(株)デノンコンシューマーマーケティング
代表取締役社長

横間 透
Toru Yokoma

新しいお客様層を呼び込むそのための努力を継続すれば
オーディオ市場は活性化する

ハイファイオーディオの市場規模が変化していく中にあって、変わらぬ姿勢で市場を支え続けてきたデノン。昨年末には、アナログレコードジャケットサイズのコンポーネント、CXという新商品を投入し、現代のハイコンポたる新カテゴリーの創造を現実のものとした。昨年4月に同社の代表取締役社長に就任された横間氏に、同社の新たなる取り組みについて伺った。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

販売店からのアドバイスによって
CXという新たな商品が誕生し新しいお客様を呼び込むことができた

―― ご就任から1年が経過しました。以前このトップインタビューで、デノンブランドの価値の向上や、組織の改編、ビジネスモデルの構築といったお話をうかがいましたが、その後今日までの経過をお聞かせいただけますでしょうか。

横間 前回Senka21でご挨拶させていただいてから早いもので約一年が経ちました。この間、平面テレビの普及がホームシアター市場の質の変化をもたらしたり、デジタルオーディオプレーヤの急激な普及がミニシステム市場の構造変化をもたらしたことで、我々オーディオ業界も大きな影響を受けました。また、立て続けに起こった大型全国量販店の劇的な再編成を目の当たりにしまして、想像以上のビジネス環境の変化に戸惑いながら、瞬く間に過ぎ去った一年間でした。そのような中で私共デノンもオーディオ市場と流通業界の大きな変化に対応しながら経営の健全性を高めるべくいろいろと試行錯誤を繰り返しております。
ひとつ目は流通の変化に即応できる社内組織への改革です。広範囲で商売をされている量販店様、また全国に点在する専門店様に十分なスピードを持って対応できる本部組織と地方営業所組織の効率化に取り組んでおります。
二つ目は流通各社様に私どもの商品戦略を理解してお付き合いをいいただけるような活動に努めているところです。私共の扱うコンポーネント商品は粗利がとれる数少ないカテゴリーですが、販売に当たり多少のノウハウや経験を必要とします。このような商品をできるだけ販売につなげられるように、販売店の社員の皆様へのオーディオ基礎知識教育や商品セミナーを定期的に実施し、販売力強化へ協力させていただいております。また、専門店様主催による試聴会等のイベントに協賛させていただき、来場されるお客様により魅力的な体験をしていただけるように努めております。
三つ目は高付加価値商品への移行です。販売店様にとりましてもメーカーにとりましても価格の下落や投資コストの増加による経営の厳しさは増すばかりです。私共もできるだけ付加価値ある商品に移行し、販売店を含めた商売の健全化に努めたいと思っております。
これらの改革を辛抱強く続けておりますが、いずれも道半ばの状況です。しかし「健全なる精神(企業文化)は健全なる肉体(経営体質)に宿る」なる言葉を常に手元に置きまして二年目に取り掛かろうとしています。

―― 今、ハイコンポが脚光を浴びています。その流れの中にある御社のCXシリーズは大変好評で、他社も商品を投入して追随してきました。こうして市場は確実に広がっていると見ています。ハイコンポ市場におけるデノンのポジショニングを今一度振り返って、ご解説いただきたいと思います。

