トップインタビュー

TDK(株)
レコーディングメディア&ソリュー
ションズ ビジネス・グループ
ゼネラル・マネージャー
執行役員

鹿内雅俊 氏
Masatoshi Shikanai

差別化こそが利益の源泉
革新的で本質的な差別化を
自ら陣頭指揮していく

高品位をキーワードに発売されたTDKの新開発DVDメディア「スーパーハードコート」が、市場で高い人気を集めている。
価格競争に明け暮れ、消耗戦的な色彩が色濃いデジタル記録メディアビジネスにあって、高付加価値ビジネスの実現に向けて敢然と立ち上がったTDKの鹿内執行役員に、同社の戦略を聞く。

インタビュー ● 音元出版社長 和田光征

日本ほどお客様の目が厳しく
商品価値を問われる国は
ないのではないですか?

価格競争から価値を
生み出すことはできない

―― DVD録画機の登場によって録画用の主力メディアが、磁気記録から光記録への転換がはじまり、DVDレコーダー、メディアの双方にとって、大変大きな市場が生まれてきました。オーディオテープやビデオテープなど、これまでのAV用記録メディアは差別化戦略で発展してきた経緯があります。そこで、はじめにTDKさんのDVDの差別化戦略を聞かせてください。

鹿内 バブルがはじけたあとの10年くらいの間に、パラダイムシフトが起きて、世の中のものの見方や価値観が変わってきました。

昨今はデフレスパイラルなどといって、安くて手軽なものが好まれるという固定観念が生まれていますが、われわれ自身もそのデフレスパイラルの罠にはまっていたように思います。

しかし、われわれが認識したことは、価格競争によって価値を生み出すことはできないということでした。また、コンシューマーにとっても、安ければ安いほどいいという風潮に満足しているかというと、そうではないと思います。

パラダイムシフトにつれてインディビジュアライズが進んでいます。価値に対してお客様はお金を払う、というのが新しいパラダイムだと思います。われわれ供給サイドは、それに応える商品開発をしなければなりませんが、それを忘れていたように思います。

TDKでは、このままでは、記録メディアビジネスの成長が期待できなくなるという中で、差別化により競争力を高めるという付加価値ビジネスの戦略に切り替えました。

ところが、頭を切り替えてみたものの、今度は行動がなかなかついていきませんでした。思考だけでなく、行動パターンまで忘れかけていたからです。

そこで、スタッフと話し合いを続け、議論し続けることによって、取り戻していくしかないという合意に達したのが1年くらい前です。指向や行動パターンを変えるということはなかなか難しいものです。

でも、人間はぎりぎりのところまで追い詰められると、解決策が出てきます。今回発売した「超硬(スーパーハードコート)」は、本来、Blu-rayという次世代メディア用として開発されたものです。価格設定は従来品と比べて相当高価ですが、大変高い評価をいただいています。

売れ行きも非常に好調です。高くてもいいものに対して、価値を認めるお客様がいらっしゃるということですね。

―― DVDのようなデジタルメディアでは、商品の差別化が難しいといわれています。しかし、AVという観点から考えていくと、差別化戦略は可能です。昨年、当社が発行しているAVレビュー誌で、各社のDVDレコーダーとDVDメディアのスクランブルテストをした結果、DVDでも画や音が変わるということが確認されました。そうした矢先に、御社からスーパーハードコートが発表されましたが、デジタルメディアでは、「これで画がよくなったとか、音がよくなった」ということを主張しづらいようですね。

鹿内 アナログですとノイズの問題などいろいろ言えますが、デジタルになってからは、自分たちからなかなか言いにくいですね。MDでもデジタルだから、音が変わらないという議論がありました。われわれも、MDや音楽用CD―Rでいろいろトライしましたが、お客様により高いレベルで受け入れていただく商品提案ができていたかというと、疑問の残るところはあります。

デジタルメディアは確かに差別化しにくい製品ですが、できないわけはありません。できないと思ってしまえばできません。でも、今、それをやっていかないといけないということです。

技術を突き詰めれば
必ず結果はついてくる

―― DVDレコーダーは、安いものでも約10万円、高いものでは20万円近くします。そういう製品で録画する人たちは、データ用の安いメディアで、満足するはずがありません。スーパーハードコートのようなクオリティーの高い記録メディアこそ、AVユーザーが求めていたものです。今回、御社がスーパーハードコートを出されたことによって、その思想が広がっていくと思います。

鹿内 スーパーハードコートもまだ第一世代です。これからもユーザーニーズに合わせて、改良を続けていくことが大切です。

私は、ヨーロッパやアメリカなど様々な国を見てきましたが、日本のお客様の物を見る目、商品に対する評価というものが一番厳しいのではないでしょうか。そういう恵まれた環境で物づくりをしているわれわれが、今、目指さなればならないことは技術です。製品を差別化する基準は技術にあります。

今回のスーパーハードコートも開発に1年以上かかっています。技術を突き詰めるという方向に自分たちを追い込んでいけば結果は必ずついてきます。

スーパーハードコートは、一つの試金石のようなものです。今、始めたばかりでこれからどんどん斬新なアイデアを盛り込んだ技術的なアプローチを進めていきます。差別化という点を追求していけば本当にいろいろなことが出てきます。

―― 今後の商品開発の方向性を、お聞かせください。

鹿内 いろいろなテーマに挑戦して追及していきたいですね。スーパーハードコートは表面を硬くするという一つの限定された差別化ですが、その中でももっといろいろな差別化ができます。さらに、今後は、もっと様々なテーマをやっていきたいと思っています。

