公開日 2024/11/21 06:30
人気沸騰中の超小型アンプの底知れぬ実力を大検証
評論家が厳選!マランツ「MODEL M1」でPolk Audio/KEF/TAD/Harbethのスピーカーを鳴らす
生形三郎/大橋伸太郎/小原由夫/土方久明
6月の登場以来、瞬く間に市場を席巻するマランツから登場したワイヤレス・ストリーミング・アンプ「MODEL M1」。
今回は、すでにそのサウンドを熟知したオーディオ評論家陣から、MODEL M1に組み合わせたいスピーカーをリクエストいただき試聴取材を実施した。そのサイズからは想像できない、MODEL M1のポテンシャルの高さを徹底解剖する。
時代やタイミングを見据え、満を持して登場したといえるマランツのMODEL M1だが、やはりその製品コンセプト最大の特徴は、22cm幅に抑えたサイズ感である。より広範な使用シーン及びユーザーに訴求するための必須条件だったわけであり、スピーカーを含むトータルのシステムで見た時に、そのサイズ感が活かせる組み合わせである方がなお良いと筆者は考えた。
しかしながら、音楽再生のスケール感は犠牲にしたくない。そこで、MODEL M1のコンパクトさが維持できるブックシェルフタイプでありつつも、例えば一般的な想定使用場所のひとつであろうテレビボードやちょっとした棚などにも置けるであろう、ギリギリのサイズからスピーカーを選んでいった。
もうひとつ大事なのが価格である。MODEL M1自体が約15万円という、一般的に見れば安くはない値段設定ではあるものの、その金額に見合う価格感のスピーカーを据えることがベターだと思考。そこで行き着いたのがPolk Audio「R200」という訳である。
とりわけ“RESERVEシリーズ”は、Polk Audioの日本導入ラインアップの中でも最上位に位置する音質グレードでありながら、価格が大変こなれている。音質も加味して、まさにMODEL M1とぴったりだと考えたのだ。
実際にMODEL M1と組み合わせて設置してみると、「R100」ほどコンパクトではないにせよ、程よいサイズ感の組み合わせと感じる。サウンドも、聴きやすいピラミッドバランスながらも活気あるR200のサウンドと、マランツらしい上品さを帯びた中・高音と量感豊かで心地よい余韻の低域再現が楽しめるMODEL M1のキャラクターとも、うまくマッチングが取れていると実感する。
ジャズのピアノトリオでは、ピアノはディティールに富みながらも滑らかなタッチが心地よい。左手側の低弦の厚みも十分で、ウッドベースも十分なボディと余韻豊かな量感が心地よく、全体的にとても耳触りのよい聴き心地なのだが、音楽演奏が持っている活気もしっかりと伝わる音の抜けの良さを備えていることが快いのだ。
低重心で落ち着いたサウンドバランス及び曲調のジャズ女性ヴォーカルソースは、そのバランスが活かされたラグジュアリーな音質を堪能させてくれた。歌声は程よい存在感で前面へと迫り、ボトム表現は豊かな低音を十分引き出しながらも、独自構造のバスレフポートである「X-Port」の恩恵もあってか、リニアな低音エネルギーの分布を実感でき、総じて音楽に没頭できるサウンドなのである。
画期的なダウンサイジングとミニマルデザインを実現したMODEL M1だが、「プリメインアンプはこうあらねばならない」という既成概念を脱ぎ捨てた結果であり、従来のライフスタイルオーディオやデスクトップオーディオの範疇にある製品ではない。
硬派のハイファイアンプの新形態である。今回の組み合わせでは、「スペースセービング性が高い分、スピーカーはサイズにとらわれず、キャビネットに余裕があってろうろうと鳴る余裕のあるものを組み合わせたい……」と考え、こぢんまりと箱庭的なシステムでなく、MODEL M1の外観を見事に裏切るスケール感豊かな再生音を狙ってみた。
いくつかの候補の中から選んだのはKEFの「R3 Meta」。同社レギュラーライン“Rシリーズ”は昨年、上位の「Blade」「The Reference」と同様にMetaテクノロジーを導入して音質面の進化を遂げた。Uni-Qドライバー背後に音響迷路MATを搭載、ドライバー後方からの不要な音の放射を吸収し、再生音への干渉を避ける技術である。