横間氏横間 ハイコンポは、1990年代の初めに、価格競争に陥ってしまったミニコンポの商品価値を見直し、コンポーネントクオリティやハイデザイン、シンプル操作に手頃な価格をコンセプトとして、当時としては高付加価値路線を目指したものでした。当社もポイントコンポという愛称で商品を投入し、ハイコンポと共に歩み続けて今年で17年にもなります。今もデノンのプレスタやエフといった商品は、お客様に好評をいただいておりますが、この17年間持ちこたえられた背景には、やはり高付加価値商品を必要とされるお客様の存在があったことを、改めて感じています。
ハイコンポの導入時期には、和田社長を始め音元出版さんも全社を挙げてその普及に全面的なバックアップをされた、と先輩から聞いております。
一方で我々は2005年から「コンポルネッサンス」と銘打ち、2chオーディオの楽しみを販売店様、お客様に提唱して参りました。その頃はちょうどPMA−2000AEの導入時期で、いろいろな販売店様と話をさせていただいた時に、最近はお客様の志向も変わってきて、フルサイズやハイコンポだけでは一部のお客様のご要望に応えられなくなってきた、というご意見をいただくことが多くなりました。それは、従来のハイコンポには十分満足する事ができず、単品コンポでは音質は満足されるものの、その大きさ、重さからご購入までに至らないお客様を表すものでした。
特にここ数年、平面テレビの普及が家電のインテリア性を強め、オーディオについても音質を極めようとすれば大きく、重たくなるのは仕方ない、というメーカーのアプローチが、一部のお客様にはもはや受け入れられない、という状況になってきたのかと思います。一方でオーディオ市場の変化を示すこのような現象は、趣味の多様化、リビングを取り巻く商品群の変化、従来は特別なものであったブランド価値が日常的になったことも背景にあると思われます。
そこで、この新しいお客様像や志向を調査したところ、まず音楽を良い音で聴きたいけれども、ハイファイマニアではないということ。そして、生活空間との調和を機器に求め、インテリア性を重視するということ。また物として、見たとき、触ったときの完成度の高さを求めること。そして、簡単操作を求めることが共通項として見受けられました。そして少しずつお客様の全体像が浮かび上がってきますと、企画、設計のみならず、販売促進についても従来と全く異なるアプローチが必要なことが明らかになりました。最終的にはCXとして製品化されたわけですが、2005年に本格的なマーケティングと製品構想に着手し、約一年間掛けてデザインを初めとする詳細な仕様を詰めていきました。

―― CXの開発にあたっては、その後どのような経緯があったのでしょうか。

横間 最初に議論になったのは大きさです。まずフルサイズの434ミリと、ハイコンポの250ミリ、その中間サイズ、そしてユニット構成はアンプ/CD一体型、セパレート型等が提案され、それぞれに対し当初のコンセプトに戻って議論を重ねました。アンプの出力を求めるとシャーシは大きくなりますし、チューナーを入れれば高周波ノイズが悪影響を及ぼします。さらに表示部はできるだけ大きくしたいのですが、フロントの縦横比率が不恰好になってしまいます。
最終的には横幅、奥行とも30cm、高さ8cmに落ち着きましたが、これはこのサイズの必然性を訴え続けた企画担当と、デザイナーの意思を尊重したものです。そこに必要とされるオーディオスペックを、アンプとCDプレーヤーの設計者が創意工夫を凝らして入れ込んでいった、というように、通常の開発とは逆のアプローチとなりました。

―― 商品の特長について、改めてご紹介いただけますでしょうか。

横間 CXのアンプユニットに関しては、新開発の高効率回路により、この大きさで150W+150Wというハイパワーを可能としました。また、様々な負荷特性を持ったスピーカーを余裕を持って駆動するため、高効率で安定した電源回路を採用することにより、常に安定した音楽再生を実現しています。もちろん、回路の随所にデノンのノウハウが投入されています。
CDプレーヤーについては、通常のCDの倍の速さで回転するSACDにも対応するため、新たにメカユニットを開発致しました。ピックアップメカニズムにとって正確な信号の読み取りと共に、高速回転による振動の防止、吸収は大変重要な問題ですが、これを実現するために堅牢なダイキャストメカベースに支えられた二重構造を採用しています。ご販売店、お客様には、極薄のCDトレイと共にトレイ開閉時や演奏時の動作音の静寂さや、開閉の際の落ち着いた動きに対し、高い評価をいただいております。もちろん、回路の上でもデノンのCDプレーヤーの技術が随所に使われていることは、言うまでもありません。
スピーカーシステムに関しては、重心の低い中低音を再現する新開発カーボンファイバー採用のウーファーユニットと、艶やかで自然な響きに優れたソフトドームトゥイーターを、美しい高密度天然付き板キャビネットに取り付け、このクラスでは想像もできない雄大なスケール感と、品位の高い音楽再生を実現しています。
アンプ、CDプレーヤー、スピーカーを通じてデザイン的には堅牢で精緻な構造と共に、使いやすさ、見やすさ、手で触れる部分の暖かさ等を考慮し細部を仕上げております。音質を含めた全てのコンセプトの上で「デノンらしさ」を実現できた製品ではないかと考えております。

