公開日 2020/07/03 06:45
ストリーミングもディスクも一貫したサウンド
デジタルプレーヤーの新たな到達点、エソテリック「N-01XD」。「ネットワークDAC」とは何者か
山之内 正
音楽ファンが家庭で楽しむ音源の種類が増え、デジタルプレーヤーは変化の波にさらされている。ディスクかファイルの二者択一という単純な構図ではなく、ストリーミングやMQAも絡んで複雑な様相になってきた。そんな中、高い技術力でデジタルプレーヤーを牽引してきたエソテリックが、トップモデル「N-01」の流れをくむ「N-01XD」を完成させた。「ネットワークDAC」という新カテゴリーで登場させたことには、どんな狙いがあるのか。また、多様化したデジタルプレーヤーのなかでどんなポジションを築くのだろうか。
■独自開発のDAC基板を搭載、最新デジタル再生に全て対応した戦略モデル
N-01はエソテリックのネットワークプレーヤーのトップエンド機として2017年8月に発売され、国内はもちろん海外市場でも高い評価を獲得した。一方、その半年後にはネットワークトランスポートN-03Tを導入し、様々なDAコンバーターと組み合わせる用途を提案している。
手持ちのDACを活用したいユーザーに合理的なソリューションを提供したが、その後同社はGrandioso D1X用にディスクリート構成のMasterSoundDiscreteDAC(以下MSD DAC)を開発し、DA変換の最新アーキテクチャを構築。同回路は一体型SACDプレーヤーの最上位モデルとなるGrandioso K1Xにも引き継がれ、エソテリックが目指す音の方向性を明確に提示した。
N-01XDは、そのMSD DACを投入してネットワーク再生の音質をきわめつつ、ES-LinkやUSB経由で多様なデジタル信号のデコードを行う高品位DACとしての役割を強化した。DACの比重を高めたことを反映してネットワークDACと呼んでいるわけだ。日本ではなじみのない呼び方だが、海外のハイエンド市場ではその方がスムーズに受け入れられる可能性がある。
実際に本機はMQAやストリーミングへの対応はもちろんのこと、ES-Linkを介してDSD信号を受けることもできる。つまり、エソテリック製トランスポートやプレーヤーと組み合わせたディスク再生でも、最先端のMSD DACの恩恵を受けられるわけだ。その需要はそれなりに大きいと思うし、そこでのN-01XDはまさにDACとしての役割が前面に出る。
MSD DACの構成と基板レイアウトはK1Xと同等で、32回路の独立したエレメントが平行に並ぶスタイルを踏襲。対応フォーマットはネットワーク再生でDSD 22.5MHz/PCM 384kHzまでサポートする最新仕様に格上げされた。DAC回路の電源はトランスも含めて左右独立で、電源レギュレーターをディスクリートで構成する技術はD1X譲りだ。さらにネットワークモジュールの電源回路もリニア電源に変更し、大容量のスーパーキャパシターと組み合わせて駆動力を大幅に強化。N-01からN-03Tへの世代交代の際に投入された技術を活かした格好だが、新しいDAC回路との組み合わせは今回が初となり、音質改善への寄与が期待できる。
正面からの外見はディスプレイのサイズを除いてN-01に瓜二つだが、実は細部のデザインが微妙に変わった。特にフロントパネル左右の傾斜角度と位置を見直すことでスムーズな流れを作り出している点は重要だ。
機構面でも小変更が行われている。ダブルデッキシャーシの下面に4基のトロイダルトランスを吊り下げる構造は従来通りだが、天板を固定しないセミフローティング構造や上下のパーツを可動構造に変更したインシュレーターなど、フラグシップ機の開発で得たノウハウを積極的に採用している。
■N-01よりも格段に進化。鮮度の高い音が静寂から立ち上がる
充実したデジタル入力のなかから今回はUSB-Aを介したストレージ(USBメモリ)再生とES-Link経由のSACD再生を選び、再生音を確認した(編集部注:外付けUSBメモリはミュージックサーバーとして機能する)。
