堀伸生氏

日本ビクター(株)
理事モバイルAV事業グループカムコーダーカテゴリー長

堀 伸生
Nobuo Hori

どの最新技術が役立つかどう融合させるかにこだわり
お客様の利便性向上を目指す

ビジュアルグランプリ2007サマーにおいて、ビデオカメラとして唯一金賞に輝いたのがビクターのGZ−HD7だ。1920×1080iのMPEG2 HDフォーマットで文字通りのフルハイビジョン撮影を可能にしたこの商品は、並々ならぬこだわりのもとに誕生した。さらに新製品GZ−HD3も投入され、ハイビジョンカメラに全力投球を図る同社。商戦期直前、商品誕生秘話と今後の戦略について、カムコーダーカテゴリー長をつとめる堀伸生氏にお話しを伺った。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

画素を満たすということでなく
驚くほどの画を表現してこそ
ハイビジョンなのです

常に一歩先を行く
それがビクターのポリシー

―― ビジュアルグランプリ2007サマーでは、御社のGZーHD7が金賞を受賞されました。あらためて御社のモノづくりのポリシーについてお聞かせいただけますか。

 我々は、VHSを始めた段階からビデオカメラの開発を始めました。私自身はGRーC1やGRーC7といったハンディモデルの設計に関わりましたが、当時から今も連綿と続いておりますのは、他の会社の皆様と同じものをつくっても、私どもの思いは達せられないというポリシーです。日本ビクターの存在価値として、常に何らかの形で一歩先を行く、違うアプローチをとるというような商品を出し続けていきたいということです。私も前任者も、他社がおやりになったからやるということは、ビクターの価値を貶めるという思いで取り組んできました。
特に近年はハイビジョンを手掛けて参りましたが、2003年にGRーHD1というテープのハイビジョンカメラを初めて出させていただきました。我々が何か新しいことを手掛けるとき、常に意識しているのは、どんな技術が世の中に存在し、それを順番にどうつかまえ、融合し、お客様の利便性を向上させることができるのかということです。そして今回受賞させていただきましたGZーHD7、さらに新製品のGZーHD3という商品を出していく上で、いろいろなテクノロジーの進化の過程がありました。
我々のこだわりのひとつは、何らかの利便性をビクターができる姿で出したいということと、様々な技術的要素を市場の状態などインフラの環境に従って、適したタイミングでお届けすることができるかどうかを考えることです。そこが商品に結実したと思っております。

―― それまで延々と続くビデオカメラの歴史がありましたが、特に今お話しいただいた初めてのハイビジョンカメラであるGRーHD1で、御社のチャレンジを感じました。

堀伸生氏 あの当時、その前段階でプログレッシブCCDを使ってGRーDVLという商品を出していましたが、いずれはビデオカメラで静止画も撮れるようなセンサーも開発できるはずだと思っていたのです。それでプログレッシブCCDを動画カメラとして活用することを始めました。プログレッシブが、撮像素子のあるべき姿だという考えです。
動画と静止画の両立を考え、そこからセンサーを追求していきますと、どうやら2003年のタイミングで、1280×720のプログレッシブで、全画素読み出すことが可能なセンサーができそうだということが見えてきました。
ではそこに向かって、どのようにHDのMPEG2のコーデックを準備するか。LSIの開発というのは、今日明日で突然進展するわけではありません。配線パターンや、トランジスタをどんな大きさに何年かけて小さくしていくかということの連続です。センサーは画素をただ小さくしていくと性能が落ちてしまいますので、性能を保ちながら少しずつ小さくしていきます。
そしていよいよコーデックとセンサーの準備も開始することになりました。その当時、据え置きDVDのレコーダーのために開発されたMPEG2のLSIは非常に大きなものでしたが、そこから様々な外部アプローチをさせていただいて、どうやらカムコーダーに載せられるMPEG2のHDエンコーダーが手に入りそうだということになりました。そして2003年の3月にこれらの技術を結集し、GRーHD1というモデルを世に問わせていただいたということです。
このモデルは720pの30フレームで、ハイビジョンの解像度を大変評価していただきましたが、我々としては次の商品ではぜひとも60フレームにしたかった。その当時のMPEG2コーデックは30フレームまでは追いつくのですが、60フレームですと圧縮しなければならないデータ量が倍になってしまい追いつきません。そうすると、そのLSIを開発するのにまた時間がかかってしまいます。そこで今度はコーデックをカスタムで開発しようということになりました。
そして、カメラの信号処理上は60フレームができそうだと、それも1920×1080のプログレッシブでもできそうだということになりました。ただし当初の1280×720から1920×1080という画素数になっていますから、データ量も増えています。それを60フレームまでやろうとすると、圧縮としてはインターレースまでというところで、それをMPEG2で見ていました。
その当時我々としては、圧縮フォーマットはMPEG2からもうワンステップ先へ行くだろうという思いもありました。それがAVCHD(H.264)というフォーマットにつながっていくわけですが、我々としては、1920×1080iでH.264の圧縮ができるところはもう少し先だと考えました。その結果、1920×1080iの60フレームをMPEG2という形でやらせていただいたのがGZーHD7です。1920×1080iがちゃんとできるところまで待って、きれいな映像が確実に撮れるところまで熟成してやろうという思いで、満を持して出しました。

