公開日 2024/04/11 06:30
FIIOがユニークな製品を登場させた。昔懐かしいカセットテープ・プレーヤーの「CP13」だ。日本でも最近は若者を中心にカセットテープの人気が高まりつつあるが、中国でもやはりCDやカセットテープを若者が楽しむ傾向があるらしい。
日本でも先日の「ヘッドフォン祭mini」で参考展示が行われ、価格・発売日は未定だが国内でも取り扱う予定だという。海外での価格はエントリー価格帯でそう高価ではない。私もカセットテープを現役で使用していた世代だが、「CP13」のデモ機を借りて、しばらくぶりにカセットテープ・プレーヤーを楽しむことができた。
FIIO「CP13」は昔懐かしいカセットテープを使用する再生専用のカセットテープ・プレーヤーだ。本体にはBluetooth機能もメモリ再生機能もなく、いざという時はデジタル音源が使えるという逃げ道がない。純粋なカセットテープ・プレーヤーだ。
その分で音質部分は凝った設計がなされていて、テープメカの要であるキャプスタンにはカスタムメイドされた直径30.4mm・厚さ4mmの超大型純銅製フライホイールを搭載している。大型のフライホイールは、慣性モーメントが大きく外部の振動の影響を受けにくいために回転のムラが少なくなり、テープ走行メカニズムであるキャプスタンの安定性に貢献している。またモーターも4.2V電源の高電圧駆動モーターを使用し、一般的な1.8V電源よりもテープ走行の安定性を向上しているという。
テープを読み取る磁気ヘッドは左右チャンネルの差を限りなく少なくするため、一般的な生産ラインよりもヘッドを厳密に選定している。ヘッド構造はバランス回路設計を採用しており、安定した信号伝送、高S/N比、低歪みを実現したとしている。また磁気ヘッドカバーは通常よりも厚みがあり、外部干渉や耐摩耗性を向上させている。
回路部分においても、磁気ヘッドから信号増幅まで完全なアナログ回路で構成し、100%ピュアなアナログ音質を再現したということだ。ボリュームもアナログ方式のポテンショメーターを搭載し、パーツにも「JRC5532」などの高品質なものを採用している。
これらの設計により、単なる懐かし復刻品という以上の性能の期待ができる。ボディはオールアルミニウム合金製で、リチウム電池が内蔵されていて13時間の動作ができる。充電のための電源端子は最新モデルらしくUSB-Cを採用している。考えてみればUSB充電のカセットテープ・プレーヤーというのは使ったことがないのでこの点は新鮮だ。
本体はさすがに今見ると多少大柄だが、カセットテープ・プレーヤーとしてみると、初代ウォークマンなどに比べてかなりコンパクトで軽い。小型バッグに入れるならば持ち運びにも特に問題はないと思う。デザインもシンプルで美しく、青のカラーリングが初代ウォークマンのオマージュになっている。外観の仕上がりも価格にしては悪くない仕上がりで、ボリュームつまみも軽すぎずに適度なトルク感がある。
実際に使用してみると、やはりカセットテープを使うのが面白いというか楽しい。筆者は昔は普通にカセットテープを使用して音楽を聴いていたが、今使ってみると、たしかに初めのうちはテープの出し入れ自体がおぼつかず、テープの扱い方に戸惑ってしまう点もある。しかし次第に指がそれを思い出して自在にテープが操れるようになってくる。
別の曲を聴くためには「テープの出し入れをしなければならない」という一種の儀式によって、気持ちが切り替えられる感覚も思い出すことができた。また、カセットテープを持つことにより音楽を所有しているという実体的な感じもある。
それらは今の便利なDAPにはないもので、筆者の世代にとっては再発見だが、若い世代の人々にとっては新鮮な発見に思えるだろう。これがミュージシャンがライブ会場で曲を入れたカセットテープを販売することが増えてきた理由でもある。
