潟fィーアンドエムホールディングス
取締役 兼 代表執行役CEO

株本辰夫
Tatsuo Kabumoto

プレミアムブランドの
企業再編へ区切りをつけ
次のステップを踏み出す

価格破壊の嵐が吹き荒れる中、価値市場の創造という大きなテーマに対し、国内ホームオーディオで中核的役割を担うディーアンドエムホールディングス。05年度には様々な課題に区切りをつけ、06年度を新たなる飛躍への土台の年と位置付けた。株本辰夫代表執行役CEOに同社の戦略を聞いた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

従来と同じコトをやっていてはだめ
時代とともに変化する提案や工夫が
経営には求められています

ホームオーディオを
大いに盛り上げたい

―― 団塊世代の回帰など、ピュアオーディオに対する関心が高まりつつあるようですね。

株本 ホームオーディオというのは趣味性の大変高いものです。人間の五感に訴える奥深さや独特の楽しみ方を備えており、ポータブルオーディオやゼネラルオーディオとは、一線を引かなければなりません。ところが、そうしたこだわりやしつこさといったものが薄れていくようで、残念でなりません。そうした中での明るい光ですから、大切に育てていきたいですね。
最近はITだとか携帯電話だとか、いろいろな業界に我々のマーケットが侵食されるばかりで、逆に、こちらから攻めているところはほとんどありません。すべてが受け身であまり旗色がよくない。しかし、先程申し上げたようなこだわりのマーケットが世界中にあります。MP3の音で十分満足だというユーザーはそれでもいいかもしれません。しかし、ホームオーディオにはもっと奥の深い世界があります。

―― 音への取り組みにおいて、ものづくりの側から見ると、D&Mは市場でも中核的な役割を担う存在になると思います。02年5月の誕生から4年になりますね。

株本 設立当時から、このビジネスを将来にわたり、少しでも安定的に経営できるベースをつくりたかった。そのためには、1社での合理化ではある意味、限界にありました。もっと別の角度からダイナミックに方策を講じる必要がある。そうした思いが、デノン、マランツ両社の間で完全に一致したわけです。さらに、両方の大株主も同じ意見を持ち、最近では敵対的M&Aも珍しくない中で、友好的に成立した、大変稀なケースだったのではないかと思います。
また両社とも、日立製作所、フィリップスという親会社から離れ、独立を目指した直後にありました。期待と不安が入り混じる中で、一緒になることによって、期待の方をより強固なものにしていくことができ、タイミングとしてもまさに絶妙だったと思います。

―― オーディオの世界で趣味性の高い商品をつくろうと思うと、規模が限られ、コストを下げ切れない。一方、コストを下げるビジネスをやろうとすると、趣味性をある程度犠牲にしなければならない。そこへ、デノンとマランツが一緒になることで、オペレーション部分でのスケールメリットを出し、コスト力を向上させる。それを支えに、趣味性の高い商品をそれぞれのブランドが作り続けていく。利益も安定的、継続的に上げられる形が、この4年間で出来てきたように見えます。

株本 その通りですね。ただ、内部的には毎日丁寧に話をしていけば、どこで競争し、どこで共同歩調をとるのか、自然にコンセンサスが出来てきます。ところが大変なのは、それを外部の人にもわかってもらわなければならないということです。
デノンのお客様とマランツのお客様は違います。両方好きという人はまずいないでしょう。趣味の世界なのですから、それが当たり前なのです。ですから、ブランドの個性はまず大事にしていかなければならない。ブランドからのメッセージは、今までと何ら変わりなく、アイデンティティもカルチャーも別々であることを訴えていかなければなりません。

―― お客様や販売店も、もっとも気にされているのは、まさに、どこまでを統合され、どこからが切り分けられているのかだと思います。

株本 商品にまつわるところはすべて別になります。商品の企画、開発から始まり、お客様に対するPR、販売に至るまでは、例え余分な経費がかかろうとも、妥協することはできません。一方、統合してコストメリットを出す部分は、生産、それから間接業務と言われる経理や、人事・総務といったところです。これを全世界レベルで貫いています。


ブランドの棲み分けで
シナジー効果を発揮

―― デノンとマランツを軸にした事業の概況についてお聞かせください。

株本 まず、デノンというブランドですが、世界の多くの国でハイファイの主要ブランドとして位置付けられています。これ以上どうやって伸ばすのかというくらいに、しかも、それを安定して継続できています。ハイファイの中での商品レンジもあり、チャネルもこれ以上降ろしてはいけないというギリギリのところまで幅広く浸透しています。
一方のマランツは、専門色のはるかに強いブランドになります。日本でこそ、販売店のスタイルが欧米とは異なるため、デノンとマランツを一緒に販売しているところも珍しくありませんが、欧米では、デノンの主要チャネルではマランツの取り扱いは少なく、棲み分けされています。また、マランツはカスタムインスタレーションのチャネルのウエイトが高いため、オーディオだけでなく、ビジュアルまで含めたトータルのソリューションで、お客様の家庭の中へ、工事まで含めて一括して入っていくケースが多く見受けられます。 マッキントッシュは、販売店の側からするとマランツより商品レンジがさらにハイエンドの部分になりますので、同じ販売店でもまったく問題がありません。新たに加わったボストン・アコースティックスのボストンとスネルの両ブランドも含め、きちんと棲み分けができています。
取り扱いブランドを増やしていくことについては、現在、具体的に進んでいる話はありませんが、今後も、シナジー効果を発揮できるのであれば、前向きに検討していきたいと思います。

