公開日 2024/10/01 06:30
さらに音質を突き詰めた設計
現代最高峰のヘッドホンアンプ、SPL「Phonitor xe」。DAC回路刷新でさらに高みへ
高橋 敦
プロフェッショナル向けとして、正確かつ歪みが少なく、それでいて「アートを感じさせる」サウンド。DACチップを「AK4493SEQ」に更新、それに合わせてローパスフィルター「SLP120」を新設計したSPLが誇るヘッドホンアンプ「Phonitorシリーズ」の最新形がここにある。
録音作品の仕上げを担うマスタリング工程。SPLはそこに向けたスタジオ機器の分野で確固たる地位を築いているブランドだ。加えてその技術を投入したオーディオファン向け製品でも高い評価を獲得。中でも「Phonitor xe(DAC768v2)」はヘッドホンファン垂涎の逸品と言える。
独自の高電圧駆動技術「120Vテクノロジー」を基盤としたヘッドホンアンプ「Phonitor」シリーズ上位モデルのDAC搭載仕様であり、この1台をPC等とUSB接続するだけで最高峰のヘッドホンリスニング環境が成立。そのハイクオリティぶりは、国内最大級アワードVGPでの金賞連続受賞でも証明されているところだ。
そのハイクオリティの源泉、120Vテクノロジーについて確認しておこう。ヘッドホンアンプに限らず、コンプレッサー等のスタジオプロセッサーも含めたSPLの製品全般の基盤技術だ。一般的なオーディオ回路の多くは±15Vの電圧で駆動されているのに対して、SPLは±60Vという高電圧での駆動を選択。高電圧によって扱える音量レベルの天井を引き上げ、音声信号が天井にぶつかることで生じる歪みの大幅抑制などを実現。
そのいわゆる「ヘッドルームの余裕」からの波及効果で他の様々な要素も高められた、そのサウンドこそが、豊かな音楽性を感じさせるSPLサウンドにつながっている。
なお、Phonitorシリーズの中で、特にこの「xe」のDAC搭載モデルは、120Vテクノロジーを、ヘッドホンアンプ部に加えてDAC出力のローパスフィルター回路にも採用。DACチップ内蔵のローパスフィルターを使わず、外部に追加した独自の120V駆動回路でその処理を行うという、さらに音質を突き詰めた設計となっている。
ちなみに「DAC768v2」というモデル名は、DAC部分が仕様変更された新バージョンであることを示している。本機は当初DACチップとして「AK4490」を搭載していたが、このたび「AK4493SEQ」への変更を決断。同時に前述のローパスフィルター回路も当初の「DLP120 ( Dual-Low-Pass)」から、最新の「SLP120(Super-Low-Pass)」へと進化させたのが現行のv2仕様となる。
よりダイナミックレンジが広く歪みの少ないDACチップ、さらに磨き抜かれたローパス回
路を手に入れたわけだ。これにより、立体的なサウンドと明快なステレオイメージが得られるように進化したという。
各種ヘッドホンとの組み合わせで、新旧のPhonitor xeを比較しながらサウンドを確認してみた。あくまで仕様変更なので、確かにSPLらしい基本的なサウンド傾向に揺らぎはなかった。その魅力を一言で表すならば「鮮烈」だ。
スラップ奏法のエレクトリックベースなどパワフルな音像には強烈な力感が込められ、民族打弦楽器ハンマーダルシマーの繊細な音色の描写にはその弦の振動が見えそうなほどの解像感がある。強さと細やかさを同時に描き出す、そのダイナミクスが鮮烈さを生んでいる。
またもしも試聴する機会があれば特に耳を傾けてみてほしいのは、音のアタックから収まりまでの推移。音の立ち上がりの速さ、音に余計な膨らみを付加しない抑えの効き、音がすっと収まる着地の見事さと、とにかくまったく音がブレない。ベースのスラップでも休符を絡めたフレーズのとめはねが際立っていたが、そういう部分だ。音をビシッと制動する力が極めて強いのだろう。Phonitor xe(DAC768v2)では、さらにその個性が際立った。