使用法を念のために書いておくと、まず「CP13」の蓋を手で開ける。ボタンで開閉するのではないので、指でつまんで軽く持ち上げる。聴きたいカセットテープを選んでそこに差し込む。蓋を閉じるたら、再生のボタンを押下する。この時にテープが再生しなければ、テープが裏面になっているので、一度テープを取り出して反対側に回して再び差し込む。カセットテープには表と裏にA面とB面がある。これはLPレコードなどアナログメディアでは同じだが、CD世代以降のデジタルネイティブの人には分かりにくいかもしれない。
またテープを裏返さなくとも、テープを巻き戻してはじめに戻して聴くこともできる。「<<」と「>>」のマークは次の曲という意味ではなく、テープをその方向に走行させるという意味だ。次の曲にするためにはその分テープを走行させねばならない。こうしてテープが走行する機械的な感覚もアナログメディアの楽しいところだ。
試聴のためのイヤホンは最新のDITA AUDIO「Project M」を使用した。「CP13」にバランス駆動回路はないので3.5mmの端子のみ使用できる。当たり前だが、アナログ機器なのでDAC ICは搭載されていない。磁気テープに記録された信号を磁気ヘッドで検知してそれをそのままアンプ回路で増幅するのが、カセットテープ・プレーヤーだ。「Project M」ならばボリュームつまみの中間くらいで音量が十分取れるので、アンプの力もなかなかある方だと思う。
再生を始めるとヒス音と呼ばれるサーという背景音がかすかに聴こえる。これもデジタルメディアにはない特徴だ。ドルビーNRという懐かしい言葉が思い出されるが、さすがに「CP13」には搭載されていない。しかし音楽が始まるとこの音は気にならなくなる。
カセットテープ・プレーヤーというと濁っているような曇りがあるようなサウンドを記憶しているが、最新のイヤホンで聴く「CP13」の音は極めてクリアで美しい。ジャズヴォーカルの女声は艶やかで滑らかだ。高音域のハイハットなどの音にも鋭すぎるようなきつさがなく聴きやすい。楽器音もとても正確に聴こえ、ベースのピチカートの切れ味も良い。ロックやポップの音源ではドラムのアタック感も気持ち良い。
イヤホンをqdc「Hybrid Folk-S」に変えても音楽を楽しく聴くことができる。「Project M」や「Hybrid Folk-S」のような音色再現に優れたイヤホンを合わせると、「CP13」のアナログ的な音の良さを堪能できると思う。
おそらく我々世代のカセットテープの音のイメージは、その当時に使用していた古いイヤホンの音質の悪さも相まっていたのだろう。イヤホンの性能はその時代からは劇的に進化している。また音の良さの背景には、先に述べた高音質へのアナログ的な工夫のみならず、「CP13」の回路設計にFIIOのDAPで培われた最新のノウハウがあるのかもしれない。
いずれにせよ最新のイヤホンで聴く「CP13」の音は端的に述べてかなり良い。クリアでありながらも、アナログ的な音の滑らかさと優しさも楽しめる。また大型のフライホイールや強力な電源によって音質を向上させていることはいかにもアナログオーディオ機器らしい趣向がある。
先に書いたように、若いミュージシャンがカセットテープで音源を物販で販売することも珍しくはないのだが、買った人の多くは一種のアクセサリーとして扱い、聴くこともなく飾っておくらしい。音楽を所有したいというファンの熱意がテープという物理的な形態と合っているようだ。
しかしながら「CP13」はそう高くはないので、そうしたミュージシャンのライブ会場の物販で一緒に販売して、やはり音楽を聴いて楽しむという基本的な楽しみができるようにしたら良いのではないだろうか。
最近はLPレコードでアナログサウンドを楽しむオーディオマニアが逆に増えてきたが、アナログオーディオをポータブルで楽しむことができるのがFIIO「CP13」の特権と言えるだろう。
安定走行や強力な電源で音質も現代風に進化
【レビュー】令和にカセットテープ復権!? FIIOのカセットプレーヤー「CP13」にニヤニヤが止まらない!
