トップインタビュー
シャープ(株) 濱野稔重 氏 一目でわかる感動とスマートさを テレビの世代交替が急速に進行している。2002年の国内カラーテレビの総需要台数が前年実績を割り込んだ中にあって、液晶テレビは大幅な伸びを示した。液晶テレビ市場を開拓し、マーケットリーダーとしてテレビの新世代化を強力に推進するシャープの濱野専務に、同社の液晶テレビへの取り組みと、同社のものづくりに対する考え方を聞いた。 インタビュー ● 音元出版社長 和田光征 新しいライフスタイルを 液晶テレビの売り上げが ―― 薄型テレビは、この2〜3年で急速に伸びていますね。 濱野 液晶テレビは、業界そのものがスタートしたばかりですが、今年は100万台近くまでいきそうです。需要が予想以上に大型化へとシフトした関係で、当初に立てた年間100万台の販売計画に対して、台数面では90万台程度と若干下回りそうですが、30V型や37V型が思いのほか好調なため逆に金額面では当初想定していた額を超えそうです。テレビはマーケットが大きいだけに、切り替わり始めると急速に成長します。今後がたいへん楽しみです。 ―― 御社が液晶に取り組まれたのは約30年前でしたね。大阪万博に出展するかわりに天理に研究所を作られましたが、そのときのテーマのひとつが液晶でした。ここにきてそれが大きく花開きましたね。 濱野 液晶テレビを一気に立ち上げる際には、たいへん大きな意思決定を必要としました。お客様にとっては、売価が大きなトリガーになりますが、それまでの液晶テレビは20V型で35万円以上もしました。これは、当時、36型の最高級テレビが買える価格で、あまりにも価値と価格のバランスが不釣合いでした。そこでAQUOSでは、何とか1インチ1万円まで下げようという戦略でスタートしたのです。 その結果、2001年の1月に発売したC1シリーズは、1インチあたり1万円を実現しました。20V型の希望小売価格は22万円で、店頭での実販では20万円を切りました。15V型は15万5千円、13V型は戦略的に8万8千円という希望小売価格をつけました。これは店頭での実販が7万円くらいになるということから、当初、液晶テレビ全体の45%ほどのウェイトを占めました。その後、次々にラインを拡充して、今では13V型から37V型まで25機種と、当社のブラウン管のカラーテレビよりも充実したラインナップになっています。まだまだ課題もありますが、今この矢板工場で毎月コンスタントに10万台程度を生産するというたいへん効率のいい事業展開になってきました。 その意味で2002年は、当社にとって大きな変革の年でした。国内市場では上期にブラウン管テレビと液晶テレビの売上高が逆転し、10月以降はその差がさらに開いています。台数ではまだブラウン管に届きませんが、金額ベースでは下期のテレビ全体の65%くらいが液晶になる予想です。 われわれが意識している以上に、お客様の液晶テレビに対する需要の高さを非常に強く感じています。液晶テレビに取り組んできて、本当によかったと思います。 女性に支えられた商品は ―― 私はテレビの本質はペーパーテレビだと言い続けてきました。これを最初に実現したのが液晶テレビだと思います。 濱野 液晶テレビがこれだけのスピードで家庭に普及してきているのは、女性の支持があったからです。アメリカでも、ヨーロッパでもそうですが、女性に支えられた商品は間違いなく成長します。 ブラウン管テレビは女性にとっても、一番やっかいな家電製品ではないかと思います。掃除の邪魔にもなります。テレビの裏まで掃除機をかけられず、ブラウン管も埃を吸塵して真っ黒になる。さらには後ろ側の壁まで黒くなってしまいます。 液晶テレビを使われたお客様が驚かれることは、画面に埃がたまらず、テレビの後の壁も黒ずまないということです。しかも簡単に動かせます。最近のマンションではほとんどの部屋に、アンテナのコンセントがあります。手軽に鏡台の横に持っていってお化粧をしながら、朝のドラマやニュースを見たりすることもできるので、ものすごく便利なんですね。 ―― AQUOSを発売されるまでには、ずいぶんご苦労もあったと思います。特に最初に出されたC1のデザインを決断された時は大変だったでしょう。 濱野 社内でも賛否両論がありました。見ていただいてお分かりのようにたいへん個性的なフォルムをしています。家庭用の製品では柔らかさが必要ですが、それまでの液晶テレビは、パソコンモニターのような無機質なデザインで、テレビという感じはまったくしませんでした。これでは女性に受けません。 当時、社内ではB1のデザインを最初に出そうという意見が大半でした。それで、モデル名もB1に決定したのですが、あえて、それを止めてC1を最初に出そうということにしました。 液晶テレビという新しい商品に対する認知度を高めるには、驚きを演出することが必要だと判断したからです。