公開日 2024/06/21 10:30
MUTEC(ミューテック)は、プロフェッショナル向けのデジタルオーディオ製品、特にクロック関係で高度な技術力を有するブランドである。10MHzリファレンス・マスタークロックジェネレーターの「REF10」シリーズや、高精度なクロックを搭載してデジタル信号の“リクロック”を行う「MC-3+USB」はホームオーディオ環境にも適合し、その性能を遺憾なく発揮する。
“リクロック”というと聞きなれない言葉かもしれないが、基本的な意味はデジタル信号の“クロック”をより精度高く打ち直すということ。特にスペックの高いデジタルデータのDA変換においては、時間軸方向の正確性がその変換精度に関わってくる。通常はDAコンバーターの内部クロックに同期してDA変換されるが、そこに外部マスタークロックを追加することでより精度の高い変換が実現でき、音質向上に関わってくる…ということはよく知られたところだろう。
しかし、DAコンバーターにはクロック入力を持たない機器も多い。そこで、「MC-3+USB」の出番である。USBで入力したデータを“リクロック”してPCM出力することで、クロック入力を持たないDAコンバーターに対しても良質なクロックを供給できる。コンシューマーオーディオの世界ではほとんど類を見ない、珍しいタイプのプロダクトである。
2016年に発売された「MC-3+USB」は、DSDやDXDといったハイスペック音源を高音質で楽しみたいユーザーの間で大きなヒットを飛ばしたが、実は本機はストリーミングサービスの音質向上としても活用できる。現在主流のストリーミングサービスは、Amazon Musicにせよ、Apple Musicにせよ、日本未導入のTIDALやQobuzも、いずれもPCMでの配信となっており、スペックの上限は現時点では192kHz/24bit。まさにPCM音源の高音質化に貢献する「MC-3+USB」が活躍できる環境だ。
そこで今回は、Amazon Musicを使用して、どのような音質改善効果が見られるか検証してみた(なお、MC-3+USBはDSD音源も受けることはできるが、リニアPCMにリアルタイム変換しての出力となる)。
MC-3+USBは横幅20センチに収まる非常にコンパクトな製品であり、既存のオーディオシステムに追加導入しやすいサイズ感でもある。デジタル入力はUSB typeBのほか、BNCデジタル、AES/EBUを搭載。デジタル出力は光デジタル・同軸デジタル・AES/EBUを搭載しており、幅広いトランスポート/DACと組み合わせが可能だ。ちなみにMC-3+USBはRoon Testedの認証を受けており、再生ソフト「Roon」と組み合わせた際の動作が担保されている。このあたりも、ホームオーディオでの使用を意識した配慮といえる。
今回は各種ストリーミングサービスに対応し、USB出力も可能なBluesoundの「NODE」と、Ferrum AudioのDAC「WANDLA」を組み合わせたシステムを用意した。NODEは単体でもDAコンバーターを内蔵しているが、外部DACを用いることでさらに音質を追求している、というシチュエーションである。
そのうえでさらにNODEとWANDLAの間にMC-3+USBを追加し、USBのリクロック&アイソレーションがどのような音質改善をもたらすかを検証した。プリ&パワーアンプにはMOONの「740P」「860A v2」、スピーカーにはParadigmのブックシェルフ「Persona B」を用いた。
まずはシステムの核となるWANDLAの素性を確認すべく、NODEから直接USB接続で聴く。最初に再生したピアニストのヘルゲ・リエンとドブロ奏者クヌート・ヘムのデュオ・アルバム『Hummingbird』(96kHz/24bit)では、コンパクトなサイズとシンプルな構造の筐体からはイメージできない、良い意味で塊感のある濃厚な再生音が印象的。一つ一つの音像は大きめで、空間描写は横方向の広がりよりも前後の奥行きの深さが際立つ。総じて繊細さよりは押し出しの強さが意識されるが、情報量の豊かさやディテールの描写といった点でも優秀であり、現代のDACに期待される高い能力もしっかりと感じられる。
続いて、NODEとWANDLAの間にMC-3+USBを追加する。MC-3+USBとWANDLAの接続にはオーディオみじんこのAES/EBUケーブル「OMEGA110」を使用した。MC-3+USBのフロントパネルは大量のインジケーターが並び、一見難解にも思えるかもしれないが、実際の使用方法はシンプルだ。トランスポート(今回はNODE)のUSB出力からMC-3+USBのUSB-B入力につなぎ、AES/EBU出力(これはDAC側の端子によっては同軸or光デジタルも使用できる)からDAコンバーター(今回はWANDLA)に繋ぐだけ。
設定項目として確認しておきたいのは、一番左側の「MODE」の設定について、「INTERNAL」にすることと、「RE-CLK」が点灯しリクロック機能が動作していることを確認する、ということだ。ちなみにMC-3+USBには同社の「REF10」など10MHzの外部クロックを追加投入可能で、その場合はMODEの設定を「EXTERNAL」にする必要がある。
