公開日 2022/08/29 06:30
【特別企画】電流伝送によりプリアンプ側も活性化
初代から予想を上回る進化を遂げた、エソテリックのフラグシップパワーアンプ「Grandioso M1X」の真髄に迫る
山之内 正
「Xエディション」へのバージョンアップが進められていたエソテリックのフラグシップであるGrandioso(グランディオーソ)シリーズは、モノラルパワーアンプ「Grandioso M1X」の登場により世代交代が完結した。「Grandioso M1」から大幅な変更がなされた本機のサウンドを探ってみよう。
エソテリックブランドが誕生してから今年で35年を迎えるが、同社がアンプを本格導入したのは2008年のことで、ハイエンドクラスの頂点に君臨していたディスクプレーヤーと比べると発売まで時間がかかっている。
ところが、そのわずか5年後の2013年に導入した新世代のフラグシップ「Grandiosoシリーズ」には超弩級のモノラルパワーアンプ「Grandioso M1」が含まれていて、当時大きな注目を集めた。システム全体で方向性と世界観を共有した次元の高いサウンドが強いインパクトを与えたことは記憶に新しい。
2019年以降、Grandiosoの最新世代としてP1X/D1X、そしてC1Xが完成。最後に残ったGrandioso M1Xも、深刻な半導体不足やパーツの入手困難が続くなか、今年の3月にようやく発売にこぎ着けた。当初の予定より遅れたこともあり、本機の登場を心待ちにしていたエソテリックファンは少なくないと思う。いよいよGrandiosoシリーズ「Xエディション」への世代交代が完結したのだ。
回路から筐体まで変更点は多岐にわたり、共通する要素はごくわずかにとどまるという。特に、8Ω負荷で300W、1Ωで2400Wというとてつもないパワーの源泉となる電源部は3000VAの電源トランスを中心に構成されており、その存在感は半端ではない。
さらに、電圧増幅段には専用の電源部を使うエソテリックの流儀に従い、本機も独立した電源を用意して電流増幅段からの影響を抑えている。メインの電源トランスだけで19kg、本体は1台あたり62kgという重量級なので、設置や移動は慎重に取り組む必要がある。
Grandioso C1Xとの組み合わせで独自の電流伝送を実現するES-Link Analogに対応したことも今回のモデルチェンジのハイライトの一つだ。プリアンプから送り出す電流量は既存の伝送方式に比べて最大で約100倍に及び、接続ケーブルのインピーダンスの影響を受けない忠実伝送を実現する。接続にはXLRケーブルを使うが、通常とは逆方向で接続するため、誤用の心配はない。今回は電流伝送の効果も実際に確認したので記事後半で紹介することにしよう。
出力段は12パラレル構成で、温度変化の影響で各出力素子の動作に影響が生じないように最適な位置関係を選び、2ブロックに分かれたヒートシンクに整然と配置される。トップパネルの開口部はかなり大きめで熱対策は万全。
メッシュ状のハニカムグリルはよく見ると隙間を空けた2枚重ねになっていて、しかも2枚の厚さがわずかに異なっている。音を聴きながら最適な厚さの組み合わせを選択したのだという。
トップパネルを完全には固定しないセミフローティング構造も近年のエソテリック製コンポーネントでおなじみの手法で、開放感のあるサウンドの実現を狙っている。ちなみにオリジナルのM1とM1Xの外観上の差はほとんど見当たらない。トップパネルの形状かリアパネルのES-Link端子の有無がほぼ唯一の違いだ。
エソテリックの試聴室にGrandiosoのフルシステムを組み上げ、B&Wの800 D3を接続して従来モデルとの聴き比べも交えた試聴を行った。
A.カントロフが独奏を弾くサン=サーンスのピアノ協奏曲は独奏ピアノとオーケストラの関係が目を見張るほど立体的で、音色のパレットが前作よりも格段に大きくなっていることに気づく。低弦が空気を動かすタイミングに一瞬の遅れもないので、全ての楽器が同期して一気に音圧が上がる様子が実演さながらに生々しい。