―― 現在、市場では、薄型大画面やDVDレコーダーなどデジタル家電が元気ですが、同時に、急激な商品価格の低下が大きな課題となっています。これに対しては、どのように見ていますか。

株本 フラットパネルディスプレイもDVDレコーダーも、今はコストが粗利を食いつぶしている段階にあります。われわれとしては、そのマイナス分を先行投資として吸収できるだけの体力はありません。しかし、市場はやがて収斂していきます。そこでは、お客様の選択が始まりますから、そのときには、私たちもブランドに相応しい商品づくりを行って参入していけるチャンスも来ると考えています。
しかし、現在の国内マーケットについて言えば、われわれのお客様である団塊世代をはじめとする40歳台以上のお客様の動きが非常に活発になってきていますから、デジタル家電に振り回されるのではなく、ここをどう捉えていくのかをもっと真剣に考えていくことが重要だと思います。
専門店でも、デジタル家電を扱えば扱うほど粗利が少なくなっています。ハードメーカーと悩みは同じですから、その限界を、突き破ることができるアイデアを一緒になって出していきたいですね。ただ、従来と同じコトをやっていてはだめなことは明らかです。時代とともに変わっていく提案や工夫がそこには必要となります。
また、もう一方では、住宅産業との密接な関連性にも注目していきたいと思います。例えば、住宅展示場とわれわれのショールームをドッキングさせる。そうすると、リビングルーム、寝室、キッチンなど、色々な生活シーンに相応しいホームオーディオやビジュアルの姿が見えてきます。そうしたチャレンジを今、スタートさせているところです。まだまだいろいろな切り口があると思います。

―― 日本のオーディオを活性化していくため、業界としてどのような方策が必要でしょうか。

株本 誰かが助けてくれるわけではないのですから、業界内の我々が先ず知恵を絞らなければなりません。例えば、秋に開催される様々なショウやイベントも、ひとつにまとめることができれば、もっと効果を発揮するはずです。主催者側の都合で考えるのか、集まってもらうお客様の立場に立って考えるのかということです。
特にホームオーディオの場合には、それをつくったメーカーの気持ち、販売していただく販売店の親切さなど、お客様との関係は、最後は人と人のつながりと言えます。これがこの世界の面白いところでもありますね。趣味の世界に近ければ近いほど色々な人がいます。本当に退屈しません(笑)。すぐにでも握手したくなる人もおられます。オーディオやビデオは、目と耳の世界だと言われていますが、もうひとつ、「口」の世界という側面もあると思います(笑)。


05年は大きな区切りの年
06年は飛躍への土台作り

―― それでは、D&Mグループの中期の事業戦略と、06年度のテーマについてお聞かせください。

株本  D&Mグループにとって、05年は3つの点から大きな節目の年となりました。 一つ目は、最終の音になるアナログの技術は大切ですが、一方で、時代の流れはデジタルですから、新しい技術を備えていかなければなりません。2003年にデジタル技術を持つブランドを3つ買収しましたが、そのうちのリオについては、ポータブル・デジタル・オーディオ技術の吸収という当初の目的を完了したため、9月末をもってハードウエア販売事業を終了しました。
二つ目は、8月末に、ボストン・アコースティックスを買収できたことです。ボストンとスネルという2つのブランドを仲間に加えることができました。さらに幅広い商品レンジ、チャネルにおいて、オーディオに対する奥深さや楽しみ方を訴えていくことができると思います。
そして三つ目が、本社の移転です。デノン、マランツおよびD&Mプロフェッショナルの各ブランドが一ヶ所に集まり、経営のさらなるスリム化と、資源の有効活用を実現していきます。この大きな3つの区切りから、05年を節目の年と位置付けています。
06年度は、05年の後半に区切りをつけた経営改革がフルに寄与してきます。中期計画もこれにあわせて、現在、見直しを進めているところです。

◆PROFILE◆

Tatsuo Kabumoto

1941年生まれ。宮崎県日南市出身。1964年芝浦工業大学電子工学科卒業。1968年4月スタンダード工業梶i日本マランツ梶j入社。1992年3月同社取締役。1995年3月同社常務取締役。1996年3月同社代表取締役社長。1998年6月同社代表取締役会長。1998年7月日本フィリップス椛纒\取締役社長。2001年9月日本マランツ椛纒\取締役会長兼CEO。2002年5月潟fィーアンドエムホールディングス代表取締社長兼CEO。2003年6月潟fィーアンドエムホールディングス取締役兼代表執行役CEO(現任)。趣味はオーディオ、ゴルフ、園芸。