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公開日 2024/02/29 10:50
【連載】佐野正弘のITインサイト 第97回
「MWC Barcelona 2024」に見る、スマホ時代の終わりと日本企業復活の可能性
佐野正弘
2月26日から、携帯電話業界で最大の見本市イベント「MWC Barcelona 2024」が、スペイン・バルセロナで開催されている。業界の今後を占うイベントということもあり、筆者は今年も現地を訪れて取材をしている。
今回のMWC Barcelonaを見ていると、いくつか大きなトレンドが起きていることが見えてくる。その1つは、ここ最近大きく盛り上がっている「生成AI」を始めとした、いわゆるAI技術を活用しようという動きが大きく拡大していること。そのこと自体はある意味、ITに関する他の業界と大きく変わらないだろう。
筆者がより大きな変化として注目したのは、スマートフォンに関する展示の減少が著しいことだ。スマートフォンはここ10年来、携帯電話業界をけん引する大きな存在となっており、MWC Barcelonaにおいてもスマートフォンメーカーや、スマートフォンに関連する展示が大きな割合を占める時期が長く続いていた。
だが、2024年のMWC Barcelona会場では、スマートフォンメーカーの展示が前年以上に減少し、その存在感が薄くなっている印象を受けている。コロナ禍以降、MWC Barcelonaに大きなブースを構えてアピールを強めてきた中国のOPPO(オッポ)が、スマートフォン主体の出展を取りやめて規模を縮小していることが、その退潮を示す大きな要因といえるだろう。
もちろん中国のオナー(HONOR)や、アフリカなど新興国主体にシェアを伸ばしている「Tecno」ブランドの中国トランシオンなど、新興のメーカーが展示に力を入れ、勢いを見せていることは確かだ。また、中国レノボ傘下の米モトローラ・モビリティが、腕に巻き付けられるスマートフォンのコンセプトモデルを出展するなど、個々のプロダクトで目を見張るものはある。
だが、中国Xiaomi(シャオミ)の展示はスマートフォンよりも、同社が今後力を入れるとされるEVが目立つ印象だ。また、最大手の韓国サムスン電子のブースも、展示のアピールポイントがスマートフォンのAI機能となっているほか、注目を集めたのも開発中の指輪型デバイス「Galaxy Ring」であった。そうした様子を見ると、やはりスマートフォンの存在感が大きく低下している印象は否めない。
その一方で、強い期待をもって挑んでいるのが日本の携帯電話会社である。実際、今回のMWC Barcelonaには日本の携帯電話会社や、それに関連する展示が増えており、これまで出展してきたNTTドコモや、楽天モバイルを有する楽天グループだけでなく、新たにKDDIが出展を実施したことがその傾向を象徴している。
これまでMWC Barcelonaに出展したことがなかったKDDIは、今年初めてブースを出展。同社が活用に力を入れているスペースXの衛星通信「Starlink」に関するイベントを実施するほか、メタバース関連サービス「αU」に生成AIを取り入れたソリューション、「povo 2.0」などKDDIが持つ通信サービスなどのアセットを、APIを通じて外部に提供する取り組みなどを披露している。
KDDIが出展した狙いの1つは、海外での事業拡大であることに間違いない。ただ同社の展示内容を見るに、通信サービスを直接海外で提供するというよりも、通信を活用したサービスやソリューションを海外に展開するべくアピールを進めているようだ。
だが、同社の出展にはもう1つ理由があり、それは携帯電話業界における日本のプレゼンスを高めるためだという。そもそも、KDDIの出展に大きく影響しているのは、実は競合でもあるNTTドコモ代表取締役社長の井伊基之氏なのだという。
KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏が、2023年のMWC Barcelonaに視察に訪れた際に井伊氏と会い、日本企業のプレゼンスを上げるためぜひ出展して欲しいとの声がけがなされたとのこと。それを受けるかたちで高橋氏が出展を決断し、今回のブース出展へと至ったのだそうだ。
筆者がMWC Barcelonaの取材を始めてから10年くらい経つのだが、実はこの10年間はスマートフォンが大きく盛り上がった時期であると同時に、スマートフォンの影響によって携帯電話業界における日本企業のプレゼンスが大きく下がった時期でもある。かつてMWC Barcelonaに出展していた日本企業のいくつかは撤退や縮小を余儀なくされている一方、中国や韓国などの企業のプレゼンスは大きく高まっており、毎年大規模なブース展開で注目を集めている。
