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公開日 2020/07/09 11:36
Bulk Petの生みの親

ネットオーディオの“影の立役者”インターフェイス(株)。最新ネットワークソリューションの取り組みを聞く

ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
■多くの国内メーカーに、USB再生のためのソリューションを提供

立川にある組み込みソリューション会社、インターフェイス(株)は、ネットオーディオの黎明期から、デジタル再生のソリューション提案を続けてきた、ネットオーディオの影の立役者と言える存在である。

組み込みソリューションというと非常にイメージしにくいが、具体的にはUSB DACなどのオーディオ機器のための、ハード/ソフトウェアの提供を行なっている会社である。特にDSD11.2MHzなどのハイスペック音源をスムーズに鳴らすためのソリューションに定評があり、国内の多くの企業で採用されている。

インターフェイス(株)の取り組みでもっとも有名なものは、USBオーディオ伝送技術「Bulk Pet」であろう。これは同社の独自技術で、USBオーディオの伝送において、パケットの伝送データサイズを小さくすることで、伝送時の負荷を下げ、音質向上に寄与する、という考え方である。

Bulk Petのロゴ

Bulk Petは、ソウルノート「D-2」、ティアック「UD-505」、サウンドウォーリア「SWD-DA20」、 Nmode「X-DU3」といったUSB DACや、ラックスマンのCDプレーヤー「D-N150」、エソテリック「K-01XD」など、国内の多くのオーディオブランドに搭載されている。このブランドラインアップを見るだけでも、インターフェイス(株)がどれだけ日本のデジタル再生に貢献してきたか、窺い知ることができるだろう。

Bulk Petを搭載、インターフェイス(株)開発のソリューションを活用しているTEACのUD-505

■DSD再生やMQAなど、最先端のデジタル再生にキャッチアップし続ける

そもそもインターフェイス(株)とは、1984年に長野県に設立された会社で、USBまわりのソリューションに力を入れてきたソフトウェア開発企業である。現在は東京技術センターも合わせ50人強のスタッフが働いている。

もともとUSBに対する高い技術を持っていたインターフェイス(株)は、2010年ごろからのネットオーディオの盛り上がりを受けて、ASIOドライバをはじめとするUSBオーディオのためのソリューション開発に注力するようになった。2012年にはDSD再生ソリューション「ITF-USB DSD」を、2014年にはDSD録音ソリューション「ITF-USB DSD REC」の提供をスタートしている。

インターフェイス(株)で技術部次長を務める根岸智明さん(左)と、営業の森拓也さん(右)

ほかにも、MQAフルデコーダーチップの開発や、パワードスピーカーにLDAC(Bluetoothの高音質規格)を実装するなど、デジタル再生におけるさまざまな取り組みを行っている。

インターフェイス(株)が開発しているのは、単なる「USBオーディオのための組み込みボード」ではない。ハイスペックなオーディオ再生をスムーズに実現するための、ソフトウェアからハードウェアまでまとめた一連の「ソリューション」提案が同社の強みだ。そのソリューションの中には、USB再生のためのドライバ、再生ソフトウェア、ボードなどが一括して含まれている。

特に高価なオーディオ製品については、売って終わりではなく、10年、20年といった長期間のサポートが必須になる。途中で開発をやめてしまったり、サポートを終了することなく、長期的なサポートを約束してきたことで、オーディオメーカーとの安定した信頼関係を構築してきた。

また、ネットオーディオにおいて重要な要素のひとつが、「安定した動作」ということである。とくに初期のころは、PCMとDSDの切り替えで不快なポップノイズがのったり、DSD11.2MHz再生時に音が途切れがちになるなど、さまざまなトラブルが発生した。

そういったトラブルをなるべくなくし、安定した再生が実現できるようなソリューションを長い時間をかけて練り上げてきたのが、インターフェイス(株)の技術力である。安定した再生ソリューションが提案できるからこそ、ブランド各社がその次の段階、つまり「音質」のためのさまざまな試行錯誤を行うことができる。

そして当然、同じボード/ソリューションを搭載したとしても、同じサウンドが生まれるわけではない。DACチップにES9038Proを搭載したオーディオ機器は数多くあれど、出てくるサウンドは各社それぞれに異なる。同様にインターフェイス(株)が提供するのはあくまで「核」となる技術で、それ以降のアナログ回路や電源の作り込みはブランドそれぞれのこだわりと思想によるものだ。

これもすべて、営業の森 拓也さんが、オーディオメーカーさん各社を回って、どのような要望があるか耳を傾け、それらに対して真摯に答えてきた結果ということもできる。

■最先端ネットワーク再生を実現するソリューションを新たに開発

現在インターフェイス(株)が次なる提案として昨年からスタートさせているのが、ネットワーク再生のためのソリューション「ITF-NET AUDIO」である。

「ITF-NET AUDIO」の組み込み用ボード

これはざっくり説明すると、ネットワーク再生のためのモジュールであり、機器に組み込むことで、比較的容易にネットワークプレーヤー/トランスポートが開発できるというものである。

再生スペックとしては、PCM768kHz/32bitと、DSD24.6MHzまでのネットワーク入力に対応。UPnP/DLNA、OpenHomeにも対応することに加え、roon readyとしても動作するという、いまのネットワークオーディオに要求される最先端の仕様を盛り込んだ提案である。ハイレゾストリーミングサービスにも対応可能。

「ITF-NET AUDIO」のブロック図

NXP製i.MX 8M miniというCPUに、RAMとeMMCのメモリを搭載、ネットワーク再生のためのソフトウェアを書き込んだモジュールとなっている。実際には30mm×55mmのボードに実装されており、オーディオメーカーはこのモジュールを購入し、自社の製品に組み込むことができる。入出力はEthernetのほか、USBとI2Sに対応する。

これも、メーカー各社からの要望をもとに、「とくに必須」と思われる要素を抽出して実装したものだという。当然、要素を盛り込めば盛り込むほど価格も高くなってしまうため、最低限ここまでの機能は欲しい、という要望と価格との折り合いによって、現在の仕様として結実している。

もちろん、ただこれを「載せればよい」というわけではない。電源をどのように供給するか、USBやLANの入出力をどのように設計するかなどはメーカー各社に委ねられている。ボードそのものをカスタマイズすることも可能で、自由に音質を追い込むこともできる。あくまでネットワーク再生に必要な最低限のソフトウェアの提供というのが、彼らのコンセプトになる。

この「ITF-NET AUDIO」を搭載した国産のオーディオ機器も、近いうちにリリースが予定されているそうだ。日本のネットワークオーディオプレーヤーの世界に新たな風が生まれてくるのか、いまから待ち遠しい。

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