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公開日 2023/10/25 11:01
Snapdragon Summit 2023レポート
生成AI強化の「Snapdragon 8 Gen 3」発表。超低消費電力Wi-Fiオーディオ技術にも注目
山本 敦
米クアルコムが、フラグシップスマートフォン向けの次世代SoC「Snapdragon 8 Gen 3」を発表した。次期SoCではジェネレーティブAI(生成AI)に関連するパフォーマンスの向上を積極的に図った。最新のSoCを搭載するAndroidスマホのトップバッターは「Xiaomi 14 Series」。10月末にシャオミが開催するローンチイベントで正式発表される。
クアルコムは今年もハワイ・マウイ島に世界各国から400人以上のジャーナリストと、25人のインフルエンサー「Snapdragon Insiders」を集めて、Snapdragonシリーズの発表会イベント「Snapdragon Summit 2023」を開催した。
初日の基調講演ではモバイル、PC、ワイヤレスオーディオ向けの次世代チップセットが発表された。PC向けのSoCは「Snapdragon Elite X」シリーズとして、やはり生成AIに関連する機能を強化して新しいスタートを切る。クアルコムが自社で開発したCPU「Oryon(オライオン)」を搭載する初のチップセットだ。
ワイヤレスオーディオ向けには、新たなフラグシップラインの「Qualcomm S7 Pro/S7 Gen 1 Sound Platform」がデビューする。ANCとサウンド面の強化のほか、やはりAI処理に関連するパフォーマンスが飛躍を遂げた。さらに上位の「S7 Pro」チップについては超低消費電力のWi-Fiオーディオ伝送技術を組み込み、Bluetoothと併用しながら最大192kHz/24bitのハイレゾロスレス伝送、低遅延とロバスト性能を実現する「Qualcomm Expanded Personal Area Network Technology(XPAN)」にも注目したい。
ほかにもSnapdragonのチップセットを搭載するデバイスの連携を高めるプラットフォーム技術の「Snapdragon Seamless」などが発表された。
本稿では初日の基調講演で発表された「Snapdragon 8 Gen 3」の注目したいポイントを紹介する。ワイヤレスオーディオ向けSoCのS7シリーズについては、引き続きイベントを取材してわかったことをレポートしたい。
発表会の壇上に立ったクアルコムのアレックス・カトゥージアン氏は、新しいSnapdragon 8 Gen 3について「シリーズで初めて生成AIへの活用を念頭に置いて設計されたSoC」であるとして特に強調した。Gen 2と同じ4nmプロセスで製造されるSoCだが、クアルコムが現在NPU(Neural Processing Unit)と呼ぶDSP「Hexagon」を軸とする第9世代のAIエンジンをCPU、GPUとともに強化した。合わせて「Qualcomm AI Engine」が生成AIのほか、様々な機械学習処理の中核を担う。
Android OSを搭載するフラグシップ級スマホが、最先端のテキスト/画像/音声などのデータを活かした生成AIによるアプリケーションを実装できるように、複数種類のデータを組み合わせながら処理する「マルチモーダルAIモデル」への対応を強化している。エッジ(スマホなどのデバイス)だけで100億パラメータ規模のLLM(大規模言語モデル)が処理できるパフォーマンスを備えることから、AI関連の機能やサービスをインターネットを介してクラウドAIに接続して処理する必要がなくなる。AI関連の処理の一部について高速化と精度向上が実現され、様々なアプリケーションやサービスがよりセキュアに使えるようになることが大きなメリットだ。
AI処理ブロックの「Qualcomm Sensing Hub」はパフォーマンスが約3.5倍向上した。AIエンジンと連携しながら、音声アシスタントのような入力処理を待ち受け状態から素速く対応したり、さらに待機時に消費する電力を抑える大事な役割を果たす。NPUの消費電力効率は前世代のSoCである「Gen 2」と比べて約40%高くなった。
今後、Snapdragon 8 Gen 3を搭載して発売されるAndroidスマホは、カメラの画像処理に関連する機能がまた一段と洗練されそうだ。
SoCを構成する画像信号処理プロセッサー「Spectra」は機械学習処理に対応するCognitive ISPとして進化している。基調講演ではSoCを活用することにより実現されるAI画像処理の機能が一部紹介された。
「Photo Expansion」は生成AIを使って静止画を“ズームアウト”して、元画像の周辺に自然な画像を生成拡張する機能だ。
生成AIにより作られた画像データの不正使用を防ぐ仕組みも導入される。元になる技術はAdobe(アドビ)が音頭を取って2019年に設立した団体「コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)」が、デジタルコンテンツの透明性を担保するための技術規格として立ち上げた「C2PA」。こちらをベースに、アメリカのスタートアップであるTruepic(トゥルーピック)が開発した。
