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公開日 2023/06/02 06:30
【特別企画】3シリーズを完全攻略

“リーズナブルでHiFi”の代名詞、Polk Audioのブックシェルフスピーカー聴き比べ

大橋伸太郎
わずか二年で日本市場でのベストセラーに駈け上がったスピーカーブランドがある。アメリカのPolk Audio(ポークオーディオ)がそれだ。

導入翌年(2022年)の年初のシェアは約4%だったが、今年の3月までには13%(GFK)に伸長。B&W、DALIに次ぐ第三位となった。北米トップシェアのスピーカー専業は、日本市場においても本来の存在感を発揮したわけだ。

Polk Audioは、ジョンズ・ホプキンス大学に学ぶマシュー・ポークを中心に1972年ボルチモアで創業した。ステレオ・ディメンション・アレイはじめ、スピーカーサイエンスに立脚し、高忠実度再生をテーマにスピーカーの革新へ挑戦が始まる。ポークオーディオの原点は、音楽好きな学生が買えるリーズナブルな製品を作ることだった。

アメリカでニューウェーブのスピーカーが台頭した時期にあってもその姿勢は変わらず、ハイエンドに向かうことを潔しとしなかった。創立から50年を迎えたいまでも、その初心は受け継がれている。

今回はクラシックから日本語ロックまで幅広いジャンルの音楽を、同社のコンパクト・ブックシェルフ3シリーズの上位モデルで聴いてみよう。

左から、ES20(57,200円)、MXT20(38,500円)、R200(103,400円))。いずれもペア、税込価格

同社No.1の売り上げを誇るSignature Eliteシリーズ



最初に聴いたのが、日本市場で最も高い売り上げを記録しているSignature EliteシリーズのES20。40kHzまでの再生25mmテリレン・ドーム・トゥイーターは、振動板素材に米ICI社の製造するポリエステル繊維を使用。165mmウーファーの振動板には、ポリプロピレンにマイカ(雲母)を加えた素材を使用する。背面のパワーポートは、円錐状のガイドが開口部の面積を広げ乱気流と風切り音を抑え、低域周波数に乗る不要成分を吸収する特許技術だ。

人間の可聴帯域を遥かに超える40kHzまでの超高音域再生が可能な25mmのドーム・トゥイーターを搭載。素材には、ポリエステル系合成繊維のテリレンを採用している

ウーファーは、ポリプロピレンにマイカを加え、軽量かつ高剛性を実現した専用ドライバーを採用。低音域の広い範囲で、スムーズで妨げのないピストンモーションを実現している


特許技術となる、緻密に設計された形状のパワーポートを搭載。出入りする空気の流れをスムーズにし、従来のバスレフポートよりも歪みや乱流を大幅に抑えている

Polk Audioのスピーカー全てに当てはまるが、アメリカのスピーカーの伝統を受け継ぎ、からりと明るく屈託なく鳴る。しめっぽさがない。ボブ・ジェームス・トリオ『フィール・ライク・メイキング・ライヴ!』(SACD)の低音楽器が厚く響き、背面にまわるとパワーポートからズンズン出ている。量が豊かなだけでなく切れ味があり暴れがなく、収束も早くドロドロしない。高域も鮮明でクリア。シンバルが華やかに散乱しスネアの打撃も引き締まって小気味よい。

ラウドでヘヴィーな音楽はどうだろう。リリースから50周年を迎えたキング・クリムゾン『太陽と戦慄』(CD)。ソリッドで鮮明な音質がジェイミー・ミューアの多彩な打楽器の金属質の響きを音場に散乱させる。「パート II」のシンバルの瞬発力にも溜飲。パワーポートがバスレフ由来のノイズを抑え、アルバムのテーマの静と動の対比に貢献。ギターのメタリックな音色の再現に手加減はないが、コーダのカタストロフまで混濁や飽和がない。入力にすこぶる強い。

次に、はっぴいえんど『風街ろまん』(CD)から「夏なんです」。ヴォーカルがよく前に出る。からりと明るいスピーカーの音色が曲に合い、歌詞に描写される高層建築などはなく、豊かな木陰の昭和の東京がいきいきと音で描写される。

ES20 SPEC●ユニット:25mmテリレン・ドーム・トゥイーター、165mmマイカ強化ポリプロピレン・ウーファー●再生周波数範囲:41Hz〜40kHz●推奨アンプ出力:20〜125W●感度(2.83V/1m):86dB●インピーダンス:4Ω(4〜8Ω出力のアンプに対応)●クロスオーバー:2,400Hz●サイズ:216W×375H×354Dmm●質量:7.7kg(1本)

オールラウンダー再生が特徴の最上位シリーズ



日本市場での最上位がRESERVEシリーズ。質感の高い背面のエンクロージャーに、ポートとキャビネットの共振を吸収し中低域と中域の歪みを取り除くX-Portを持つ。今回聴いたのは165mmタービンコーン+25mmピナクル・リングラジエーターのR200。