発売してからも当初は、ご販売店様の間でも賛否が半々に分かれました。しかし、結果は、狙いが見事にあたりました。C1のインパクトの高いデザインが、新しいテレビを店頭で認知してもらうという役割を見事に果たしてくれたからです。 ―― C1を先に出したことで、次のB1はたいへん良く売れましたね。 濱野 最初に出したC1で液晶テレビへの認知度を高められたので、次に出したB1は大ヒットしました。そういう意味で、AQUOSは導入以降、ものすごくいい展開になっています。昨年、シンプルなEシリーズで需要をさらに拡げましたが、もちろんその次のモデルも準備しています。 ―― 薄型テレビを入れると、部屋のイメージが変わりますね。 濱野 液晶テレビの大きな魅力の一つにインテリア性の高さがあります。従来、住宅雑誌などでは、インテリアを損ねるという理由から、テレビを室内に置いて写真を撮ることがほとんどありませんでした。それが、最近では薄型テレビを置いた光景を撮るようになってきました。この傾向は、日本だけでなく、ヨーロッパも含めて、世界中の地域でも同じことが言えます。液晶テレビが新しい生活スタイルを感じさせるからでしょう。 AQUOSの技術を集大成した ―― AQUOSはデザインだけでなく、画質も大変素晴らしいですね。技術面でも相当ご苦労されたんでしょうね。 濱野 当社ではブラウン管のテレビを、世界で750〜760万台作っていますが、シャープのブラウン管テレビのイメージは決して高くありませんでした。なぜかというと自分たちでブラウン管を作っていないからです。他社から供給を受けたブラウン管をベースに自分たちの技術を組み合わせて完成させるという方法では、どうしても乗り越えられない技術的な壁があります。ブラウン管のスペックで、改善したい部分があっても、自分達がブラウン管を作っているわけではありませんので、思い通りになりません。 液晶パネルの場合は、自社で作っていますから、パネルの技術者とテレビの技術者との社内コラボレーションで作り上げていくことができます。これは重要なことです。まず、開発期間が短い。製品の世代が新しくなるにつれて、映像も確実にレベルが上がってきます。 特に、今回発売した37V型では、これまでのAQUOSシリーズの技術の集大成として、「AQUOSプラットフォーム」という概念を打ち出しています。世界最高水準の液晶パネルを核に、その特性を最大限に生かすために、デジタル画像処理技術、デジタル高音質技術、環境性能、ネットワーク性能の4つのファクターを統合した、ものづくりのプラットフォームです。 そして、これらのファクターを効率的に取り込んでいこうという考え方で作ったのが今回の製品です。輝度や視野角、応答速度など従来のレベルに比較して格段に良くなっています。色の再現性もコントラストもしっかりしていて、かなり完成度の高い製品になっています。 現在は、液晶パネルの工場と製品に仕上げる工場とが、三重と栃木に分かれていますが、来年、亀山の工場ができると、これらを一貫ラインでできるようになります。そうなると、品質もさらに上がります。双方の技術開発のフィードバックによる相乗効果や、デバイスの実装をパネル側に取り込むことによる薄型化、低消費電力化など、ものづくりに大きな革新が生まれてきます。 ―― ディバイスを持っているということは大きな強みですね。 濱野 パネル技術者と製品技術者との間で、完成度をさらに高めていくための議論を侃々諤々やっています。その白熱した議論は、我々ですらびっくりするくらいの勢いで商品を進化させます。次にどうしていくかという課題がどんどん見えてくるのです。そうすれば、次の絵が描けて、そのための準備をすることができます。ブラウン管テレビでは、やりたくてもできなかった仕事の進め方ができるようになったことによって、技術者が、実に生き生きと仕事に取り組んでいます。 「他に先駆けて常に新しいものを出す」 ブラウン管でできなかった ―― 液晶テレビは、今のところ、国内での生産が中心になっていますね。 濱野 日本のメーカーにとってこの10年間は、過去に培ってきた技術をどんどん海外に展開した時期でした。その間、ものづくりはほとんど海外に出ていく一方でしたが、その頃、海外展開した技術を作り上げてきた技術者たちが、幸いにも現在まだ日本に残っているのです。でも、彼らも今は50代に入り、あと数年で会社から去っていきます。彼らが持っている生産技術を日本に根付かせ、継承していくためには、今が最後のチャンスなのです。その彼らが、今、喜んで仕事をしてくれています。後進の育成という面で、若い人たちにいい影響を与えています。若い人たちがものづくりの楽しさを知り始めているからです。これは何にも変えがたい貴重な財産になると思います。 ―― ものづくりは、日本にとっての誇りです。日本だからこそできることがあります。それをしっかりやっていこうということですね。 濱野 今、ブラウン管テレビは中国や韓国に追い上げられて、コスト的にたいへん厳しくなっています。液晶テレビでも単に低価格を狙うという方向で生産を海外に移管していくと、いずれ同じことになってしまいます。 生産地を海外に展開していく上で大切なことは、中途半端な形で技術を国外に持ち出してはいけないということです。作りこみに一番時間がかかるところや大切なところは国内で生産してブラックボックス化する。これがポイントです。 たしかに、労務費に関わるコスト面では、中国や韓国に勝てません。しかし、直接労務費の製造原価に占めるウエイトは、設計や生産技術の革新で引き下げることが可能です。そうすれば、液晶テレビ全体の原価を大きく左右するものではありません。むしろ、薄型のフラットパネルディスプレイにフィットする周辺機器の開発こそが重要です。これからのテレビは、限りなく薄く軽くなっていかねばならず、また、環境問題も非常に大きなテーマです。まだまだ日本は自国で製品を作っていくことができる国だと思います。 また、液晶テレビを作るうえで重要なことは、単に値段を下げることではありません。ブラウン管にできなかったスペックを実現する、文化的な面からユーザーの要望に応えていくということが不可欠です。これからは、画質や機能といったテレビとしての基本性能だけでなく、リサイクル性の向上、消費電力の低減など環境面にも力を入れて、トータルでコストパフォーマンスを高めていくことが求められてきます。材質や視覚的にも優れた使い心地のいい商品、お客様の新しい生活スタイルを生み出せるような液晶テレビで作っていきたいですね。 また、パネルから最終製品まで一貫生産できれば、国内生産の効率は決して悪くありません。海外で部品を集めて作る場合にくらべて、物流コストが大幅に削減されますし、生産のためのリードタイムも格段に短くなります。新しく建設中の亀山工場では、パネルの生産から検査工程までが一貫したストレート工程を実現できます。これによって、生産にかかわる全体の時間を現在の3分の1にしていこうという目標を掲げています。もちろん、開発から生産への移行も極めてスムーズに進みます。 様々なユーザーのニーズに ―― 薄型テレビという新しい商品の登場が、ユーザーの間に様々な新しいニーズを呼び起こしていますね。 濱野 液晶テレビの普及につれて、ユーザーのニーズがどんどん高くなってきています。当社には、実際にお買いになられたお客様から様々な要望が届いています。家に入れてみたら意外に大きかったとか、スピーカーが横についていると困るとか、極めて具体的です。これは、非常にありがたいことです。それを受けて次の商品企画に生かすことができるからです。その中のひとつに、電源ケーブルやアンテナ線をつながなくてもいいものができないかという要望があります。そこで、この春には完全無結線タイプの液晶テレビを発売する予定です。また、できる限り省スペースで使いたいというニーズや、風呂場で使いたいというニーズもあります。お客様がお使いになられるさまざまな場所や用途に応じた商品を、今後は作っていこうと考えています。 また、大型の液晶テレビで、今、一番好評頂いていることは重さの問題です。20キロくらいまでであれば、大きな補強をせずとも概ね壁掛けが可能だというメリットがあるからだそうです。薄型テレビをもっと普及させていくためには、壁に掛けることができるということが、たいへん重要なポイントだと思います。 また、お客様の中にはもっと高級なデザインのものが欲しいという方もいらっしゃいます。そこで、この春には、37V型をベースに、漆塗りや本革張りなど、オーダーメイド感覚で選べるAQUOSカスタムシリーズを受注品として作ろうと思っています。 ―― ユーザーから出てきた具体的な要望に対応した商品が、今後続々と出てくるということですね。 濱野 そうです。今年の年末までには、製品の中身がずいぶん変わっていきます。 マーケットがすでに出来上がっている通常の家電製品では年2回程度のサイクルで新しいモデルを出しますが、夏商戦と年末商戦以外にも、新入学や秋のブライダルなどといった、大きな需要期があります。特に4月は新年度ということで気持ちも切り換わる時期です。そこに向けて、新しいコンセプトやデザインのものを次々出していこうと思っています。 ユビキタスを実現していくうえで シャープのDNAは ―― AQUOSを含めて、AV商品全体の中で力を入れているものは何でしょうか? 濱野 今、一番力を入れているもののひとつはオーディオです。ポータブルMDやコンポなどの2chシステムから、ホームシアター用の5・1chシステムまで、すべてのオーディオ製品に1ビットアンプを搭載していきます。