公開日 2024/03/20 06:35
ATOLL(アトール)は「手頃な価格で入手可能なハイエンドと呼び得るオーディオ製品」を志向し、誠実な製品作りに取り組んでいるフランスのオーディオブランド。すべての製品をフランスの自社工場で製造している点も大きな特徴だ。
製品数の多さからATOLLはアンプ・ブランドとしてのイメージが強いが、CDプレーヤーや単体DACといったデジタル製品も幅広くラインナップしている。そしてしっかりと時勢に対応してネットワークプレーヤーも以前から手掛けており、現在は「MS120」「ST200 SIGNATURE」「ST300 SIGNATURE」の3機種から成る充実したラインナップを有している。
今回は日本への導入が決まったATOLLのネットワークプレーヤーの中で、エントリークラスのMS120を試用する機会を得たので、使用感や再生音についてレビューをお届けしたい。
MS120は320×210×94mmというコンパクトなサイズのネットワークプレーヤー/プリアンプである。ここで「プリアンプ」と書いたのは、MS120が2系統のアナログ入力を持っており、純粋なアナログプリアンプとしても使用可能なため。プリアンプ部もディスクリート構成・アナログボリュームの充実した内容であり、音量可変出力が可能なだけのネットワークプレーヤーやDACとは一線を画した仕様となっている。
ネットワークプレーヤー周りの仕様としては、UPnP/DLNAに対応し、リニアPCM 192kHz/24bit、DSD128まで再生可能。音楽ストリーミングサービスはTIDAL・Qobuzにくわえ、日本のユーザーにとっては非常に重要な、かつ対応製品の少ないAmazon Musicにも対応している点が大きな強みとなる。Roon Ready認証も受けており、Roonとの組み合わせにも抜かりはない。数字的には極端に高いスペックではないが、ネットワークプレーヤーとして現在求められる必要十分な仕様を満たしているといえる。
他にも、MS120は近年再生ソフトのAudirvanaが推進しているパートナーシップ・プログラムである「Plays with Audirvana」にも認定されている。これによりAudirvanaと組み合わせた際の互換性や正常な動作が保証されており、同ソフトのユーザーにとっては大きな安心材料となるだろう。
本機の操作は後述する純正アプリ「ATOLL Signature 2」から行えるが、本体側のインターフェースもかなり充実している。
まず、フロントパネルに5型・800×480ピクセルのフルカラー液晶ディスプレイを搭載し、視認性は非常に優秀。付属するリモコンや本体側ボタンを用いた操作も、音楽再生から各種設定にいたるまで、わかりやすいメニュー構成や良好なレスポンスのおかげでスムーズに行える。
MS120のデザインはコンパクトなサイズと大型ディスプレイの相乗効果でかなりユーザーフレンドリーという印象で、実際の操作感も含め、今までネットワークオーディオに手を出さなかったオーディオファンにも響くのではないだろうか。
純正アプリ「ATOLL Signature 2」はよく練られたグラフィカルなデザインと良好なレスポンスにより、総じて完成度の高いアプリに仕上がっている。特に大型のアイコンが効果的に配置されているため直観的に機能を把握しやすく、日常的にスマートフォンやタブレットを使っているユーザーであれば、初見でも違和感なく各種設定から音楽再生まで使いこなせるはずだ。
ATOLL Signature 2はネットワークオーディオのコントロールアプリに必要な機能は一通り備えており、音源のブラウズ・プレイリスト/キューへの登録・各種再生操作といった操作は滞りなく行える。ローカルの音源とストリーミングサービスの音源を同一のプレイリスト内で再生することも可能だ。
ATOLL Signature 2は安定感という点でも申し分なく、MS120にLANケーブルを接続すれば即繋がって使用可能となり、試用期間中で動作に不安を感じたり強制終了したりすることもなかった。機器本体の物理的なインターフェースが充実していることは先述の通りだが、アプリの作り込みにも相当注力していると感じる。
