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公開日 2023/04/13 10:41
【連載】佐野正弘のITインサイト 第53回
携帯大手の価格攻勢に押されるMVNO、生き残りの鍵は
佐野正弘
物価上昇が家計に大きな影響を与えている昨今。それだけに、安価なモバイル通信サービスを提供するMVNOの存在感が高まっても良さそうなものだが、むしろMVNOは苦戦している状況にある。
MVNOのサービス利用が思うように進まない背景と、MVNO側がどのような策をもってそうした状況を打破しようとしているのか、調査会社のMMD研究所が4月6日にメディア向けに実施した「MVNO勉強会」の内容から確認してみたい。
この勉強会は今回で8回目の開催となるのだが、実は7回目から8回目の開催に至るまで5年を要している。同社によると、2018年の第7回開催時点でMVNOの認知が進み、当時は契約数も伸びていたことから、その役割を終えたとして開催していなかったそうだが、昨今の環境変化で再び開催するに至ったという。
その5年のうちに起きた変化は、1つに楽天モバイルが携帯電話事業へ参入したこと。そしてもう1つは、菅義偉前首相の政権下で携帯電話料金引き下げを迫られた携帯大手3社が、サブブランドやオンライン専用プランに力を注ぐなど、MVNOのお株を奪う低価格戦略を強化したことだ。一連の出来事により、かつては大きな差があった携帯電話会社とMVNOとの料金差が縮まり、MVNOが苦戦を強いられるようになったのである。
では現状、MVNOはどのような使い方をなされているのだろうか。同社のアンケート調査によると、メイン回線としての利用はやはり4社のサービスが9割を占め、MVNOをメイン回線として利用している人は1割に満たないとのこと。サブ回線としての利用はより多いというが、やはり携帯4社のサービスが圧倒的に強く、MVNOがそれに押されて減少傾向にある様子が見えてくる。
ただ一方で、消費者が低価格を求める傾向は強まっているという。実際同社の調査によると、MVNOだけでなく楽天モバイルや他3社のサブブランド、オンライン専用プランを加えたシェアは4割を超えているそうで、料金の高い大容量プランに注力する携帯3社のメインブランドのシェアは、相対的に6割を切る状況にまで低下しているとのことだ。
一連の結果を考慮するに、低価格サービスの利用は進んでいるものの、それがMVNOのシェア拡大には結びついておらず、携帯各社の低価格サービスに流れてしまっている様子がうかがえる。ただMVNO側の声を聞くに、そうした状況がMVNOにとって、必ずしも悪い方向に働いているわけではない様子でもある。
その理由は、ユーザーが他のプランへと乗り換えをすること自体が、MVNOへ移行する障壁を下げることにもつながってくるからだという。多くの人は携帯大手のサービスで、かつて2年、4年といった長期間の“縛り”を経験したこともあり、携帯電話の料金プランを乗り換えること自体をハードルに感じている。それが、同じ料金プランを長く使い続ける要因の1つとされているのだ。
実際総務省のデータを見ると、菅前政権の料金引き下げ以降に提供された新しい料金プランに乗り換えたユーザーは、2022年5月末時点で4,050万と、昨年時点ではあるが一般利用者向け携帯電話契約数の約27%に過ぎない状況にある。料金引き下げがなされてもなお、非常に多くの人が料金プランを変えていない現状を見て取ることができよう。
だが、2019年の電気通信事業法改正などによって、既に“縛り”は存在しておらず、番号ポータビリティに加え、いわゆる「キャリアメール」も同じアドレスを保有したまま移行できる仕組みが整ったことから、電話番号もメールアドレスも変える必要なくサービスを乗り換えることが可能だ。一度、何らかの形で乗り換えを経験すればそうした現状を知り、MVNOへ移行するハードルも大幅に下がると捉えているようだ。
とりわけMVNOにとって重要なのが、オンラインで契約することにユーザーが慣れてもらえることだという。大半のMVNOは、店舗を持たないのでオンラインで契約する必要があるのだが、そのことがオンラインでの契約に慣れていない人の乗り換えを妨げ、契約数を伸ばせない大きな要因の1つとされていた。
だが、携帯各社がコストパフォーマンスの高いオンライン専用プランを提供するようになり、そちらに乗り換えるユーザーが増えている。そちらでユーザーがオンラインで手続きすることを経験し、オンライン手続きへの不安が減ることが、MVNOに乗り換える障壁の解消にもつながると期待されているわけだ。