国内のオーディオの1ビット化比率を、下期で65%、2003年度には80%ほどにまで高めていく予定です。液晶テレビでも、今後1ビットアンプの搭載モデルを増やしていきます。高画質と高音質を組み合わせて、AとVの融合を図っていくわけです。 ―― ビューカムにも、大変力を入れていらっしゃいますね。 濱野 ビューカムも重点商品のひとつです。従来のシューティングタイプのビデオカメラは、ローアングルで撮影する時にグリップを持ち替えなければいけないなど、使い勝手の面でユーザーの方に負担がかかっていました。 そこで、2月から世界展開を開始したViewcamZでは、グリップの部分を回転させることができるようにしました。どのようなアングルで撮影するときにも、手首に負担をかけず、非常に持ちやすくするためです。これを実現するために、テープ部とカメラ部を、完全に切り分けるという新しい構造を開発しました。 ―― テープ部とカメラ部を完全に分離した構造にされたことによって、将来、DVDカムコーダーへの発展もできそうですね。 濱野 この商品の開発テーマは、新しい世代のビューカムを作る、ということでした。次の世代を見据えたビデオカメラを作り上げようということで、構想から製品化まで約2年かかりました。ビデオカメラの世界では、ここ数年でテープの時代が終わって、ハンドリング性やランダムアクセスに優れたディスクの時代に変ると言われています。そこで、ViewcamZでは、将来への発展性も考えて、テープとディスクのどちらにも対応できるような共用設計にしています。ディスクを搭載するとグリップ部は今より大幅に薄くなり、さらにコンパクトにできます。 ―― この製品の開発で、特に苦労されたことは、どういう点でしょうか。 濱野 この「ラク撮りグリップ」という新構造を開発したこと以外にも、省電力化や電池の装着場所などで、苦心しました。アウトドアでの撮影が中心のビデオカメラは、バッテリーの使用時間を長持ちさせるための省電力化が不可欠です。新開発のCGシリコン・システム液晶を搭載したことで、夏の屋外やスキー場などの明るい場所では、バックライトをOFFにしても映像がとても見やすくなりました。もちろん、長時間使用にもつながります。さらに、バッテリーを外付けにして飛び出したのでは、結局コンパクトとは言えないことから、バッテリーを本体内に装着するようにしました。それぞれは困難なものでしたが、技術者たちが「できないことは何もない」という気概で取り組んでくれた成果です。 ―― ViewcamZでもそうですが、シャープさんには、いつも新しい世界を切り拓いていこうという独特の哲学がありますね。 濱野 シャープのモノづくりのDNAに、他に先駆けて常に新しいものを出していこうということがあります。それによって商品の世界が広がり、新しいライフスタイルが生まれるからです。それは同時に、新しい需要を開拓することにもつながります。 ―― 先輩たちもやはり新しいものが好きだったんですね 濱野 たいへん苦労したと思いますが、それがDNAとして、しっかり根付いています。新技術への果敢な取り組みを支える、社長直轄の「緊急プロジェクトチーム」制度や、ユーザーの生活や動向を見つめ、新しい暮らしを提案する生活ソフトセンターの創設など、組織やしくみの面においてもユニークな財産が引き継がれているからです。 使い勝手の良さをいかに ―― 御社が積極的に取り組み続けてきた新規技術の開発の大きな財産になっていますね。 濱野 シャープには先輩たちがやってくれた様々な独自技術が財産としてあります。その中には、商品として活かせるものが、いくつもあります。シャープがテレビを発売したのは50年前です。液晶の開発をはじめたのは30年前からで、1ビットオーディオも開発を始めてからすでに10年になります。そのほかにも録画技術や無線技術など、様々な技術開発の財産が社内にあります。これは非常にありがたいことで、ITとAVを融合させるために必要なリソースは手元にほとんどすべてあります。 ―― 最近発売されたハードディスク内蔵のRWレコーダーも、新しい時代を切り拓いていく商品の一つですね。 濱野 このDV-HRD1ができあがったあと、実際に使って気づいたことがあります。それは、データ放送のレスポンスがすごく速いということです。たとえば、BSデジタル放送の株価情報を見ようと思った時など、通常のチューナー内蔵テレビでは、データを表示するのに時間がかかりますが、ハードディスク録画機能を持つこの製品では、瞬時に知りたい情報を画面に映しだすことができ、ストレスがありません。専用のCPUと録画用の高速処理システムを活用した、いわば設計上の工夫がこの使いやすさを実現したのです。 このような使い勝手の良さや利便性をもっとお客様に訴求していくべきだと思います。