長きにわたってMWC Barcelonaに出展してきたNTTドコモは、そうした状況を憂い、KDDIに声をかけたものと考えられる。そうしたことから、今年のMWC Barcelonaでは井伊氏と高橋氏が並んで囲み取材に応じたり、相互送客を実施したりするなど、いくつかの面で協力を図っている様子だ。国内ではNTT法を巡り、NTTドコモをはじめとしたNTTグループと、KDDIら競合各社が激しく対立している状況にあるが、日本企業が世界での事業拡大を図る上では、そのようなことを言っていられる状況にはない、ということなのだろう。
ただ、NTTドコモとKDDIが良好な関係を見せる一方で、それ以外の携帯電話会社との連携が図られていないのは気になる。MWC Barcelonaには先にも触れた通り楽天グループも出展しており、同社のブースでは代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏も参加し、楽天モバイル傘下の楽天シンフォニーを展開。楽天モバイルの仮想化・オープン化の技術を取り入れた、ネットワークプラットフォームの海外販売のセールスに力を入れている。
またソフトバンクも、ブース出展こそしていないが、今回のMWC Barcelonaに合わせて基地局などの無線アクセス機器にAI技術を取り入れ、活用することでネットワークの効率化や新たなサービスの創出に結びつける「AI-RANアライアンス」の設立を発表。同アライアンスの参画企業の1つであり、ソフトバンクと関係が深い英ARMのブースでAI-RANのデモを実施しているほか、ソフトバンクの幹部も会場に姿を見せている。
だが、KDDIはこれら2社と特段連携した施策を実施しているわけではなく、とりわけここ最近毎年ブース出展している楽天グループとの連携が見られなかったのは気になるところだ。ただ高橋氏は、三木谷氏と現地で話をしたことを明らかにするなど、各社で何らかのコミュニケーションが図られていることは確かなようだ。
ワールドワイドでの携帯電話業界における日本企業のプレゼンスは、現状限りなくゼロに等しい状況にあると筆者は常々感じている。そのプレゼンスを大きく引き下げたスマートフォンの時代が終わろうとしている今、日本企業が協力して再び世界的なプレゼンスを上げることができるのか。今後の取り組みが大きく問われることは間違いないだろう。
■スマートフォン展示が減少した「MWC Barcelona 2024」
今回のMWC Barcelonaを見ていると、いくつか大きなトレンドが起きていることが見えてくる。その1つは、ここ最近大きく盛り上がっている「生成AI」を始めとした、いわゆるAI技術を活用しようという動きが大きく拡大していること。そのこと自体はある意味、ITに関する他の業界と大きく変わらないだろう。
筆者がより大きな変化として注目したのは、スマートフォンに関する展示の減少が著しいことだ。スマートフォンはここ10年来、携帯電話業界をけん引する大きな存在となっており、MWC Barcelonaにおいてもスマートフォンメーカーや、スマートフォンに関連する展示が大きな割合を占める時期が長く続いていた。
だが、2024年のMWC Barcelona会場では、スマートフォンメーカーの展示が前年以上に減少し、その存在感が薄くなっている印象を受けている。コロナ禍以降、MWC Barcelonaに大きなブースを構えてアピールを強めてきた中国のOPPO(オッポ)が、スマートフォン主体の出展を取りやめて規模を縮小していることが、その退潮を示す大きな要因といえるだろう。
もちろん中国のオナー(HONOR)や、アフリカなど新興国主体にシェアを伸ばしている「Tecno」ブランドの中国トランシオンなど、新興のメーカーが展示に力を入れ、勢いを見せていることは確かだ。また、中国レノボ傘下の米モトローラ・モビリティが、腕に巻き付けられるスマートフォンのコンセプトモデルを出展するなど、個々のプロダクトで目を見張るものはある。
だが、中国Xiaomi(シャオミ)の展示はスマートフォンよりも、同社が今後力を入れるとされるEVが目立つ印象だ。また、最大手の韓国サムスン電子のブースも、展示のアピールポイントがスマートフォンのAI機能となっているほか、注目を集めたのも開発中の指輪型デバイス「Galaxy Ring」であった。そうした様子を見ると、やはりスマートフォンの存在感が大きく低下している印象は否めない。
■KDDIが初出展、海外での事業拡大を見据える国内携帯電話会社
