(株)デノンコンシューマーマーケティング
代表取締役社長

横間 透
Toru Yokoma

技術力と機動力を武器に
一気通貫の組織体制で
市場の変化に素早く対応

薄型大画面テレビの普及が急速に進み、家庭用プロジェクター市場も伸張、さらにはオーディオ回帰の流れなど、オーディオを巡る環境に明るさが増してきている。D&Mグループの一員として、国内ホームオーディオ市場の中核的役割を担っているデノン。本年4月に、そのマーケティング業務を担うデノンコンシューマーマーケティングの代表取締役社長に就任した横間透氏に、オーディオ市場の活性化と同社の戦略を聞いた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

―― 今年の4月にデノンコンシューマーマーケティングの社長にご就任されました。これまでの経歴をご紹介ください。

横間  私は1974年に日本コロムビアに入社しました。当時、デノン(当時のブランド名はデンオン)では、アンプのPMA―700、チューナのTU―500、ターンテーブルのDP―3000等を発表したコンポーネント製品の黎明期で、私は設計部でデンマーク製スピーカーを使ったSC―104やフロア型のSC―5000などの設計を担当しました。
 その後、徐々にマーケティングに関わるようになり、特に海外市場に対する商品企画、中期計画の策定などを担当しました。87年には関税問題から欧州内生産拠点の設立を迫られ4年間ほどドイツ工場の設立と運営に携わりました。
 その後、91年に海外営業本部に移り米国市場の営業活動、商品企画やマーケティングを担当いたしました。当時米国ではドルビーラボが積極的にホームシアターのデジタル化を推進しており、日本の各メーカーと新フォーマットの立ち上げで苦労を共にしたことを懐かしく思い出します。
 その後99年に現地法人社長としてドイツに赴任し、03年7月からデノンフランス社長を兼務し、03年11月からデノンヨーロッパ社長を兼務しました。デノンは欧州で製造、販売、物流の活動をしておりましたが、私が赴任した当時のドイツの現地法人は経営的に非常に苦しく組織統合によるリストラの真っ只中でした。私には初めての海外駐在生活でしたが、お蔭様で4年ほどで累積損失も解消し、安定した経営体質の会社にできました。
 7年間の駐在期間を通して一番印象に残っているのはドイツの雑誌社から2006年度ブランド・オブ・ザ・イヤーを受賞したことです。これは、製品や広報を含めた企業活動全体を約5万人の読者に投票させるものですが、多くのメーカーの中から第一位の評価を受け、受賞の名誉を従業員と共に分かち合うことができました。

―― 海外から帰られて日本の市場を見られて、どのような印象を持たれましたか。

横間 私が最も驚いたのは欧州に比べて市場の変化が非常に早いことです。新製品が出てくるタイミングも早く、消えていくのも早い。お客様の嗜好も移ろいやすく会社の中での情報管理の大切さを思いました。二つ目は流通が複雑でお金と人が大変かかることです。逆にこれがきめの細かい顧客サービスに繋がっていますが、私どものような小さな会社には大変なことです。
 三つ目は消費者の質が高く、潜在的な購買力が非常に高いことです。貯蓄に回すのか、消費するのかは、商品次第で、ハイファイに関しては、メーカーが音楽による精神生活の充実を、お客様に積極的に提案していくことの大切さを感じました。打てば響く市場ですから、業界全体で市場を活性化していく努力が必要だと思います。

――  販売店を回られてどのようなことを感じられましたか。

横間 流通業界の多くの方々と話す機会がありましたが、改めて皆さんが直面している大変な状況を認識しました。量販店では出店競争と価格の過当競争で十分な利益が得られる商売ができなくなってきていますし、専門店では固定客の囲い込みが次第に難しくなってきております。どの経営者の方もビジネスの存続に強い危機感を持たれていましたが、話し合っていますと解決の道は、メーカーは魅力的な商品を出し、お店はユニークな接客をすることが大切だという結論に何時も行きつきます。一部の販売店からは新しい商品の提案もいただきその熱心さに大変勉強になりました。デノンも微力ながら業界の活性化とお店の繁栄に力を尽くしたいと思いを新たに致しました。

―― 量販店が音周りの商品を売っていく上で、最大の課題はどこにあると見ていますか。

横間 お客様が音楽の楽しさを体験できる仕掛け作りと、購入の決断に導く接客技術の向上が大変重要に思います。オーディオ製品を販売するためには、ハードだけでなくソフトの知識も必要でしょうし、経験に基づいた専門的な知識とノウハウが必要です。実用品ではありませんからお客様に決断していただくのに時間と手間がかかります。また店頭での接客がそのままお店の「顔」になるわけですから、お店の販売ノウハウを蓄積していく上でメーカーとしても積極的に協力させていただきたいと考えています。お客様の一抹の不安を抱えての購入の決断にはお店のスタッフの自信に満ちた言葉が必要と思います。接客技術の質の向上がお店の業績の向上にもなるでしょうし、お店のブランドイメージを高めることにもなると思います。

―― 専門店についてはいかがですか。

横間 オーディオ市場の掘り起こし、裾野の拡大を販売店とメーカーが協力してやって行こうというご提案を多くのお店から受けています。
 特に専門店との共同した販売活動をするために今年度から専任部隊を新設しました。彼らが日本中の専門店を巡回して仕入れの相談や新技術新製品の紹介などに加えて、時には評論家先生による試聴会を開くなど、お店と一体になって市場開拓をやっていきたいと思っています。

―― i―Podに代表されるデジタルオーディオプレーヤーが大ヒットしています。オーディオ市場を拡大していくにはこの層に対するアプローチも重要です。

横間 今の若い人は音楽をヘッドホンばかりで聞いているという批判もありますが、一日あたりの音楽を聴いている時間は私たちの世代よりも圧倒的に長くなっていますし、ライブに行く機会も随分増えています。彼らの音楽文化に対する造詣も感性も深いように思います。彼らは将来の重要な購買層ですし日本でさらに音楽文化を花開かせていくためにもこのような世代にメーカーはさらに積極的な提案をしていく必要があります。
 オーディオは生活必需品ではありません。音楽から得られる楽しさや安らぎを、お客様に目覚めていただくことが大切です。そのためのひとつの機会として、先日立地の良い銀座5丁目に毎月のイベントとして「銀座音楽倶楽部」をオープンしました。音楽好きな方々に自由にお好きなソフトを鑑賞していただこうという内容です。それだけでは満足できない方々のために、私たちのオフィス内の試聴室で最高級の音楽と映像を体験していただくこともできるようにしました。
 先日、ある中学校の生徒さんが修学旅行の一環でデノンの試聴室にこられました。自由時間の過ごし方を友達と相談し、音楽が好きな一人がデノンの試聴室に行こうということになったそうです。生徒さんが帰られた後、しばらくしてその学校の教頭先生からご丁寧な礼状と生徒さんからの手紙が届きました。先生のお手紙には「ハイファイって凄く良い音がするんだ」と生徒さんたちが目を輝かせて話しに来たということが書かれていました。市場を拡大して行く上で、こうした驚きの体験を多くの人々に与え続けることが非常に大切だと思います。

―― 体験を通して理解を広めていくことが求められます。

横間 平面テレビの販売の伸びの割にホームシアターが伸びないというお話を多くの販売店さんからいただいております。オーディオがビジュアルと結び付き、さらにサラウンド機能が加わったセットにより、家庭でも気軽に映画を楽しむ機会が増えましたが、一方で組み合わせ、接続、調整の煩雑さは一般のお客様の能力を超えたものになってしまい、これが家庭の中にホームシアターが入り込めない理由のひとつになっていると感じます。
 デノンでは簡単な接続とワンタッチ操作でホームシアターが楽しめるDVDホームシアターシステムのS―301を販売しております。ホームシアター市場の活性化には音質効果もさることながら操作性の簡単さを店頭でお客様に体験していただくことが最も大切です。平面テレビ需要は今後数年は確実に続きますので、ホームシアターの付帯需要を逃がすことの無いようにお客様にストレスの無い使用感を体験していあただけるような仕掛けを今後も提案し続けていきます。

―― あくまでも目的はいい音と画を楽しむことだということですね。

横間 アンプやCDプレーヤーは、ミュージシャンの感性とリスナーの感受性を繋ぐ重要なインターフェースで感動の増幅器です。オーディオ製品の開発では、回路が出来上がってようやく「道半ば」で残りの半分は音楽的な質の練り上げです。お客様は目に見えない演奏を自分の頭の中で質高く再構築する経験と情念を求められ、メーカーには音楽家の感性を余すところなく発する技術と執念が求められます。これがミスマッチすれば感動どころの話ではありません。
 私は音楽再生は常にメーカーとお客様とによる感動を求めての真剣勝負であると思っています。デノン社員は日本コロムビアの時代からハードを通して音楽の感動を伝えることを先輩社員から厳しく教え込まれています。これはデノンの大変貴重な財産ですし、それをいかに継承していくかが我々の世代の非常に重要な仕事と思っております。

―― 市場の拡大に向けた商品面での取り組みを聞かせてください。

横間 PC音楽に慣れた人や、ミニコンの音質に飽き足らなくなった人にどうやって音楽の楽しみの次のステップを提案していくかを社内で話し合っています。
 ひとつは単品コンポーネントによる提案でPMA―390AEやDCD―755AEです。この組み合わせは当社のエントリーレベルの製品ですが、価格は安くてもデザイン面、性能面ではPMA―2000AEやDCD―1650AEなどの上位機のエッセンスを継承させたもので、是非ワンランク上の音質やコンポーネントを持つ楽しさを味わっていただきたいと思います。
 もうひとつは、コンポーネントのコア技術をハイコンポに展開したD―F102です。D―F102は大きさこそミニサイズですが性能、構造、デザインのどれをとってもコンポーネントに劣るものはなく、音楽を幅広いお客様層に手軽に楽しんでいただこうと開発したものです。当社では以前からこのコンセプトに基づいた商品を展開して参りましたがD―F102は更にその考えを前進させたものです。

―― 横間社長にとっての経営課題は何でしょうか。

横間 ブランドの価値の向上と生き残りのためのビジネスモデルの構築です。
 何が当社にとってのコアなのか、何が周辺なのかをきっちり見定め、経営の健全化を図っていかないと現在のように変化が目まぐるしい日本市場では、いつ何が起こるかわかりません。デノンのような小さな会社が生き残っていくためには限られた経営資源を集中配置して効率を徹底的に高めていくことが必要です。そのための組織作りと将来に対する計画作りに取り組んでいます。信頼される企業には健全な経営体質が欠かせませんし、ブランド力を高める源と考えています。
 デノンの強みは技術の高さもありますが、会社の規模がそれほど大きくなく大企業に比べて小回りがきくことです。これは日本市場のスピードの速さに対応していく上で、大きな強みになります。ハイスピードで販売店からの情報を営業部門が吸い上げ、商品企画に反映し、短期間で製品開発につなげ、それを販売店にフィードバックする流れを作るために、この4月から大幅に組織を簡素化して情報管理の高速化を図りました。

―― ブランド価値の向上についてはいかがでしょうか。

横間 オーディオや音楽は永続的なものであると思います。時間と世代を超えてお客様からの厚い信頼を得ていくためには、オーディオ専業メーカーとしてひとつのテーマを時間を掛けて突き詰めていく姿勢が大切だと思います。オーディオは作るにも売るにも辛抱のいる商売ですが実直にやり続けていけば10年でも20年でも淘汰されずブランドを残すことができると信じていますし、それが当社の製品を今までお買い上げいただいたお客様に対する責務であると思っております。

―― 最後に販売店へのメッセージをお願いします。

横間 オーディオ市場は縮小傾向を続けておりますが、お客様が余暇に使う時間と費用は年々増えております。また音楽の楽しみが絶えることはありません。お客様が心のゆとりを音楽を通して大切にしていただけますように我々も努力いたしますので、販売店の皆様とも歩みを共にして市場を開いていきたいと思います。
 今後ともデノンをよろしくお願いいたします。

◆PROFILE◆

Toru Yokoma

1950年10月8日、静岡県生まれ。1973年3月九州芸術工科大学(現、九州大学)芸術工学部音響設計学科卒。1974年4月日本コロムビア(株)入社、スピーカー設計課に配属。87年6月欧州工場支援部門、91年2月海外営業本部、99年4月DenonElectronicsGmbH社長、03年7月DenonFranceSA.社長兼任、03年11月DenonEurope社長兼任、05年7月D&MholdingsJapanRegionマーケティング本部 本部長、06年4月デノンコンシューマーマーケティング代表取締役社長、現在に至る。趣味はゴルフ。