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公開日 2021/10/18 17:38
ダイナミックオーディオ4F「H.A.L.III」で開催

B&W「800 D4シリーズ」、“国内最速”比較試聴会を徹底レポート!

ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
東京・秋葉原のハイエンドオーディオショップ「ダイナミックオーディオ5555 H.A.L.III」にて、10月16日(土)、Bowers&Wilkins(B&W)「800 D4シリーズ」の“日本最速”比較試聴会が開催された。4部で構成されたその試聴会すべてに参加した記者が、そのサウンドを徹底レポートしよう。

ダイナミックオーディオ5555の「H.A.L.III」の試聴室に居並ぶB&Wのスピーカーたち。中央から前フラグシップの「800 D3」(後列)、「801 D4」「802 D4」「803 D4」となっている

この企画は、ダイナミックオーディオ5555の4F、H.A.L.III(ハイエンド・オーディオ・ラボラトリー・スリー)の島 健悟氏発案によるもので、第1部アキュフェーズ、第2部ラックスマン、第3部TAD、第4部エソテリックと、それぞれ国内ブランドのプレーヤー/アンプと組み合わせて試聴できるものになっている。

H.A.L.IIIの島 健悟氏

ダイナミックオーディオは、毎年秋に「マラソン試聴会」という大型試聴イベントを開催してきたが、新型コロナウイルスの蔓延を受け、2年連続で中止を余儀なくされた。しかし島氏は、なんとか“ショップならでは”のイベントを仕掛けたいと考え、今回の「ひとりマラソン試聴会」の実現に漕ぎ着けた。今回の4ブランドも、4Fに常設で置かれている機材を中心とした、まさに島氏自身が間違いなく推薦できる強力なラインナップで揃えている。

コロナ蔓延防止の観点から、各部8名までと最小人数で、各回完全入れ替え制で開催。島氏は、「お手持ちのシステムに近い、あるいはお好きなブランドの会に申し込んでください」と案内しており、少しでもお客様が自宅でのサウンドをイメージしやすいようなイベントとすることを心がけたとしている。

当初の予定では、「801 D4」と「803 D4」の聴き比べとアナウンスされていたが、イベント数日前のギリギリのタイミングで「802 D4」もショップに入荷。前フラグシップである「800 D3」も加えた4モデルを、取っ替え引っ替えしながら聴き比べできる贅沢な構成のイベントとなった。

イベントの大まかな流れは、どの回も共通となっている。そのためここでは、全体の流れと800 D4シリーズの技術ポイントを説明した後に、各回の詳細に入り、それぞれのブランドがどのような音を引き出してきたのかレポートすることにしよう。

ちなみに、比較試聴の音源は、すべてRoonからの再生となっている。エソテリックの「N-03T」にRoon Readyで飛ばし、その先のDAC〜プリアンプ〜パワーアンプについては、それぞれ4ブランドのシステムを採用する。Roonからの再生ではCDの入れ替えがなくどんどん音楽を聴けるメリットもあり、この点も最先端のデジタル再生を日々追求している島氏のこだわりだ。また、毎回必ず1曲はSACD/CD再生とし、ディスク再生におけるB&Wの実力も聴くことができた。

楽曲の再生の多くはRoonを使用。手持ちのPCやスマホでどんどん曲を再生できる手軽さも魅力

イベント前半では、ディーアンドエムホールディングスでB&Wブランドのマーケティングを担当する狩野徹也氏による“D4シリーズ”の解説が行われた。B&Wとダイナミックオーディオは、国内導入当初からの長い縁が続いており、オリジナルノーチラスの国内普及の立役者となったのは、7FのH.A.L.Iを担当する川又利明氏というのはよく知られた話。また4Fの島氏も、B&Wの国内展開においては欠かすことのできないキーパーソンである。

狩野氏によるD4シリーズの技術説明。前作より長く取られたトゥイーターのハウジングがアブソーバーの役割を果たし、不要なサウンドを前に出さない設計となっている

D4シリーズは、ダイヤモンドトゥイーター搭載モデルとして第4世代目となる。2015年に登場した“D3シリーズ”(800 D3のみ2016年)と新しいD4シリーズは、ぱっと見では近しいフォルムとなっている。しかしよく見ると、「ショルダー部」が皮張りとなっていること、また横から見た時にトゥイーターの長さが前作の1.5倍程度に長くなっていることが大きな違いとなる。

手前の「801 D4」と後列の「800 D3」を比べると、ヘッド部の下の仕上げに違いがあることが分かる

D4への進化に当たっての重要な技術ポイントについて、狩野氏は「自由に動くべきところは徹底して自由に動けるようにする、制振するべきところは制振する」ことが挙げられると言う。中域ユニットには「バイオミメティックサスペンション」を新規開発。バイオミメティックとは「生態模倣」という意味で、6本のクモの足に似た形状のサスペンションでユニットを支え、不要な歪みをスピーカーの背後に逃す工夫がなされているという。