第12世代Uni-Qのサービスエリアの広さと音像のにじみのなさも魅力。MODEL M1はフロアスタンディング型の「R5 Meta」や「R7 Meta」を余裕で鳴らすパワーがあるが、価格面のバランスを考えてブックシェルフのR3 Meta+S3 Floor Standを選択した。
現代の多様なソースに対応するMODEL M1。ディスクメディアでなくファイル再生中心に聴いた。ハイレゾ系の表現力は高く、伊藤栄麻(pf)のゴルトベルク変奏曲(DSD 5.6MHz)は、MODEL M1のS/Nの高さが発揮され、静寂を背景に倍音が上方へ豊かに立ち昇る。音場中央の密度、厚みが薄まらないのは、電源部の充実等アンプとしての地力を物語っている。
高橋アキ(pf)の演奏するエリック・サティ(FLAC 192kHz/24bit)は、低音の量感に溜飲が下がる。小さな四角のブラックボックスからエネルギーがこんこんと溢れている。強い打鍵の入力にR3 Metaの高いレスポンスを聴くことができる。何より音楽空間が広々と大きい。森山良子のフォーク(FLAC192kHz/24bit)は雑味や色付きのない温もりのある歌声に聴き惚れた。
MODEL M1でインターネットラジオを聴くことも多いだろう。筆者のFM番組のオンエア用コンテンツ(MP3)は、ローレゾと感じさせないこまやかな響きと爽やかな空間の広がりに感嘆。今ユーザーは何を聴いているのか、アンプにこれから何が求められるのか……、地道な研究が音質面で着々と成果を上げているのがわかる。MODEL M1の新しさはパッケージだけではない。
マランツMODEL M1の真骨頂は、何といっても新開発のクラスDアンプの搭載だ。クラスDアンプは駆動力が高いというのが私の認識で、加えて高効率とくれば、省エネ7やカーボンニュートラルという点から、まさしくオーディオの未来の救世主になれる。MODEL M1は、そのコンパクトさもあってオーディオ機器然としておらず、前述の点も踏まえ、あるいはオーディオ史を塗り替えるマイルストーンになるかもしれない。
私は、かねがねこのアンプには高感度なコンパクト・ブックシェルフスピーカーこそふさわしいと思っていた。その製品コンセプトからしても、大型フロア型スピーカーをメインターゲットと想定して設計されてはいないはず。図らずもそれを試す機会が与えられ、私は迷わず気になるスピーカーを組み合わせた。TAD「TAD-ME1」である。
TAD-ME1に搭載された160mmウーファーは、アラミド繊維を芯材とした複合振動板で、決して鳴らしやすいタイプのウーファーではない。それをどれだけがっちり駆動するかお手並み拝見だ。一方でトゥイーターとミッドレンジの同軸型ドライバー「CST」は、シリーズ最小ながらも、高域上限は実に60kHz超。この広帯域特性をMODEL M1がどう活かすかが実に興味深いところである。
組み合わせて鳴らして真っ先に驚いたのは、やはり中域から低域までの充実した再現、表現力だ。ドリー・パートンによるポリスのカバー演奏「見つめていたい」では、乾いたスネアドラムのリズムやベースの野太いビートをがっちり骨太に鳴らしてくれた。その駆動力は期待値以上。パートンのやや擦れたチャーミングな声もくっきりと前に張り出させて再現してくれた。
上原ひろみのSonicwonder名義のアルバムから、インプロビゼーション主体の「Go Go」を再生すると、短いパッセージで繰り出されるアドリアン・フェローのベースのフィンガリングをなんとクリアーに響かせてくれたことか。シンセサイザー/ピアノのグルーヴィーなアンサンブルも、実に分厚いハーモニーで聴かせてくれる。
圧巻はユジャ・ワンのピアノ独奏、ドゥダメル指揮/LAフィルによるラフマニノフの「パガニーニ狂詩曲」。ホールの自然な残響を伴ってのピアノの豊かなオーバートーンが美しい。オーケストラが加わってからのピアノとのバランスやハーモニーの立体感に、CSTのさすがのポテンシャルを実感すると共に、MODEL M1に潜在する分解能の高さと3次元的な見通しのよさにも感心した次第。
やはりこのアンプはオーディオの新しい潮流を生み出す可能性を秘めたモデルであると確信した。
長年ピュアオーディオの機器は横幅430mmから440mmという、いわゆるフルサイズシャーシを標準としてきた。僕がMODEL M1に注目した理由は、まさにそのサイズ感で、可能な限り音質を犠牲にせずコンパクト化を達成したことにある。
