公開日 2024/11/14 11:50
シャープや東芝、ハイセンスのテレビに採用
スピーカーの“原音再生”をデジタルフィルターで解決!テレビや車に搭載広がるEilex PRISMの秘密に迫る
ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
ハイエンドオーディオの輸入代理店として知られるEilex(アイレックス)は、実はもうひとつの顔を持っている。それはオーディオの音質技術開発、ならびにそのライセンス事業である。シャープや東芝、ハイセンスのテレビにも導入されているというアイレックスの音響技術について、アメリカ・カリフォルニア州の同社拠点で詳しい話を伺いつつ、その効果のほどを実際に体験してきた。
アイレックスのホームページのライセンス事業のサイトを見ると、「Eilex PRISM」「Eilex HD Remaster」「Eilex STRATOS」などアイレクスの名を冠した複数の技術名が掲載されている。Eilex HD Remasterは、2019年に井筒香奈江の音源のアップサンプリングに活用されたことがあるので、聴き覚えのある方もいるだろう。
Eilex HD Remasterは、実は膨大なエリアに広がる同社の音響技術のごく一部に過ぎない。ここでメインに取り上げるのは、Eilex PRISMという同社独自の音響パワー(エネルギー)イコライジング技術である。この技術は先述の東芝やシャープ、ハイセンスのテレビ、サウンドバー、アルパインのカーオーディオシステム、多くの中国のEVメーカーのカーオーディオ、中国のFIILというヘッドホンメーカーにも採用されている。
「Eilex PRISMで一番大切なことは、スピーカーからの“原音再生”を追求していることにあります。よくルームチューニングや音場補正と誤解されることがあるのですが、その点はまったく違います」と、アイレックスUS本社社長の朝日美之さん(日本のアイレックス社長の朝日英治さんのお父さん)。
「例えば楽器の音を再生するならば、スピーカーの位置にその楽器があるように再生したい、ということです。そこから出た音は部屋の反響、試聴位置などによって変わりますが、それは楽器を弾いた場合でも同じですよね。そこを改善するルーム補正という考え方とは全く違います。あくまでスピーカーから“原音”に限りなく近いものを出す、そのための補正技術がEilex PRISMとなります」(美之さん)
Eilex PRISMの考え方を理解するためには、「音響パワー体積密度補正」というキーワードが重要となる。これは、(複数の)スピーカーから音が発せられた際に、その空間に音の「エネルギー」がどれだけ伝わっているか、ということを測定するものとなる。
通常のスピーカーの特性測定では、マイクを部屋の中に多数並べ、それぞれの位置で得られた測定データを計測する。しかしこの測定方法では、マイクの位置が数センチずれただけで全く違う結果になってしまうという欠点がある。
「ですが、私たちのEilex PRISMでは、使うマイクは1本だけです」と美之さん。「部屋の空間を、10cm角の立方体の集合のように想像してください。その10cm角のブロックの位置にマイクをひとつずつ置いて測定していくイメージです」。そう言いながら美之さんは目の前の空間を撫でるように、左右にゆっくりと手を動かしていく。
リスナーの前の空間を10cm角の部屋に分割。その部屋をマイクがゆっくり移動しながら、ひとつひとつ測定していく感じだ。といってもそこまで厳密ではなく、空間にゆっくりペンキを塗っていくような、といえば伝わるだろうか。一面終わったらさらに手を伸ばして奥の方向でも同様に空間を測定。奥行き方向も3レイヤーくらい収録すれば測定完了とのことだ。「普通の部屋では100から300くらいの点で測定、車だと300から500点くらい測定すれば十分です」。