「バイオミメティックサスペンション」と名付けられた中域ユニットの構造も今回の技術ポイントのひとつ

ほかにも、キャビネットの剛性を高めさらに鳴きにくい構造にしたほか、台座やスタビライザーも再検討し転倒しにくい形状を採用するなど、使いやすさと音質の双方をさらにブラッシュアップさせたものになっていると解説。

営業担当の織戸春伸氏。ちなみに馬蹄形になってからは第5世代目に当たるとのこと

島氏は、今回のフラグシップ「801 D4」ならびに下位2モデルを通じた大きな特徴として、「トゥイーターの高さが比較的近い位置にある」ことを指摘。たとえばアヴァロンやウィルソン・オーディオといったハイエンドブランドでは、トップモデルは見上げるばかりの高さのスピーカーも珍しくない。それには、トゥイーター部は耳の高さの位置が望ましいとするB&Wのブランドの考え方が反映されているが、あまり背の高すぎるスピーカーは、日本の通常の家庭には設置しにくい事情もある。しかしB&Wならば、フラグシップのスピーカーであっても全く無理をせずに鳴らし切ることができるという利点もあると語る。

実際にこれまで島氏が手がけたD3シリーズの納品事例としても、「802を買える予算があるならば、せっかくならば800を…」とフラグシップを導入する例も少なくなかったという。

■第1部 アキュフェーズ

それでは各部の詳細に入ろう。まずは第1部のアキュフェーズから。アキュフェーズは、2022年に創立50周年を迎えるにあたり、昨年から記念モデルを続々と登場させている。今回の試聴では、その第3弾モデルとなるセパレート型SACDトランスポート「DP-1000」と、DAC「DC-1000」が登場。プリアンプは「C-3900」、パワーアンプにA級パワーアンプの旗艦機となる「A-250」を2台使って試聴を行なった。

アキュフェーズ今期の最大の注目作、「DP-1000」(上)と「DC-1000」(下)

ここでの視聴曲は、ホリー・コールの「I can see clearly now」、ドナルド・フェイゲン「I.G.Y.」、クラシックからはラトル&ベルリン・フィルによる「ホルスト:惑星」から「ジュピター」。

ホリー・コールはベースのリアル感をどう引き出すかが重要な楽曲だが、「803 D4」から流れ出す、空気の圧としても感じる低域のリアリティは流石のもの。B&Wのスピーカーの最大の魅力と言っていい解像度の高さ、情報量の多さ、リアリティがこれでもかという力を持って迫ってくる。「I.G.Y.」オープニングのエレピの煌びやかさは、何度聴いてもその音数の豊かさに驚かされる。

アキュフェーズの小串卓生氏

この時点でも十分にリアリティの高い音楽再生を感じられたが、ここからさらにワンランク上の「802 D4」に変更。すると、ウーファーのサイズやキャビネットが一回り大きいこともあり、低域の量感にさらなる深みが加わる。低域の量感が増すことは、じつは中高域の安定感にも大きな影響を与えており、再生の余裕が生まれたことに加え、楽器の分離感がさらに高まり、まさに手に取るように音楽の細部が見えてくる。

さてここから「801 D4」にいく前に、「802 D4」と同価格帯となる前フラグシップ「800 D3」の登場となる。「800 D3」はダイナミックオーディオのレファレンス機材として5年間鳴らし込まれたスピーカーであり、十分にエージングが済んだモデルとなっている。

そう、さすがの「800 D3」、まさに王者の佇まいともいうべき自然な風格で、堂々たる余裕のサウンドを聴かせてくる。3曲を試聴後、現場では「802 D4」と「800 D3」のどちらが好きか、という簡単なアンケートも行なったが、曲によっては半分くらいの手が「800 D3」に上がった。やはり“絶対王者”はそう簡単には道を譲らない。

「800 D3」と「802 D4」のいずれが気に入ったかをアンケート

最後に真打として「801 D4」の登場となる。曲は、デュトワ/モントリオール交響楽団による「サン=サーンス:交響曲第3番《オルガン付》」。パイプオルガンの暗い湖の底のような沈み込みから、水のせせらぎのような清涼感ある高域まで、圧倒的なスケール感で描き出す。とてつもないものを聴いてしまった、という思いは、参加者全ての胸に刻まれたことだろう。B&Wは、オーディオの新たな次元へと足を踏み出していることを、強く確信させるだけの力があった。