音まわりでは、ヘッドホン再生にスピーカー再生的な空間性を付与できる「Phonitorマトリクス」にも注目してほしい。左右の音のなじませ具合を選ぶクロスフィードと仮想スピーカー配置の間隔を選ぶアングルのノブを組み合わせての調整が可能で、自然な聴こえになるポイントを探しやすい。
その鮮烈なサウンドに上乗せで、プロ仕様に由来する機能性が、実はオーディオファンにとっても有用だったりする点も推しておきたい。
ひとつは背面にもヘッドホン端子を備え、前後どちらの端子から出力するかをスイッチで切り替えられること。常用ヘッドホンを接続しっぱなしにするスタジオ環境を想定した設計だろう。であるがヘッドホンファンが自身のリファレンスを背面端子に常時接続しつつ、前面端子で取っ替え引っ替えを楽しむのにも都合がよさそうだ。
もうひとつはVUメーター。プロ環境では入力レベル確認に用いられるものだが、音に合わせての針の脈動は視覚的な演出として魅力的。本来の役割とは違うが、針感度の切り替えも「大きく揺れた方が楽しいから感度上げよう」みたいなノリで活用してしまいたい。
仕様変更はあれども揺るぎない強固な魅力。いつどんなタイミングで購入しても、リファレンスとして安心して選ぶことができる、間違いのない名品だ。
ヘッドホンアンプ
SPL「Phonitor xe」(DAC768v2)
販売価格:383,900円(税込)
SPEC ●最大出力レベル:2.7W×2(32Ω) ●ヘッドホン出力:アンバランス6.3mm標準、バランスXLR ●入出力端子:デジタル音声入力(光、同軸、USB Type-B、AES/EBU)、アナログ音声入力(アンバランスRCA、バランスXLR)、アナログ音声出力(アンバランスRCA、バランスXLR)ほか ●全高調波歪率:0.00091%(バランス) ●周波数特性:10Hz〜300,000Hz(−3 dB) ●外形寸法:278W×100H×330Dmm ●質量:4.3kg
本記事は「プレミアムヘッドホンガイド Vol.32 2024 AUTUMN」からの転載です。
(協力:A&Mグループ株式会社)
■変わらない哲学、塗り替えられた最高峰
録音作品の仕上げを担うマスタリング工程。SPLはそこに向けたスタジオ機器の分野で確固たる地位を築いているブランドだ。加えてその技術を投入したオーディオファン向け製品でも高い評価を獲得。中でも「Phonitor xe(DAC768v2)」はヘッドホンファン垂涎の逸品と言える。
独自の高電圧駆動技術「120Vテクノロジー」を基盤としたヘッドホンアンプ「Phonitor」シリーズ上位モデルのDAC搭載仕様であり、この1台をPC等とUSB接続するだけで最高峰のヘッドホンリスニング環境が成立。そのハイクオリティぶりは、国内最大級アワードVGPでの金賞連続受賞でも証明されているところだ。
そのハイクオリティの源泉、120Vテクノロジーについて確認しておこう。ヘッドホンアンプに限らず、コンプレッサー等のスタジオプロセッサーも含めたSPLの製品全般の基盤技術だ。一般的なオーディオ回路の多くは±15Vの電圧で駆動されているのに対して、SPLは±60Vという高電圧での駆動を選択。高電圧によって扱える音量レベルの天井を引き上げ、音声信号が天井にぶつかることで生じる歪みの大幅抑制などを実現。
そのいわゆる「ヘッドルームの余裕」からの波及効果で他の様々な要素も高められた、そのサウンドこそが、豊かな音楽性を感じさせるSPLサウンドにつながっている。
なお、Phonitorシリーズの中で、特にこの「xe」のDAC搭載モデルは、120Vテクノロジーを、ヘッドホンアンプ部に加えてDAC出力のローパスフィルター回路にも採用。DACチップ内蔵のローパスフィルターを使わず、外部に追加した独自の120V駆動回路でその処理を行うという、さらに音質を突き詰めた設計となっている。