それではこの測定データをどのように具体的な製品として実装していくか。そのために重要なのが、こちらもアイレックス独自の「VIRフィルター」と呼ばれるデジタルフィルターである。
Eilex PRISMは、先述のようにテレビやカーオーディオシステムの中にDSPとして組み込んで、そのスピーカーの音をできる限り“原音に近い”再生をすることを目的としている。このDSPに組み込むために必要なのがVIRフィルターである。しかし、昨今のテレビや車は機能面での進化が著しい反面、どうしても音質のために割り当てられる領域は少なくなってしまう。
VIRとは、「Variable Resolution Impulse Response Filter」の頭文字をとったもの。デジタルフィルターというとIIRやIFRフィルターがよく知られるが、このVIRフィルターはそれらの課題をアイレックス独自の技術で解決し、「コンピューターの計算量を減らしながら、精度の高いフィルタを作ることができる」ものだという。
「IIRフィルターはいわゆるグラフィックイコライザーです。周波数ごとに山や谷を設けて調整します。わかりやすいぶん、あまり複雑なことはできません。FIRフィルターはもう少し精度の高いフィルターですが、特に低域の補正能力に課題があります。FIRの特性上、高域は細かく調整が可能ですが、低域は疎になってしまう。低域の補正能力を高めようとすると非常に高度なDSPやFPGAが必要となり、サイズやコスト面から実装が困難になってしまいます」
美之さんはVIRフィルターが動作するそれぞれの帯域(バンド)のことを「スマートセクション」と呼ぶ。VIRフィルターを生成するコンピューターソフトは「Composer」というもので、このソフトも自社で開発したものだ。Composerに最終的に出力したいターゲットカーブ(多くの場合はフラットな周波数)を定め、先ほどの測定データを入力。するとものの数秒で、専用のVIRフィルターが生成されてくる。
体積密度の考え方に加えて、このコンピューターソフトウェアがEilex PRISMのキモでもある。このソフトは非常に柔軟性が高く、リアルタイムでターゲットカーブの設定、補正が行える。「聴感で確認しながら、もう少し低域を上げたいな、といった場合はその場でカーブを調整、出音を確認できます。FIR等のフィルターの場合は一旦フィルターを出力してDSPに書き込み、再試聴しなければなりません。ですので、Eilex PRISMは開発の時間短縮にも活用できると考えています」(美之さん)。
FIRフィルターが苦手とする低域だけにこのVIRフィルターを当てる、といった活用方法も可能。FIRフィルターよりずっと少ない演算量で補正が可能になるということが重要で、小さなSoCのなかにも簡単に組み込むことができるのだ。
このソフトウェアの詳細については非公開の部分が多いそうだが、位相コントロールにおいて「ミニマムフェイズ」の考え方を使っているのがポイントだという。「デジタル時代になってからリニアフェイズの考え方が主流になってきましたが、私はそれは音質的にあまり望ましくないと考えています。リニアフェイズにはにじみがある、つまり“現象が発生する時間的に前”に音が発生してしまうのです(いわゆるプリリンギングと言われる現象)。これは自然界にはない現象で不自然です。VIRフィルターでは、アナログ時代と同様にすべてミニマムフェイズで演算しているという特徴があります」(美之さん)
この後、クリエイティブの小型スピーカーを使ったホームオーディオ環境と、ポルシェ・カイエンでのカーオーディオ環境でのEilex PRISMの効果を実際に体験させてもらった。
クリエイティブの小型スピーカーから、「ピヨッピヨッ」といったスイープ音を再生しながら、空間を滑るようにマイクの先端を移動させていく。時間にして1分程度、これで約270点ほどの測定が完了するそうだ。とても簡単!