佐々木喜洋昔懐かし、カセットテープの魅力再び!
FIIOがユニークな製品を登場させた。昔懐かしいカセットテープ・プレーヤーの「CP13」だ。日本でも最近は若者を中心にカセットテープの人気が高まりつつあるが、中国でもやはりCDやカセットテープを若者が楽しむ傾向があるらしい。
日本でも先日の「ヘッドフォン祭mini」で参考展示が行われ、価格・発売日は未定だが国内でも取り扱う予定だという。海外での価格はエントリー価格帯でそう高価ではない。私もカセットテープを現役で使用していた世代だが、「CP13」のデモ機を借りて、しばらくぶりにカセットテープ・プレーヤーを楽しむことができた。
FIIO「CP13」は昔懐かしいカセットテープを使用する再生専用のカセットテープ・プレーヤーだ。本体にはBluetooth機能もメモリ再生機能もなく、いざという時はデジタル音源が使えるという逃げ道がない。純粋なカセットテープ・プレーヤーだ。
その分で音質部分は凝った設計がなされていて、テープメカの要であるキャプスタンにはカスタムメイドされた直径30.4mm・厚さ4mmの超大型純銅製フライホイールを搭載している。大型のフライホイールは、慣性モーメントが大きく外部の振動の影響を受けにくいために回転のムラが少なくなり、テープ走行メカニズムであるキャプスタンの安定性に貢献している。またモーターも4.2V電源の高電圧駆動モーターを使用し、一般的な1.8V電源よりもテープ走行の安定性を向上しているという。
テープを読み取る磁気ヘッドは左右チャンネルの差を限りなく少なくするため、一般的な生産ラインよりもヘッドを厳密に選定している。ヘッド構造はバランス回路設計を採用しており、安定した信号伝送、高S/N比、低歪みを実現したとしている。また磁気ヘッドカバーは通常よりも厚みがあり、外部干渉や耐摩耗性を向上させている。
回路部分においても、磁気ヘッドから信号増幅まで完全なアナログ回路で構成し、100%ピュアなアナログ音質を再現したということだ。ボリュームもアナログ方式のポテンショメーターを搭載し、パーツにも「JRC5532」などの高品質なものを採用している。
これらの設計により、単なる懐かし復刻品という以上の性能の期待ができる。ボディはオールアルミニウム合金製で、リチウム電池が内蔵されていて13時間の動作ができる。充電のための電源端子は最新モデルらしくUSB-Cを採用している。考えてみればUSB充電のカセットテープ・プレーヤーというのは使ったことがないのでこの点は新鮮だ。
「カセットテープの交換」も音楽を聴くための大切な儀式
本体はさすがに今見ると多少大柄だが、カセットテープ・プレーヤーとしてみると、初代ウォークマンなどに比べてかなりコンパクトで軽い。小型バッグに入れるならば持ち運びにも特に問題はないと思う。デザインもシンプルで美しく、青のカラーリングが初代ウォークマンのオマージュになっている。外観の仕上がりも価格にしては悪くない仕上がりで、ボリュームつまみも軽すぎずに適度なトルク感がある。
実際に使用してみると、やはりカセットテープを使うのが面白いというか楽しい。筆者は昔は普通にカセットテープを使用して音楽を聴いていたが、今使ってみると、たしかに初めのうちはテープの出し入れ自体がおぼつかず、テープの扱い方に戸惑ってしまう点もある。しかし次第に指がそれを思い出して自在にテープが操れるようになってくる。
別の曲を聴くためには「テープの出し入れをしなければならない」という一種の儀式によって、気持ちが切り替えられる感覚も思い出すことができた。また、カセットテープを持つことにより音楽を所有しているという実体的な感じもある。
それらは今の便利なDAPにはないもので、筆者の世代にとっては再発見だが、若い世代の人々にとっては新鮮な発見に思えるだろう。これがミュージシャンがライブ会場で曲を入れたカセットテープを販売することが増えてきた理由でもある。