マットブラックシャーシに天板部がほぼ全てメッシュで覆われたアグレッシブな外観も含め、所有欲を掻き立たられる方も多いはず。ということで、僕からは伝統あるイギリスのスピーカーブランド、ハーベスの「HL-P3ESR XD」との組み合わせを提案したい。
コンパクトな密閉型の2ウェイスピーカーで110mm径のRADIAL2コンポジットウーファーと19mm径のアルミニウム・ハードドーム型トゥイーターを搭載する。選択の理由はMODEL M1の持つサウンド傾向だ。最初は大型スピーカーを「これでもか!」と鳴らすことも考えたのだけど、MODEL M1はD級アンプらしからぬ“しなやかな音”が魅力で、音楽を大切にするスピーカーと組み合わせたかった。
ただしHL-P3ESR XDは能率が83.5dBと低いのでアンプには駆動力が要求される。Amazon Music Unlimitedを使い、すべてイギリス系のアーティストの楽曲をチョイスしたが、結果から書くとこの組み合わせは大成功だった。
まずは60年代のロック、レッド・ツェッペリンの「Whole Lotta Love 」を聴く。ジミー・ペイジのギターリフの色彩感がある。少し乾いた質感を合わせ持つ、ある意味で泥臭い匂いが出せている。ロックのグルーヴを如実に感じる理由は中音域に密度があるからだ。
現代ポップスはエド・シーラン「Autumn Variations」を聴いたが、イントロのシンセの音色が良く、そしてヴォーカルの音色が温かい。ベースもしっかりとリズムを刻み、こちらも音楽性が抜群だ。
クラシックはタスミン・リトルのヴァイオリン「British Violin Sonatas 1」を聴いた。ハーベスが得意とする弦楽器の音は絶品で、色彩が豊かで明るく透明でさわやかな響きも加わり音楽表現が素晴らしい。僕は試聴ということを忘れてしまうほど音楽に引き込まれた。
シンプルかつコンパクトなシステムからここまでの音が出せるのか、趣味としてのコンポーネントオーディオの組み合わせをアピールしたい身としては、ちょっと複雑な気持ちになる(笑)。
(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.194』からの転載です
今回は、すでにそのサウンドを熟知したオーディオ評論家陣から、MODEL M1に組み合わせたいスピーカーをリクエストいただき試聴取材を実施した。そのサイズからは想像できない、MODEL M1のポテンシャルの高さを徹底解剖する。
聴きやすいピラミッドバランスで上品な中・高音と量感豊かな余韻(生形三郎)
時代やタイミングを見据え、満を持して登場したといえるマランツのMODEL M1だが、やはりその製品コンセプト最大の特徴は、22cm幅に抑えたサイズ感である。より広範な使用シーン及びユーザーに訴求するための必須条件だったわけであり、スピーカーを含むトータルのシステムで見た時に、そのサイズ感が活かせる組み合わせである方がなお良いと筆者は考えた。
しかしながら、音楽再生のスケール感は犠牲にしたくない。そこで、MODEL M1のコンパクトさが維持できるブックシェルフタイプでありつつも、例えば一般的な想定使用場所のひとつであろうテレビボードやちょっとした棚などにも置けるであろう、ギリギリのサイズからスピーカーを選んでいった。
もうひとつ大事なのが価格である。MODEL M1自体が約15万円という、一般的に見れば安くはない値段設定ではあるものの、その金額に見合う価格感のスピーカーを据えることがベターだと思考。そこで行き着いたのがPolk Audio「R200」という訳である。
とりわけ“RESERVEシリーズ”は、Polk Audioの日本導入ラインアップの中でも最上位に位置する音質グレードでありながら、価格が大変こなれている。音質も加味して、まさにMODEL M1とぴったりだと考えたのだ。
実際にMODEL M1と組み合わせて設置してみると、「R100」ほどコンパクトではないにせよ、程よいサイズ感の組み合わせと感じる。サウンドも、聴きやすいピラミッドバランスながらも活気あるR200のサウンドと、マランツらしい上品さを帯びた中・高音と量感豊かで心地よい余韻の低域再現が楽しめるMODEL M1のキャラクターとも、うまくマッチングが取れていると実感する。
