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公開日 2024/01/09 14:27
【連載】佐野正弘のITインサイト 第90回

能登半島地震で関心高まる通信インフラの災害対策、NTNへの期待と課題

佐野正弘
2024年の年明けとなった1月1日に、石川県を中心に発生した能登半島地震。すでに多くの報道がなされている通り、震度7の非常に大規模で強い地震と、それに伴う津波によって甚大な被害が生じており、執筆時点でも全貌が明らかになっていない状況にある。年明けからこのような災害が起きたことは非常に悲しいことであるし、いち早く被災地の復旧・復興が進むことを心から願ってやまない。

■災害発生時の携帯電話ネットワークにおける影響



そして災害発生時、非常に重要なライフラインとなるのが通信である。とりわけ、多くの人が利用している携帯電話のネットワークは、非常時に連絡を取り合う手段としてだけでなく、被災状況や避難に関する情報を把握したりする上でも欠かせない存在となっている。

だが、ネットワークを構成する設備は地上に設置されていることから、地震などの災害で被災し、停止してしまうことも多い。携帯4社が公開しているエリアマップを見るに、今回の能登半島地震でも通信ができないエリアが広範囲にわたっている様子がうかがえる。

NTTドコモが公開している、能登半島地震の影響による復旧エリアマップより。画像はLTEのエリアマップで、サービスを中断している場所が灰色で示されているが、KDDIやソフトバンクも同様のエリアでサービスが中断しており大きな違いはないように見える

「ネットワークが止まってしまうのは設備が災害で壊れたため」、と思っている方も多いだろう。たしかに能登半島地震でも、ある携帯電話会社の基地局が設置されていたと思われるビルが倒壊した様子などが映し出されていることから、設備破壊で止まってしまうケースも全くないわけではない。

だが、通信が止まる最大の要因となるのは、停電である。携帯電話基地局などの設備は電気がないと動かせないので、停電になれば必然的にネットワークも止まってしまうわけだ。とりわけ大規模災害時は、停電が広範囲で生じることが多いので、それに合わせて広範囲で通信が利用できなくなってしまうのである。

もちろん各社ともに、主要な設備には非常時の電力を用意するなどして、停電時の “備え” は進めている。しかしながら、その持続時間には限界があり、停電が長期化すれば枯渇してしまう。停電の長期化が、ネットワークの復旧を妨げる最大の要因であることは間違いない。

写真はNTTドコモの移動電源車。通信各社は災害時に電力を供給しネットワークを継続するためのさまざまな設備を保有している。

西日本電信電話(NTT西日本)が、先日1月4日に公表した報道発表資料を例に挙げると、非常用電力の枯渇によってすでに石川県輪島市と珠洲市の一部では、同社の通信サービスが停止して利用できなくなっているほか、輪島市の一部では1月4日 17時、輪島市、鳳珠郡穴水町、鳳珠郡能登町の一部では1月5日 1時までに非常用電源が枯渇し、通信サービスが利用できなくなるとしている。停電の広域化、長期化が通信にも大きな影響を与えている様子が理解できるだろう。

NTT西日本の報道発表資料より。同社の発表によると、2024年1月4日から1月5日にかけて非常用電力が枯渇すると、通信サービスを提供できない地域が今後広がる可能性があるとしている

より長期間利用できる非常用電源を用意できれば、問題は解決できるかもしれないが、コストや設置場所の問題からそれには限界があり、停電による通信の停止は避けられないものともいえる。それゆえ、被災地での通信を途絶させないためには、地上に依存しない手法の併用が必要とされている。

そこで注目されるのが、ここ最近通信各社が力を入れている「NTN(Non-Terrestrial Network/非地上系ネットワーク)」である。なかでも衛星通信は、これまでにも災害時の一時的な通信手段を確保する手段として多く用いられてきたが、より性能が高い通信を実現できる低軌道衛星の台頭によって、より身近な場所での活用も進みつつある。

KDDIがSpace Exploration Technologies(スペースX)と提携し、同社の衛星群「Starlink」を活用した高速通信サービスを使って、離島や山間部などでのエリア構築を進めていることがその代表例といえるだろう。また、アップルは米国など一部の国で、対応するiPhoneを使い衛星と直接通信して、緊急通報のメッセージを送信できる機能を提供している。

アップルは「iPhone 14」「iPhone 15」シリーズを衛星通信に対応させており、緊急通報のメッセージを送ることが可能だが、日本では利用することができない

衛星より高度が低い、成層圏を飛行して地上の携帯電話と直接通信する「HAPS(High Altitude Platform Station/成層圏通信プラットフォーム)」に関しても、2023年末にいくつか動きがあった。とりわけ大きいのが、国際電気通信連合の無線通信部門(ITU-R)の2023年世界無線通信会議(WRC-23)で、ソフトバンクらが主導しHAPS用の新しい周波数帯の追加が決定されたこと。これによって、HAPSで利用できる周波数帯が広がり、より多くの地域で導入に向けた検討が進められるようになったという。

ただHAPSは、まだ技術が確立されていない部分が多く、実用化にはもう少し時間がかかる様子だ。すでに実用化がなされている衛星通信に関しても、現状のStarlinkを利用するには、据え置き型のアンテナなどを設置して電源を確保する必要があるし、iPhoneでの衛星通信は、現在のところ日本での提供開始の目途は立っていない。

しかしながら、実現に向けて着実に動きが進んでいることもたしかで、実際KDDIは1月3日に、スペースXが衛星とスマートフォンとで直接通信可能にするStarlinkの最新鋭衛星6機が、初めて打ち上げられたことを明らかにしている。

KDDIのプレスリリースより。スペースXが新しい衛星の打ち上げに成功したことで、KDDIが2024年内の提供を予定している、衛星とスマートフォンとの直接通信サービスの実現に大きく前進したこととなる

KDDIは、2023年8月にスペースXと新たな提携を締結し、スペースXの衛星と携帯電話を直接通信できる仕組みを2024年内に実現するとしていた。今回の衛星はその直接通信に対応した新しいものであり、その打ち上げに成功したことは、サービス実現に大きく近づいたことを意味している。今後の展開に期待したいところだ。

とはいえ衛星通信は、設備や距離などの影響から通信容量や速度に限界があり、災害時の緊急的な用途には大いに役立つが、多くの人が動画などの大容量コンテンツを利用するような用途には向いていないので、過度な期待は禁物だ。NTNは、災害対策として有用な手段ではあるものの、地上での災害対策も引き続き重要であることは間違いないだろう。

能登半島地震の影響は、執筆時点でまだ収束する兆しはない様子ではあるが、通信各社が全力を注いでいち早くネットワークを復旧してくれることに期待したい。それと同時に、今回の経験を糧として、さらなる災害対策の強化が図られることにも注目したいところだ。

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