへの貸し出しによるフィードバックや実写評価も行いましたが、コロナの影響で試写の場となるはずだったスポーツイベントがことごとく中止になってしまいました。そこで、体育館やスケートリンク等の運動施設を借りて、大学の運動部の皆さんを招待して実写モデルとして協力してもらうなど、これまでとは違う方法を試みながら満足いく性能の実現に向け取り組んだため、開発陣ともども、高くご評価いただき技術/企画賞に選出いただけたことを心よりうれしく思います。

■カメラを学べる多彩な選択肢で新規層にアプローチ



―― さらに、レンズでは「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」「NIKKOR Z 24-120mm f/4 S」「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」、カメラではZシリーズ最小・最軽量の入門モデル「Z 30」など数多くのモデルが金賞を受賞しています。

金賞を受賞した「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」

 Zレンズでは金賞をいただいた3本のモデルをはじめ32本(テレコンバーター2本を含む)のラインナップが揃いました。いずれも「Zレンズに外れなし」と高い評価をいただいています。Zマウントになることでレンズ設計の自由度が大きく高まったため、光学性能で妥協しないという想いで設計しています。

Z レンズのラインナップはZ マウントだからこそ実現しており、例えば「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」のように、Fマウントでは実現することはできなかったF1.2でかつAFを可能としている製品が送り出せたと思います。今後もレンズのラインナップも拡充して参りますので、「ニコンはレンズのラインナップが弱いから…」と今までレンズラインナップの観点でZシステムへの移行を躊躇されていたお客様にも、ぜひ、ニコンのZマウントシステムを安心してご選択いただければと思います。

金賞を受賞したニコン「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」

―― Vlogをはじめとする動画撮影に焦点を当てた「Z 30」は新規層の取り込みが期待されますね。

 動画撮影ユーザーをメインターゲットとしたカメラは「Z 30」が初めてで、マーケティングでも今までにない手法で、TikTokを活用したり、映像分野ではないKOL(Key Opinion Leader)さんを起用したライフスタイル提案を行ったり、結構面白いチャレンジをすることができ、手応えを感じています。売上げは順調に推移していますが、先行しているメーカーもあり、まずは一歩を踏み出せたというところです。

金賞を受賞したニコンZシリーズ最小・最軽量となるエントリーモデル「Z 30」。日常のVlog撮影など動画撮影に最適

Z 30の発売に合わせて、「Nikon Presents VLOG AWARD」を2022年8月5日(金)から10月11日(火)まで開催しました。「あなたの日常」をテーマにしたVlogの動画のコンテストで、Vlog制作にチャレンジする全ての方を応援することが目的のひとつ。新規のエントリーユーザーの方からも数多くのご応募いただきました。

―― 店頭施策やキャンペーンも積極的に展開されています。

 新しい取り組みとして、従来のカメラそのものの価値というより、お客様のライフスタイルにカメラが寄り添って、映像があることでお客様の生活がワクワクする提案を行っていきたいと考えております。写真がメインではないKOLさんに弊社製品を使ってもらい、KOLさんの写真が趣味でないフォロワーさんへ発信してもらうことなど、映像や画像があることでお客様の生活にワクワク感が広がるような提案や仕掛けを考えています。

「ニコンプラザ」のショールームでは、これからカメラを買いたい、始めたいお客様に向けて、体験用のお貸出しカメラで簡単な使い方をフォトグラファーから教わりながら、撮影の楽しさを体験できる無料のワークショップ「First STEPS(ファーストステップス)」を開催しています。また、カメラは購入したけど使い方がよくわからない、撮影のことを教えてほしいという方には「プラザレッスン」という無料のセミナーを随時開催しています。

さらに次のステップとして、もっと知りたい、学びたい人には写真教室「ニコンカレッジ」(有料)があります。動画に対する要望が非常に増えていることから、動画を楽しむための講座の数を大きく増やしました。SNSなど告知の仕方にも工夫を凝らし、Z 30で初めてカメラを手にされるような若い人たちにも積極的にアプローチしていきます。

―― ファーストステップとプラザレッスンは若い方の参加が期待されますがいかがでしょうか。

 ファーストステップはかなり若いですね。KOLさんにお願いして展開していることもあり、KOLさんをフォローされている方に若い方が多いことが要因の一つとなっています。プラザレッスンもニコンカレッジに比べると年齢層が低くなっています。

