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公開日 2024/10/24 19:42
サウンド関連の最新状況を責任者に聞く
クアルコム独自のハイレゾワイヤレス技術「XPAN」が間もなく本格始動。責任者が語る「大きな期待」
山本 敦
米クアルコムがモバイル向けSoCの新しいフラグシップ「Snapdragon 8 Elite」を発表した。Bluetoothオーディオ向けSoCのフラグシップである「Qualcomm S7」シリーズとの連携で実現するハイレゾ対応の超低消費電力Wi-Fi伝送「Qualcomm XPAN(エックスパン)」を含めて、クアルコムによる最先端のオーディオ技術の現在地を、オーディオ部門の責任者であるディノ・ベキス氏に聞いた。
クアルコムは毎年、ハワイのマウイ島でSnapdragonの発表会を開催してきた。筆者は昨年、そして今年もこのイベントに参加して、クアルコムによるワイヤレスオーディオの最前線を取材している。
Qualcomm Expanded Personal Area Network Technology(以下:XPAN)は2023年にベールを脱いだ。Bluetoothオーディオを、クアルコム独自の超低消費電力によるWi-Fiプロトコルの上に載せて、最大96kHz/24bitのハイレゾまでカバーする高音質と高いロバスト性能、低遅延伝送を併せて実現する革新的なワイヤレスオーディオの新技術だ。
詳細は昨年筆者が取材したベキス氏へのインタビューの中で解説しているので、あわせて参考にしてほしい。
モバイル向けの新しいフラグシップSoCであるSnapdragon 8 Eliteは、カスタムメイドのOryon CPUによるパフォーマンスの向上、マルチモーダル生成AIへのパワフルかつ柔軟な対応などが主なハイライトだ。ワイヤレスオーディオに関連して進化したポイントをベキス氏に整理してもらった。
「Snapdragon 8 EliteはQualcomm XPANを初めて実装するモバイルSoCとなります。昨年の発表時点ではSnapdragon 8 Gen 3もXPAN対応であるとアナウンスしているので、今後アップデートにより機能を追加する施策を検討しています。XPANを、これからクアルコムが展開するプレミアムクラス以下のSoCにも積極的に広げたいと考えています」
クアルコムは昨年のSnapdragonのイベントで、コンピューティング向けSoCのフラグシップであるSnapdragon X EliteにもXPANが載ることを予告していた。こちらもアップデートによる機能追加を図りながら、コンピューティング向けは先に下位クラスのSnapdragon X Plusにも展開するSoCに “次の一手” としてXPANを載せることも視野に入れているようだ。
Snapdragon 8 EliteはBluetooth SIGが9月にリリースした新しいコアスペックのバージョンであるBluetooth 6.0もサポートしている。Bluetooth 6.0にはデバイスの遠隔探索時の精度を高めるチャンネルサウンディングやBluetooth LEの機能強化などが含まれる。オーディオリスニングに直接関わるアップデートはなさそうだ。
XPANは主にクアルコムのBluetoothオーディオ向けSoC側のイノベーションだ。上位のSoCであるQualcomm S7シリーズにはフラグシップの「S7 Pro」とハイエンドの「S7」がある。細かなことだが、フラグシップSoCの名称がS7 Proから「S7+(プラス)」に変わっている。背景には2024年の春に下位クラスのS5/S3チップがGen 3(第3世代)に進化したことに伴い、S7シリーズの名称がコンフリクトしないように揃える狙いがあるという。
XPANの商用ローンチを目前に、クアルコムはひとつ重要なアップデートを行っている。その内容については既報の通りだが、送信側・受信が1対1のP2P接続だけでなく、レシーバーをWi-Fiアクセスポイントに直接つないで、より広いエリアでオーディオストリーミングが受信できるようになる。クアルコムはこの機能拡張を「Whole Home Coverage」と呼んでいる。“家まるごとリスニング機能” とでも翻訳できるだろうか。
P2P接続時に対応するWi-Fiの周波数帯である2.4GHzと5GHzが、Whole Home Coverageの際には6GHzも使えるようになる。
ベキス氏によると「XPANはデバイス側のセットアップがとても簡単」にできるのだという。対応するレシーバーデバイスをSnapdragon 8 Elite搭載のスマホに初めてペアリングする際、Wi-Fiネットワークの設定が自動的にレシーバーデバイスに引き継がれ、同時にスマホとのBluetoothペアリングが完了する。ユーザーがイヤホンやヘッドホンなどXPANに対応するデバイスを身に着けたままスマホから遠く離れると、Wi-Fiの接続先はスマホなどエッジデバイスからアクセスポイントへシームレスに切り替わる。