ドゥヴィエルが歌うバッハは消え入るような弱音まで声が実体感を失わず、弱音の微妙な階調をていねいに再現することに感心させられた。大音圧での再生時だけでなく最弱音の質感や音色を忠実に再現することが優れたアンプの必須条件だが、そこはまさに本機の重要な聴きどころの一つだと思う。伴奏のリュートの発音が羽のように軽く、アルペジオの音の連なりはシルクのように滑らかだ。
ビル・エヴァンス・トリオはピアノのシンプルなフレーズに乗るわずかなゆらぎや音色の変化が手にとるように分かり、今回の世代交代を経て表情の描写がいっそう繊細になったことが分かる。そして、この音源で最も大きな変化を実感したのはベースのテンションの高さだ。エディ・ゴメスはどんなに速いパッセージでも音の粒立ちがなまらず、一音一音の粒が良く揃うのだが、その特徴がここまで明瞭に聴き取れるのは間違いなくC1Xも含めたアンプの力量によるところが大きい。
サン=サーンスに加えてブラスアンサンブルの音源を用意し、通常接続とES-Link Analogの切り替え試聴を行う。サン=サーンスはトゥッティのなかから独奏ピアノとヴァイオリンの旋律が鮮明に浮かび、力が途切れることなく歌い上げる。強奏で弾き切ったときの音離れの良さにも感服させられたが、これは振幅の大きさだけでなく余韻が広がる空間に余裕が生まれたことを物語っている。
電流伝送のメリットを設計担当の加藤徹也氏に尋ねると「プリアンプ側が活性化される」という答えが返ってきたが、活性化という表現はまさにこの音の変化を的確に言い当てていると思う。
セッション収録されたアークブラスのアンサンブルがまるでライヴ録音のように生き生きとした表情を取り戻す瞬間を体験し、パワーアンプが果たす役割の大きさを改めて思い知らされたのである。初代Grandiosoからの進化は予想よりもさらに先に進んでいた。
(提供:エソテリック)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.185』からの転載です
全体で世界観を共有するGrandiosoシリーズ。「Xエディション」への世代交代が完結
エソテリックブランドが誕生してから今年で35年を迎えるが、同社がアンプを本格導入したのは2008年のことで、ハイエンドクラスの頂点に君臨していたディスクプレーヤーと比べると発売まで時間がかかっている。
ところが、そのわずか5年後の2013年に導入した新世代のフラグシップ「Grandiosoシリーズ」には超弩級のモノラルパワーアンプ「Grandioso M1」が含まれていて、当時大きな注目を集めた。システム全体で方向性と世界観を共有した次元の高いサウンドが強いインパクトを与えたことは記憶に新しい。
2019年以降、Grandiosoの最新世代としてP1X/D1X、そしてC1Xが完成。最後に残ったGrandioso M1Xも、深刻な半導体不足やパーツの入手困難が続くなか、今年の3月にようやく発売にこぎ着けた。当初の予定より遅れたこともあり、本機の登場を心待ちにしていたエソテリックファンは少なくないと思う。いよいよGrandiosoシリーズ「Xエディション」への世代交代が完結したのだ。
巨大な電源トランス等、電源部を大幅刷新。新たに電流伝送方式にも対応
回路から筐体まで変更点は多岐にわたり、共通する要素はごくわずかにとどまるという。特に、8Ω負荷で300W、1Ωで2400Wというとてつもないパワーの源泉となる電源部は3000VAの電源トランスを中心に構成されており、その存在感は半端ではない。
さらに、電圧増幅段には専用の電源部を使うエソテリックの流儀に従い、本機も独立した電源を用意して電流増幅段からの影響を抑えている。メインの電源トランスだけで19kg、本体は1台あたり62kgという重量級なので、設置や移動は慎重に取り組む必要がある。