新しい商品を実際に使ってみて、そこで感じた商品の魅力をどれだけうまくお客様に伝えていくか。これは、ご販売店様にとっても我々にとっても非常に大切なことです。そういう努力をしていかないと、新しい機能や性能を持った商品は世の中に浸透していきません。 IT化はこれからさらに進んでいきます。地上波デジタルもいよいよ始まり、コンテンツの配信も増えてきます。そこで重要になってくるのはメモリー容量の大きさでしょう。その点、メモリーの中でも特に有望なもののひとつに、ハードディスクがあります。こうした融合商品をもっと充実させていかなければならないと思います。 ―― デジタル商品では、特にその傾向が強いですね。 濱野 新しく生まれてきた商品を、ユーザーの立場で使いこなしてみて、自分自身が感じたデジタルの凄さをさらに高めていけば、新しい商品がどんどん生まれてきます。新しいものを生み出していく、未来を実現していくということは、そういうことだと思います。 ―― 2002年までの商品には20世紀の香りが残っていましたが、2003年からは、いよいよ本格的に21世紀型商品の時代に入っていきますね。 濱野 そうであるだけに、そこから外れてはいけません。そのためには技術者は従来の倍のスピードで頑張らないといけません。 国内だけでなく、海外市場のことも考えると、液晶テレビは、今の25機種から3倍の75機種ほどにまで広げていくことが必要になります。そのためには、3倍の開発部隊が必要になりますが、それでは経営が成り立ちません。そこで、1・5倍の人員で3倍の仕事量をこなしていこうという考え方で、いま技術の再編成をやっているところです。 ユビキタス時代における ―― 2004年にはいよいよ亀山工場が完成します。液晶テレビ市場の今後をどのように予測されていますか。 濱野 これまでは、液晶テレビの目標を100万台においてきましたが、それは助走期間としての話です。液晶パネルのコストは今後、間違いなく下がっていきます。2005年には、ブラウン管の大型テレビと同じような価格帯を実現できると思います。そうなると、液晶テレビが本格的に身近なものになり、すべてが薄型フラットテレビに切り替わっていくことにもつながるでしょう。 我々の調査では、一般家庭における30型以上のカラーテレビの需要は、現在、世界で年間約800万台の市場規模になります。欧米・日本と、中国・韓国・東南アジアの富裕層が主な顧客層ですが、今後、薄型フラットテレビの比率が高まれば、1000万台は優に超えることでしょう。さらに、中小型のテレビも液晶へとシフトしていることを考え合わせると、液晶パネルの生産能力が絶対的に足りなくなります。大型液晶パネルのメーカーは当社以外にも数社ありますが、それらを合わせてもやはり全然足りません。それほど、市場規模が大きいということです。また、30V型以上の、薄型フラットテレビでは、その60%が40V型未満です。そこから判断して、30V型〜37V型あたりが家庭の中に入るベストサイズになるのではないかと予測しています。 当社としても、今後、さらに大幅な工場設備の増強が必要になってくるでしょう。そういう規模で取り組んでいかないと、市場のご要望にお応えすることができませんし、液晶テレビが切り拓く新しい文化をお客様に広く提供していくこともできません。できるだけ早く次の展開に取り組んでいきたいと思っています。 ―― 配信やユビキタスなどが話題になっていますが、2005年以降を考えておられますか? 濱野 家庭内でユビキタスを実現していくうえで大切なことは、誰にでも使えるということです。一般家庭のお子さんや奥様、お年寄りの方々がテレビのリモコンで画面を見ながら操作をできるようにならないと、ITとAVの融合はありえません。そう考えると、その時のプラットフォームはテレビに近いカタチになるのではないでしょうか。 消費電力やコストの問題など、薄型フラットテレビには、まだまだ課題が多くあります。しかし、1年も経てばそういう問題はかなり解決してくると思います。 お客様に感動を与えるエキサイティングでスマートな商品を出していくというのが我々の考え方です。液晶や1ビットオーディオなどに代表される当社が持っている様々な技術を使って、パッと見てわかる「感動とスマートさ」をコンセプトに、液晶テレビをさらに革新していきたいと思っています。
◆PROFILE◆ Toshishige Hamano 1946年7月28日生まれ。70年3月関西学院大学卒業。70年4月シャープ入社。94年10月通信オーディオ事業本部副本部長兼オーディオ事業部長。97年6月取締役経営企画室長。98年6月常務取締役経営企画室長。2000年10月常務取締役AVシステム事業本部長。02年4月代表取締役専務取締役AVシステム事業本部長。趣味はドライブ、映画、音楽鑑賞、旅。 |