編集長インタビュー 富士フイルムイメージング 小島正彦 氏 独自の技術で ISO1600の超高感度で、「撮りたい時に、撮れるカメラ」をコンセプトにしたF10が市場で快走している。綿密なユーザー調査に基づいて、デジタルカメラユーザーの不満を解消。デジタルカメラの普及をインフラに、買替層を中心とした新たな市場創造に意欲的に取り組む富士フイルム。本年3月にファインピックス事業部次長兼販売グループ部長に着任、ファインピックスシリーズの市場戦略を牽引する小島正彦氏に同社の近況と今後の戦略を聞いた。
―― 市場で「FinePixF10」が非常に好調ですね。 小島 3月12日に市場投入させていただいた当社のF10は、どの量販店さんでもベスト3に入っているほどの大変好調な動きです。 ―― 人気のF10を開発された経緯を聞かせてください。 小島 この商品の開発テーマは、富士フイルムらしさをお客様にアピールできるような商品を作ろうということでした。そこで、具体的な商品の開発に先立って、既にデジタルカメラを実際にお使いになっているお客様が、どのような点に不満を持たれているかを徹底的に調べました。 ―― F10ではそれをひとつひとつ解決したということですね。 小島 ユーザー調査の結果、お客様はデジタルカメラに対して「暗いところでもきれいに撮れる」、「ブレない写真が撮れる」製品を求めているということがわかりました。
―― それを実現した手法がISO1600という超高感度化だったわけですね。 小島 私どもには長年にわたるカメラ開発の経験と蓄積してきた技術があります。どうすれば暗い場所でもきれいな写真を撮れるか、また、いかにすればブレのない写真を撮れるかという問題を解決する上で一番有効な手法は、感度をできるだけ高めてシャッタースピードを上げることだという結論に達しました。 ―― 感度を高めればその問題が解決できるということですね。 小島 そのとおりです。感度を高めることによって少ない光でもきれいに写せますので、暗い場所でも人物だけでなく背景もしっかりと写すことができるようになります。 ―― 今までも手ブレを解決したデジタルカメラはありましたが、御社はシャッタースピードを上げるという新たな解決手法をとられました。その理由は何でしょうか。 小島 ブレが起きる原因には、写真を撮る人の手ブレと動いているものを撮る時の被写体ブレという二つの原因があります。このうち手ブレだけを補正するものであれば、これまでも他社さんからも商品が出ています。しかし、動いているものをきちんと止めて撮るのは非常に難しいということで、今までこれを実現できたデジタルカメラはありませんでした。 ―― まさに写真のことを知り尽くした富士フイルムだから実現できた解決手法だということですね。しかし「高感度」と「高画質」を両立させることは、技術面で大変難しいように思われます。 小島 そこがF10の開発で非常に苦労した点です。デジタルカメラではレンズから取り込んだ光学的な情報を電気的に信号処理しますが、電気的な信号処理では感度を上げようとするとノイズが目立ちやすくなってしまいます。これは例えばオーディオでは雑音となって現れますし、映像では映像ノイズとして現れます。 ―― 感度が上がるとフラッシュを使わなくてすむケースが増えることも魅力ですね。 小島 たとえば室内で赤ちゃんの写真を撮る時に、従来はフラッシュをたかれることが多かったと思います。ところがフラッシュをたくと子供は驚きますので、なかなか自然な表情の写真を撮れません。これに対して感度が上がればノーフラッシュでも綺麗な写真が撮れますので、自然で生き生きとした表情の写真を撮ることができるようになります。 ―― バッテリーが長持ちすることもF10の大きな特長のひとつですね。 小島 旅行や外出先でバッテリーが切れたためにせっかくのシャッターチャンスを逃してしまうということがありました。この不満を解決するために今回のF10では省電力設計の徹底で、一回のフル充電で約500枚の連続撮影ができるようにしました。これによって今までのようにバッテリー切れを気にせずに安心して撮影することができるようになりました。