Snapdragon 8 Gen 3を搭載するスマホが画像データを記録すると、C2PA規格に準拠した来歴記録機能をメタ情報として付与する。アドビの画像編集アプリケーション「Photoshop」などで画像データを開き、メタ情報を確認することで画像がAIにより加工されたものであることが判別できる仕組みだ。スマホ向けのSoCに、C2PA規格に準拠する来歴記録の機能が載る機会は今回が初めてになる。
ビデオ撮影時には米Arcsoftの画像加工機能である「Object Eraser(オブジェクトイレーサー)」機能がかけられる。その名の通り、動画に写り込んでしまった不要な被写体を後処理により消す機能だ。
ほかにも真っ暗な場所で30fpsの明るく色鮮やかなフルカラー動画が残せる「Night Vision video capture(ナイトビジョンビデオキャプチャー)」、被写体をリアルタイムで認識して、人の肌や衣服、背景など異なるオブジェクトに最適なフィルタリングをかける「Semantic Segmentation(セマンティックセグメンテーション)」の12レイヤー認識に対応する強化版、フロントとリアの両方の画像で同時に撮影した動画をPinP表示にして記録する「Vloggers View」が、画像処理に関わるGen 3の注目機能だ。
その他、静止画記録はドルビーラボラトリーズによる新しいJPEG互換のフォーマットである「Dolby HDR Photo Capture」を初めてサポートする。
SoCを構成するCPUのKyroはGen 2と比べてパフォーマンスコアが約30%、効率コアが約20%の性能アップを達成した。なお2024年に発表する次世代のSoCへの搭載に向けて、独自CPU「Oryon」のモバイル版を開発中であることも基調講演で発表された。
Gen 3のAdreno GPUは、Gen 2比でパフォーマンスと省電力性能がそれぞれに約25%向上している。レイトレーシングを高速化し、約25%の省電力化を果たした。その効果はスムーズなゲーミング体験を引き出すことにもつながる。
Snapdragon 8 Gen 3の通信性能について、基調講演では大きな発表はなかった。モデムのICチップには5G-Advancedに対応する「Snapdragon X75 5G Modem-RF System」が一体のプラットフォームとして組み込まれる。5G通信以外のWi-Fi、Bluetoothによる無線通信を統合した14nmのサブシステム「Qualcomm FastConnect 7800」はGen 2から引き継ぐ。
Wi-Fiは次世代規格のWi-Fi 7をサポート。SoCとして、Qualcomm XPANの超低消費電力Wi-Fiオーディオ伝送技術をサポートするようだが、ハイレゾ伝送は最高の周波数帯域が192kHzではなく96kHzまでの対応からスタートする。ワイヤレスオーディオのS7 Proのチップについて、Qualcomm XPANによりWi-Fiで高音質・低遅延伝送を実現するモバイルのSnapdragonシリーズがどの世代のSoCまでカバーするのかなど、追加取材の成果は追ってレポートする。
■AIを強化したモバイル・PC・ワイヤレスオーディオのSoCを発表
クアルコムは今年もハワイ・マウイ島に世界各国から400人以上のジャーナリストと、25人のインフルエンサー「Snapdragon Insiders」を集めて、Snapdragonシリーズの発表会イベント「Snapdragon Summit 2023」を開催した。
初日の基調講演ではモバイル、PC、ワイヤレスオーディオ向けの次世代チップセットが発表された。PC向けのSoCは「Snapdragon Elite X」シリーズとして、やはり生成AIに関連する機能を強化して新しいスタートを切る。クアルコムが自社で開発したCPU「Oryon(オライオン)」を搭載する初のチップセットだ。
ワイヤレスオーディオ向けには、新たなフラグシップラインの「Qualcomm S7 Pro/S7 Gen 1 Sound Platform」がデビューする。ANCとサウンド面の強化のほか、やはりAI処理に関連するパフォーマンスが飛躍を遂げた。さらに上位の「S7 Pro」チップについては超低消費電力のWi-Fiオーディオ伝送技術を組み込み、Bluetoothと併用しながら最大192kHz/24bitのハイレゾロスレス伝送、低遅延とロバスト性能を実現する「Qualcomm Expanded Personal Area Network Technology(XPAN)」にも注目したい。
ほかにもSnapdragonのチップセットを搭載するデバイスの連携を高めるプラットフォーム技術の「Snapdragon Seamless」などが発表された。
本稿では初日の基調講演で発表された「Snapdragon 8 Gen 3」の注目したいポイントを紹介する。ワイヤレスオーディオ向けSoCのS7シリーズについては、引き続きイベントを取材してわかったことをレポートしたい。
■Snapdragon 8 Gen 3は「生成AI対応」を徹底強化
発表会の壇上に立ったクアルコムのアレックス・カトゥージアン氏は、新しいSnapdragon 8 Gen 3について「シリーズで初めて生成AIへの活用を念頭に置いて設計されたSoC」であるとして特に強調した。Gen 2と同じ4nmプロセスで製造されるSoCだが、クアルコムが現在NPU(Neural Processing Unit)と呼ぶDSP「Hexagon」を軸とする第9世代のAIエンジンをCPU、GPUとともに強化した。合わせて「Qualcomm AI Engine」が生成AIのほか、様々な機械学習処理の中核を担う。
