トップインタビュー パイオニア 五月女 勝 氏
他社に先駆けた新技術と インタビュー ● 音元出版社長 和田光征 パイオニアの使命は 新たな組織を立ち上げて ――はじめに最近のプラズマテレビ市場の動向から聞かせてください。 五月女 昨年度のプラズマテレビの市場規模を36万台と見込んでいましたが、約25万台という結果に終りました。今期は4月に入ってから国内・海外ともに市場での動きが上向いてきました。今年は相当手応えがありそうだという印象です。今年はアテネオリンピックが開催されます。これもプラズマテレビの需要の拡大にとって大いに期待できます。 ――今回、プラズマディスプレイビジネスカンパニーという組織を新たに立ち上げられました。 五月女 ワールドワイドでのプラズマテレビの市場規模は、2005年度で350万台、2006年度には500〜600万台と見込まれています。パイオニアではこの2年来、社運をかけてプラズマ事業に取り組んできました。2004年秋から第4ラインの稼動が始まれば当社の生産能力は最大で約60万台になりますが、市場の伸びを考えるとこれでは全然足りません。 そこで、昨年からプロジェクトチームを作って、第5ラインの構想を進めてきました。その過程でNPD(NECプラズマディスプレイ梶jの案件が出てきて、100万台という数字が一気に現実的なものになってきました。100万台以上の生産規模になると、企画・技術・販売が一体となったひとつの独立した組織体としてやっていかないとうまくいきません。そこで、今回、プラズマ事業を独立させたプラズマディスプレイビジネスカンパニーという新しい組織を立ち上げて、私がその責任者をやらせていただくことになりました。 ――NECからの買収を発表されたNPDを含めた、プラズマディスプレイビジネスカンパニー全体での生産能力はどの程度になりますか。 五月女 今期はパイオニア単独で30万台強を予定しています。これとは別にNPDも約30万台レベルの生産力を持っていますので、合計で約60万台程度です。来期はパイオニア単独で60万台程度まで増強します。NPDの生産性が高まってきますので、合計で100万台を超えると思います。 ――NPDの買収についての進展状況はいかがでしょうか。 五月女 事務手続き上の問題で正式調印が遅れていますが、近日中に正式調印できると思います。今回の買収はわれわれにとって非常にいい意思決定だったと思っています。 買収を発表した時にも申し上げましたように、技術面でも販売面でもNPDが持っていないもので、パイオニアが持っているものがあります。逆に、パイオニアにないものをNPDは持っています。たとえば、多面取りの技術もその中のひとつです。パネルのラインナップでもNPDは35V型や60V型をもっています。VGAとXGAもNPDにあります。お互いに補完しあえる部分が思った以上にあることがわかってきましたので、今後が非常に楽しみです。当初はお互いのカルチャーの違いを心配しましたが、実際にお付き合いを始めてみると杞憂だったことがわかりました。NPDの皆さんは技術レベルが高く、仕事にも情熱を持たれています。素晴らしい会社と一緒になることができると思っています。 ――NPDはディバイスビジネスに強いことも大きな魅力の1つですね。 五月女 パイオニアは完成品中心のビジネスをしてきましたが、NPDはモジュールビジネスが中心です。世界規模で見ても高品質のプラズマパネルを供給できるメーカーは多くありません。NPDとパイオニアが一緒になったプラズマディスプレイビジネスカンパニーでは、これからパネルを中心としたキーディバイスの外販にも、積極的に取り組んでいきたいと思っています。 活性店との連携を強化する ――今年度の計画について聞かせてください。 五月女 われわれは今年度の国内のプラズマテレビの市場規模を45万台と見込んでいます。悪くても40万台以上は間違いないでしょう。昨年度は25万台強でしたから、大幅な伸びになります。今年は8月13日から始まるアテネオリンピックという一大イベントがあります。今、その前哨戦がスタートしたばかりですが、すでにかなりの販売実績が上がっています。