(株)日立製作所
執行役常務
コンシューマ事業グループ
グループ長&CEO

江幡 誠
Makoto Ebata

放送と通信の融合が急伸展
Wooo UTシリーズで
TV新時代の幕開けを宣言

「すべてのテレビが、嫉妬する。」のキャッチコピーで登場した「Wooo UTシリーズ」。レイアウトフリーというデザインコンセプトには、同社が唱えてきた「TVセントリック」を体現する牽引役としての役割を担っている。市場環境が大きく変化していく中で、未来像をいち早くカタチとし、提案・差別化を図ってきた日立。放送と通信の融合という大きなターニングポイントに差し掛かる2008年。注目されるその取り組みと市場展望を、江幡氏に聞いた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

江幡 誠氏
研究所における研究成果が
そのまま製品になり高く評価される
事例が増えてきています。

研究所のや開発部門の
強みを生かし差別化する

―― 07年を振り返っていかがでしたか。

江幡 オーディオビジュアルで力を入れているのがテレビとビデオカメラ。これに携帯電話を加えた3つが3本柱となります。ビデオレコーダーについても続けていきますが、むしろテレビそのものを記録機能を持ったものにしていくという考え方を推し進めていきます。
まずテレビでは、ハードディスクドライブ(HDD)を搭載した恫^画できるテレビ揩展開する中で、「容量が増やせない」「個人ごとの記録ができない」といった不満に対して、iVDRを新たに提案し、「増やせる」「仕分けができる」「持ち運べる」など、記録そのものの幅を広げ、進化させてきました。
さらに、液晶テレビは以前からやっているものの、シェアがさほど高くない。そこを、何らかの形で大きく持ち上げようということで、06年8月から、今回市場へ投入した超薄型液晶テレビの商品化に向けての検討を、研究所とコンシューマ事業部門の開発部門が一緒になってスタートさせました。
元来テレビは重く、分厚いものです。薄型になっても10p以上もあり、壁に寄せ、台の上に設置するのが当たり前で、壁に掛けるためには、充分な工事が必要です。また、テレビというのは背面の見栄えがよくない商品です。熱を逃すためのスリットがたくさんあるし、ケーブルが何本もぶら下がっている。結果として、テレビがどう扱われるかというと、壁際に押し付けて背面が見えないようにする。テレビはブラウン管時代から今の薄型に至るまで、機能面では無くてはならない素晴らしい製品ですが、部屋に置いたときに、インテリア面では邪魔なものになりがちです。そこを解決していくことが、これからのテレビのひとつのトレンドになると考えました。
当初UTシリーズは、08年春の発売を目標に計画を進めていました。しかし、やるなら先行しよう。年末商戦に出そう、と計画を前倒しし、夏頃から研究者や開発者を大幅に増やしました。超薄型については、当然他社も考えていると想定していましたが、秋くらいから一気に表にあらわれてきたことで、結果として、これがこれからの最大のトレンドなんだということが市場全体にかなり浸透し、追い風になっていると思います。やはり、1社だけですとなかなか評価されにくいですからね。
ビデオカメラは、06年に発売したハイブリッドカムに予想を上回るご評価をいただき、当社の評価やシェアが大きくあがりました。次はハイビジョン対応強化というのが当然の流れですが、他社と同じ路線では差別化できません。最初から、世界初のブルーレイを目標に、8月末に発売することができました。一方、継続的に頑張っているのがSDのハイブリッドで、現在もかなりの勢いがあります。ブルーレイとSDの2つのラインを今後も主力製品として継続して参ります。
携帯電話端末は、春モデルでは薄型化のトレンドに出遅れましたので、この冬モデルは、ワンセグ、おさいふケータイで一番薄く、有機ELを採用したきれいな画質の新製品(W53H)を投入、大変順調な立ち上がりです。
日立は、他社と同じものを低コストで大量につくって安く売るという能力にはあまり長けていません。研究所や開発部門を強みに、特化した展開をしていきます。

UTシリーズで提案
「TVセントリック」

―― UTシリーズをいち早く市場へ投入されましたが、家庭の中心となるテレビを取り巻く技術やライフスタイル、インフラはどのようになるとお考えですか。

江幡 これから、いわゆる放送と通信の融合が進展していきます。送られてくるチャンネルをただ単に受けるのではなく、ビデオオンデマンドのように見る側が情報を選ぶようになる。また、家庭のセキュリティや地域の情報の入手など、テレビを中心にした家庭内システム、まさにTVセントリックな新しい姿が現れてきつつあります。今回のUTシリーズも、このあたりを相当強く意識した製品です。
家の中ではホームネットワークが当たり前。さらに、家と外とのネットワークも構築されてくるでしょう。すると、今申し上げたようにあらゆる機能がテレビに集約されてきます。世界中の人々が、もっとも親しみを持って接している電気製品であるテレビがホームサーバーとなると思うのです。
今回の超薄型では、チューナー機能や録画機能をディスプレイに搭載せず、セパレート型にして、Woooステーションに集約しました。これがいわばホームサーバー的な存在になります。テレビになにもかも押し込めようとしますと、重量も重く、デザインにも自由度がなくなり、見栄えのよくない製品になってしまいます。セパレート型にしたことで、ディスプレイ部は徹底して薄く軽く、見た目をきれいにしました。