NODEのUSB出力をMC-3+USBでリクロック&アイソレーションすると、音像がギュッと引き締まり、空間描写では俄然上下の広がりが増す。ラドカトネフのジャズボーカル・アルバム『FairyTales』(2022年リマスター、192kHz/24bit)から「The Moon Is a Harsh Mistress」を聴くと、ボーカルがスリムになるとともに透明感が著しく向上し、伴奏のピアノとのバランス、空間の見通しも改善する。
NODEとWANDLAの組み合わせではボーカルに豊かなボディ感があり、それはそれで感心したのだが、そもそも繊細さと透明感の極致のような曲であることを考えれば、やはりMC-3+USBを追加した方がずっと好ましい。
リクロックの恩恵と思われる、鮮明な音の立ち上がりと後を引かない消え際の描写はアコースティック楽器主体の音源のみならず、現代の打ち込みを多用した音源を聴いた際にも顕著な改善をもたらす。最新の音楽代表ということで再生したチャーリーXCXのアルバム『Brat』(44.1kHz/24bit)から「360」では、歯切れのよいシンセが精緻に空間に定位する、打ち込みならではの自由闊達にして立体的な空間表現を堪能できた。
MC-3+USBの最大の魅力は、幅広いデジタル入力を搭載する機器に対し、高精度なリクロックを簡単に行えるという点にある。CEOのクリスさんのインタビューによれば、特に“精度の高い内蔵オシレーター”にコストをかけて開発しているということで、コンシューマー向けブランドとはまた違ったプロ機器メーカーならではの美学も感じさせてくれる。
だが、MUTECが培ってきた高度なクロック技術は、ホームオーディオ用途との親和性も非常に高い。さらに、先述の通り同社が展開する10MHzマスタークロックジェネレーター「REF10 NANO」「REF10」「REF10 SE120」を追加することで、さらなる音質を追求することも可能だ。
昨今注目が高まるハイレゾストリーミングサービスの再生でも音質的な恩恵を受けられる点は、おおいに注目されてしかるべきだろう。
(提供:ヒビノインターサウンド)
PCオーディオからストリーミングまで幅広く活用できる
Amazon Musicの高音質化にも効く!プロ機譲りの“リクロッカー”MUTEC「MC-3+USB」を使いこなす
逆木 一コンパクトボディに高度なクロック技術を搭載
MUTEC(ミューテック)は、プロフェッショナル向けのデジタルオーディオ製品、特にクロック関係で高度な技術力を有するブランドである。10MHzリファレンス・マスタークロックジェネレーターの「REF10」シリーズや、高精度なクロックを搭載してデジタル信号の“リクロック”を行う「MC-3+USB」はホームオーディオ環境にも適合し、その性能を遺憾なく発揮する。
“リクロック”というと聞きなれない言葉かもしれないが、基本的な意味はデジタル信号の“クロック”をより精度高く打ち直すということ。特にスペックの高いデジタルデータのDA変換においては、時間軸方向の正確性がその変換精度に関わってくる。通常はDAコンバーターの内部クロックに同期してDA変換されるが、そこに外部マスタークロックを追加することでより精度の高い変換が実現でき、音質向上に関わってくる…ということはよく知られたところだろう。
しかし、DAコンバーターにはクロック入力を持たない機器も多い。そこで、「MC-3+USB」の出番である。USBで入力したデータを“リクロック”してPCM出力することで、クロック入力を持たないDAコンバーターに対しても良質なクロックを供給できる。コンシューマーオーディオの世界ではほとんど類を見ない、珍しいタイプのプロダクトである。
2016年に発売された「MC-3+USB」は、DSDやDXDといったハイスペック音源を高音質で楽しみたいユーザーの間で大きなヒットを飛ばしたが、実は本機はストリーミングサービスの音質向上としても活用できる。現在主流のストリーミングサービスは、Amazon Musicにせよ、Apple Musicにせよ、日本未導入のTIDALやQobuzも、いずれもPCMでの配信となっており、スペックの上限は現時点では192kHz/24bit。まさにPCM音源の高音質化に貢献する「MC-3+USB」が活躍できる環境だ。
そこで今回は、Amazon Musicを使用して、どのような音質改善効果が見られるか検証してみた(なお、MC-3+USBはDSD音源も受けることはできるが、リニアPCMにリアルタイム変換しての出力となる)。