このデータを「Composer」ソフトウェアに入力。赤い線が測定データで、イエローがターゲットカーブ。赤い線をイエローに近づけるために生成されるのが青い線、これがVIRフィルターとなる。画面上で左右が少しマスクされているが、ここではこのマスクされていない部分にのみフィルターを当てる、という設定となっている。このフィルター幅も自由に調整可能だそうで、微調整するたびにリアルタイムでカーブが変化していく。
ジェニファー・ヴォーンズの「Rock You Gently」で補正を当てる前、当てる後で聴き比べを実施。明らかに声の立ち上がりがスムーズで抜けが良くなっているのを感じられる。コーラスとの溶け合い感も見事で、数千円のPC用スピーカーとは思えないほどの豊かさを感じられる。
またアナウンサーの声(モノラル音声)ではその違いはさらに明確で、発音がよりシャープに聴き取りやすく変化した。テレビはエンタメのための機器であると同時に、ニュースや災害時の情報入手手段としても重要だ。「アナウンサーの声の聴き取りやすさ」はテレビ開発において重要だと改めて感じ入った。
続いては車載オーディオでの聴き比べ。カイエンにはボーズのスピーカーが標準搭載されているそうだが、こちらでもEilex PRISMのありなしの比較試聴を体験した。
今度は運転席に座り、先ほどと同じようにマイクで空間を撫でるように測定を行なっていく。ダッシュボード上から足元まで、おおよそ2分程度、300点ほどの測定を行う。そして同じようにComposerでフィルター係数を生成、前後で聴き比べを行なった。
標準状態ではかなり低域がモゴモゴくぐもった感じとなっていたが、VIRフィルターを入れてあげるとぐっと声の透明度が上がり、滑らかな聴き味となる。これは良い。「車はフラットにし過ぎてしまうとちょっとつまらないので、低域だけ5dBほど上げてあげたい。そういった細かい設定もComposerでは簡単に行えます」。
実際にある車メーカーで、数ヶ月もかかって音質チューニングを追い込んでいたところを、このEilex PRISMを導入することでものの1時間もかからずに音質を仕上げることができた、という事例もあるという。
ちなみにこのVIRフィルターについて特許は取得していないそう。英治さんによると、「この技術を最初に発表したのは2013年でしたが、特許をとることで情報公開をしないといけない、ある意味では“手の内を明かさないといけない”ところがあります。なのであえてそこはブラックボックスにしています」。だが、発表から10年経ってもまだEilex PRISMを超える低演算量、高精度なイコライジング技術は見当たらないと自信を見せる。
「現在もっとも実装事例が多いのはテレビですが、今後は自動車メーカーとも積極的に組んでやっていきたいです。中国の車メーカーは決断も早く、“音がいい”ことを納得してくれたらすぐに契約となるので、とてもありがたい存在です。またTWSのような小型の機器にも搭載が可能ですので、今後展開を広げていきたいですね」(英治さん)
アイレックスは実は旭化成エレクトロニクスともパートナーシップを提携しており、カーオーディオ用SoCには既にVIRフィルタが純正搭載されている。今後ハイエンドオーディオ用のチップへの搭載が進めば、ホームオーディオはもちろん、プロオーディオ機器やカーオーディオなどにもEilexの技術が実装される事例が増えるだろう。今後のアイレックスの音響技術にも注目していきたい。
スピーカーの“原音再生”を追求するEilex PRISMの技術
アイレックスのホームページのライセンス事業のサイトを見ると、「Eilex PRISM」「Eilex HD Remaster」「Eilex STRATOS」などアイレクスの名を冠した複数の技術名が掲載されている。Eilex HD Remasterは、2019年に井筒香奈江の音源のアップサンプリングに活用されたことがあるので、聴き覚えのある方もいるだろう。
Eilex HD Remasterは、実は膨大なエリアに広がる同社の音響技術のごく一部に過ぎない。ここでメインに取り上げるのは、Eilex PRISMという同社独自の音響パワー(エネルギー)イコライジング技術である。この技術は先述の東芝やシャープ、ハイセンスのテレビ、サウンドバー、アルパインのカーオーディオシステム、多くの中国のEVメーカーのカーオーディオ、中国のFIILというヘッドホンメーカーにも採用されている。
「Eilex PRISMで一番大切なことは、スピーカーからの“原音再生”を追求していることにあります。よくルームチューニングや音場補正と誤解されることがあるのですが、その点はまったく違います」と、アイレックスUS本社社長の朝日美之さん(日本のアイレックス社長の朝日英治さんのお父さん)。
「例えば楽器の音を再生するならば、スピーカーの位置にその楽器があるように再生したい、ということです。そこから出た音は部屋の反響、試聴位置などによって変わりますが、それは楽器を弾いた場合でも同じですよね。そこを改善するルーム補正という考え方とは全く違います。あくまでスピーカーから“原音”に限りなく近いものを出す、そのための補正技術がEilex PRISMとなります」(美之さん)
スピーカーから空間に放たれた音のエネルギーを測定