ジャズのピアノトリオでは、ピアノはディティールに富みながらも滑らかなタッチが心地よい。左手側の低弦の厚みも十分で、ウッドベースも十分なボディと余韻豊かな量感が心地よく、全体的にとても耳触りのよい聴き心地なのだが、音楽演奏が持っている活気もしっかりと伝わる音の抜けの良さを備えていることが快いのだ。
低重心で落ち着いたサウンドバランス及び曲調のジャズ女性ヴォーカルソースは、そのバランスが活かされたラグジュアリーな音質を堪能させてくれた。歌声は程よい存在感で前面へと迫り、ボトム表現は豊かな低音を十分引き出しながらも、独自構造のバスレフポートである「X-Port」の恩恵もあってか、リニアな低音エネルギーの分布を実感でき、総じて音楽に没頭できるサウンドなのである。
静寂を背景に倍音が上方へ豊かに立ち昇る(大橋伸太郎)
画期的なダウンサイジングとミニマルデザインを実現したMODEL M1だが、「プリメインアンプはこうあらねばならない」という既成概念を脱ぎ捨てた結果であり、従来のライフスタイルオーディオやデスクトップオーディオの範疇にある製品ではない。
硬派のハイファイアンプの新形態である。今回の組み合わせでは、「スペースセービング性が高い分、スピーカーはサイズにとらわれず、キャビネットに余裕があってろうろうと鳴る余裕のあるものを組み合わせたい……」と考え、こぢんまりと箱庭的なシステムでなく、MODEL M1の外観を見事に裏切るスケール感豊かな再生音を狙ってみた。
いくつかの候補の中から選んだのはKEFの「R3 Meta」。同社レギュラーライン“Rシリーズ”は昨年、上位の「Blade」「The Reference」と同様にMetaテクノロジーを導入して音質面の進化を遂げた。Uni-Qドライバー背後に音響迷路MATを搭載、ドライバー後方からの不要な音の放射を吸収し、再生音への干渉を避ける技術である。
第12世代Uni-Qのサービスエリアの広さと音像のにじみのなさも魅力。MODEL M1はフロアスタンディング型の「R5 Meta」や「R7 Meta」を余裕で鳴らすパワーがあるが、価格面のバランスを考えてブックシェルフのR3 Meta+S3 Floor Standを選択した。
現代の多様なソースに対応するMODEL M1。ディスクメディアでなくファイル再生中心に聴いた。ハイレゾ系の表現力は高く、伊藤栄麻(pf)のゴルトベルク変奏曲(DSD 5.6MHz)は、MODEL M1のS/Nの高さが発揮され、静寂を背景に倍音が上方へ豊かに立ち昇る。音場中央の密度、厚みが薄まらないのは、電源部の充実等アンプとしての地力を物語っている。
高橋アキ(pf)の演奏するエリック・サティ(FLAC 192kHz/24bit)は、低音の量感に溜飲が下がる。小さな四角のブラックボックスからエネルギーがこんこんと溢れている。強い打鍵の入力にR3 Metaの高いレスポンスを聴くことができる。何より音楽空間が広々と大きい。森山良子のフォーク(FLAC192kHz/24bit)は雑味や色付きのない温もりのある歌声に聴き惚れた。
MODEL M1でインターネットラジオを聴くことも多いだろう。筆者のFM番組のオンエア用コンテンツ(MP3)は、ローレゾと感じさせないこまやかな響きと爽やかな空間の広がりに感嘆。今ユーザーは何を聴いているのか、アンプにこれから何が求められるのか……、地道な研究が音質面で着々と成果を上げているのがわかる。MODEL M1の新しさはパッケージだけではない。
中域から低域の充実した再現や表現力に驚いた(小原由夫)
マランツMODEL M1の真骨頂は、何といっても新開発のクラスDアンプの搭載だ。クラスDアンプは駆動力が高いというのが私の認識で、加えて高効率とくれば、省エネ7やカーボンニュートラルという点から、まさしくオーディオの未来の救世主になれる。MODEL M1は、そのコンパクトさもあってオーディオ機器然としておらず、前述の点も踏まえ、あるいはオーディオ史を塗り替えるマイルストーンになるかもしれない。
私は、かねがねこのアンプには高感度なコンパクト・ブックシェルフスピーカーこそふさわしいと思っていた。その製品コンセプトからしても、大型フロア型スピーカーをメインターゲットと想定して設計されてはいないはず。図らずもそれを試す機会が与えられ、私は迷わず気になるスピーカーを組み合わせた。TAD「TAD-ME1」である。
