公開日 2024/08/20 06:30
ネットワークプレーヤーの先駆者として、そのグローバル市場を牽引してきたスコットランドのLINN。ここで採り上げた「MAJIK DSM/4」は、その最新にして最廉価、インテグレーテッドアンプをビルトインした、同社が考える最もスマートかつコンビニエントなコンポーネントである。
MAJIK DSM/4の起源は、2009年に誕生したMAJIK DS-I。同機はその後HDMI1.3入出力の追加やLINN独自のデジタルネットワーク伝送EXAKT LINKの対応など、基礎体力を順次強化。約12年を経た2020年、コスメティックデザインを含む、ほぼすべてを刷新した現在のMAJIK DSM/4がローンチしたというわけだ。
上位機から継承したフロントパネルは、有機ELによる鮮明なディスプレイで、視認性はひじょうに高い。アルミ製のその筐体内部には、新型DACシステム、デジタル+アナログによるハイブリッド構成フォノイコライザー(MM対応)、デジタルボリューム、DSPを用いた独自の定在波除去システム「Space Optimisation」といった自慢の最新テクノロジーが満載。さらに独自設計の100W×2クラスDアンプやスイッチモードパワーサプライ等、伝承技術が惜しみなく搭載されている。
ファイルフォーマットはDSD(5.6MHzまで)の再生準拠しており、TIDAL、Qobuz、Spotify等のストリーミング対応も万全。HDMIは2.0準拠で、HDMI-ARCにも対応しているのでテレビ等との連携も無問題である。
背面を眺めてみると、各端子が整然とレイアウトされているのがわかる。その中で、コストダウンから仕方ないのかもしれないが、小型なスピーカー端子がほぼバナナプラグ専用仕様となっており、Yラグ端子をつなげにくい点が少々残念。
このMAJIK/DSM4にコンパクトな欧州系ブックシェルフスピーカー3モデルを組み合わせ、それをインプレッションするのが今回の主旨だ。
最初に聴いたのが、フランス拠点の新進ブランド・REVIVAL AUDIO(リバイバルオーディオ)の「ATALANTE3」。28mmソフトドーム型トゥイーターと18cmウーファーの組み合わせだが、最も特徴的なのがウーファーの振動板。玄武岩(バサルト)を用いた基材に、表面にはバサルト繊維、裏面は特殊ダンピング材付きフェルトでサンドイッチした構造で、軽くて剛性に優れ、しかもリサイクルできるのが特徴だ。
同社ではこの振動板がグラスファイバーやケブラーを凌ぐ特性を有すると説いている。一方のトゥイーターは、特許取得済みの共振防止法「インナードームテクノロジー」と大型バックチャンバーダンピング構造の採用が興味深い。クラシックなデザインのエンクロージャーは、上下で2分割されたバッフル構造で、背面にポートを備えたバスレフ方式を採用する。
今回で3度目になるATALANTE3の試聴だが、毎度このスピーカーが聴かせる自然体でオーガニックな音色には惚れ惚れする。ヴォーカルは伸びやかで艶やか。人肌の温もりと温度感が感じられる。
クラシックも楽器の響きが良好で、細部のニュアンス描写、オーケストラ全体のスケール感など、細やかさと雄大さという対照的な再現性において、とても非凡なところを見せたくれた。
次に聴いたのは、点音源同軸ドライバーユニット「Uni-Q」がシンボリックなKEFのスピーカー「Reference 1 Meta」だ。第12世代Uni-Q ドライバーは、新しい消音技術「MAT(メタマテリアル・アブソープション・テクノロジー)」の搭載が最大のセールスポイント。この機構がドライバーユニット背面に放出された620Hz以上の帯域のほぼ99%の消音作用を持つという。
なお振動板は25mmトゥイーターと125mmミッドレンジの組み合わせで、いずれもアルミニウム製。双方のユニットのリニアリティ等を考慮したダンパーやバスケット構造などにも工夫が施されている。165mmウーファーもアルミニウム振動板を採用しており、システム全体の音色のマッチングは入念だ。
ヴォーカル音像の定位とその実体感は、さすがはKEF、さすがUni-Qドライバーという印象。伸びやかで透明感があり、色艶や温度感も申し分ない。ベースラインもクリアに聴き取れ、音場の少し奥からキックドラムが克明にリズムを刻むのがわかる。ライブならではの臨場感が鮮明に浮かび上がった。
クラシックはピアノ協奏曲。ホールの残響と思われるナチュラルなリヴァーブを伴ったピアノの響きが美しい。ファンタジックなその調べがオーケストラの雄大な響きを背にして明瞭に展開した。