―― F10を購入されたお客様からの反響はいかがですか。 小島 今回のF10では、東京ディズニーランドを使った二つのパターンのテレビコマーシャルを作りました。ひとつはドナルドダックが乗り物に乗ってお客様が楽しまれている風景で、速い動きもブレずに撮れることを訴求しています。もうひとつはディズニーランドの象徴であるシンデレラ城をバックにした人物撮影で、暗いところでも遠くの背景まできれいに撮れるということを訴求しています。 ―― 量販店などの店頭へのプリントサンプルを置くという、従来あまり見られなかった販促策をとられています。 小島 今まで家電量販店のデジタルカメラ売り場では、なかなかプリントサンプルを置いていただけませんでした。ところが今回、お店の方にプリントサンプルを見せると、ぜひこれを置いてみようということになりました。
―― デジタルカメラの普及率が高まってきています。今後の市場の見通しを聞かせてください。 小島 最近行った調査の結果では、買い替え需要が約半分ほどを占めています。この春から夏にかけてはそれが半分以上になると見込まれます。お客様はいい写真を撮りたがられています。その気持ちにジャストミートした商品を供給することができれば、買い替え需要をもっと拡げていくことができます。 ―― 提案次第でデジタルカメラに対する新たな需要を創造していけるということですね。 小島 コンパクトカメラは最盛期で年間500万台強、平均でも年間440〜450万台ほど売れていました。一眼レフも毎年80〜100万台位は出ていました。ここから考えるとデジカメでも最低でも500〜600万台程度の出荷はずっと続いていくと見ています。 ―― その市場見通しをベースとして御社ではどのような商品戦略を持たれていますか。 小島 今までのデジタルカメラに対するお客様からの不満は、撮りたいものがあっても撮れないということがあったことでした。それが高感度型のデジタルカメラを実現できたことで、撮りたいものが撮れるようになりました。これはものすごく意義のあることだと思います。
―― 先日発表されたZ1も大変注目されています。 小島 F10に続いて、5月にスリムタイプのZ1を投入します。これは薄さ18・6mmのボディーに、ISO800の高感度を実現したコンパクトカメラです。デジタルカメラでは多分初めてではないかと思いますが、モノコックボディーで非常にスタイリッシュなデザインにしています。ボディーカラーもシルバー以外に、黒・赤・ブルーのカラーバリエーションを用意しました。液晶画面はF10と同じ2・5インチサイズですので、簡単に画像を確認することができます。 ―― 携帯プリンターPiviとの連携が図られていることもZ1の大きな特長のひとつですね。 小島 当社では昨年10月に「Pivi」という名称で、カメラ付き携帯から赤外線送信でプリントアウトできるコンパクトなモバイルプリンターを発売しました。今回のZ1はデジタルカメラでは初めて赤外線で送信できる機能を搭載していますので、撮ったその場で画像を見ながらPiviに送ってプリントすることができます。プリントは名刺サイズでアルバム化も簡単です。Z1とPiviをセットでアピールすることで、プリントしていただく楽しさもアピールしていきます。 ―― 最後に販売店さんへのメッセージをどうぞ。 小島 3月から投入させていただいたF10、それから5月に投入するZ1では、徹底的にお客様の声を聞いて商品化しました。その結果、私たちが狙ったとおりの評価をいただいています。必ずやお客様に喜んでいただける商品であると確信していますのでぜひお薦めいただきたいと思います。 ◆PROFILE◆ Masahiko Kojima 1951年東京生まれ。1974年慶応義塾大学卒。1974年富士写真フイルム株式会社入社。光機部、札幌営業所、宣伝部課長、プロフェッショナル写真部業務課長を経て、2002年札幌営業所所長、2004年富士フイルムイメージング北海道支社支社長、2005年3月より現職。趣味は写真撮影、音楽鑑賞、ゴルフ。 |