Bluetoothオーディオ向けの「S7+」チップを搭載するレシーバーデバイスについて、ベキス氏はその時期を明言こそしなかったものの「ブランドや商品化の次期について、間もなく公式に発表がある」と断言した。10月末には海外のメーカーからSnapdragon 8 Eliteを載せたスマホが発表される。その頃にXPANによるオーディオリスニングが楽しめるデバイスが合わせて揃うことを期待したい。
クアルコムのワイヤレスオーディオに関する最新動向と、これからの展望をベキス氏に聞いた。
マイクロソフトは今後クアルコムのコンピューティング向けSoCを載せたARM版Windows PCのOSで、ベーシックなオーディオコーデックとしてaptX Adaptiveをサポートする。マイクロソフトが提唱する次世代のAI PCである「Copilot+ PC」の中に、今後はSnapdragon Soundに対応するモデルが増えて、高品位なサウンドがデスクトップで楽しめる環境が広がることになる。
Bluetooth SIGではBluetooth Low Energyの仕様を拡張して、現在のメディアストリーミングのデータスループットを今の限界から約2倍となる約2Mbpsに引き上げる「High Data Throughput(HDT)」という仕様開発プロジェクトが進んでいる。
ベキス氏は、まだHDTの仕様が策定される時期が見えていないと前置きしながら、将来Bluetoothオーディオで実現できるロスレス伝送の可能性をこれからも深く追求したいと意気込んだ。
Metaがアメリカで発売し、好評を得ているというスマートグラスの「Ray-Ban Meta glasses」には、クアルコムのARデバイス向けのSoCである「Snapdragon AR1 Gen 1」が搭載されている。本機には画像に音声など複数のデータを扱うマルチモーダル対応のAIアシスタント「Meta AI」との連携機能が実装されている。Meta AIに質問すると、スマートグラスの本体に内蔵するスピーカーから音声で答えが返ってくる。音楽リスニング時のサウンドも含めて、音声の “音もれ” を防ぐためのビームフォーミング技術もMetaとクアルコムが密接に連携しながら開発してきたものだ。
これからはアイウェアタイプのウェアラブルデバイスにも、さらにリッチなサウンド体験が求められるだろう。ベキス氏はSnapdragon SoundをAR、またはXR/VRデバイスにも広く展開できる可能性を示唆した。クアルコムが注力するOryon CPU、AI対応SoCの展開に足並みを揃えながらSnapdragon Soundが各方面にもたらすインパクトに今後も注目したい。
■超低消費電力のWi-Fiチップをワイヤレスイヤホン・ヘッドホンに載せる新技術
クアルコムは毎年、ハワイのマウイ島でSnapdragonの発表会を開催してきた。筆者は昨年、そして今年もこのイベントに参加して、クアルコムによるワイヤレスオーディオの最前線を取材している。
Qualcomm Expanded Personal Area Network Technology(以下:XPAN)は2023年にベールを脱いだ。Bluetoothオーディオを、クアルコム独自の超低消費電力によるWi-Fiプロトコルの上に載せて、最大96kHz/24bitのハイレゾまでカバーする高音質と高いロバスト性能、低遅延伝送を併せて実現する革新的なワイヤレスオーディオの新技術だ。
詳細は昨年筆者が取材したベキス氏へのインタビューの中で解説しているので、あわせて参考にしてほしい。
■Snapdragon 8 Elite搭載のデバイスから本格始動
モバイル向けの新しいフラグシップSoCであるSnapdragon 8 Eliteは、カスタムメイドのOryon CPUによるパフォーマンスの向上、マルチモーダル生成AIへのパワフルかつ柔軟な対応などが主なハイライトだ。ワイヤレスオーディオに関連して進化したポイントをベキス氏に整理してもらった。
「Snapdragon 8 EliteはQualcomm XPANを初めて実装するモバイルSoCとなります。昨年の発表時点ではSnapdragon 8 Gen 3もXPAN対応であるとアナウンスしているので、今後アップデートにより機能を追加する施策を検討しています。XPANを、これからクアルコムが展開するプレミアムクラス以下のSoCにも積極的に広げたいと考えています」
クアルコムは昨年のSnapdragonのイベントで、コンピューティング向けSoCのフラグシップであるSnapdragon X EliteにもXPANが載ることを予告していた。こちらもアップデートによる機能追加を図りながら、コンピューティング向けは先に下位クラスのSnapdragon X Plusにも展開するSoCに “次の一手” としてXPANを載せることも視野に入れているようだ。