その一方で、強い期待をもって挑んでいるのが日本の携帯電話会社である。実際、今回のMWC Barcelonaには日本の携帯電話会社や、それに関連する展示が増えており、これまで出展してきたNTTドコモや、楽天モバイルを有する楽天グループだけでなく、新たにKDDIが出展を実施したことがその傾向を象徴している。
これまでMWC Barcelonaに出展したことがなかったKDDIは、今年初めてブースを出展。同社が活用に力を入れているスペースXの衛星通信「Starlink」に関するイベントを実施するほか、メタバース関連サービス「αU」に生成AIを取り入れたソリューション、「povo 2.0」などKDDIが持つ通信サービスなどのアセットを、APIを通じて外部に提供する取り組みなどを披露している。
KDDIが出展した狙いの1つは、海外での事業拡大であることに間違いない。ただ同社の展示内容を見るに、通信サービスを直接海外で提供するというよりも、通信を活用したサービスやソリューションを海外に展開するべくアピールを進めているようだ。
だが、同社の出展にはもう1つ理由があり、それは携帯電話業界における日本のプレゼンスを高めるためだという。そもそも、KDDIの出展に大きく影響しているのは、実は競合でもあるNTTドコモ代表取締役社長の井伊基之氏なのだという。
KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏が、2023年のMWC Barcelonaに視察に訪れた際に井伊氏と会い、日本企業のプレゼンスを上げるためぜひ出展して欲しいとの声がけがなされたとのこと。それを受けるかたちで高橋氏が出展を決断し、今回のブース出展へと至ったのだそうだ。
筆者がMWC Barcelonaの取材を始めてから10年くらい経つのだが、実はこの10年間はスマートフォンが大きく盛り上がった時期であると同時に、スマートフォンの影響によって携帯電話業界における日本企業のプレゼンスが大きく下がった時期でもある。かつてMWC Barcelonaに出展していた日本企業のいくつかは撤退や縮小を余儀なくされている一方、中国や韓国などの企業のプレゼンスは大きく高まっており、毎年大規模なブース展開で注目を集めている。
長きにわたってMWC Barcelonaに出展してきたNTTドコモは、そうした状況を憂い、KDDIに声をかけたものと考えられる。そうしたことから、今年のMWC Barcelonaでは井伊氏と高橋氏が並んで囲み取材に応じたり、相互送客を実施したりするなど、いくつかの面で協力を図っている様子だ。国内ではNTT法を巡り、NTTドコモをはじめとしたNTTグループと、KDDIら競合各社が激しく対立している状況にあるが、日本企業が世界での事業拡大を図る上では、そのようなことを言っていられる状況にはない、ということなのだろう。
ただ、NTTドコモとKDDIが良好な関係を見せる一方で、それ以外の携帯電話会社との連携が図られていないのは気になる。MWC Barcelonaには先にも触れた通り楽天グループも出展しており、同社のブースでは代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏も参加し、楽天モバイル傘下の楽天シンフォニーを展開。楽天モバイルの仮想化・オープン化の技術を取り入れた、ネットワークプラットフォームの海外販売のセールスに力を入れている。
またソフトバンクも、ブース出展こそしていないが、今回のMWC Barcelonaに合わせて基地局などの無線アクセス機器にAI技術を取り入れ、活用することでネットワークの効率化や新たなサービスの創出に結びつける「AI-RANアライアンス」の設立を発表。同アライアンスの参画企業の1つであり、ソフトバンクと関係が深い英ARMのブースでAI-RANのデモを実施しているほか、ソフトバンクの幹部も会場に姿を見せている。
だが、KDDIはこれら2社と特段連携した施策を実施しているわけではなく、とりわけここ最近毎年ブース出展している楽天グループとの連携が見られなかったのは気になるところだ。ただ高橋氏は、三木谷氏と現地で話をしたことを明らかにするなど、各社で何らかのコミュニケーションが図られていることは確かなようだ。
ワールドワイドでの携帯電話業界における日本企業のプレゼンスは、現状限りなくゼロに等しい状況にあると筆者は常々感じている。そのプレゼンスを大きく引き下げたスマートフォンの時代が終わろうとしている今、日本企業が協力して再び世界的なプレゼンスを上げることができるのか。今後の取り組みが大きく問われることは間違いないだろう。