MC-3+USBは横幅20センチに収まる非常にコンパクトな製品であり、既存のオーディオシステムに追加導入しやすいサイズ感でもある。デジタル入力はUSB typeBのほか、BNCデジタル、AES/EBUを搭載。デジタル出力は光デジタル・同軸デジタル・AES/EBUを搭載しており、幅広いトランスポート/DACと組み合わせが可能だ。ちなみにMC-3+USBはRoon Testedの認証を受けており、再生ソフト「Roon」と組み合わせた際の動作が担保されている。このあたりも、ホームオーディオでの使用を意識した配慮といえる。
Amazon Musicを使用して音質の違いを検証
今回は各種ストリーミングサービスに対応し、USB出力も可能なBluesoundの「NODE」と、Ferrum AudioのDAC「WANDLA」を組み合わせたシステムを用意した。NODEは単体でもDAコンバーターを内蔵しているが、外部DACを用いることでさらに音質を追求している、というシチュエーションである。
そのうえでさらにNODEとWANDLAの間にMC-3+USBを追加し、USBのリクロック&アイソレーションがどのような音質改善をもたらすかを検証した。プリ&パワーアンプにはMOONの「740P」「860A v2」、スピーカーにはParadigmのブックシェルフ「Persona B」を用いた。
まずはシステムの核となるWANDLAの素性を確認すべく、NODEから直接USB接続で聴く。最初に再生したピアニストのヘルゲ・リエンとドブロ奏者クヌート・ヘムのデュオ・アルバム『Hummingbird』(96kHz/24bit)では、コンパクトなサイズとシンプルな構造の筐体からはイメージできない、良い意味で塊感のある濃厚な再生音が印象的。一つ一つの音像は大きめで、空間描写は横方向の広がりよりも前後の奥行きの深さが際立つ。総じて繊細さよりは押し出しの強さが意識されるが、情報量の豊かさやディテールの描写といった点でも優秀であり、現代のDACに期待される高い能力もしっかりと感じられる。
音像がギュッと引き締まり、空間描写が上下の広がりを増す
続いて、NODEとWANDLAの間にMC-3+USBを追加する。MC-3+USBとWANDLAの接続にはオーディオみじんこのAES/EBUケーブル「OMEGA110」を使用した。MC-3+USBのフロントパネルは大量のインジケーターが並び、一見難解にも思えるかもしれないが、実際の使用方法はシンプルだ。トランスポート(今回はNODE)のUSB出力からMC-3+USBのUSB-B入力につなぎ、AES/EBU出力(これはDAC側の端子によっては同軸or光デジタルも使用できる)からDAコンバーター(今回はWANDLA)に繋ぐだけ。
設定項目として確認しておきたいのは、一番左側の「MODE」の設定について、「INTERNAL」にすることと、「RE-CLK」が点灯しリクロック機能が動作していることを確認する、ということだ。ちなみにMC-3+USBには同社の「REF10」など10MHzの外部クロックを追加投入可能で、その場合はMODEの設定を「EXTERNAL」にする必要がある。
NODEのUSB出力をMC-3+USBでリクロック&アイソレーションすると、音像がギュッと引き締まり、空間描写では俄然上下の広がりが増す。ラドカトネフのジャズボーカル・アルバム『FairyTales』(2022年リマスター、192kHz/24bit)から「The Moon Is a Harsh Mistress」を聴くと、ボーカルがスリムになるとともに透明感が著しく向上し、伴奏のピアノとのバランス、空間の見通しも改善する。
NODEとWANDLAの組み合わせではボーカルに豊かなボディ感があり、それはそれで感心したのだが、そもそも繊細さと透明感の極致のような曲であることを考えれば、やはりMC-3+USBを追加した方がずっと好ましい。
リクロックの恩恵と思われる、鮮明な音の立ち上がりと後を引かない消え際の描写はアコースティック楽器主体の音源のみならず、現代の打ち込みを多用した音源を聴いた際にも顕著な改善をもたらす。最新の音楽代表ということで再生したチャーリーXCXのアルバム『Brat』(44.1kHz/24bit)から「360」では、歯切れのよいシンセが精緻に空間に定位する、打ち込みならではの自由闊達にして立体的な空間表現を堪能できた。
コンパクトボディに高度なクロック技術を搭載
MC-3+USBの最大の魅力は、幅広いデジタル入力を搭載する機器に対し、高精度なリクロックを簡単に行えるという点にある。CEOのクリスさんのインタビューによれば、特に“精度の高い内蔵オシレーター”にコストをかけて開発しているということで、コンシューマー向けブランドとはまた違ったプロ機器メーカーならではの美学も感じさせてくれる。
だが、MUTECが培ってきた高度なクロック技術は、ホームオーディオ用途との親和性も非常に高い。さらに、先述の通り同社が展開する10MHzマスタークロックジェネレーター「REF10 NANO」「REF10」「REF10 SE120」を追加することで、さらなる音質を追求することも可能だ。
昨今注目が高まるハイレゾストリーミングサービスの再生でも音質的な恩恵を受けられる点は、おおいに注目されてしかるべきだろう。
(提供:ヒビノインターサウンド)