ただ、乗り換え障壁が減ったとしても、ユーザーに乗り換えてもらうためには、携帯大手のサービスと比べてMVNOを選んでもらう価値の提供が求められる。携帯各社は今や通信以外にも幅広いサービスを提供しており、サービスの総合力でもMVNOに優るだけに、MVNOには限られたリソースの中でいかに選ばれるための価値を作り上げていくかも求められている。
ではMVNO側は、一体どのような取り組みで価値を提供し、契約獲得につなげているのだろうか。勉強会に参加した3社の発表内容を見るに、価格だけによらない独自の価値を提供し続けることが重要と考えているようだ。
その1社となるオプテージの「mineo」は、コミュニティサイト「マイネ王」を2015年より提供するなど、ユーザーとのコミュニケーションに重点を置いており、マイネ王ユーザーの意見をサービスに取り入れる取り組みなどを進めてきたほか、2019年からはmineoの事業に関する情報を共有しながら一緒にサービス創出を進める「アンバサダー制度」を開始。現在では、新規契約のうちアンバサダーによる紹介が2割を超えるなど、契約獲得の大きな原動力にもなっているという。
また、イオンリテールが展開している「イオンモバイル」は、スーパーマーケット「イオン」の店頭で販売できる独自の強みを生かし、60代以上が3割を超えるなど独自の顧客層を獲得。そこで、スマートフォンの料金やアプリなどをメンテナンスする「スマホメンテナンス」を無料で提供するなど、安心感を高める取り組みを進めるほか、「WAON POINT」などイオンの各種サービスとの連携を強化することで、イオンの総合力を生かした利用拡大を進めているという。
そして、ソニーネットワークコミュニケーションズの「NUROモバイル」は、以前にも触れたが通信量40GBの「NEOプランW」を新たに投入。専用の帯域を設けて、混雑時も通信速度が落ちにくい仕組みを提供するなど、小容量だけでなく中容量・高品質の領域にも積極的に取り組むことで独自性を打ち出している。
携帯大手の低価格攻勢が強まった現在の状況下で、既に1,000社を超えているMVNOが生き残るのは非常に難しいということは想像に難くない。低価格だけで生き残るのはもはや困難なだけに、今後はMVNOならではの独自の価値作りが一層重要になってくるといえそうだ。
MVNOのサービス利用が思うように進まない背景と、MVNO側がどのような策をもってそうした状況を打破しようとしているのか、調査会社のMMD研究所が4月6日にメディア向けに実施した「MVNO勉強会」の内容から確認してみたい。
この勉強会は今回で8回目の開催となるのだが、実は7回目から8回目の開催に至るまで5年を要している。同社によると、2018年の第7回開催時点でMVNOの認知が進み、当時は契約数も伸びていたことから、その役割を終えたとして開催していなかったそうだが、昨今の環境変化で再び開催するに至ったという。
その5年のうちに起きた変化は、1つに楽天モバイルが携帯電話事業へ参入したこと。そしてもう1つは、菅義偉前首相の政権下で携帯電話料金引き下げを迫られた携帯大手3社が、サブブランドやオンライン専用プランに力を注ぐなど、MVNOのお株を奪う低価格戦略を強化したことだ。一連の出来事により、かつては大きな差があった携帯電話会社とMVNOとの料金差が縮まり、MVNOが苦戦を強いられるようになったのである。
■MVNO活用方法に関するアンケート調査を公開
では現状、MVNOはどのような使い方をなされているのだろうか。同社のアンケート調査によると、メイン回線としての利用はやはり4社のサービスが9割を占め、MVNOをメイン回線として利用している人は1割に満たないとのこと。サブ回線としての利用はより多いというが、やはり携帯4社のサービスが圧倒的に強く、MVNOがそれに押されて減少傾向にある様子が見えてくる。
ただ一方で、消費者が低価格を求める傾向は強まっているという。実際同社の調査によると、MVNOだけでなく楽天モバイルや他3社のサブブランド、オンライン専用プランを加えたシェアは4割を超えているそうで、料金の高い大容量プランに注力する携帯3社のメインブランドのシェアは、相対的に6割を切る状況にまで低下しているとのことだ。