6月には画期的な技術を搭載した新製品を投入しますので、動きがさらに活発になっていくと思います。 ――今後さらにプラズマテレビ市場を拡大していくために、どのような販促戦略を考えられていますか。 五月女 国内ではアテネオリンピックの前に大々的な宣伝を展開します。昨年はオードリー・ヘップバーンを使ったテレビ宣伝で、臨場感を訴求しました。これは非常に高い評価をいただいて、いろいろな調査でも当社の宣伝に対する評価がトップランクに上がっています。そのイメージを活かしながら、プラズマテレビを購入されるお客様が重視されている点を訴求していきたいと考えています。 調査の結果、プラズマテレビを購入されるお客様は、画面の大きさ・臨場感・音の良さを熱望されている方が非常に多いことがはっきり分かっています。販売店さんではなかなか音の良さまで出せませんが、それを気にされている方が多くいらっしゃいます。そこで当社では、これをフレミングの法則になぞらえてアピールしていきたいと思っています。 ――流通対策についてはいかがでしょうか。 五月女 このところ流通の様相が大きく変わってきました。以前は専門店さんと量販店さんとか、あるいはある法人さんと他の法人さんとの差でしたが、最近は同じ法人さんの中でもそれぞれのお店によって大きな格差が出てきています。 プラズマテレビでも、ただ並べているだけで全然気合が入っていない店、一応、映像は映している店、それからハイビジョンをちゃんと映しているところ、さらに進んでいるところではホームシアターと組み合わせて店頭デモをされているといった具合です。 これは大変由々しき問題です。やっていただけないところでは、いくら説明させていただいてもなかなかうまくいきません。そこで「核店千店構想戦略」と銘打って、プラズマの拡販に意欲を持って取り組んでいただけるお店と徹底的に手を組む販売店舗さんとのパートナー戦略を展開していきます。専門店さんに限らず、量販店さんでも私どものパートナーとしてプラズマテレビやホームシアターを拡販していただける販売店さんとの強力なタイアップ活動の展開を計画しています。 ――販路面では家電販売ルートに加えて住宅ルートにも注力されています。今期の具体的な目標を聞かせてください。 五月女 カーオーディオが車の純正部品になっているように、プラズマテレビを住宅の純正部品のような存在にしていきたいと思っています。今まではトライアル的に展開してきましたが、今期は国内売上の1割以上という具体的なターゲットを掲げて住宅産業やハウジングメーカさんとタイアップを強化していきます。住宅ルートの販売ではプラズマテレビの販売だけでなく、最終的にはホームシアターシステムまで含めることによって、ホームエンタテインメント環境を提供していきたいと思っています。 付加価値の高い商品を作り ――海外市場でのプラズマテレビの動向についてはいかがでしょうか。 五月女 昨年度、米国市場では35万台の市場規模にまで成長しました。今年は70万台から80万台へとさらに大幅に成長しそうです。ヨーロッパでも50万台から60万台程度はいけそうです。年初に全世界での市場規模を200万台強と見込んでいましたが、うまくいくと250万台程度まで狙えそうな感触です。日本はオリンピックで盛り上がっていますが、ヨーロッパではオリンピックよりもサッカーの方が人気があります。そのヨーロッパで今ユーロ2004が開催されています。当社ではDVD―R/RWレコーダーと組み合わせた販促活動を展開していますが、非常に好調に推移しています。もうひとつヨーロッパで特筆すべきことは、ロシア市場の急速な伸びです。ヨーロッパでも今年は期待できそうです。 その他の地域も伸びています。中南米はまだ立ち上がっていませんが、東南アジアや中近東では順調に伸びています。当社にとってこれから注力していく市場に中国があります。中国は非常に大きな市場です。プロモーターの派遣も含めて日本国内で成功した営業ノウハウを移植して、積極的な拡販活動を展開しています。 ――米国ではハイビジョン放送の増加が追い風になっていると聞いていますが。 五月女 米国では、今、一週間に1900時間くらいハイビジョン放送が流されています。これが当社にとって非常にいい影響をもたらしています。