ビートルズの「サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の最新リマスタリングを再生してみると、セパレーションのよさ、楽器の粒立ちなど、立体感とリアリティが感じられた。ホルン等のブラスセクションがやや奥まった位置に定位していることもはっきりとわかった。
最後に聴いたのが、モニタースピーカーとしても人気のBowers & Wilkins「805 D4 Signature」。ラウンドシェイプのエンクロージャーに、Signatureのみの特別カラーをまとう。お馴染みのダイヤモンド振動板ドーム型トゥイーターには新設計のグリルが与えられ、ディスパージョンを始めとしたさまざまな特性が飛躍的に改善された。これに伴い、高剛性バックプレートに搭載されたクロスオーバーネットワークにも手が加えられている。
ビートルズの「サージェント〜」を聴くと、やはりモニター的な鳴り方に感じる。左右チャンネルの明快なセパレーションとコーラスの分離が素晴らしい。この最新リマスター盤は、アビーロードスタジオにておそらく常設のB&Wスピーカーを使ってリマスタリングされたと思われ、抜群の再現性だ。ブラスセクションの奥行き感もいい感じだが、リンゴ・スターが叩くスネアドラムの音のピッチが意外と高いことに改めて気付いた。
ピアノ協奏曲でもホールトーンの美しさと共に、鍵盤を叩く指のタッチの強弱、緩急のニュアンスが細やかに描写された。さすがはモニタースピーカーの血統という印象だ。オーケストラの楽器配置も克明で、演奏全体のスケール感も申し分ない。特にこのSignature になって音楽の聴かせどころのツボがいい感じに明晰になり、サウンドパフォーマンスがより高処に昇華したように感じる。MAJIK DSM/4との相性はとてもよさそうだ。
LINN MAJIK/DSM4は、スピーカーをねじ伏せるような駆動でなく、スピーカーと共生しながらその持ち味をサポートするような鳴り方に感じた。そうした振る舞いが、LINNならではの音楽に対する奥床しさに違いないと思った次第だ。
(提供:リンジャパン)
【特別企画】スピーカーの持ち味をしっかりサポートする
話題のハイエンド・ブックシェルフスピーカーを「MAJIK DSM/4」はどう鳴らす?B&W/KEF/REVIVAL AUDIOでテスト
小原由夫コンパクトボディに最新ネットワーク機能を盛り込んだロングセラー機
ネットワークプレーヤーの先駆者として、そのグローバル市場を牽引してきたスコットランドのLINN。ここで採り上げた「MAJIK DSM/4」は、その最新にして最廉価、インテグレーテッドアンプをビルトインした、同社が考える最もスマートかつコンビニエントなコンポーネントである。
MAJIK DSM/4の起源は、2009年に誕生したMAJIK DS-I。同機はその後HDMI1.3入出力の追加やLINN独自のデジタルネットワーク伝送EXAKT LINKの対応など、基礎体力を順次強化。約12年を経た2020年、コスメティックデザインを含む、ほぼすべてを刷新した現在のMAJIK DSM/4がローンチしたというわけだ。
上位機から継承したフロントパネルは、有機ELによる鮮明なディスプレイで、視認性はひじょうに高い。アルミ製のその筐体内部には、新型DACシステム、デジタル+アナログによるハイブリッド構成フォノイコライザー(MM対応)、デジタルボリューム、DSPを用いた独自の定在波除去システム「Space Optimisation」といった自慢の最新テクノロジーが満載。さらに独自設計の100W×2クラスDアンプやスイッチモードパワーサプライ等、伝承技術が惜しみなく搭載されている。
ファイルフォーマットはDSD(5.6MHzまで)の再生準拠しており、TIDAL、Qobuz、Spotify等のストリーミング対応も万全。HDMIは2.0準拠で、HDMI-ARCにも対応しているのでテレビ等との連携も無問題である。
背面を眺めてみると、各端子が整然とレイアウトされているのがわかる。その中で、コストダウンから仕方ないのかもしれないが、小型なスピーカー端子がほぼバナナプラグ専用仕様となっており、Yラグ端子をつなげにくい点が少々残念。
このMAJIK/DSM4にコンパクトな欧州系ブックシェルフスピーカー3モデルを組み合わせ、それをインプレッションするのが今回の主旨だ。
REVIVAL AUDIO -人肌の温もりを感じる自然体でオーガニックな音色-
