公開日 2019/03/27 09:38
フォーマットの個性を引き出す
エソテリックの音質追求と新たなハイレゾが共鳴。ネットワークプレーヤー「N-05」でMQA再生を試す
石原 俊
MQA再生にも対応するエソテリックのネットワークプレーヤー「N-05」。ネットワークプレーヤーでは類を見ないほどに妥協なき音質への追求がなされた本機だが、MQA再生ではどのような効果を生み出すのか?そのサウンドに迫る。
■ついにMQA対応を果たした国産ハイエンドプレーヤー
エソテリックの「N-05」は、発売後のファームウェアのアップデートによって、ネットワーク入力でのMQAにも対応した。MQAとは、イギリスのオーディオエンジニアであるボブ・スチュアート氏が、メリディアン社の社長時代に開発したフォーマット技術で、最大の利点は、高い音質でありながら少ないデータ量で済むという点だ。
「オーディオ折り紙」と呼ばれる独自圧縮技術によって、ハイレゾ音源を折りたたむようにサイズダウンさせることで、普段は折りたたんだサイズのデータとして、そして対応する機器を使って展開すれば、ハイレゾデータとして楽しむことができる。昨今では、ストリーミングサービスであるTIDALが採用したり、ユニバーサルがMQAを採用したCD「ハイレゾCD」が登場し、大きな話題となった。
さて、まずはネットワークプレーヤーの「N-05」についておさらいしよう。本機は2016年リリースの同社初のネットワークプレーヤーである。高級オーディオ機器メーカーらしいノウハウが投入されており、たとえば電源回路はネットワークプレーヤーとしては異例ともいえるほど強力で、大型のトロイダルトランスと大型コンデンサーが奢られている。旭化成AK4490チップを擁するDAコンバーターは、各チャンネル4回路のパラレル/ディファレンシャル構成だ。
バッファアンプには同社のフラグシップ“Grandioso”シリーズと同じものを片chあたり2基使用し、バランス出力では差動駆動、シングルエンド出力では並列駆動させ、強力な信号を得ている。その他、日本電波工業と共同開発した水晶発振子による精密なクロック回路や、34bit D/Aプロセッシングなど多彩なオーディオ技術が盛り込まれている。
■フォーマットが持つ個性をしっかりと引き出してくれる
まずMQAの音源を聴いた。試聴に使用した音源は、音元出版「オーディオ・アクセサリー169号」の付録CDをリッピングしたもので、MQAデコードをかけるとPCM352kHz/24bitの信号が得られる。楽曲はトラック6のショルティ&シカゴ響によるマーラーの交響曲第5番・第1楽章だ。MQAデータが入力されると、本機のインジケーターにMQAの文字とサンプリング周波数(試聴時は352)が表示される。
さて、そのサウンドである。この演奏はFMのエアチェックに始まって、LP、CDと聴き継いできたが、MQAの音質はハイレゾよりも、むしろLPに近いのではないかというのが個人的な感想だ。
低音、特に大太鼓のフカッとした響きなどは、ある意味でわざとらしくフィクションめいているのだが、この聴き味は上手くいった時のLP再生に近しいものがあって、個人的には好感が持てる。MQAには賛否両論があるようだが、最近はe-onkyoのタイトル数も劇的に増えたようで将来の展開が楽しみである。そんなMQAに逸早く対応したエソテリックには大きな拍手を送りたい。
非圧縮のハイレゾ再生の印象についても記しておこう。最近お気に入りのバッティストーニ/東フィルによる「新世界より」(PCM96kHz/24bit)を聴いたのだが、MQAとはずいぶん異なる印象を受けた。もちろん録音年代には半世紀近い開きがあり、録音ロケーションも違うわけだが、ハイレゾで録音されハイレゾで配信されたデータの再生音には独特のリアリティがある。
このリアリティはオネスティと読み換えてもいい。つまりウソっぽくなく、正直にディテールを表現するのだ。この演奏は仕掛けが沢山あって、全休止が長めにとられていたり、演奏に推進力をつけるための裏拍が強調されていたりするのだが、それらが隠し味ではなく、ストレートに表現されている。
◇
MQAと非圧縮ではどちらがいいのか。個人的にはどちらも甲乙つけがたいが、あえて特徴づけるなら、非圧縮は正直に聴こえて、MQAは演出がかって聴こえるのが率直な感想だ。ともあれ、それぞれのフォーマットの個性を引き出してくれる、N-05の存在意義は非常に大きいといえる。