―― 今回のUTシリーズには、日立のこれからのテレビに対する考え方が凝縮されていますね。

江幡 今回のテーマのひとつは恁ゥた目のいいテレビをつくる揩アとでした。そもそも全てを現在の一体型テレビに押し込めるのはデザイン的に限界がありますし、今後さらに機能は増えていきます。そこで、一体型のくびきを取り払うと、ディスプレイはキレイな絵を映すことと、家の中で邪魔にならない見た目のいいデザインとすることを徹底して追及していけばよくなります。
今回のテレビは壁に掛けること、およびどこにでも置けるという意味で「レイアウトフリー」と称していますが、部屋の真ん中に置きたい。ソファのそばにスタンドで置いて見たい。どこでも置けるようにしたい、というときに、背面の見栄えの難点がどうしてもひっかかります。そこで、背面からの見た目のよさを、開発の大きなポイントとしました。
そのため背面のスリットを徹底して減らしましたが、そこで一番難しかったのが空気をどうやって逃がすかということです。ところが過去当社はスーパーコンピューターでも、熱をいかに逃がすかを相当大きな研究テーマとして取り組んできました。今回は、そこで採用した方式と同じものを採り入れることで、課題をクリアしたのです。このあたりは、まさに日立の研究所や総合電機メーカーとしての強みが発揮できた成果だと思います。

江幡 誠氏―― 既存の技術を集め、それをブラッシュアップして超薄型という目標を実現させる。また、将来を見据え、テレビの役割を見直されたという点からも、いままでにない商品と言えますね。

江幡 最初に考えたのは、CEATECでも参考出品したLEDをバックライトにして薄くするという発想です。しかし、サンプルとしては作ることができても、量産化してリーズナブルな価格で販売するレベルまでもっていくには、今の技術、コストでは限界がありました。この解決を待っているだけの時間的余裕はありませんから、当社の考え方を実現できる薄さにまでできるだけ近付けて製品化したい。それが今回薄型電源や液晶モジュール、狭スペース冷却構造の開発等により実現したものです。
どこまで薄くすればお客様が評価するかという一番のテーマについては、アンケート調査を行いました。その結果、現在の薄型テレビの半分の厚さ、5pではあまり魅力を感じないが、3分の1、すなわち3p台になると「かなり魅力がある」という声が急に増えてくることが判明しました。そこで、よし、3p台を目標にしようと。
一番のキーとなったのは研究所です。これまでテレビは、コンシューマ事業グループの開発部隊が主体となり、先行技術の開発についても、事業グループ内の研究所で開発を行い製品化してきました。今回のようにコーポレートの研究所がここまで入り込んで製品開発、デバイス開発をすることは過去に例がありませんでした。また、日立グループ内にはいろいろなデバイス、部品メーカーがあり貴重なサポート役になっています。例えば、電源部分をどうやって薄くするかという課題も、光ピックアップやチューナーを手掛ける日立メディアエレクトロニクスが新しい電源部を開発しました。当社の社長がよく「総合力」「協創力」という言葉を使いますが、今回の製品はまさにその典型と言えます。

―― 「すべてのテレビが嫉妬する」というキャッチコピーを使われていますが、他社から見れば、嫉妬するほどの開発体制ということかもしれませんね。

江幡 他社から日立を見たときに、決して、ワールドワイドの販売力が強いとか、プロモーションの仕方がうまいとか思うことは少ないかもしれませんが、技術的な面においては一目置かれていると思います。ただ、その技術を製品の成功につなげていくことが過去には十分とはいえませんでした。ところが最近は、しわがよらないドラム式洗乾機「風アイロン」や真空状態をつくって鮮度を保つ冷蔵庫「真空チルド」など、白物でも、研究所の研究成果がそのまま製品になって高く評価される事例が増えてきています。

