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公開日 2023/04/05 06:30
【特別企画】出力電圧を可変できる画期的なプロダクト

ACアダプターの弱点を克服する!フェルム・オーディオのDC電源「HYPSOS」をアナログ&ヘッドホンでテスト

小原由夫
ポーランド発、新進気鋭のブランドであるフェルム・オーディオ。その第1弾製品として登場した高性能DCパワーサプライ「HYPSOS」に注目が集まっている。今回は、ACアダプターを使用するアナログプレーヤーやフォノイコライザーでテスト。さらに、ヘッドホンアンプ内蔵USB DAC/プリアンプ「ERCO」とアナログヘッドホンアンプ「OOR」にHYPSOSを使用した際の効果も体験している。

Ferrum AudioのDCパワーサプライ「HYPSOS」(オープン価格、市場予想価格 198,000円前後税込)

5Vから30Vまで可変できる、ハイブリッド構成の電源回路



これまであるようでなかった製品、それがフェルム・オーディオの「HYPSOS(ヒプソス)」だ。しかも本機はメインコンポーネントとなる機器ではなく、いわば裏方、黒子的な役割といってよい。具体的には、オーディオ機器に電源供給を行なうDCパワーサプライなのである。

昨今増えつつあるデスクトップやポータブルオーディオ機器では、電源供給にACアダプターが使われることが多い。機器内部に電源を搭載する必要がなくなり、回路設計上メリットは大きいが、一方でACアダプターはオーディオ的なケアがされていないことがほとんど。ノイズや電磁輻射対策はほぼ期待できないし、高品位パーツが使われていることはまずない。つまりハイクオリティなオーディオ再生では時に急所となるわけだ。

そうした状況を鑑み、いくつかのメーカーからオーディオ的に配慮されたDCパワーサプライが製品化(または特注オーダー)されているが、原則として1対1の専用設計/仕様となる。

HYPSOSは5Vから30Vまで可変できるマルチアウトプット式というのがまず画期的。つまりマルチパーパスだ。しかもワールドワイドな製品の電圧や極性があらかじめプリセットされており、それを前面ディスプレイとノブで確認しながら設定できるのはすこぶるスマート。対応機器が随時アップデートされていく点は頼もしく、さまざまな機器に合わせた出力ケーブルも順次揃えられている(別売オプション)。また、0.1V単位で出力電圧を微調整することはもちろん、プリセットされていないオーディオ機器に対してはバリアブルに出力電圧を可変できるモードも備える。

あらかじめプリセットされたデバイスのリストも表示される

本機はスイッチング方式とリニア方式のハイブリッド構成の電源回路からなり、DCケーブルの先端部で出力電圧を随時監視して電源供給を行なう「4Tセンシングデザイン」に基づく。一方で、万が一機器側に異常が生じれば瞬時に電源供給を遮断するワーニング機能も内蔵しているので安心だ。

今回は「ヒプソス」を使ってアナログ再生の強化を試したのと、先頃発売された電源スプリッター「Ferrum Power Splitter」を用いて2系統の電源同時供給も実施。併せて同社から発売されたヘッドホンアンプ内蔵USB DAC「ERCO(エルツォ)」と、ディスクリート構成のアナログ回路内蔵ヘッドホンアンプ「OOR(オア)」の電源供給も試した。

オプションの電源スプリッター「Ferrum Power Splitter」(OPEN/市場予想価格49,500円前後/税込)。これを使用すれば「HYPSOS」からのDC電源出力を2系統に分岐させ、複数の機器につなげるようになる

アナログプレーヤーは重心が安定し、より深く立体的な音質になる



まず始めに、プロジェクトのアナログプレーヤーで試す。電源電圧は15V。付属ACアダプターの音と比べると、HYPSOS供給からの音は重心が下がり、エネルギーバランスがどっしり安定する。ダイナミックレンジも広がって聴こえ、ステレオイメージの奥行きがより深く立体的になった。

アナログプレーヤーとフォノイコライザーで「ヒプソス」の効果を体験。電源はともに15V仕様

同じくプロジェクトのコンパクトなフォノイコライザーアンプでも試した。本機の15V仕様のACアダプターをHYPSOSからの供給に替えたところ、周波数レンジとステレオイメージの拡大がもたらされた。S/N感もアップする。

以上2機種は同じ15Vなので、前述のスプリッターが活用できる。同時供給では、音の躍動感とダイナミックレンジの拡大が著しい。ベースラインのピッチもより克明に聴き取れる印象で、元のACアダプターに戻すと途端に音楽が萎縮してしまい、スケール感が小さくなった。質感再現も粗く感じられる。ACアダプターのこのあたりがやはりオーディオ的配慮のなさに違いないと目星がつく。

ACアダプター使用の手軽なアナログプレーヤーやフォノイコライザーアンプの音質向上として、HYPSOSの導入は大いにあり得る。ハイエンドに肉薄するとまではいわないが、ハイグレードなアナログ再生に到達するのは間違いない。アナログ系のパフォーマンス強化には、思いのほか効果絶大だ。

HYPSOSとの組み合わせにより、ERCOの持味がより明瞭に



次に試したのは、アキュフェーズ「DP-570」の内蔵DACと、HYPSOSから電源供給したERCOとの音の違いである。周波数レンジやダイナミックレンジではアキュフェーズに軍配が上がるが、ERCOは付属ACアダプターでも瑞々しさや中域の濃密さでは大いに魅力的な音を聴かせた。それがHYPSOSから給電に替えると、中域の色艶が一段と濃くなり、油彩画的な分厚い筆致になったのだ。HYPSOSとの組み合わせによりERCOの持味がより明瞭になる印象だ。

同社のへッドホンアンプ内蔵USB DAC/プリアンプERCO(奥・上)とヘッドホンアンプOOR(奥・下)

続いてはERCOのヘッドホン再生を試す。使用したのは、私の愛機のひとつ、ウルトラゾーン「Edition8 Ruthenium」。付属ACアダプターとHYPSOS供給の差異は、後者の方がS/Nがアップし、音場の見通しが一気に開けたうえ、高域の抜け、伸びやかさが高まった。スピーカー再生よりも発音体が耳に近いことから、より如実に差がわかった。

持参した愛用ヘッドホンでもHYPSOSの効果を確認する

最後に試したのは、DP-570の同軸デジタル出力からERCOを経由し、ボリュームをバイパスしてバランス接続にてOORに送り、ERCO/OORともスプリッターを用いてHYPSOSから同時に電源供給する接続。ちなみに24Vの機器台での消費電力は31.6W、供給電流1.3AとHYPSOSの前面ディスプレイに表示された。

最先端のハイエンドなヘッドホン再生というよりは、フェルム・オーディオのコスメティックデザインにも共通したややオールドスクールな、実に有機的でウォームな音楽再生に浸ることができた。声の実体感や楽器の質感がとても艶っぽくて瑞々しかったのだ。これがフェルム・オーディオが志向する音の世界観だとすれば、今日非常に希有な音の佇まいを味わわせてくれる貴重な存在という感じである。

(提供:エミライ)

本記事は『季刊・オーディオアクセサリー188号』からの転載です。

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