専用再生アプリ(EsotericSoundStream)で選曲すると、エイヴィソン・アンサンブルによるコレッリの室内楽ソナタの瑞々しい響きが完全な静寂から瞬時に立ち上がった。N-01に比べて明らかに鮮度の高い音に生まれ変わっていて、ヴァイオリンの弦を張り替えて、さらに松脂の種類を変えたような立ち上がりの良さを実感。通奏低音の低音弦の振幅が大きくなり、振動する空気の絶対量が増えているが、動きはあくまで軽やかで、オープンな響きを確保している。
キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルの《悲愴》の第3楽章を聴くと、高弦から低弦まで弦楽器群のリズムが精密に噛み合って大きなうねりを生む。一音一音の粒立ちが細かいだけでなく、複数の楽器が同期して急激なクレッシェンドを作り上げる様子など、ペトレンコに誘導された力感と音の密度の高さがダイレクトに伝わってきた。フォルテシモの瞬発力もN-01に比べてポテンシャルが上がっている。
アルネ・ドムネラスのセプテットは力強い音でスピーカーの前に張り出すサックスの実在感が聴きどころだが、それに加えて演奏会場の雰囲気の描写が実に生々しい。聴き手の話声や物音、そして楽器の演奏ノイズなど様々な音が混ざり合って生まれるライブハウスの熱気。その雰囲気に触発されて演奏のテンションが上っていく光景が目の前に広がった。
■SACD再生では、ピアノの余韻が柔らかく空間を満たす
最後にP-02Xと本機をES-Linkでつなぎ、SACDでハイメ・ラレードのヴァイオリンを聴いた。ヴァイオリンとピアノそれぞれの楽器イメージの広がり具合にDACの違いが現れやすい音源だ。
N-01XDとの組み合わせで聴くとヴァイオリンは楽器の形が目に浮かぶほどフォーカスが鮮明で、ピアノの余韻は柔らかく空間を満たす。その対比が実に鮮やかで、舞台の少し手前で聴いているような自然な距離を感じる。
N-01XDの鮮度の高い再生音は、音源の種類やインターフェースの違いを意識させず、メディアの差を超えた一貫性が備わる。ネットワークプレーヤーの新たな到達点を提示する重要な製品の誕生を歓迎したい。
本記事は季刊・NetAudio vol.37 Springからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから
■独自開発のDAC基板を搭載、最新デジタル再生に全て対応した戦略モデル
N-01はエソテリックのネットワークプレーヤーのトップエンド機として2017年8月に発売され、国内はもちろん海外市場でも高い評価を獲得した。一方、その半年後にはネットワークトランスポートN-03Tを導入し、様々なDAコンバーターと組み合わせる用途を提案している。
手持ちのDACを活用したいユーザーに合理的なソリューションを提供したが、その後同社はGrandioso D1X用にディスクリート構成のMasterSoundDiscreteDAC(以下MSD DAC)を開発し、DA変換の最新アーキテクチャを構築。同回路は一体型SACDプレーヤーの最上位モデルとなるGrandioso K1Xにも引き継がれ、エソテリックが目指す音の方向性を明確に提示した。
N-01XDは、そのMSD DACを投入してネットワーク再生の音質をきわめつつ、ES-LinkやUSB経由で多様なデジタル信号のデコードを行う高品位DACとしての役割を強化した。DACの比重を高めたことを反映してネットワークDACと呼んでいるわけだ。日本ではなじみのない呼び方だが、海外のハイエンド市場ではその方がスムーズに受け入れられる可能性がある。
実際に本機はMQAやストリーミングへの対応はもちろんのこと、ES-Linkを介してDSD信号を受けることもできる。つまり、エソテリック製トランスポートやプレーヤーと組み合わせたディスク再生でも、最先端のMSD DACの恩恵を受けられるわけだ。その需要はそれなりに大きいと思うし、そこでのN-01XDはまさにDACとしての役割が前面に出る。