一連の結果を考慮するに、低価格サービスの利用は進んでいるものの、それがMVNOのシェア拡大には結びついておらず、携帯各社の低価格サービスに流れてしまっている様子がうかがえる。ただMVNO側の声を聞くに、そうした状況がMVNOにとって、必ずしも悪い方向に働いているわけではない様子でもある。
その理由は、ユーザーが他のプランへと乗り換えをすること自体が、MVNOへ移行する障壁を下げることにもつながってくるからだという。多くの人は携帯大手のサービスで、かつて2年、4年といった長期間の“縛り”を経験したこともあり、携帯電話の料金プランを乗り換えること自体をハードルに感じている。それが、同じ料金プランを長く使い続ける要因の1つとされているのだ。
実際総務省のデータを見ると、菅前政権の料金引き下げ以降に提供された新しい料金プランに乗り換えたユーザーは、2022年5月末時点で4,050万と、昨年時点ではあるが一般利用者向け携帯電話契約数の約27%に過ぎない状況にある。料金引き下げがなされてもなお、非常に多くの人が料金プランを変えていない現状を見て取ることができよう。
だが、2019年の電気通信事業法改正などによって、既に“縛り”は存在しておらず、番号ポータビリティに加え、いわゆる「キャリアメール」も同じアドレスを保有したまま移行できる仕組みが整ったことから、電話番号もメールアドレスも変える必要なくサービスを乗り換えることが可能だ。一度、何らかの形で乗り換えを経験すればそうした現状を知り、MVNOへ移行するハードルも大幅に下がると捉えているようだ。
とりわけMVNOにとって重要なのが、オンラインで契約することにユーザーが慣れてもらえることだという。大半のMVNOは、店舗を持たないのでオンラインで契約する必要があるのだが、そのことがオンラインでの契約に慣れていない人の乗り換えを妨げ、契約数を伸ばせない大きな要因の1つとされていた。
だが、携帯各社がコストパフォーマンスの高いオンライン専用プランを提供するようになり、そちらに乗り換えるユーザーが増えている。そちらでユーザーがオンラインで手続きすることを経験し、オンライン手続きへの不安が減ることが、MVNOに乗り換える障壁の解消にもつながると期待されているわけだ。
ただ、乗り換え障壁が減ったとしても、ユーザーに乗り換えてもらうためには、携帯大手のサービスと比べてMVNOを選んでもらう価値の提供が求められる。携帯各社は今や通信以外にも幅広いサービスを提供しており、サービスの総合力でもMVNOに優るだけに、MVNOには限られたリソースの中でいかに選ばれるための価値を作り上げていくかも求められている。
■契約獲得にむけたMVNO側の取り組み
ではMVNO側は、一体どのような取り組みで価値を提供し、契約獲得につなげているのだろうか。勉強会に参加した3社の発表内容を見るに、価格だけによらない独自の価値を提供し続けることが重要と考えているようだ。
その1社となるオプテージの「mineo」は、コミュニティサイト「マイネ王」を2015年より提供するなど、ユーザーとのコミュニケーションに重点を置いており、マイネ王ユーザーの意見をサービスに取り入れる取り組みなどを進めてきたほか、2019年からはmineoの事業に関する情報を共有しながら一緒にサービス創出を進める「アンバサダー制度」を開始。現在では、新規契約のうちアンバサダーによる紹介が2割を超えるなど、契約獲得の大きな原動力にもなっているという。
また、イオンリテールが展開している「イオンモバイル」は、スーパーマーケット「イオン」の店頭で販売できる独自の強みを生かし、60代以上が3割を超えるなど独自の顧客層を獲得。そこで、スマートフォンの料金やアプリなどをメンテナンスする「スマホメンテナンス」を無料で提供するなど、安心感を高める取り組みを進めるほか、「WAON POINT」などイオンの各種サービスとの連携を強化することで、イオンの総合力を生かした利用拡大を進めているという。
そして、ソニーネットワークコミュニケーションズの「NUROモバイル」は、以前にも触れたが通信量40GBの「NEOプランW」を新たに投入。専用の帯域を設けて、混雑時も通信速度が落ちにくい仕組みを提供するなど、小容量だけでなく中容量・高品質の領域にも積極的に取り組むことで独自性を打ち出している。
携帯大手の低価格攻勢が強まった現在の状況下で、既に1,000社を超えているMVNOが生き残るのは非常に難しいということは想像に難くない。低価格だけで生き残るのはもはや困難なだけに、今後はMVNOならではの独自の価値作りが一層重要になってくるといえそうだ。