■第2部 ラックスマン

続けての第2部ラックスマンのパート。ここでは、まだ発売前の新製品パワーアンプ「M-10X」が、世界初お披露目された。

世界初お披露目となるラックスマンのパワーアンプ「M-10X」

島氏によると、「B&Wのスピーカーを使っているお客さんがどのブランドのアンプを使っているかには、実はかなりばらつきがあります」。JBLならマッキントッシュ、タンノイならばウエスギと言ったある意味「定番」の組み合わせがある一方で、B&Wはさまざまな可能性に開かれている。それはまさに、「前段の個性を活かせる、絶対的なクオリティの高さ」があるからではないか、と島氏は考えているという。

このパートでは、SACDプレーヤー「D-10X」に、プリアンプは「CL-1000」を使用。なお、「CL-1000」はリモコンが付属しないため、曲ごとにボリュームを本体で微調整しながら比較試聴を行なった。

ここでの比較試聴楽曲は、ニッキ・パロットの「MOON RIVER」、ドナルド・フェイゲンの「バビロン・シスターズ」、そしてホルストの「ジュピター」を再生。

ここでまず驚いたのが、「M-10X」のあまりにも“自然な”サウンドである。8年ぶりに刷新された増幅回路「LIFES」を搭載していることから、なんらか派手なサウンドを勝手に想像していたのだが、それは完全に裏切られた。ただ音楽だけがそこにある、ソースに刻まれた情報を正確に増幅し送り出す、ラックスマンの理念そのものがサウンドとして現れていた。

D&Mの狩野氏も、「D4シリーズになって、以前よりさらに解像度も上がり、スピーカーが消えてなくなるような綺麗な立体感が感じられるようになりました」とコメントする。今回のD4/D3の4モデル聴き比べにおいても、「M-10X」はそれぞれのグレード違いをきちんと描き出すポテンシャルを秘めたパワーアンプであることが強く感じられた。

「803 D4」では、ニッキ・パロットのコントラバスのサイズ感が手にとるように感じられ、自然で透明度の高いサウンドがスピーカーから流れ出してくる。「802 D4」ではさらにそこに音数が増し、ホルストの「ジュピター」では楽曲のコントラストや陰影感をより深く刻み出す。スピーカーを正確にグリップしながらも、上品で上質な手触りがラックスマンならではの世界でもある。

Roonならば楽曲再生中の画面も楽しい

フラグシップの「801 D4」では、クラシック音楽のスケール感が最も強烈に感じられた。ハイレゾ再生もさることながら、最後に再生したCD「チャイコフスキー:交響曲第4番」(ホーネック&ピッツバーグ交響楽団)では、CDにここまでの情報量が含まれているのかと感激するような巨大なステージ感、まさに試聴室を飛び出しコンサートに臨席しているかのような生のリアリティに言葉を失う。

ラックスマンの小島 康氏も、「新しい世代のスピーカーが出てくると、自社のアンプの実力がさらに引き出されてくるのではないか、と気概に満ちてくるのです」とD4シリーズに高い期待を寄せていた。

ラックスマンの小島氏

■第3部 TAD

続けて第3部はTAD(テクニカル オーディオ デバイセズ ラボラトリーズ)。TADの今年発売の新製品CDプレーヤー「TAD-D1000TX」のDAC&プリ機能を利用し、パワーアンプは「TAD-M2500MK2」を使用しての試聴となった。

TADの最新SACDプレーヤー「D-1000TX」

TADの魅力はなんといってもそのグルーヴ感、音楽を前へ前へと送り出してくるその推進力にある。その推進力が強烈に生きる3曲の比較試聴を行なった。

ポップスからは、サラ・オレイン&ピーボ・ブライソンの「美女と野獣」。男女ヴォーカルの掛け合いや空気感が聴きどころとなる。それに、フュージョンからはFourplayの「Bali Run」、クラシックからは引き続きホルストの「ジュピター」を再生。

「803 D4」においては、特に「Bali Run」で感じされる刻みやリズム感の楽しさ、ピアノの美しい響きなどはさすがTAD!と喝采を送りたくなる表現力を聴かせる。クラシック音楽においても、まさに楽器が歌っているとも言うべき旨みを引き出してくる。確かな低域の安定感と高域の美しさの高度な融合がまさにTADの高い音楽性だ。

TADの大倉一人氏

「802 D4」に変更すると、ステージ間の広がりや低域の量感はさらに豊かになり、音楽のディテールを表現しつつ、さらに音楽を全体として心躍る体験として聴かせてくる。立ち上がりの鋭さも特徴で、特にサラ・オレインでは、ホールの天井と奥行きがさらに一回り広くなったような三次元的なステージが広がる。

