トップページへ戻る

ニュース

HOME > ニュース > AV&ホームシアターニュース

公開日 2016/12/17 21:36
「W80」開発秘話も

<ポタフェス>“ゴッドファーザー”と“テーラー”。カートライト兄弟が語る「Westoneの音づくり」

編集部:風間雄介
イヤホンの進化に大きく貢献し、現在も傑作モデルを次々と世に送り出しているWestone。そのサウンドデザインを行っているのが、カートライト兄弟だ。

兄はカール・カートライト氏、弟はクリス・カートライト氏。二人は双子である。カール氏は「Westoneのゴッドファーザー」と呼ばれサウンドデザインに関わり、クリス氏は「フィッティングテーラー」として実際の製品へ落とし込む部分を担当する。

左がカール・カートライト氏(サウンドデザイナー“ゴッドファーザー”)、中央がハンク・ネザートン氏(セールスダイレクター)、右がクリス・カートライト(プロダクトデザイナー“フィッティングテーラー”)

ポタフェスの開催に合わせて来日した二人が、Westoneの音づくりを語るトークセッションが行われた。司会はライターの野村ケンジ氏が行った。

野村ケンジ氏

まず二人の役割分担について、カール氏はこう語る。「二人はこれまで、いろいろなプロジェクトに関わってきた。音だけでなく通信分野もそうだ。役割は絡み合っているものもあるが、主に私のプロジェクトは、サウンドに関わるものだ」。

「子供の頃から音楽が好きで、いまでもバンドで演奏している。ミキシングにも興味がある。とにかく私にとってはサウンドが一番重要なんだ。私が製品のアイデアを作ると、クリスに渡して『どうだ?』と聴くんだ」。

音づくりはカール・カートライト氏(右)の担当

「試作品を渡されてから、クリス氏が魔法をかける」とカール氏は悪戯っぽく笑う。クリス氏も「カールがフランケンシュタインを作って、私がうまく製品として収まるようにする。それが私の役割だ」と冗談で返す。

クリス氏はカール氏について、こうも語る。「カールは『ミスターサウンド』。子供の頃も、家でステレオを作ったのはカール。いまでも我々のオフィスで、子供の頃と同じようにスピーカーを作っている」。

W80開発の裏側

Westoneは今年、8ドライバーのユニバーサルイヤホン最上位機「W80」を発売した(関連ニュース)。野村ケンジ氏は、開発過程でどのような苦労があったのか、と二人に尋ねた。

Westone「W80」

カール氏は、「W80はW60の後継機として出てきたわけだが、W60のもともとの評判が良かったし、我々も達成できたことを誇りに思っていた。だから『次に何をするか』が焦点になった」と開発当初を振り返る。

その上でターゲットにしたのは「高域の伸びを拡大すること」だったという。「ハーモニックコンテンツ、つまり倍音を引き出すということに主眼を置いた」。

カール氏はさらに続ける。「ハーモニックコンテンツとは何かというと、音には基音があり倍音がある。倍音が加わることによってそれがどんな楽器か、どんな空間なのかを聞き分けられる」。

また今回のW80では「残響音をしっかりと再現することも目指した」とカール氏は述べ、「それによってリアルな体験、忠実な音再生をめざした」と語る。

ドライバーの数については「目的に応じてドライバーの数が決まる。むやみに増やすことはしない」とカール氏。ドライバーの数ありきではなく、あくまで目指す音を追求した結果であると強調した。

カール氏が作った試作機をクリス氏が最初に聞いたとき、クリス氏は「(求めていたのは)まさしくこれだ」と瞬時に理解したという。「W80はいわばタイムマシンのようなもの。使うことで、録音現場に行ったかのような体験ができる」と続ける。

だが問題もあった。クリス氏は「最初にできたものは非常に見た目が悪かった。パッケージングができてないので、マシンガンを耳に挿したような見た目になっていた」と語る。

ただしクリス氏にとって、どういったパッケージングを行えば合理的か、音質と装着性を両立させるにはどうすればよいか、ということを考えることは、非常に楽しい作業なのだという。

パッケージングを考えるのはクリス氏(左)にとって楽しい作業なのだという

「模型のようにドライバーの数を考えた粘土を作り、それを組み合わせながら試行錯誤する。いかに鼓膜に音を届けるかも考えなければいけない。最初はノズルもタコ足のようだったが、それもうまく収めなければならない」。