Android OSを搭載するフラグシップ級スマホが、最先端のテキスト/画像/音声などのデータを活かした生成AIによるアプリケーションを実装できるように、複数種類のデータを組み合わせながら処理する「マルチモーダルAIモデル」への対応を強化している。エッジ(スマホなどのデバイス)だけで100億パラメータ規模のLLM(大規模言語モデル)が処理できるパフォーマンスを備えることから、AI関連の機能やサービスをインターネットを介してクラウドAIに接続して処理する必要がなくなる。AI関連の処理の一部について高速化と精度向上が実現され、様々なアプリケーションやサービスがよりセキュアに使えるようになることが大きなメリットだ。
AI処理ブロックの「Qualcomm Sensing Hub」はパフォーマンスが約3.5倍向上した。AIエンジンと連携しながら、音声アシスタントのような入力処理を待ち受け状態から素速く対応したり、さらに待機時に消費する電力を抑える大事な役割を果たす。NPUの消費電力効率は前世代のSoCである「Gen 2」と比べて約40%高くなった。
■カメラにも生成AIによる画像処理機能が拡大
今後、Snapdragon 8 Gen 3を搭載して発売されるAndroidスマホは、カメラの画像処理に関連する機能がまた一段と洗練されそうだ。
SoCを構成する画像信号処理プロセッサー「Spectra」は機械学習処理に対応するCognitive ISPとして進化している。基調講演ではSoCを活用することにより実現されるAI画像処理の機能が一部紹介された。
「Photo Expansion」は生成AIを使って静止画を“ズームアウト”して、元画像の周辺に自然な画像を生成拡張する機能だ。
生成AIにより作られた画像データの不正使用を防ぐ仕組みも導入される。元になる技術はAdobe(アドビ)が音頭を取って2019年に設立した団体「コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)」が、デジタルコンテンツの透明性を担保するための技術規格として立ち上げた「C2PA」。こちらをベースに、アメリカのスタートアップであるTruepic(トゥルーピック)が開発した。
Snapdragon 8 Gen 3を搭載するスマホが画像データを記録すると、C2PA規格に準拠した来歴記録機能をメタ情報として付与する。アドビの画像編集アプリケーション「Photoshop」などで画像データを開き、メタ情報を確認することで画像がAIにより加工されたものであることが判別できる仕組みだ。スマホ向けのSoCに、C2PA規格に準拠する来歴記録の機能が載る機会は今回が初めてになる。
ビデオ撮影時には米Arcsoftの画像加工機能である「Object Eraser(オブジェクトイレーサー)」機能がかけられる。その名の通り、動画に写り込んでしまった不要な被写体を後処理により消す機能だ。
ほかにも真っ暗な場所で30fpsの明るく色鮮やかなフルカラー動画が残せる「Night Vision video capture(ナイトビジョンビデオキャプチャー)」、被写体をリアルタイムで認識して、人の肌や衣服、背景など異なるオブジェクトに最適なフィルタリングをかける「Semantic Segmentation(セマンティックセグメンテーション)」の12レイヤー認識に対応する強化版、フロントとリアの両方の画像で同時に撮影した動画をPinP表示にして記録する「Vloggers View」が、画像処理に関わるGen 3の注目機能だ。
その他、静止画記録はドルビーラボラトリーズによる新しいJPEG互換のフォーマットである「Dolby HDR Photo Capture」を初めてサポートする。
SoCを構成するCPUのKyroはGen 2と比べてパフォーマンスコアが約30%、効率コアが約20%の性能アップを達成した。なお2024年に発表する次世代のSoCへの搭載に向けて、独自CPU「Oryon」のモバイル版を開発中であることも基調講演で発表された。
Gen 3のAdreno GPUは、Gen 2比でパフォーマンスと省電力性能がそれぞれに約25%向上している。レイトレーシングを高速化し、約25%の省電力化を果たした。その効果はスムーズなゲーミング体験を引き出すことにもつながる。
Snapdragon 8 Gen 3の通信性能について、基調講演では大きな発表はなかった。モデムのICチップには5G-Advancedに対応する「Snapdragon X75 5G Modem-RF System」が一体のプラットフォームとして組み込まれる。5G通信以外のWi-Fi、Bluetoothによる無線通信を統合した14nmのサブシステム「Qualcomm FastConnect 7800」はGen 2から引き継ぐ。
Wi-Fiは次世代規格のWi-Fi 7をサポート。SoCとして、Qualcomm XPANの超低消費電力Wi-Fiオーディオ伝送技術をサポートするようだが、ハイレゾ伝送は最高の周波数帯域が192kHzではなく96kHzまでの対応からスタートする。ワイヤレスオーディオのS7 Proのチップについて、Qualcomm XPANによりWi-Fiで高音質・低遅延伝送を実現するモバイルのSnapdragonシリーズがどの世代のSoCまでカバーするのかなど、追加取材の成果は追ってレポートする。