トゥイーターは、不要な色付けや歪みのないクリアな高域再生を目指し作られたピナクル・リングラジエーター。幅広いスイートスポットと確認しつつ、リアチャンバーが不要な共振を抑えている

ウーファーには、人間の耳で特に敏感な中音域を、自然に再現するために開発されたタービンコーンを搭載。振動板には、独自のフォームコアとタービン形状を組み合わせている


バスレフは同社の特許技術、X-Portを採用する。不要なキャビネットとポートの共振を排除するために、精密に調整された一組のクローズドパイプ・アブソーバーを使用している

音のバランスはやはり低域重視でピアノの和音がずっしり鳴るが、中低域の質感と解像力の向上は明らか。X-Port中央のETF(固有音フィルター)が効果的に作用している。ES20に比べ、音場に奥行きがあり音像が背景から浮き上がる。「夏なんです」では、明るい順光の光とくっきりと濃い陰影の気だるい対比がより明確になる。分解能も躍進しアコギの響きが美しい。

ボブ・ジェームス・トリオはX-Portの威力あらたかでずしりとベースが響く。シンバルの克明感、華やかさに頬が緩む。シーネ・エイのビッグバンドジャズは、厚い低音が着実にビートを刻むが、ES20と比べて金管楽器の音色数が増えている。ヴォーカルの立ち姿が爽やかで凛々しく、トランペットソロの人間臭い呼吸が生々しい。クラシックを聴いてみよう。

アンドラーシュ・シフのブラームス・ピアノ協奏曲第一番は、弱音の表現が演奏と録音のテーマの一つ。ピアノが余韻を残し減衰して空気に消える描写が美しい。色付きがなくブラームスの時代のブリュートナーの素朴な響きを伝える。R200は、ロックからクラシックまで文句なくオールラウンダーの再生が狙えるスピーカーだ。

R200 SPEC●ユニット:25mmピナクル・リングラジエーター、165mmタービンコーン・ミッド/ウーファー●再生周波数範囲:39Hz〜50kHz●推奨アンプ出力:30〜200W●感度(2.83V/1m):86dB●インピーダンス:4Ω(4〜8Ω出力のアンプに対応)●クロスオーバー:3,000Hz●サイズ:190W×359H×354Dmm●質量:8.7kg(1本)
 

圧倒的なコストパフォーマンスを実現したMONITOR XTシリーズ



三番目はエントリーゾーンのMONITOR XTシリーズ。250mmテリレン・ドーム・トゥイーターはES20と同様だが、ユニットが異なる。また、165mmダイナミック・バランス・ウーファー使用の2ウェイバスレフを採用しており、上位機種のパワーポート/X-Portは持たない仕様となる。

上位モデルのSignature Eliteシリーズと同様、40kHzまでをカバーする25mmのテリレン・ドーム・トゥイーターを採用。ハイレゾ対応の音源にも忠実な再現を実現する

トゥイーター同様にウーファーも上位シリーズを継承。 Signature Elite シリーズに用いられた、独自のダイナミック・バランス・プロセスで設計されている


緻密に調整された背面のバスレフポート。165mmウーファーとの組み合わせで、クリーンでオープンな中音域とパンチの効いたレスポンスの良い低音を図っている

試聴すると、作為・演出のない素直な良さがある。アンドラーシュ・シフのブラームスはワイドレンジとは言えないが、音楽の流れに身を委ねるのに不足はない。帯域、ダイナミックレンジ共にほどほどのバランスの音楽を聴かせる。創業時の初心が、シンプルなこのスピーカーから感じられる。

ボブ・ジェームス・トリオでの低音は上位機種と共通するが、エンクロージャー容積がES20より一回り小さくパワーポートがないために、ほどほどにとどまる。その分、ベースラインの克明感につながり、全体のまとまりが良いと言える。卒のないまとめ方と明瞭さが「モニター」の所以か。普段使いのオーディオ、あるいは逆に、プレイバックモニター的に実直に耳を傾けたいミュージシャン気質の人向きかもしれない。

MXT20 SPEC●ユニット:25mmテリレン・ドーム・トゥイーター、165mmバイ・ラミネート・コンポジェット・ウーファー●再生周波数範囲:38Hz〜40kHz●推奨アンプ出力:30〜200W●感度(2.83V/1m):87dB●インピーダンス:4Ω(4〜8Ω出力のアンプに対応)●クロスオーバー:3,200Hz●サイズ:191W×330H×280Dmm●質量:5.5kg(1本)
 
いずれも価格を疑う音質である。ロープライスだが中身はローコスト、ローパフォーマンスではない。量販効果でこの価格が実現できたのである。資材の高騰、マーケティングの変化でオーディオが一様に高価格に向かうなか、ポークオーディオの存在感がこれから増していくだろう。

(提供:ディーアンドエムホールディングス)

本記事は『季刊・Audio Accessory vol.189』からの転載です

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