大津氏―― 発売された後、販売店の反応はいかがでしたでしょうか。

横間 昨年12月の発売以来、皆様から大変な好評をいただいております。実は、昨年10月に東京で開催されましたインターナショナルオーディオショーが、CXの初めてのお披露目だったのですが、来場されました販売店様やお客様、評論家の先生方に非常によい評価をいただきまして、私共も心強い思いで発売を迎えることができました。
CXを発売するまでは、この商品は特に「団塊の世代」の方々に支持していただけるのではないか、と思っておりましたが、発売後の調査では、購入層は団塊の世代だけではなく、20代から60代まで多岐にわたっています。また幅広い年代とともに、女性のお客様や、ご夫婦でお買い上げくださったお客様が結構いらっしゃいます。奥様方に反対されずに購入に至る率が高かったということで、販売店様も非常にお喜びになっていらっしゃいます。
また非常に大事なこととしては、確実に単品コンポのお客様とは違う方々にご購入いただいているということです。単品コンポを買わないでCXを買った、またはその逆であるということではなくて、単品は単品、CXはCXという、それぞれ独立の購買層として動きを示したということですね。
結果的に、今までオーディオ商品を欲していたけれど、これまでの商品に満足できなくて購入を控えていらっしゃったお客様を開拓することができ、新たな商売になっているという感想を販売店様からいただいています。

―― それはやはり、お客様にCXの価値をご理解いただき、結果的に新しい商品提案ができたということなのではないでしょうか。

横間 まさにそのとおりだと思います。CXの開発段階でのマーケティングや発売後のフォローを通じて、今回、オーディオ市場の変化を感じました。一般的傾向としてオーディオ市場は縮小の一途を辿っておりますが、内容的には昨年から大きな変化を感じております。特に2chハイファイに関しては、市場の低迷も底を打ち、確実にプラスに転じております。趣味が多様化し消費も分散化する中で、2chハイファイ市場が賑わっているというのは、落ち着いた静寂の中で音楽をゆっくり楽しみたいと望む方が増えているということではないでしょうか。
我々の中でも、CXの発売前は、PMA−2000AEや1500AEのお客様がCXに移ってしまうのではないか、という議論があったのですが、実際には、驚いたことにCXだけではなく、ほかのプリメインアンプの売上げも伸びているという状況になりました。これは、CXの出現で2チャンネルの市場がさらに活性化された、ということなのではないかと思います。そういうことを考えますと、これは従来の2チャンネル商品のモデルチェンジではなく、新しいオーディオカテゴリーを提案できたのではないかということで、一層の喜びを感じております。
今後もこの商品群を、時間を掛けて大切に育てていきたいと思います。

―― これまでもずっとオーディオ市場を支えて来られた御社ですが、今後の市場についてはどのような見通しをお持ちでしょうか。

横間 高級ハイファイ市場は、支えてくださるマニアの方々の高齢化により、将来市場の規模が小さくなるという見方があります。それは見方をかえれば、マニア以外のお客様に対するアプローチがこれまでは不十分だった、ということではないかとも思います。
私どもは昨年6月から、「DENON銀座音楽倶楽部」というスペースを設け、そこで音楽を楽しんでいただくイベントを続けていますが、お集まりいただく方々のオーディオへの興味も深く、お客様の層も幅が広い。そういった音楽に対する人々の意識の高さ、音楽の普遍性を考えれば、いろいろな形でお客様の要望に応え、市場の活性化、維持拡大をしていくことは可能ではないかと思います。
またCXの開発にあたっては、販売店様が大変ご協力くださいまして、貴重なご意見をたくさんいただきました。これからも販売店様からのアドバイスを大事にして、商品をつくり続けていくことが我々の使命ではないかと思います。

―― オーディオの未来は明るい、ということが再認識できました。本日は、誠にありがとうございました。

◆PROFILE◆

Toru Yokoma

1950年静岡県生まれ。1973年九州芸術工科大学(現、九州大学)卒。1974年日本コロムビア(株)入社。’99年Denon Germany社長、’03年Denon Europe社長、’06年4月デノンコンシューマーマーケティング社長、現在に至る。趣味はゴルフ。