(石原 俊)
本記事は季刊・Net Audio vol.31 Autumnからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。
■ついにMQA対応を果たした国産ハイエンドプレーヤー
エソテリックの「N-05」は、発売後のファームウェアのアップデートによって、ネットワーク入力でのMQAにも対応した。MQAとは、イギリスのオーディオエンジニアであるボブ・スチュアート氏が、メリディアン社の社長時代に開発したフォーマット技術で、最大の利点は、高い音質でありながら少ないデータ量で済むという点だ。
「オーディオ折り紙」と呼ばれる独自圧縮技術によって、ハイレゾ音源を折りたたむようにサイズダウンさせることで、普段は折りたたんだサイズのデータとして、そして対応する機器を使って展開すれば、ハイレゾデータとして楽しむことができる。昨今では、ストリーミングサービスであるTIDALが採用したり、ユニバーサルがMQAを採用したCD「ハイレゾCD」が登場し、大きな話題となった。
さて、まずはネットワークプレーヤーの「N-05」についておさらいしよう。本機は2016年リリースの同社初のネットワークプレーヤーである。高級オーディオ機器メーカーらしいノウハウが投入されており、たとえば電源回路はネットワークプレーヤーとしては異例ともいえるほど強力で、大型のトロイダルトランスと大型コンデンサーが奢られている。旭化成AK4490チップを擁するDAコンバーターは、各チャンネル4回路のパラレル/ディファレンシャル構成だ。
バッファアンプには同社のフラグシップ“Grandioso”シリーズと同じものを片chあたり2基使用し、バランス出力では差動駆動、シングルエンド出力では並列駆動させ、強力な信号を得ている。その他、日本電波工業と共同開発した水晶発振子による精密なクロック回路や、34bit D/Aプロセッシングなど多彩なオーディオ技術が盛り込まれている。
■フォーマットが持つ個性をしっかりと引き出してくれる
まずMQAの音源を聴いた。試聴に使用した音源は、音元出版「オーディオ・アクセサリー169号」の付録CDをリッピングしたもので、MQAデコードをかけるとPCM352kHz/24bitの信号が得られる。楽曲はトラック6のショルティ&シカゴ響によるマーラーの交響曲第5番・第1楽章だ。MQAデータが入力されると、本機のインジケーターにMQAの文字とサンプリング周波数(試聴時は352)が表示される。
さて、そのサウンドである。この演奏はFMのエアチェックに始まって、LP、CDと聴き継いできたが、MQAの音質はハイレゾよりも、むしろLPに近いのではないかというのが個人的な感想だ。
低音、特に大太鼓のフカッとした響きなどは、ある意味でわざとらしくフィクションめいているのだが、この聴き味は上手くいった時のLP再生に近しいものがあって、個人的には好感が持てる。MQAには賛否両論があるようだが、最近はe-onkyoのタイトル数も劇的に増えたようで将来の展開が楽しみである。そんなMQAに逸早く対応したエソテリックには大きな拍手を送りたい。
非圧縮のハイレゾ再生の印象についても記しておこう。最近お気に入りのバッティストーニ/東フィルによる「新世界より」(PCM96kHz/24bit)を聴いたのだが、MQAとはずいぶん異なる印象を受けた。もちろん録音年代には半世紀近い開きがあり、録音ロケーションも違うわけだが、ハイレゾで録音されハイレゾで配信されたデータの再生音には独特のリアリティがある。
このリアリティはオネスティと読み換えてもいい。つまりウソっぽくなく、正直にディテールを表現するのだ。この演奏は仕掛けが沢山あって、全休止が長めにとられていたり、演奏に推進力をつけるための裏拍が強調されていたりするのだが、それらが隠し味ではなく、ストレートに表現されている。
MQAと非圧縮ではどちらがいいのか。個人的にはどちらも甲乙つけがたいが、あえて特徴づけるなら、非圧縮は正直に聴こえて、MQAは演出がかって聴こえるのが率直な感想だ。ともあれ、それぞれのフォーマットの個性を引き出してくれる、N-05の存在意義は非常に大きいといえる。
(石原 俊)
本記事は季刊・Net Audio vol.31 Autumnからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。