最初に聴いたのが、フランス拠点の新進ブランド・REVIVAL AUDIO(リバイバルオーディオ)の「ATALANTE3」。28mmソフトドーム型トゥイーターと18cmウーファーの組み合わせだが、最も特徴的なのがウーファーの振動板。玄武岩(バサルト)を用いた基材に、表面にはバサルト繊維、裏面は特殊ダンピング材付きフェルトでサンドイッチした構造で、軽くて剛性に優れ、しかもリサイクルできるのが特徴だ。
同社ではこの振動板がグラスファイバーやケブラーを凌ぐ特性を有すると説いている。一方のトゥイーターは、特許取得済みの共振防止法「インナードームテクノロジー」と大型バックチャンバーダンピング構造の採用が興味深い。クラシックなデザインのエンクロージャーは、上下で2分割されたバッフル構造で、背面にポートを備えたバスレフ方式を採用する。
今回で3度目になるATALANTE3の試聴だが、毎度このスピーカーが聴かせる自然体でオーガニックな音色には惚れ惚れする。ヴォーカルは伸びやかで艶やか。人肌の温もりと温度感が感じられる。
クラシックも楽器の響きが良好で、細部のニュアンス描写、オーケストラ全体のスケール感など、細やかさと雄大さという対照的な再現性において、とても非凡なところを見せたくれた。
KEF -ヴォーカルの実体感や定位感はさすがのもの-
次に聴いたのは、点音源同軸ドライバーユニット「Uni-Q」がシンボリックなKEFのスピーカー「Reference 1 Meta」だ。第12世代Uni-Q ドライバーは、新しい消音技術「MAT(メタマテリアル・アブソープション・テクノロジー)」の搭載が最大のセールスポイント。この機構がドライバーユニット背面に放出された620Hz以上の帯域のほぼ99%の消音作用を持つという。
なお振動板は25mmトゥイーターと125mmミッドレンジの組み合わせで、いずれもアルミニウム製。双方のユニットのリニアリティ等を考慮したダンパーやバスケット構造などにも工夫が施されている。165mmウーファーもアルミニウム振動板を採用しており、システム全体の音色のマッチングは入念だ。
ヴォーカル音像の定位とその実体感は、さすがはKEF、さすがUni-Qドライバーという印象。伸びやかで透明感があり、色艶や温度感も申し分ない。ベースラインもクリアに聴き取れ、音場の少し奥からキックドラムが克明にリズムを刻むのがわかる。ライブならではの臨場感が鮮明に浮かび上がった。
クラシックはピアノ協奏曲。ホールの残響と思われるナチュラルなリヴァーブを伴ったピアノの響きが美しい。ファンタジックなその調べがオーケストラの雄大な響きを背にして明瞭に展開した。
ビートルズの「サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の最新リマスタリングを再生してみると、セパレーションのよさ、楽器の粒立ちなど、立体感とリアリティが感じられた。ホルン等のブラスセクションがやや奥まった位置に定位していることもはっきりとわかった。
Bowers & Wilkins -緩急のニュアンスも描写するモニタースピーカーの血統-
最後に聴いたのが、モニタースピーカーとしても人気のBowers & Wilkins「805 D4 Signature」。ラウンドシェイプのエンクロージャーに、Signatureのみの特別カラーをまとう。お馴染みのダイヤモンド振動板ドーム型トゥイーターには新設計のグリルが与えられ、ディスパージョンを始めとしたさまざまな特性が飛躍的に改善された。これに伴い、高剛性バックプレートに搭載されたクロスオーバーネットワークにも手が加えられている。
ビートルズの「サージェント〜」を聴くと、やはりモニター的な鳴り方に感じる。左右チャンネルの明快なセパレーションとコーラスの分離が素晴らしい。この最新リマスター盤は、アビーロードスタジオにておそらく常設のB&Wスピーカーを使ってリマスタリングされたと思われ、抜群の再現性だ。ブラスセクションの奥行き感もいい感じだが、リンゴ・スターが叩くスネアドラムの音のピッチが意外と高いことに改めて気付いた。
ピアノ協奏曲でもホールトーンの美しさと共に、鍵盤を叩く指のタッチの強弱、緩急のニュアンスが細やかに描写された。さすがはモニタースピーカーの血統という印象だ。オーケストラの楽器配置も克明で、演奏全体のスケール感も申し分ない。特にこのSignature になって音楽の聴かせどころのツボがいい感じに明晰になり、サウンドパフォーマンスがより高処に昇華したように感じる。MAJIK DSM/4との相性はとてもよさそうだ。
LINN MAJIK/DSM4は、スピーカーをねじ伏せるような駆動でなく、スピーカーと共生しながらその持ち味をサポートするような鳴り方に感じた。そうした振る舞いが、LINNならではの音楽に対する奥床しさに違いないと思った次第だ。
(提供:リンジャパン)