光メディアの世界では、今ものすごい勢いで技術革新が進んでいます。容量が大きくなっていき、転送レートも速くなっていきます。そこで、我々としては革新的で本質的な差別化をきちんとやっていこうと考えています。TDKには、従来からの技術の積み上げがあります。テープと光メディアは、一見つながっていないように見えますが、実は非常に深いつながりがあります。我々はそこを育てていかなければと考えています。

―― 磁気記録と光記録の双方に、御社は相当技術やノウハウを蓄積されていますね。

鹿内 技術的な蓄積ももちろんですが、もう一つ重要なものがユーザーやマーケットから学ぶということです。あえて言えば、デフレスパイラルなど環境の変化の影響もありますが、TDKでもこの10年間、ユーザーニーズに応えた商品作りが十分であったかと考え直してみると、不十分な商品もあったのではないかと思います。

TDKは長い経験の中で、コンシューマーとコミュニケートすることがいかに大切かという意識を、直感として持っています。その意味で当社は非常に稀少だと思います。いくら素晴らしい技術を持っていても、それだけではお客様に本当に喜んでもらう商品にはつながっていきません。ビデオカセットにしてもオーディオカセットにしても、かつてそういう風にユーザーとコミュニケートしながら商品開発してきました。これはノスタルジーではなくて、基本だと思います。

より高度な感性が求められる
これからのホームシアター

―― 当時は各社がユーザー志向を競い合っていて、それが、いい意味でお互いを刺激しあっていました。また、ビデオテープでは、最初から価格競争によるつぶしあいが起きましたが、それを救ったのが差別化戦略でした。

データ用では差別化が難しいデジタルメディアですが、オーディオビジュアルの視座からは、差別化による付加価値戦略は可能ですし、必要なことです。問題は、どうやって差別化するかということですが、その意味では、御社は技術面で秀出ていますね。

鹿内 技術面では秀出ているものもありますが、それも、いずれ他社も追いついてくると思います。ここで安閑としているつもりはありません。また、ホームシアターの普及や地上波デジタル放送やネットワークを含めたハイビジョン化という大きな変化が、ブレイクのきっかけになってくると思います。ブロードバンドという言い方をするとあいまいになりますが、要は高精細度のビジュアルが求められる時代になっていくということです。

ハイビジョンによって、ホームエンターテインメントがより高度な感性を求められるという新しい形に変わっていきます。そして、そこで求められるクオリティーは非常に高くなっていきます。これからはBlu-rayなどの大容量・高転送メディアの時代になっていきますが、いずれにしてもメディアメーカーとしての我々に求められていることは、技術的にブレイクすべきバリアを破っていくことです。この部分では、台湾や他メーカーさんが簡単に真似をしたり、追従するというわけにはいかないと思います。

技術革新のスピードは半年くらいと非常に速いので、そこで日本が誘導的役割を果たすことになります。パラダイムシフトやライフスタイルの変化に、マッチするものを、我々がもともと持っている技術を用いて、どれだけ応えていけるかということです。それができれば差別化された一つの商品創造になります。それは我々にとって非常に大きなチャレンジになりますが、一方では非常に大きなチャンスだと考えています。

―― 発想の起点を業界全体が変えるべきですね。

鹿内 各社独自の視点と、それぞれの技術的優位性を生かした商品作りが重要ですね。我々TDKとしても、記録メディアの専門性を生かした高密度・高転送レートの製品化技術や、高信頼性の商品開発を継続していくことと、業界の中で、いかにアライアンスや連携をうまくとって、早くお客様のニーズに合った世の中に提案できる商品を供給していけるかがポイントです。問題はコンシューマーにどう応えるか、その技術があるかないかということではないでしょうか。

人間の行動として
残り続ける録画再生

―― 当社ファイルウェブの調査では、DVDレコーダーの購入計画のある人が87%もいる。今後、ネットワーク配信が進んだとしても、録画再生という行為は残っていくと思いますがいかがですか。

鹿内 パッケージメディアがどうなるかについてはいつも議論のあるところです。ネットワーク配信が進んでいくと、リムーバブルメディアに残す人がいなくなるのではないかとか、パッケージメディアがなくなっていくのではないかという意見があります。私はそれにも一理あると思います。でも、実際には、ハードディスクの記録容量には限界がありますし、ネットワーク社会が到来し、大容量コンテンツが普及してくれば、パッケージメディアに対する価値の度合いが違ってきます。逆に言えば、今まで以上にリムーバブルメディアの必要性、存在意義は高まってくると考えます。そこが一つのポイントで、私は人間の行動として残っていくと思っています。

―― DVDメディアはこれから確実に需要が伸びていきます。それだけに、ますます差別化された高品位なメディアで頑張っていただきたいと思います。

鹿内 今後もスーパーハードコートやスタンダード品のプリンタブル製品などを含めて差別化したDVDメディアの商品企画を、自ら陣頭指揮をとっていきたいですね。

 

◆PROFILE◆

Masatoshi Shikanai

1949年10月3日生まれ。74年3月早稲田大学政治経済学部卒業。同年4月概DK入社。99年5月記録メディア事業本部欧州事業部長、00年4月記録メディア・システムズ事業本部欧州事業部長、01年2月記録メディア・システムズ事業本部副本部長、01年10月レコーディングメディア&ソリューションズ ビジネス・グループ ゼネラル・マネージャー、02年6月執行役員就任・レコーディングメディア&ソリューションズ ビジネス・グループ ゼネラル・マネージャー、現在に至る。 趣味はクラシック音楽の鑑賞。