技術の進展でメディアは
移ろい行くものである

―― ハイビジョンカメラのメディアとして、ハードディスクを選択されたのはなぜでしょうか。

 我々が2003年にGRーHD1を出して以後、2004年にはスタンダード・デフィニション(以下SD)に対するビジネスが厳しくなりました。その当時青色レーザーの展開はまだ見えず、赤色レーザーのディスクカメラを考えましたが、ディスクサイズが8cmあるため、既存のDVカメラより本体が大きくなってしまいます。商品がブレイクするのは、確実にお客様のニーズが満たされたとき、不満が解消されたときだと思っております。それで、ハードディスクはその要素を持っていると判断しました。開発部隊もMPEG2のSDのコーデック開発をその前から進めておりましたので、ここで一歩ハードディスクに踏み込んでいくべきではないかと。
とはいえ最初はデータの出し入れが出来た方がいいのではという議論もあったので、マイクロドライブで商品を出しました。しかしもうワンブレイクがないとマジョリティのところへ入っていけないと判断し、1・8インチHDDでやるべきだと、そこで初めて撮影時間やメディアの交換から解放され、お客様がメリットを感じてくださるだろうと考えました。
MPEG2 1920×1080iまでを満たそうとすると、テープでは1440までしかフォーマットがない。我々はGRーHD1をテープで出しましたが、次のメディアになってはじめてフルハイビジョンに行くだろうと考えました。テープではない、DVDでもない。そうすると、我々が既にSDで手掛けたハードディスクなら、MPEG2のHDでかつ長時間撮影できるということを考えました。SDで1・8インチHDDを採用したとき、30GBで最高画質を7時間撮れるという話をさせていただきましたが、ハイビジョンになったからといって突然1時間しか撮れないというのでは、我々がハードディスクを選んだ意味がありません。そこで60GBのハードディスクを使って、MPEG2のHDでも最高画質で5時間というところを目指しました。
HD7は2プラッタ60GBですが、それ以降ハードディスク技術は水平磁気記録から垂直磁気記録に移行し始めましたので、1プラッタで60GBの容量が確保できるようになりました。また、ハードディスクメーカーさんと話をさせていただきますと、垂直磁気記録で容量はもっと増えるとおっしゃいます。また大きさももっと小さくて、同じ容量を確保できるようにもなるでしょう。さらにAVCHD(H.264)という圧縮フォーマットがハイビジョンの1920×1080iで活用できるようになると、ハードディスクは今の容量の半分でいい。そうなればさらに手軽な大きさで、フルハイビジョンが録画でき、かつ5時間といった録画時間が実現できるということになります。ハードディスクについてはそこまで俯瞰した中で、今の段階ではここまできているということです。別な視点から言いますと、我々は本質的に小さい、皆様が手軽に使えるビデオカメラを追い求め続けているということです。