Snapdragon 8 EliteはBluetooth SIGが9月にリリースした新しいコアスペックのバージョンであるBluetooth 6.0もサポートしている。Bluetooth 6.0にはデバイスの遠隔探索時の精度を高めるチャンネルサウンディングやBluetooth LEの機能強化などが含まれる。オーディオリスニングに直接関わるアップデートはなさそうだ。
XPANは主にクアルコムのBluetoothオーディオ向けSoC側のイノベーションだ。上位のSoCであるQualcomm S7シリーズにはフラグシップの「S7 Pro」とハイエンドの「S7」がある。細かなことだが、フラグシップSoCの名称がS7 Proから「S7+(プラス)」に変わっている。背景には2024年の春に下位クラスのS5/S3チップがGen 3(第3世代)に進化したことに伴い、S7シリーズの名称がコンフリクトしないように揃える狙いがあるという。
■商用化を前にXPANの技術をアップデート。対応するオーディオ製品も登場間近
XPANの商用ローンチを目前に、クアルコムはひとつ重要なアップデートを行っている。その内容については既報の通りだが、送信側・受信が1対1のP2P接続だけでなく、レシーバーをWi-Fiアクセスポイントに直接つないで、より広いエリアでオーディオストリーミングが受信できるようになる。クアルコムはこの機能拡張を「Whole Home Coverage」と呼んでいる。“家まるごとリスニング機能” とでも翻訳できるだろうか。
P2P接続時に対応するWi-Fiの周波数帯である2.4GHzと5GHzが、Whole Home Coverageの際には6GHzも使えるようになる。
ベキス氏によると「XPANはデバイス側のセットアップがとても簡単」にできるのだという。対応するレシーバーデバイスをSnapdragon 8 Elite搭載のスマホに初めてペアリングする際、Wi-Fiネットワークの設定が自動的にレシーバーデバイスに引き継がれ、同時にスマホとのBluetoothペアリングが完了する。ユーザーがイヤホンやヘッドホンなどXPANに対応するデバイスを身に着けたままスマホから遠く離れると、Wi-Fiの接続先はスマホなどエッジデバイスからアクセスポイントへシームレスに切り替わる。
Bluetoothオーディオ向けの「S7+」チップを搭載するレシーバーデバイスについて、ベキス氏はその時期を明言こそしなかったものの「ブランドや商品化の次期について、間もなく公式に発表がある」と断言した。10月末には海外のメーカーからSnapdragon 8 Eliteを載せたスマホが発表される。その頃にXPANによるオーディオリスニングが楽しめるデバイスが合わせて揃うことを期待したい。
■Snapdragon Soundに対応するAI PCも拡大
クアルコムのワイヤレスオーディオに関する最新動向と、これからの展望をベキス氏に聞いた。
マイクロソフトは今後クアルコムのコンピューティング向けSoCを載せたARM版Windows PCのOSで、ベーシックなオーディオコーデックとしてaptX Adaptiveをサポートする。マイクロソフトが提唱する次世代のAI PCである「Copilot+ PC」の中に、今後はSnapdragon Soundに対応するモデルが増えて、高品位なサウンドがデスクトップで楽しめる環境が広がることになる。
Bluetooth SIGではBluetooth Low Energyの仕様を拡張して、現在のメディアストリーミングのデータスループットを今の限界から約2倍となる約2Mbpsに引き上げる「High Data Throughput(HDT)」という仕様開発プロジェクトが進んでいる。
ベキス氏は、まだHDTの仕様が策定される時期が見えていないと前置きしながら、将来Bluetoothオーディオで実現できるロスレス伝送の可能性をこれからも深く追求したいと意気込んだ。
Metaがアメリカで発売し、好評を得ているというスマートグラスの「Ray-Ban Meta glasses」には、クアルコムのARデバイス向けのSoCである「Snapdragon AR1 Gen 1」が搭載されている。本機には画像に音声など複数のデータを扱うマルチモーダル対応のAIアシスタント「Meta AI」との連携機能が実装されている。Meta AIに質問すると、スマートグラスの本体に内蔵するスピーカーから音声で答えが返ってくる。音楽リスニング時のサウンドも含めて、音声の “音もれ” を防ぐためのビームフォーミング技術もMetaとクアルコムが密接に連携しながら開発してきたものだ。
これからはアイウェアタイプのウェアラブルデバイスにも、さらにリッチなサウンド体験が求められるだろう。ベキス氏はSnapdragon SoundをAR、またはXR/VRデバイスにも広く展開できる可能性を示唆した。クアルコムが注力するOryon CPU、AI対応SoCの展開に足並みを揃えながらSnapdragon Soundが各方面にもたらすインパクトに今後も注目したい。