使用法を念のために書いておくと、まず「CP13」の蓋を手で開ける。ボタンで開閉するのではないので、指でつまんで軽く持ち上げる。聴きたいカセットテープを選んでそこに差し込む。蓋を閉じるたら、再生のボタンを押下する。この時にテープが再生しなければ、テープが裏面になっているので、一度テープを取り出して反対側に回して再び差し込む。カセットテープには表と裏にA面とB面がある。これはLPレコードなどアナログメディアでは同じだが、CD世代以降のデジタルネイティブの人には分かりにくいかもしれない。
またテープを裏返さなくとも、テープを巻き戻してはじめに戻して聴くこともできる。「<<」と「>>」のマークは次の曲という意味ではなく、テープをその方向に走行させるという意味だ。次の曲にするためにはその分テープを走行させねばならない。こうしてテープが走行する機械的な感覚もアナログメディアの楽しいところだ。
最新のイヤホンで聴くカセットの音はクリアで美しい
試聴のためのイヤホンは最新のDITA AUDIO「Project M」を使用した。「CP13」にバランス駆動回路はないので3.5mmの端子のみ使用できる。当たり前だが、アナログ機器なのでDAC ICは搭載されていない。磁気テープに記録された信号を磁気ヘッドで検知してそれをそのままアンプ回路で増幅するのが、カセットテープ・プレーヤーだ。「Project M」ならばボリュームつまみの中間くらいで音量が十分取れるので、アンプの力もなかなかある方だと思う。
再生を始めるとヒス音と呼ばれるサーという背景音がかすかに聴こえる。これもデジタルメディアにはない特徴だ。ドルビーNRという懐かしい言葉が思い出されるが、さすがに「CP13」には搭載されていない。しかし音楽が始まるとこの音は気にならなくなる。
カセットテープ・プレーヤーというと濁っているような曇りがあるようなサウンドを記憶しているが、最新のイヤホンで聴く「CP13」の音は極めてクリアで美しい。ジャズヴォーカルの女声は艶やかで滑らかだ。高音域のハイハットなどの音にも鋭すぎるようなきつさがなく聴きやすい。楽器音もとても正確に聴こえ、ベースのピチカートの切れ味も良い。ロックやポップの音源ではドラムのアタック感も気持ち良い。
イヤホンをqdc「Hybrid Folk-S」に変えても音楽を楽しく聴くことができる。「Project M」や「Hybrid Folk-S」のような音色再現に優れたイヤホンを合わせると、「CP13」のアナログ的な音の良さを堪能できると思う。
おそらく我々世代のカセットテープの音のイメージは、その当時に使用していた古いイヤホンの音質の悪さも相まっていたのだろう。イヤホンの性能はその時代からは劇的に進化している。また音の良さの背景には、先に述べた高音質へのアナログ的な工夫のみならず、「CP13」の回路設計にFIIOのDAPで培われた最新のノウハウがあるのかもしれない。
いずれにせよ最新のイヤホンで聴く「CP13」の音は端的に述べてかなり良い。クリアでありながらも、アナログ的な音の滑らかさと優しさも楽しめる。また大型のフライホイールや強力な電源によって音質を向上させていることはいかにもアナログオーディオ機器らしい趣向がある。
先に書いたように、若いミュージシャンがカセットテープで音源を物販で販売することも珍しくはないのだが、買った人の多くは一種のアクセサリーとして扱い、聴くこともなく飾っておくらしい。音楽を所有したいというファンの熱意がテープという物理的な形態と合っているようだ。
しかしながら「CP13」はそう高くはないので、そうしたミュージシャンのライブ会場の物販で一緒に販売して、やはり音楽を聴いて楽しむという基本的な楽しみができるようにしたら良いのではないだろうか。
最近はLPレコードでアナログサウンドを楽しむオーディオマニアが逆に増えてきたが、アナログオーディオをポータブルで楽しむことができるのがFIIO「CP13」の特権と言えるだろう。