MS120の音質評価に際し、ATOLLのコンパクトなパワーアンプ「MA100」を使用した。MA100はMS120と同じく横幅320mmで揃えられており、プリアンプとして機能するMS120とあわせて、シンプルかつコンパクトなシステムを構築可能だ。今回はパワーアンプと組み合わせたが、アクティブスピーカーと組み合わせ、さらにシンプルなシステムを構築するのもよいだろう。
スピーカーは製品価格を考慮し、最初はDYNAUDIOのブックシェルフ「Emit20」を組み合わせたのだが、ここで想定外の事態が発生した。
MS120とMA100ペアのスピーカードライブ能力が、ぎょっとするほど凄まじいのである。Emit20が、未だかつて聴いたことのないほどに生き生きと歌っている。具体的には際立った輪郭描写と量感を両立した低域の存在があり、その上に鮮やかな……豊かな陰影感と浸透力の高さを身上とするDYNAUDIOのスピーカーを使ってさえストレートに「色鮮やか」と思わせる中高音が加わる。
筆者は以前にATOLLのプリメインアンプ「IN200 SIGNATURE」を聴いたことがあり、その際もスリムな見た目からは想像できないほどエネルギッシュかつ実体感に溢れた再生音に感心した記憶があるが、MS120とMA100ペアの繰り出す音はその時の印象をも上回っている。
これはとんでもないぞと思い、価格バランスを度外視して今度はParadigmのブックシェルフ「Persona B」を組み合わせた。
ここでも、MS120とMA100ペアはその能力を存分に発揮し、元々Persona Bが高能率で鳴らしやすいスピーカーであるという点を加味してもなお、Persona Bを生き生きとドライブした。特に相変わらず鮮明な輪郭描写、豊かな量感を伴って躍動する中低域は掛け値なしで素晴らしい。
そして、さすがは「無色透明ゆえに組み合わせる機器の音に容易に染まる」Persona B、描き出される再生音の色鮮やかさはEmit20の比ではなく、ケルティック・ロックバンドIonaの初期のライブアルバム『Heaven's Bright Sun』の1曲目〜5曲目を聴けば、もはや色彩感を越えた「幸福感」の世界が広がった。
冷静になって分析すれば、前後左右の空間の広がりや解像感といった要素は、不満こそ感じないものの同価格帯の製品に対して特段の優位性があるわけではない。少なくとも、オーディオ機器としての性能の高さを強く印象付けるような再生音ではない。
しかし、そんなことがもはやどうでもよくなるほどに、MS120とMA100のペアが聴かせた音は心を動かす力に溢れていた。
筆者の経験上、時としてヨーロッパのオーディオブランドの製品は、「ヨーロッパ」という言葉からなんとなく連想される知的・優雅なイメージ(無論これは筆者の勝手なイメージに過ぎない)とは良い意味でかけ離れた、まるで南国を思わせる明るさと色彩感に溢れた音を聴かせることがある。今回の試聴を通じ、筆者はATOLLの製品にもまさにこのイメージを持った。
この後、MS120と組み合わせるアンプをNmodeの「X-PM9」に替えて再度Persona Bを鳴らしてみたが、Nmodeらしいシャープな輪郭描写と清々しい再生音にもやはり豊かな色彩感が感じられ、MS120は明確にその存在を主張していた。
「音楽を聴く」という行為を全肯定し、ひたすらに楽しみ、心から喜ぶための音。これは直接スピーカーを駆動するアンプだけでなく、ソース機器であるMS120においても共通する得難い美点といえる。MS120は本体操作・アプリ双方のユーザーフレンドリーさも含め、マニアックにオーディオを追求しようというよりも、ただただ音楽に浸りたい人にこそ聴いてほしい、使ってほしい製品である。
【編集部よりお知らせ】
ATOLLの製品は、現在PROSTO株式会社(旧DYNAUDIO JAPAN)の取り扱いとなる。また、3月22日(金)と23日(土)に、東京・新富町のオーディオショップon and onにて、土方久明氏による「ST120」「ST300 signature」の試聴イベントも予定されているので、ご興味のある方はぜひご予約を。
予約は以下のフォームもしくはTEL:03-3537-7761
アプリの操作感も良好で、明るさと色彩感に溢れた音
Amazon Musicも聴けるフランス発のネットワークプレーヤー。音楽を心から楽しめるATOLLの魅力