MSD DACの構成と基板レイアウトはK1Xと同等で、32回路の独立したエレメントが平行に並ぶスタイルを踏襲。対応フォーマットはネットワーク再生でDSD 22.5MHz/PCM 384kHzまでサポートする最新仕様に格上げされた。DAC回路の電源はトランスも含めて左右独立で、電源レギュレーターをディスクリートで構成する技術はD1X譲りだ。さらにネットワークモジュールの電源回路もリニア電源に変更し、大容量のスーパーキャパシターと組み合わせて駆動力を大幅に強化。N-01からN-03Tへの世代交代の際に投入された技術を活かした格好だが、新しいDAC回路との組み合わせは今回が初となり、音質改善への寄与が期待できる。
正面からの外見はディスプレイのサイズを除いてN-01に瓜二つだが、実は細部のデザインが微妙に変わった。特にフロントパネル左右の傾斜角度と位置を見直すことでスムーズな流れを作り出している点は重要だ。
機構面でも小変更が行われている。ダブルデッキシャーシの下面に4基のトロイダルトランスを吊り下げる構造は従来通りだが、天板を固定しないセミフローティング構造や上下のパーツを可動構造に変更したインシュレーターなど、フラグシップ機の開発で得たノウハウを積極的に採用している。
■N-01よりも格段に進化。鮮度の高い音が静寂から立ち上がる
充実したデジタル入力のなかから今回はUSB-Aを介したストレージ(USBメモリ)再生とES-Link経由のSACD再生を選び、再生音を確認した(編集部注:外付けUSBメモリはミュージックサーバーとして機能する)。
専用再生アプリ(EsotericSoundStream)で選曲すると、エイヴィソン・アンサンブルによるコレッリの室内楽ソナタの瑞々しい響きが完全な静寂から瞬時に立ち上がった。N-01に比べて明らかに鮮度の高い音に生まれ変わっていて、ヴァイオリンの弦を張り替えて、さらに松脂の種類を変えたような立ち上がりの良さを実感。通奏低音の低音弦の振幅が大きくなり、振動する空気の絶対量が増えているが、動きはあくまで軽やかで、オープンな響きを確保している。
キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルの《悲愴》の第3楽章を聴くと、高弦から低弦まで弦楽器群のリズムが精密に噛み合って大きなうねりを生む。一音一音の粒立ちが細かいだけでなく、複数の楽器が同期して急激なクレッシェンドを作り上げる様子など、ペトレンコに誘導された力感と音の密度の高さがダイレクトに伝わってきた。フォルテシモの瞬発力もN-01に比べてポテンシャルが上がっている。
アルネ・ドムネラスのセプテットは力強い音でスピーカーの前に張り出すサックスの実在感が聴きどころだが、それに加えて演奏会場の雰囲気の描写が実に生々しい。聴き手の話声や物音、そして楽器の演奏ノイズなど様々な音が混ざり合って生まれるライブハウスの熱気。その雰囲気に触発されて演奏のテンションが上っていく光景が目の前に広がった。
■SACD再生では、ピアノの余韻が柔らかく空間を満たす
最後にP-02Xと本機をES-Linkでつなぎ、SACDでハイメ・ラレードのヴァイオリンを聴いた。ヴァイオリンとピアノそれぞれの楽器イメージの広がり具合にDACの違いが現れやすい音源だ。
N-01XDとの組み合わせで聴くとヴァイオリンは楽器の形が目に浮かぶほどフォーカスが鮮明で、ピアノの余韻は柔らかく空間を満たす。その対比が実に鮮やかで、舞台の少し手前で聴いているような自然な距離を感じる。
N-01XDの鮮度の高い再生音は、音源の種類やインターフェースの違いを意識させず、メディアの差を超えた一貫性が備わる。ネットワークプレーヤーの新たな到達点を提示する重要な製品の誕生を歓迎したい。
本記事は季刊・NetAudio vol.37 Springからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから