(株)デノンコンシューマーマーケティング
横間 透 氏
技術力と機動力を武器に 薄型大画面テレビの普及が急速に進み、家庭用プロジェクター市場も伸張、さらにはオーディオ回帰の流れなど、オーディオを巡る環境に明るさが増してきている。D&Mグループの一員として、国内ホームオーディオ市場の中核的役割を担っているデノン。本年4月に、そのマーケティング業務を担うデノンコンシューマーマーケティングの代表取締役社長に就任した横間透氏に、オーディオ市場の活性化と同社の戦略を聞いた。 インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征 ―― 今年の4月にデノンコンシューマーマーケティングの社長にご就任されました。これまでの経歴をご紹介ください。 横間 私は1974年に日本コロムビアに入社しました。当時、デノン(当時のブランド名はデンオン)では、アンプのPMA―700、チューナのTU―500、ターンテーブルのDP―3000等を発表したコンポーネント製品の黎明期で、私は設計部でデンマーク製スピーカーを使ったSC―104やフロア型のSC―5000などの設計を担当しました。 ―― 海外から帰られて日本の市場を見られて、どのような印象を持たれましたか。 横間 私が最も驚いたのは欧州に比べて市場の変化が非常に早いことです。新製品が出てくるタイミングも早く、消えていくのも早い。お客様の嗜好も移ろいやすく会社の中での情報管理の大切さを思いました。二つ目は流通が複雑でお金と人が大変かかることです。逆にこれがきめの細かい顧客サービスに繋がっていますが、私どものような小さな会社には大変なことです。 ―― 販売店を回られてどのようなことを感じられましたか。 横間 流通業界の多くの方々と話す機会がありましたが、改めて皆さんが直面している大変な状況を認識しました。量販店では出店競争と価格の過当競争で十分な利益が得られる商売ができなくなってきていますし、専門店では固定客の囲い込みが次第に難しくなってきております。どの経営者の方もビジネスの存続に強い危機感を持たれていましたが、話し合っていますと解決の道は、メーカーは魅力的な商品を出し、お店はユニークな接客をすることが大切だという結論に何時も行きつきます。一部の販売店からは新しい商品の提案もいただきその熱心さに大変勉強になりました。デノンも微力ながら業界の活性化とお店の繁栄に力を尽くしたいと思いを新たに致しました。 ―― 量販店が音周りの商品を売っていく上で、最大の課題はどこにあると見ていますか。 横間 お客様が音楽の楽しさを体験できる仕掛け作りと、購入の決断に導く接客技術の向上が大変重要に思います。オーディオ製品を販売するためには、ハードだけでなくソフトの知識も必要でしょうし、経験に基づいた専門的な知識とノウハウが必要です。実用品ではありませんからお客様に決断していただくのに時間と手間がかかります。また店頭での接客がそのままお店の「顔」になるわけですから、お店の販売ノウハウを蓄積していく上でメーカーとしても積極的に協力させていただきたいと考えています。お客様の一抹の不安を抱えての購入の決断にはお店のスタッフの自信に満ちた言葉が必要と思います。接客技術の質の向上がお店の業績の向上にもなるでしょうし、お店のブランドイメージを高めることにもなると思います。 ―― 専門店についてはいかがですか。 横間 オーディオ市場の掘り起こし、裾野の拡大を販売店とメーカーが協力してやって行こうというご提案を多くのお店から受けています。 ―― i―Podに代表されるデジタルオーディオプレーヤーが大ヒットしています。オーディオ市場を拡大していくにはこの層に対するアプローチも重要です。 横間 今の若い人は音楽をヘッドホンばかりで聞いているという批判もありますが、一日あたりの音楽を聴いている時間は私たちの世代よりも圧倒的に長くなっていますし、ライブに行く機会も随分増えています。彼らの音楽文化に対する造詣も感性も深いように思います。彼らは将来の重要な購買層ですし日本でさらに音楽文化を花開かせていくためにもこのような世代にメーカーはさらに積極的な提案をしていく必要があります。 ―― 体験を通して理解を広めていくことが求められます。 横間 平面テレビの販売の伸びの割にホームシアターが伸びないというお話を多くの販売店さんからいただいております。オーディオがビジュアルと結び付き、さらにサラウンド機能が加わったセットにより、家庭でも気軽に映画を楽しむ機会が増えましたが、一方で組み合わせ、接続、調整の煩雑さは一般のお客様の能力を超えたものになってしまい、これが家庭の中にホームシアターが入り込めない理由のひとつになっていると感じます。 ―― あくまでも目的はいい音と画を楽しむことだということですね。 横間 アンプやCDプレーヤーは、ミュージシャンの感性とリスナーの感受性を繋ぐ重要なインターフェースで感動の増幅器です。オーディオ製品の開発では、回路が出来上がってようやく「道半ば」で残りの半分は音楽的な質の練り上げです。お客様は目に見えない演奏を自分の頭の中で質高く再構築する経験と情念を求められ、メーカーには音楽家の感性を余すところなく発する技術と執念が求められます。これがミスマッチすれば感動どころの話ではありません。 ―― 市場の拡大に向けた商品面での取り組みを聞かせてください。 横間 PC音楽に慣れた人や、ミニコンの音質に飽き足らなくなった人にどうやって音楽の楽しみの次のステップを提案していくかを社内で話し合っています。 ―― 横間社長にとっての経営課題は何でしょうか。 横間 ブランドの価値の向上と生き残りのためのビジネスモデルの構築です。 ―― ブランド価値の向上についてはいかがでしょうか。 横間 オーディオや音楽は永続的なものであると思います。時間と世代を超えてお客様からの厚い信頼を得ていくためには、オーディオ専業メーカーとしてひとつのテーマを時間を掛けて突き詰めていく姿勢が大切だと思います。オーディオは作るにも売るにも辛抱のいる商売ですが実直にやり続けていけば10年でも20年でも淘汰されずブランドを残すことができると信じていますし、それが当社の製品を今までお買い上げいただいたお客様に対する責務であると思っております。 ―― 最後に販売店へのメッセージをお願いします。 横間 オーディオ市場は縮小傾向を続けておりますが、お客様が余暇に使う時間と費用は年々増えております。また音楽の楽しみが絶えることはありません。お客様が心のゆとりを音楽を通して大切にしていただけますように我々も努力いたしますので、販売店の皆様とも歩みを共にして市場を開いていきたいと思います。 ◆PROFILE◆ Toru Yokoma |