Eilex PRISMの考え方を理解するためには、「音響パワー体積密度補正」というキーワードが重要となる。これは、(複数の)スピーカーから音が発せられた際に、その空間に音の「エネルギー」がどれだけ伝わっているか、ということを測定するものとなる。
通常のスピーカーの特性測定では、マイクを部屋の中に多数並べ、それぞれの位置で得られた測定データを計測する。しかしこの測定方法では、マイクの位置が数センチずれただけで全く違う結果になってしまうという欠点がある。
「ですが、私たちのEilex PRISMでは、使うマイクは1本だけです」と美之さん。「部屋の空間を、10cm角の立方体の集合のように想像してください。その10cm角のブロックの位置にマイクをひとつずつ置いて測定していくイメージです」。そう言いながら美之さんは目の前の空間を撫でるように、左右にゆっくりと手を動かしていく。
リスナーの前の空間を10cm角の部屋に分割。その部屋をマイクがゆっくり移動しながら、ひとつひとつ測定していく感じだ。といってもそこまで厳密ではなく、空間にゆっくりペンキを塗っていくような、といえば伝わるだろうか。一面終わったらさらに手を伸ばして奥の方向でも同様に空間を測定。奥行き方向も3レイヤーくらい収録すれば測定完了とのことだ。「普通の部屋では100から300くらいの点で測定、車だと300から500点くらい測定すれば十分です」。
独自の高精度デジタルフィルター「VIRフィルター」を開発
それではこの測定データをどのように具体的な製品として実装していくか。そのために重要なのが、こちらもアイレックス独自の「VIRフィルター」と呼ばれるデジタルフィルターである。
Eilex PRISMは、先述のようにテレビやカーオーディオシステムの中にDSPとして組み込んで、そのスピーカーの音をできる限り“原音に近い”再生をすることを目的としている。このDSPに組み込むために必要なのがVIRフィルターである。しかし、昨今のテレビや車は機能面での進化が著しい反面、どうしても音質のために割り当てられる領域は少なくなってしまう。
VIRとは、「Variable Resolution Impulse Response Filter」の頭文字をとったもの。デジタルフィルターというとIIRやIFRフィルターがよく知られるが、このVIRフィルターはそれらの課題をアイレックス独自の技術で解決し、「コンピューターの計算量を減らしながら、精度の高いフィルタを作ることができる」ものだという。
「IIRフィルターはいわゆるグラフィックイコライザーです。周波数ごとに山や谷を設けて調整します。わかりやすいぶん、あまり複雑なことはできません。FIRフィルターはもう少し精度の高いフィルターですが、特に低域の補正能力に課題があります。FIRの特性上、高域は細かく調整が可能ですが、低域は疎になってしまう。低域の補正能力を高めようとすると非常に高度なDSPやFPGAが必要となり、サイズやコスト面から実装が困難になってしまいます」
美之さんはVIRフィルターが動作するそれぞれの帯域(バンド)のことを「スマートセクション」と呼ぶ。VIRフィルターを生成するコンピューターソフトは「Composer」というもので、このソフトも自社で開発したものだ。Composerに最終的に出力したいターゲットカーブ(多くの場合はフラットな周波数)を定め、先ほどの測定データを入力。するとものの数秒で、専用のVIRフィルターが生成されてくる。
体積密度の考え方に加えて、このコンピューターソフトウェアがEilex PRISMのキモでもある。このソフトは非常に柔軟性が高く、リアルタイムでターゲットカーブの設定、補正が行える。「聴感で確認しながら、もう少し低域を上げたいな、といった場合はその場でカーブを調整、出音を確認できます。FIR等のフィルターの場合は一旦フィルターを出力してDSPに書き込み、再試聴しなければなりません。ですので、Eilex PRISMは開発の時間短縮にも活用できると考えています」(美之さん)。
FIRフィルターが苦手とする低域だけにこのVIRフィルターを当てる、といった活用方法も可能。FIRフィルターよりずっと少ない演算量で補正が可能になるということが重要で、小さなSoCのなかにも簡単に組み込むことができるのだ。
このソフトウェアの詳細については非公開の部分が多いそうだが、位相コントロールにおいて「ミニマムフェイズ」の考え方を使っているのがポイントだという。「デジタル時代になってからリニアフェイズの考え方が主流になってきましたが、私はそれは音質的にあまり望ましくないと考えています。リニアフェイズにはにじみがある、つまり“現象が発生する時間的に前”に音が発生してしまうのです(いわゆるプリリンギングと言われる現象)。これは自然界にはない現象で不自然です。VIRフィルターでは、アナログ時代と同様にすべてミニマムフェイズで演算しているという特徴があります」(美之さん)
小型のPC用スピーカーでも音質改善の効果あり
この後、クリエイティブの小型スピーカーを使ったホームオーディオ環境と、ポルシェ・カイエンでのカーオーディオ環境でのEilex PRISMの効果を実際に体験させてもらった。
クリエイティブの小型スピーカーから、「ピヨッピヨッ」といったスイープ音を再生しながら、空間を滑るようにマイクの先端を移動させていく。時間にして1分程度、これで約270点ほどの測定が完了するそうだ。とても簡単!