ちなみに「DAC768v2」というモデル名は、DAC部分が仕様変更された新バージョンであることを示している。本機は当初DACチップとして「AK4490」を搭載していたが、このたび「AK4493SEQ」への変更を決断。同時に前述のローパスフィルター回路も当初の「DLP120 ( Dual-Low-Pass)」から、最新の「SLP120(Super-Low-Pass)」へと進化させたのが現行のv2仕様となる。
よりダイナミックレンジが広く歪みの少ないDACチップ、さらに磨き抜かれたローパス回
路を手に入れたわけだ。これにより、立体的なサウンドと明快なステレオイメージが得られるように進化したという。
各種ヘッドホンとの組み合わせで、新旧のPhonitor xeを比較しながらサウンドを確認してみた。あくまで仕様変更なので、確かにSPLらしい基本的なサウンド傾向に揺らぎはなかった。その魅力を一言で表すならば「鮮烈」だ。
スラップ奏法のエレクトリックベースなどパワフルな音像には強烈な力感が込められ、民族打弦楽器ハンマーダルシマーの繊細な音色の描写にはその弦の振動が見えそうなほどの解像感がある。強さと細やかさを同時に描き出す、そのダイナミクスが鮮烈さを生んでいる。
またもしも試聴する機会があれば特に耳を傾けてみてほしいのは、音のアタックから収まりまでの推移。音の立ち上がりの速さ、音に余計な膨らみを付加しない抑えの効き、音がすっと収まる着地の見事さと、とにかくまったく音がブレない。ベースのスラップでも休符を絡めたフレーズのとめはねが際立っていたが、そういう部分だ。音をビシッと制動する力が極めて強いのだろう。Phonitor xe(DAC768v2)では、さらにその個性が際立った。
音まわりでは、ヘッドホン再生にスピーカー再生的な空間性を付与できる「Phonitorマトリクス」にも注目してほしい。左右の音のなじませ具合を選ぶクロスフィードと仮想スピーカー配置の間隔を選ぶアングルのノブを組み合わせての調整が可能で、自然な聴こえになるポイントを探しやすい。
その鮮烈なサウンドに上乗せで、プロ仕様に由来する機能性が、実はオーディオファンにとっても有用だったりする点も推しておきたい。
ひとつは背面にもヘッドホン端子を備え、前後どちらの端子から出力するかをスイッチで切り替えられること。常用ヘッドホンを接続しっぱなしにするスタジオ環境を想定した設計だろう。であるがヘッドホンファンが自身のリファレンスを背面端子に常時接続しつつ、前面端子で取っ替え引っ替えを楽しむのにも都合がよさそうだ。
もうひとつはVUメーター。プロ環境では入力レベル確認に用いられるものだが、音に合わせての針の脈動は視覚的な演出として魅力的。本来の役割とは違うが、針感度の切り替えも「大きく揺れた方が楽しいから感度上げよう」みたいなノリで活用してしまいたい。
仕様変更はあれども揺るぎない強固な魅力。いつどんなタイミングで購入しても、リファレンスとして安心して選ぶことができる、間違いのない名品だ。
ヘッドホンアンプ
SPL「Phonitor xe」(DAC768v2)
販売価格:383,900円(税込)
SPEC ●最大出力レベル:2.7W×2(32Ω) ●ヘッドホン出力:アンバランス6.3mm標準、バランスXLR ●入出力端子:デジタル音声入力(光、同軸、USB Type-B、AES/EBU)、アナログ音声入力(アンバランスRCA、バランスXLR)、アナログ音声出力(アンバランスRCA、バランスXLR)ほか ●全高調波歪率:0.00091%(バランス) ●周波数特性:10Hz〜300,000Hz(−3 dB) ●外形寸法:278W×100H×330Dmm ●質量:4.3kg
本記事は「プレミアムヘッドホンガイド Vol.32 2024 AUTUMN」からの転載です。
(協力:A&Mグループ株式会社)