フラグシップ「801 D4」では、「美女と野獣」の声のビブラートの使い方まで詳細に見えてくる圧倒的な解像度の高さを発揮。本機の進化のポイントについて島氏は、「量感がこれまでよりさらに豊かになったことに加えて、特に高域が大人になったように感じます」と評価する。ただし、その分実際に部屋に置いた時のコントロールに難しさも感じていると言う。アンプやルームチューニングなどでどうやってこの「真価」を引き出していくのか、販売店やユーザーの“腕”が問われるところでもある。

B&Wの800シリーズはスタジオでも評価される「モニタースピーカー」であると同時に、豊かな音楽性を進化させてきた“音楽ファンのための”スピーカーでもある。そんな音楽を豊かに聴かせるスピーカーとしての実力を、TADのアンプによって改めて確認することができた。

■第4部 エソテリック

第4部はエソテリックが登場。この回では、H.A.L.IIIに常設で展示されているプリアンプ「C-02X」とパワーアンプ「S-02」というロングセラーモデルを組み合わせ。DACならびにSACD再生には独自のディスクリートDACを搭載する「K-01XD」を使用している。

1日大活躍のエソテリックのネットワークトランスポート「N-03T」

エソテリック担当の佐伯政哉氏は、「デバイス不足の問題もあり、なかなか新製品を出しにくい状況にありますが、その分来年に向けて準備を着々と進めています!」とアピール。

エソテリックの佐伯氏

このパートでは、最初に「803 D4」の実力を感じてもらいたいということで、井筒香奈江の『時のまにまにIV』から「主人公」を再生。もうこの時点で鳥肌が立ちそうになるリアリティと、透明感の高い歌声が全身に染み渡る。

島氏は、H.A.L.=ハイエンド・オーディオ・ラボラトリーというお店の名前に込めた意味について、「スピーカーの存在をいかに消すか」というテーマにずっと取り組んできたという。ハイエンドというのは単に値段が高いという意味だけではなく、生のライブパフォーマンスのリアリティを、どれだけオーディオ装置で再現するか、という探求の表明でもある。

このパートの比較試聴音源としては、リンダ・ロンシュタット「星に願いを」、マーカス・ミラーの「Rush Over」、クラシックではデュダメル&ウィーン・フィルによる「ムソルグスキー:展覧会の絵」を再生した。

「803 D4」で聴くリンダ・ロンシュタット「星に願いを」からは、まさにスピーカー再生という域を超えたリアルなライブ感を感じる。小規模なクラブで目の前で彼女が歌っているかのような、全身で感じる音楽の生々しさ。下に沈むべきベース部はどこまでも下に沈み、高域はどこまでも上に伸びていく。「展覧会の絵」からは、まさに音が軽やかに躍るように飛び出してくる。

このパートでも、3曲の課題曲を終えた後、「802 D4」と、前フラグシップ「800 D3」のどちらを好きかアンケートを取ったが、この組み合わせでは全員が「D4」に軍配を上げた。一緒に聴いていた島氏も「さすがB&W、ここまで仕上げてくるとは!」と感激の声。

続けて「801 D4」を聴けば、高解像度、ステージ感、リアリティなど高い次元で実現させてきたオーディオ的な諸要素が、さらにまたひとつ深みを増すことを確認できた。グレードごとに異なる音作りではなく、クオリティがきちんとひとつずつ上の次元を開いていくことこそ、まさに「800 D4シリーズ」がトップモデルとして君臨し続ける所以でもあろう。

この日の試聴会の大トリとして、マイルス・デイヴィスのライブ盤『ライブ・アラウンド・ザ・ワールド』から「Time after time」を再生。10分弱という大曲ながら、参加者の誰一人席を立つことも身じろぎすることもなく、呼吸すら忘れたかのようにただマイルスのステージ、音の奔流に身を委ねる。ここまで7時間近くぶっ続けでイベントを運営してきたスタッフの疲労もすべて吹き飛ばすような、音楽だけが持つ圧倒的な力がそこにはあった。



ほとんど1年半以上ぶりとなる濃密なオーディオ試聴会を、私も1日貼り付きで共に体験させていただいた。そして改めて、オーディオ機器に触れ、自分の耳でこうして比較試聴することで、それぞれの機器の個性や魅力を感じることの重要性を噛み締めることになった。同時に、これほどの濃密な時間を、多くのオーディオファンと共有できることが、どれほど幸福な体験であったのかと言うことも。

なお、800 D4シリーズについては、引き続きダイナミックオーディオで全機種の試聴ができるようになっている。今回の試聴会には登場しなかったが、1Fでは「805 D4」、2Fでは「804 D4」が常設で展開されている。

このD4シリーズへの進化は、やはりご自身の耳で体験してほしい。オーディオにはまだまだ大きな可能性が開かれていることを、きっと感じさせてくれるだろうから。

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