このデータを「Composer」ソフトウェアに入力。赤い線が測定データで、イエローがターゲットカーブ。赤い線をイエローに近づけるために生成されるのが青い線、これがVIRフィルターとなる。画面上で左右が少しマスクされているが、ここではこのマスクされていない部分にのみフィルターを当てる、という設定となっている。このフィルター幅も自由に調整可能だそうで、微調整するたびにリアルタイムでカーブが変化していく。
ジェニファー・ヴォーンズの「Rock You Gently」で補正を当てる前、当てる後で聴き比べを実施。明らかに声の立ち上がりがスムーズで抜けが良くなっているのを感じられる。コーラスとの溶け合い感も見事で、数千円のPC用スピーカーとは思えないほどの豊かさを感じられる。
またアナウンサーの声(モノラル音声)ではその違いはさらに明確で、発音がよりシャープに聴き取りやすく変化した。テレビはエンタメのための機器であると同時に、ニュースや災害時の情報入手手段としても重要だ。「アナウンサーの声の聴き取りやすさ」はテレビ開発において重要だと改めて感じ入った。
車載オーディオシステムにも応用可能
続いては車載オーディオでの聴き比べ。カイエンにはボーズのスピーカーが標準搭載されているそうだが、こちらでもEilex PRISMのありなしの比較試聴を体験した。
今度は運転席に座り、先ほどと同じようにマイクで空間を撫でるように測定を行なっていく。ダッシュボード上から足元まで、おおよそ2分程度、300点ほどの測定を行う。そして同じようにComposerでフィルター係数を生成、前後で聴き比べを行なった。
標準状態ではかなり低域がモゴモゴくぐもった感じとなっていたが、VIRフィルターを入れてあげるとぐっと声の透明度が上がり、滑らかな聴き味となる。これは良い。「車はフラットにし過ぎてしまうとちょっとつまらないので、低域だけ5dBほど上げてあげたい。そういった細かい設定もComposerでは簡単に行えます」。
実際にある車メーカーで、数ヶ月もかかって音質チューニングを追い込んでいたところを、このEilex PRISMを導入することでものの1時間もかからずに音質を仕上げることができた、という事例もあるという。
ちなみにこのVIRフィルターについて特許は取得していないそう。英治さんによると、「この技術を最初に発表したのは2013年でしたが、特許をとることで情報公開をしないといけない、ある意味では“手の内を明かさないといけない”ところがあります。なのであえてそこはブラックボックスにしています」。だが、発表から10年経ってもまだEilex PRISMを超える低演算量、高精度なイコライジング技術は見当たらないと自信を見せる。
「現在もっとも実装事例が多いのはテレビですが、今後は自動車メーカーとも積極的に組んでやっていきたいです。中国の車メーカーは決断も早く、“音がいい”ことを納得してくれたらすぐに契約となるので、とてもありがたい存在です。またTWSのような小型の機器にも搭載が可能ですので、今後展開を広げていきたいですね」(英治さん)
アイレックスは実は旭化成エレクトロニクスともパートナーシップを提携しており、カーオーディオ用SoCには既にVIRフィルタが純正搭載されている。今後ハイエンドオーディオ用のチップへの搭載が進めば、ホームオーディオはもちろん、プロオーディオ機器やカーオーディオなどにもEilexの技術が実装される事例が増えるだろう。今後のアイレックスの音響技術にも注目していきたい。