そうして可能な限り小さな空間に8つのドライバーを入れ込んだ後で、音をうまく届けることを考える。ここで重要になるのが、イヤホンの中の「ブーツ」と呼ばれる場所。ここで各ドライバーのディレイなどを調整する。

カール氏は「もっとノズルを大きくすれば作りやすかったかもしれないが、そうせずに音質を確保できたことに満足している。8基のドライバーを積みながら、誰でも装着できるサイズや形状になっている。そのことを誇りに思う」とコメント。実際にW80はW60よりもボディが小さくなっている。

イヤーチップも独自開発

野村氏は、「あまり知られていないことだが、Westoneは実はイヤーチップも自社で作っている。そのあたりもくわしく語ってもらえないか」と二人にリクエストした。

それを受けたカール氏は「Westoneはイヤーチップをずっと作り続けてきた。最初は補聴器用に黄色いチップを、次にコンプライチップを作っていた。二人あわせて50万個くらいのイヤーチップを作ってきた経験があった」と振り返る。

「その経験で理解したのは、外耳道というのは完全な円形ではなく、サイズもいろいろなサイズがあるということ。そこでWestoneでは5つのサイズを用意し、素材もフォームとシリコンの2種類を作っている」と説明した。

クリス氏も続ける。「いろいろなメーカーがシリコンチップを作っているが、シリコンについては、できるだけ外耳を押さえつけないようにしたいと考えていた」。

「そんなある日、空港で食事をしていたとき、たまたまオレンジが出てきた。オレンジを輪切りにしたときのかたちからインスピレーションを受け、それを実際の製品に応用すると本当に上手くいった。それがスターチップで、いろいろな耳のサイズに適合する」。

スターチップについてクリス氏が図を書いて説明してくれた

W、UM、ESシリーズの音づくりの違いとは?

Westoneにはいくつかの製品ラインナップがある。そのことについて問われたカール氏は、「たしかにWestoneはユニバーサルを2ライン、カスタムフィットを1ライン持っている。ラインを複数持っている数少ないメーカーの一つだ」と応じた。

その上でカール氏は、それぞれのラインナップの違いについて「UMはライブステージ上でもリズムが取れるよう、低域のインパクトを重視している。Wシリーズはオーディオファイルを念頭に、もっと周波数特性をフラットに再現できるように設計している。カスタムのESシリーズはその中間だ」と説明。それぞれの周波数特性グラフをホワイトボードに書いてくれた。



今回が初来日というカートライト兄弟。初めての日本でいろいろなところを周遊し、電車にも乗った、日本の食べ物は美味しいなどと語り、すっかり日本が気に入った様子だった。またトークセッションの後にはポタフェス会場内を歩き回り、気になった製品を片っ端から試している姿が見られ、これも印象的だった。この好奇心の強さ、飽くなき探究心もWestoneの音づくりの根幹にあるのだろう。

関連リンク

新着クローズアップ

クローズアップ

アクセスランキング RANKING
1 ヤマダデンキ、「ブラックフライデー」セールを11/16より開始。ベスト電器、マツヤデンキでも開催
2 iPhone買い換え、手持ちモデルを手放す際に必ずやっておくべきこととは?
3 ケーブル接続の「バランス/アンバランス」ってつまり何?
4 「ハイエンドオーディオ&アクセサリーショウ」11月23日・24日開催。出展メーカーや連続試聴イベントの内容はコチラ!
5 <Inter BEE>ゼンハイザー、国内未発売製品を初お披露目/NHK、“自由に変形する”ディスプレイ/コルグ「Live Extreme」試聴デモ
6 THIEAUDIO「Origin」は低音好き垂涎!骨伝導搭載・クアッドハイブリッド構成のイヤホンを聴く
7 B&Wの人気シリーズ、トゥイーター・オン・トップ式ブックシェルフ3機種の魅力を探る
8 ビクター“nearphones”「HA-NP1T」速攻レビュー! イヤーカフ型ながら聴きイヤホンを女性ライターが使ってみた
9 MUSE HiFi、真空管搭載ポータブルDAC/AMP「M5 ULTRA」。ESS社と独自回路を共同開発
10 スピーカーの“原音再生”をデジタルフィルターで解決!テレビや車に搭載広がるEilex PRISMの秘密に迫る
11/15 10:43 更新

WEB