ニコンでは2022年4月に公表した中期経営計画において、2023年の“ありたい姿”を発表しました。高齢層やプロのお客様だけでなく、若年層を含めたすべてのお客様にニコンを圧倒的に支持していただける姿を描きました。それを実現するためにまずすべきこととして、若年層や初めてカメラを買われるお客様にどうアプローチしていくかを真剣に考えるタイミングにあります。

カメラを買ったものの使い方がわからなくて使用頻度が下がった、もうカメラを触らなくなったといった話を聞くととてもさびしい気持ちになりますね。様々なカメラを学べる機会を提供し、カメラがある生活で得られる楽しみをお伝えして参ります。

■動画撮影の盛り上がりで若年層来場も期待されるCP+2023



―― 行動制限が緩和され、旅行やイベントなどカメラが活躍するシーンも増えています。一方で、製品供給の遅れは依然懸念材料となりますが、2023年の市場展望をお聞かせください。

 2022年前半は部品供給の問題で市場全体が苦しんでいましたが、夏ごろから徐々に回復基調にあります。今後のコロナの状況次第ですが、動画撮影を楽しむユーザーが増えるプラスの面も見受けられ、そこへ旅行やイベントが復活して活況を呈すれば、映像市場はますます盛り上がっていくと思います。

「若年層や初めてカメラを買われるお客様にどうアプローチしていくかを真剣に考えるタイミングにあります」

ただし、一部の部材での不足は継続しており、特にレンズではお客様にかなりの時間、お待ちいただく状況が続いています。Zシステムへの移行を背景に、過去の数字から想定した以上の高い支持がお客様から寄せられていることも背景の一つとして挙げられます。11月に発売した「NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S」は200万円を超えるレンズなのですが、過去の経験からこれくらいだろうと予測した想定をはるかに上回るオーダーをいただきました。お待たせしている製品につきましては、一日でも早く製品をお届けできるように改善に努めて参ります。

コロナ禍におけるお客様の変化として、「こんなことをやってみたい」というお客様の要望が大きく膨らんでいるように感じています。しかも、実際に行動に移されることが多くなってきている。そうした行動をしっかり受けとめられる態勢を整えていくことも重要になります。

―― CP+2023の開催も迫ります。市場創造へ向けた意気込みをお願いします。

 納期でご迷惑をおかけしていたZ 9も供給が改善傾向にあり、いままでのように長期にわたりお待たせする状況を、ようやく解消できる見通しがつきました。ぜひ店頭やニコンプラザで実機に触れ、購入の検討をしていただきたいと思います。「Z fc SDメモリーカードセットキャンペーン」を実施しています。Zマウントシステムをこの機会にお選びいただけることを期待しております。

CP+2023につきましては、リアルでのイベントは実に4年振りとなり、来場されたお客様に体験を通してニコンの製品の良さを知っていただくいい絶好のチャンスとなります。静止画も動画も、プロのお客様もライトユーザーのお客様も、皆さまに満足していただけるブースづくりを目指します。

―― コロナ禍を経てカメラを取り巻く環境にも大きな変化がありました。来場者も念願だった新規層の方が増えるかもしれません。

 どういうお客様がいらっしゃるのか本当に楽しみにしています。長くご支援いただいているカメラファンの方、Vlogなど動画撮影を楽しまれている新しい波を起こしている若い方など今からとてもワクワクしています。いままでのニコンのブースの構えのままでは若い人たちのニーズにお応えできないことは明らかです。かといって、そうした人向けに振り過ぎてしまうと、従来のカメラファンの方にはご満足いただけず、入りにくくなってしまいます。限られた広さのなかでバランスをどこでとるか。うれしい悩みになります。

―― 店頭も客足が回復し、海外からの訪日外国人客の姿も目に付きはじめました。

 販売店でのイベントも徐々に解禁になりはじめています。店頭はお客様がカメラやレンズを直接手にすることができる重要な接点ですから、海外のお客様に向けたアプローチを含め、力を入れて参ります。

静止画はもちろんのこと、これから動画クリエイターの皆さんにもご満足いただけることが大前提となります。お客様からのニーズや要望も多様化してくることが想定され、それらに十分にお応えして市場を盛り上げていきたい。今、Z 30の売り場を見ていただくと、「いつものニコンとは違うぞ!」というところを実感いただけると思いますので、どうぞ足を運んでみてください。これからのニコン「Zマウントシステム」にどうぞご期待ください。

山田審査委員長から辻氏に表彰盾が手渡された

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