逆木 一ATOLLのネットワークプレーヤーが国内初上陸
ATOLL(アトール)は「手頃な価格で入手可能なハイエンドと呼び得るオーディオ製品」を志向し、誠実な製品作りに取り組んでいるフランスのオーディオブランド。すべての製品をフランスの自社工場で製造している点も大きな特徴だ。
製品数の多さからATOLLはアンプ・ブランドとしてのイメージが強いが、CDプレーヤーや単体DACといったデジタル製品も幅広くラインナップしている。そしてしっかりと時勢に対応してネットワークプレーヤーも以前から手掛けており、現在は「MS120」「ST200 SIGNATURE」「ST300 SIGNATURE」の3機種から成る充実したラインナップを有している。
今回は日本への導入が決まったATOLLのネットワークプレーヤーの中で、エントリークラスのMS120を試用する機会を得たので、使用感や再生音についてレビューをお届けしたい。
Amazon Musicにも対応する多機能プレーヤー。アプリの操作感も良好
MS120は320×210×94mmというコンパクトなサイズのネットワークプレーヤー/プリアンプである。ここで「プリアンプ」と書いたのは、MS120が2系統のアナログ入力を持っており、純粋なアナログプリアンプとしても使用可能なため。プリアンプ部もディスクリート構成・アナログボリュームの充実した内容であり、音量可変出力が可能なだけのネットワークプレーヤーやDACとは一線を画した仕様となっている。
ネットワークプレーヤー周りの仕様としては、UPnP/DLNAに対応し、リニアPCM 192kHz/24bit、DSD128まで再生可能。音楽ストリーミングサービスはTIDAL・Qobuzにくわえ、日本のユーザーにとっては非常に重要な、かつ対応製品の少ないAmazon Musicにも対応している点が大きな強みとなる。Roon Ready認証も受けており、Roonとの組み合わせにも抜かりはない。数字的には極端に高いスペックではないが、ネットワークプレーヤーとして現在求められる必要十分な仕様を満たしているといえる。
他にも、MS120は近年再生ソフトのAudirvanaが推進しているパートナーシップ・プログラムである「Plays with Audirvana」にも認定されている。これによりAudirvanaと組み合わせた際の互換性や正常な動作が保証されており、同ソフトのユーザーにとっては大きな安心材料となるだろう。
本機の操作は後述する純正アプリ「ATOLL Signature 2」から行えるが、本体側のインターフェースもかなり充実している。
まず、フロントパネルに5型・800×480ピクセルのフルカラー液晶ディスプレイを搭載し、視認性は非常に優秀。付属するリモコンや本体側ボタンを用いた操作も、音楽再生から各種設定にいたるまで、わかりやすいメニュー構成や良好なレスポンスのおかげでスムーズに行える。
MS120のデザインはコンパクトなサイズと大型ディスプレイの相乗効果でかなりユーザーフレンドリーという印象で、実際の操作感も含め、今までネットワークオーディオに手を出さなかったオーディオファンにも響くのではないだろうか。
純正アプリ「ATOLL Signature 2」はよく練られたグラフィカルなデザインと良好なレスポンスにより、総じて完成度の高いアプリに仕上がっている。特に大型のアイコンが効果的に配置されているため直観的に機能を把握しやすく、日常的にスマートフォンやタブレットを使っているユーザーであれば、初見でも違和感なく各種設定から音楽再生まで使いこなせるはずだ。
ATOLL Signature 2はネットワークオーディオのコントロールアプリに必要な機能は一通り備えており、音源のブラウズ・プレイリスト/キューへの登録・各種再生操作といった操作は滞りなく行える。ローカルの音源とストリーミングサービスの音源を同一のプレイリスト内で再生することも可能だ。
ATOLL Signature 2は安定感という点でも申し分なく、MS120にLANケーブルを接続すれば即繋がって使用可能となり、試用期間中で動作に不安を感じたり強制終了したりすることもなかった。機器本体の物理的なインターフェースが充実していることは先述の通りだが、アプリの作り込みにも相当注力していると感じる。