一年前までは低価格指向が強く見られましたが、ハイビジョン放送が急増してきたことによって、製品の品質の差をお客様が理解してくれるようになってきました。 米国での人気チャンネルのひとつにディスカバリーチャンネルがあります。これは非常に画像がきれいですので、店頭で見ると製品による画質の差は一目瞭然です。雑誌でも価格の安い製品は、それなりのバリューでしかないという記事が結構書かれています。そういうことも影響を及ぼしているように思います。 ――プラズマテレビは久々の大型商品にもかかわらず、店頭での単価ダウンが急速に進んでいます。これについてはどのようにみられていますか。 五月女 米国のあるビジネススクールのケーススタディーで、家電メーカーのようにならないようにするにはどうしたらいいかというテーマがあるそうです。欧米でのプラズマテレビの価格はまだ比較的安定していますが、国内市場での販売価格の低下が急激過ぎます。どこかでこれに歯止めをかけないと、流通も含めてこの業界全体が沈んでしまいます。 ――安売り競争から脱却するためのキーは何だとお考えですか 五月女 最大のポイントは、いかにして付加価値を高め、それをお客様にきちんと伝えるかです。画面に映し出される映像の美しさなどといった付加価値の高い商品を作ること、そして、それをきちんとお客様に認めていただけるように徹底的に訴求していくことが大切です。ホームシアターと組み合わせて、音の面でも臨場感を高めることも必要です。 大画面のプラズマテレビは、最終的にはホームシアターと組み合わせることで、その魅力をフルに楽しんでいただくことができます。プラズマテレビ、ホームシアターシステム、単品コンポなどホームシアターを構成するための商品ラインナップを幅広く揃えているパイオニアとして、その楽しさを訴求していくことはわれわれの使命だと思っています。ホームシアターならパイオニアということを徹底的に追求するとともに、お客様に浸透させていきたいと思っています。 世界に先駆けて開発した ――アテネオリンピックを目前に控えて新製品を発表されました。今回の商品では数多くの新しい技術が搭載されていますね。 五月女 パイオニアの使命は何といっても品質の高い商品を市場に提供することです。今回の新製品の開発にあたっては品質・環境・音質を徹底的に追求しました。最大の特徴は、世界に先駆けて開発したダイレクトフィルターを採用したことです。従来のプラズマテレビでは、前面フィルターにガラスを用いていましたが、これを世界で初めて複合フィルム化してPDPと一体化しました。これによって、明るい場所での輝度が上がり、輪郭もしっかり表現します。またガラスが一枚ですみますので映像の二重映りもなくなって、くっきりすっきりしたメリハリのある高画質で映像を表現します。今回の新製品では画質の向上だけでなく、消費電力もわずかながら下げています。50V型では、従来381Wでしたが、377Wになりました。これは業界で一番低いと思います。ガラスが1枚なくなったこともあって重量も5kg近く削減できました。薄型のプラズマテレビは、日本だけでなくアメリカや欧州の市場でも壁掛けの要望が多くあります。壁掛けへの対応力を高めるためには、軽量化が非常に重要です。薄さの面でもガラスが一枚減りましたので、約5mm薄くなって93mmになりました。その点でも、壁掛けへの対応力が高まっています。新しい技術を他社に先んじて搭載し、付加価値の高い市場を拡大していくことが、われわれの使命だと思っています。ホームシアターも含めて、パイオニアでは今後もこの路線を強力に推し進めていきます。 ◆PROFILE◆ Masaru Saotome 1944年8月20日生まれ。北海道出身。1969年パイオニア鞄社。71年パイオニアヨーロッパ。79年国際部(東南アジア、中南米、オセアニア担当)。86年パイオニアアメリカ副社長。90年国際部特機部長。93年パイオニアフランス社長。98年ホームエンタテインメントカンパニーバイスプレジデント。99年執行役員就任。01年常務執行役員就任。03年専務執行役員就任。04年プラズマディスプレイビジネスカンパニー プレジデント。現在にいたる。趣味は音楽、映画鑑賞、読書。 |