TAD-ME1に搭載された160mmウーファーは、アラミド繊維を芯材とした複合振動板で、決して鳴らしやすいタイプのウーファーではない。それをどれだけがっちり駆動するかお手並み拝見だ。一方でトゥイーターとミッドレンジの同軸型ドライバー「CST」は、シリーズ最小ながらも、高域上限は実に60kHz超。この広帯域特性をMODEL M1がどう活かすかが実に興味深いところである。
組み合わせて鳴らして真っ先に驚いたのは、やはり中域から低域までの充実した再現、表現力だ。ドリー・パートンによるポリスのカバー演奏「見つめていたい」では、乾いたスネアドラムのリズムやベースの野太いビートをがっちり骨太に鳴らしてくれた。その駆動力は期待値以上。パートンのやや擦れたチャーミングな声もくっきりと前に張り出させて再現してくれた。
上原ひろみのSonicwonder名義のアルバムから、インプロビゼーション主体の「Go Go」を再生すると、短いパッセージで繰り出されるアドリアン・フェローのベースのフィンガリングをなんとクリアーに響かせてくれたことか。シンセサイザー/ピアノのグルーヴィーなアンサンブルも、実に分厚いハーモニーで聴かせてくれる。
圧巻はユジャ・ワンのピアノ独奏、ドゥダメル指揮/LAフィルによるラフマニノフの「パガニーニ狂詩曲」。ホールの自然な残響を伴ってのピアノの豊かなオーバートーンが美しい。オーケストラが加わってからのピアノとのバランスやハーモニーの立体感に、CSTのさすがのポテンシャルを実感すると共に、MODEL M1に潜在する分解能の高さと3次元的な見通しのよさにも感心した次第。
やはりこのアンプはオーディオの新しい潮流を生み出す可能性を秘めたモデルであると確信した。
弦楽器の音は絶品で豊かな色彩明るく透明でさわやかな響き(土方久明)
長年ピュアオーディオの機器は横幅430mmから440mmという、いわゆるフルサイズシャーシを標準としてきた。僕がMODEL M1に注目した理由は、まさにそのサイズ感で、可能な限り音質を犠牲にせずコンパクト化を達成したことにある。
マットブラックシャーシに天板部がほぼ全てメッシュで覆われたアグレッシブな外観も含め、所有欲を掻き立たられる方も多いはず。ということで、僕からは伝統あるイギリスのスピーカーブランド、ハーベスの「HL-P3ESR XD」との組み合わせを提案したい。
コンパクトな密閉型の2ウェイスピーカーで110mm径のRADIAL2コンポジットウーファーと19mm径のアルミニウム・ハードドーム型トゥイーターを搭載する。選択の理由はMODEL M1の持つサウンド傾向だ。最初は大型スピーカーを「これでもか!」と鳴らすことも考えたのだけど、MODEL M1はD級アンプらしからぬ“しなやかな音”が魅力で、音楽を大切にするスピーカーと組み合わせたかった。
ただしHL-P3ESR XDは能率が83.5dBと低いのでアンプには駆動力が要求される。Amazon Music Unlimitedを使い、すべてイギリス系のアーティストの楽曲をチョイスしたが、結果から書くとこの組み合わせは大成功だった。
まずは60年代のロック、レッド・ツェッペリンの「Whole Lotta Love 」を聴く。ジミー・ペイジのギターリフの色彩感がある。少し乾いた質感を合わせ持つ、ある意味で泥臭い匂いが出せている。ロックのグルーヴを如実に感じる理由は中音域に密度があるからだ。
現代ポップスはエド・シーラン「Autumn Variations」を聴いたが、イントロのシンセの音色が良く、そしてヴォーカルの音色が温かい。ベースもしっかりとリズムを刻み、こちらも音楽性が抜群だ。
クラシックはタスミン・リトルのヴァイオリン「British Violin Sonatas 1」を聴いた。ハーベスが得意とする弦楽器の音は絶品で、色彩が豊かで明るく透明でさわやかな響きも加わり音楽表現が素晴らしい。僕は試聴ということを忘れてしまうほど音楽に引き込まれた。
シンプルかつコンパクトなシステムからここまでの音が出せるのか、趣味としてのコンポーネントオーディオの組み合わせをアピールしたい身としては、ちょっと複雑な気持ちになる(笑)。
(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.194』からの転載です