Grandioso C1Xとの組み合わせで独自の電流伝送を実現するES-Link Analogに対応したことも今回のモデルチェンジのハイライトの一つだ。プリアンプから送り出す電流量は既存の伝送方式に比べて最大で約100倍に及び、接続ケーブルのインピーダンスの影響を受けない忠実伝送を実現する。接続にはXLRケーブルを使うが、通常とは逆方向で接続するため、誤用の心配はない。今回は電流伝送の効果も実際に確認したので記事後半で紹介することにしよう。
出力段は12パラレル構成で、温度変化の影響で各出力素子の動作に影響が生じないように最適な位置関係を選び、2ブロックに分かれたヒートシンクに整然と配置される。トップパネルの開口部はかなり大きめで熱対策は万全。
メッシュ状のハニカムグリルはよく見ると隙間を空けた2枚重ねになっていて、しかも2枚の厚さがわずかに異なっている。音を聴きながら最適な厚さの組み合わせを選択したのだという。
トップパネルを完全には固定しないセミフローティング構造も近年のエソテリック製コンポーネントでおなじみの手法で、開放感のあるサウンドの実現を狙っている。ちなみにオリジナルのM1とM1Xの外観上の差はほとんど見当たらない。トップパネルの形状かリアパネルのES-Link端子の有無がほぼ唯一の違いだ。
最弱音の質感を忠実に再現。表情の描写がいっそう繊細に
エソテリックの試聴室にGrandiosoのフルシステムを組み上げ、B&Wの800 D3を接続して従来モデルとの聴き比べも交えた試聴を行った。
A.カントロフが独奏を弾くサン=サーンスのピアノ協奏曲は独奏ピアノとオーケストラの関係が目を見張るほど立体的で、音色のパレットが前作よりも格段に大きくなっていることに気づく。低弦が空気を動かすタイミングに一瞬の遅れもないので、全ての楽器が同期して一気に音圧が上がる様子が実演さながらに生々しい。
ドゥヴィエルが歌うバッハは消え入るような弱音まで声が実体感を失わず、弱音の微妙な階調をていねいに再現することに感心させられた。大音圧での再生時だけでなく最弱音の質感や音色を忠実に再現することが優れたアンプの必須条件だが、そこはまさに本機の重要な聴きどころの一つだと思う。伴奏のリュートの発音が羽のように軽く、アルペジオの音の連なりはシルクのように滑らかだ。
ビル・エヴァンス・トリオはピアノのシンプルなフレーズに乗るわずかなゆらぎや音色の変化が手にとるように分かり、今回の世代交代を経て表情の描写がいっそう繊細になったことが分かる。そして、この音源で最も大きな変化を実感したのはベースのテンションの高さだ。エディ・ゴメスはどんなに速いパッセージでも音の粒立ちがなまらず、一音一音の粒が良く揃うのだが、その特徴がここまで明瞭に聴き取れるのは間違いなくC1Xも含めたアンプの力量によるところが大きい。
電流伝送方式では、まさにライヴ盤のような生き生きとした表情が魅力
サン=サーンスに加えてブラスアンサンブルの音源を用意し、通常接続とES-Link Analogの切り替え試聴を行う。サン=サーンスはトゥッティのなかから独奏ピアノとヴァイオリンの旋律が鮮明に浮かび、力が途切れることなく歌い上げる。強奏で弾き切ったときの音離れの良さにも感服させられたが、これは振幅の大きさだけでなく余韻が広がる空間に余裕が生まれたことを物語っている。
電流伝送のメリットを設計担当の加藤徹也氏に尋ねると「プリアンプ側が活性化される」という答えが返ってきたが、活性化という表現はまさにこの音の変化を的確に言い当てていると思う。
セッション収録されたアークブラスのアンサンブルがまるでライヴ録音のように生き生きとした表情を取り戻す瞬間を体験し、パワーアンプが果たす役割の大きさを改めて思い知らされたのである。初代Grandiosoからの進化は予想よりもさらに先に進んでいた。
(提供:エソテリック)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.185』からの転載です