際立った輪郭描写を持つ低域に、色鮮やかな中高音が加わる
MS120の音質評価に際し、ATOLLのコンパクトなパワーアンプ「MA100」を使用した。MA100はMS120と同じく横幅320mmで揃えられており、プリアンプとして機能するMS120とあわせて、シンプルかつコンパクトなシステムを構築可能だ。今回はパワーアンプと組み合わせたが、アクティブスピーカーと組み合わせ、さらにシンプルなシステムを構築するのもよいだろう。
スピーカーは製品価格を考慮し、最初はDYNAUDIOのブックシェルフ「Emit20」を組み合わせたのだが、ここで想定外の事態が発生した。
MS120とMA100ペアのスピーカードライブ能力が、ぎょっとするほど凄まじいのである。Emit20が、未だかつて聴いたことのないほどに生き生きと歌っている。具体的には際立った輪郭描写と量感を両立した低域の存在があり、その上に鮮やかな……豊かな陰影感と浸透力の高さを身上とするDYNAUDIOのスピーカーを使ってさえストレートに「色鮮やか」と思わせる中高音が加わる。
筆者は以前にATOLLのプリメインアンプ「IN200 SIGNATURE」を聴いたことがあり、その際もスリムな見た目からは想像できないほどエネルギッシュかつ実体感に溢れた再生音に感心した記憶があるが、MS120とMA100ペアの繰り出す音はその時の印象をも上回っている。
これはとんでもないぞと思い、価格バランスを度外視して今度はParadigmのブックシェルフ「Persona B」を組み合わせた。
ここでも、MS120とMA100ペアはその能力を存分に発揮し、元々Persona Bが高能率で鳴らしやすいスピーカーであるという点を加味してもなお、Persona Bを生き生きとドライブした。特に相変わらず鮮明な輪郭描写、豊かな量感を伴って躍動する中低域は掛け値なしで素晴らしい。
そして、さすがは「無色透明ゆえに組み合わせる機器の音に容易に染まる」Persona B、描き出される再生音の色鮮やかさはEmit20の比ではなく、ケルティック・ロックバンドIonaの初期のライブアルバム『Heaven's Bright Sun』の1曲目〜5曲目を聴けば、もはや色彩感を越えた「幸福感」の世界が広がった。
ただ音楽に浸りたい人に聴いてほしい、明るさと色彩感に溢れた音
冷静になって分析すれば、前後左右の空間の広がりや解像感といった要素は、不満こそ感じないものの同価格帯の製品に対して特段の優位性があるわけではない。少なくとも、オーディオ機器としての性能の高さを強く印象付けるような再生音ではない。
しかし、そんなことがもはやどうでもよくなるほどに、MS120とMA100のペアが聴かせた音は心を動かす力に溢れていた。
筆者の経験上、時としてヨーロッパのオーディオブランドの製品は、「ヨーロッパ」という言葉からなんとなく連想される知的・優雅なイメージ(無論これは筆者の勝手なイメージに過ぎない)とは良い意味でかけ離れた、まるで南国を思わせる明るさと色彩感に溢れた音を聴かせることがある。今回の試聴を通じ、筆者はATOLLの製品にもまさにこのイメージを持った。
この後、MS120と組み合わせるアンプをNmodeの「X-PM9」に替えて再度Persona Bを鳴らしてみたが、Nmodeらしいシャープな輪郭描写と清々しい再生音にもやはり豊かな色彩感が感じられ、MS120は明確にその存在を主張していた。
「音楽を聴く」という行為を全肯定し、ひたすらに楽しみ、心から喜ぶための音。これは直接スピーカーを駆動するアンプだけでなく、ソース機器であるMS120においても共通する得難い美点といえる。MS120は本体操作・アプリ双方のユーザーフレンドリーさも含め、マニアックにオーディオを追求しようというよりも、ただただ音楽に浸りたい人にこそ聴いてほしい、使ってほしい製品である。
【編集部よりお知らせ】
ATOLLの製品は、現在PROSTO株式会社(旧DYNAUDIO JAPAN)の取り扱いとなる。また、3月22日(金)と23日(土)に、東京・新富町のオーディオショップon and onにて、土方久明氏による「ST120」「ST300 signature」の試聴イベントも予定されているので、ご興味のある方はぜひご予約を。
予約は以下のフォームもしくはTEL:03-3537-7761