堀伸生氏―― データの出し入れはどのようにお考えでしょうか。

 我々がハードディスクを選んだもうひとつの理由として、お客様にとってはメディアが何であってもいいだろうということがありました。それ以前に、お客様が使いたいビデオカメラはどんなものかという発想が第一であると考えます。我々はメディアに対する考え方にこだわりはありません。さまざまに議論し、技術の進展でメディアは移ろい行くものであるという結論に至りました。時期によってどのメディアをどう有効に活用できるか、それを花開かせるテクノロジーさえ準備してあればいいと考えています。
我々はメディアに対して、入れ替えできなくていいとも、入れ替えられなくてはだめだとも思っていません。ビデオカメラとしてメリットを最大に発揮できる手段を順番に提供していこうということです。容量や価格など時間とともに進展していくメディアを時間軸に沿って並べ、その時々で選択しながら商品に採用していくのです。

―― 一方でDVDライターも出されて、DVDへの書き込みということについても考慮されていますね。

 我々は2世代目のSDから、赤色のDVDにそのまま焼いて再生できるものをつくりました。さらにハイビジョンでは赤色ディスクをデータディスクとして扱い、ハイビジョンファイルを赤色ディスクに焼けるソリューションを提供しようということにいたしました。今回はそのデータディスクを再生できる機能も持たせて提供しました。それがCUーVD40という商品です。
Everio本体側にホスト機能がありますので、本体からDVDライターをコントロールしながら記録をさせることができます。このDVDライターの本体カメラとの同時購入率は、国内で約6割に達しています。

新製品のGZ-HD3で
ハイビジョンをさらに身近に

―― 新製品のGZーHD3は、よりコンパクトなサイズでハイビジョン映像を楽しめるモデルですね。企画の意図からお聞かせください。

 GZーHD7では、大変高い評価をいただきましたが、ユーザー様の年齢層がやや高めで、ややマニアックな使われ方をされている感がありました。基本的にビデオカメラは、子どもの成長過程や趣味の撮影に多く使用されるものと想定し、お客様の年齢層も30〜40代といったところになりますから、そういった方に訴えるような商品もラインナップに加えるべく並行して動いていました。そこでHD7に別の角度からのアプローチを加えてさらに価格や大きさなどを考慮し、運動会シーズンに合わせたものがHD3です。
GZーHD7は、FHDモードといって30メガビット/secを1920×1080iで5時間記録できるという設計をしました。新製品のHD3も、1440×1080iですが、30メガビット/secまでビットレートを高めて5時間記録できるXPというモードを設けました。こちらも、画質としてはHD7に勝るとも劣らないものをご提示できたと思っています。
またHD7で採用した光学手ブレ補正については、HD3では電子手ブレ補正としました。レンズ径を考慮したということと、さまざまな検討の上、LSIの開発の段階で遜色がないと判断した結果です。さらにビューファインダーについても、今電子スチルカメラでは液晶モニターで撮影するという形が主流になっていますから、これを省いて小さくするということに主眼を置きました。
カメラ部については、我々は3板でやり続けることにこだわりを持っています。3板というシステムが持つ素性は、単板に比べて色能力が高いわけです。ハイビジョン画質とはこういうものではないでしょうか、ということです。1920×1080個の画素があるからハイビジョンというのではなく、質感や艶、光の感じをきちんと表現して、驚くような画として見せられるのがハイビジョンです。そして、その能力を最大限に発揮できるのが3板のシステムであるということに間違いはないと思っています。ですからHD3も単板にしなかったのです。今年我々がハイビジョンでスタートを果たすには、3CCD、フルHDで入っていきたかった。これでハイビジョンの価値を示したかったのです。その画質の違いは、見ていただければおわかりになると思います。艶や質感が全然違います。

―― 商品の発売とともに、いよいよビデオカメラの商戦期となります。ご販売店にメッセージを。

 HD3は幸い、販売店様とのご商談でHD7と同様、画質のよさに対して非常に高い評価をいただいています。この商品のよさを、ぜひ我々と共に訴えていただければと思います。

―― ありがとうございました。

◆PROFILE◆

Nobuo Hori

1959年7月生まれ 新潟県出身。83年日本ビクター(株)に入社後、一貫してビデオカメラの技術を担当、GR−C1、GR−C7、GR−HD1などビクターの代表的なビデオカメラの開発・設計に携わる。00年4月にビデオ商品技術部長、04年4月に、A&Vマルチメディアカンパニー技術統括責任者、07年4月理事に。07年6月に理事、モバイルAV事業グループ カムコーダーカテゴリー長に就任、現在に至る。