変化・進化を伝えるための
プロモーション活動にも力点

―― これから先を見通したとき、家庭でのテレビやストレージの製品区分をどのように考えていらっしゃいますか。

江幡 「記録する」という機能はいままでずっとレコーダーとして独立してきました。しかし、わざわざテレビと分けて、それをつなぐ必要性が、どれくらいあるのだろうかということです。例えば、ビデオカメラのように携行するものは別ですが、レコーダーは基本的にはテレビの近くに据え置くものです。テレビとつなぐためのケーブルが這う。そもそもどこに置くかも悩まなければなりません。もし、その機能をテレビに取り込めるのであれば、分けることは不親切なのではないでしょうか。当社がHDD内蔵テレビに力を入れてきたのも、こうした観点によるものです。
一方、もしも分けるのなら、チューナーを含め、今後増えていく機能を全てステーションにおさめてしまおうというのが、今回のセパレートの考え方です。このステーションとディスプレーの間をケーブルで繋ぐのではなく、無線で飛ばせば自由度は圧倒的に増します。このワイヤレス機能は今回はオプションとしましたが、行く行くは標準装備にしていきたいと考えています。

―― 新しい提案を次から次に出してこられる中で、課題は、お客様がどういうスピードでついてこられるかですね。

江幡 早く出し過ぎてしまい、お客様のニーズがない、理解していただけないということがこれまでに何度もありました。今回のUTシリーズは、そうした轍を踏まないためにも、プロモートが非常に大切だと考えています。
テレビ宣伝では、新たにUTシリーズとしてのイメージキャラクターを起用しました。これにより、今までとはまったく違うものが出てきたことをアピールしたいと考えています。
また、店頭に足を踏み入れたときに、「これ買いたいな」「こんな面白いものがあるのか」と思っていただくことが大切です。単に並べただけでは今回の製品の特長はわかっていただけません。そこで、特に量販店の展示用には、特長がわかる什器をつくって持ち込み、斜めから見るとか、スタンドに立ててみるとか、壁掛けで、上はUTシリーズ、下は従来の薄型テレビで恃魔ウ揩フ違いを直にご確認いただくなど、買う段階での見せ方というのを今回はかなり強く意識しています。

―― 08年の市場の見通しと御社のお考え、取り組みのポイントについてお聞かせください。

江幡 放送と通信の融合がいろいろな意味から進行し、実際に提供される情報もぐんと広がっていきます。例えば、アクトビラのサービスも、これまでの静止画から、動画さらにビデオオンデマンドへと拡大していきますので、そこに対応した、単なる受動的な機能から、能動的な機能を備えたテレビを積極的に展開していきます。またその時の使い勝手も同時にひとつの大きな課題ですね。それに加え、自分の生活に密接した情報を、テレビがどれだけ提供できるかです。
こうした流れに対し日立では、テレビをよりサーバー的な機能を備えた商品としてどこまで近づけていけるか。そして、薄型化・軽量化によるレイアウトフリーというコンセプトもさらに進化させていきます。
液晶テレビでは、CEATECに出品した2pを切る薄さの次の世代のものをいかに早く製品化していくかです。一方、プラズマテレビでは、画質をもう一段レベルアップしていきます。液晶との対比でひとつ弱いところをあげるとすれば、明室コントラストが挙げられ、今後ここを改善していきます。と同時に、液晶は薄い、プラズマは分厚いというのでは商品価値が下がってしまいますので、プラズマの薄型化も進めていきます。論理的には、バックライトがないのでプラズマの方が薄くしやすいともいえます。場合によっては、液晶よりさらに薄いものができるかもしれません。液晶より少し遅れますが、基本的に、日立のテレビは全部薄い。軽くて壁に掛けられるのは当たり前という形にしていきます。

―― 日本社会はますます高齢化が進んでいきます。録画機能を内蔵した利便性など、もっとアピールしてほしいですね。

江幡 HDD内蔵は、自分でも使っていますが、やはり便利ですよ。しかも間違いなく録画できるという安心感があります。これだけ薄くなったテレビで、ボタン一つで録画できるというスタイルが、これからは一番いいと確信しています。
それから、もっと考えていかないといけないのがリモコンです。20年位前とあまり変わっていない。機能は増えているから、かえって分かりにくくなっている面もあります。基本機能だけでも、例えば、身振りとか声で簡単に操作ができるようにならないかな、と思います。次のユーザーインタフェースにおける、大きなテーマのひとつですね。

―― 御社の強みである研究所を含めた総合力で、一気に解決していっていただきたいですね。本日はどうもありがとうございました。

◆PROFILE◆

Makoto Ebata

1947年2月23日生まれ。東京都出身。70年早稲田大学第一法学部卒業。同年(株)日立製作所入社(横浜工場勤務)。以後、資材部門を中心に勤務。特にシンガポール、英国、米国等、海外現地法人で永らく勤務。93年横浜工場資材部長、00年資材調達事業部長、02年グループ経営企画室長、03年執行役、04年執行役常務グループ戦略本部G経営戦略部門長、05年執行役常務コンシューマ事業統括本部副統括本部長 ユビキタスプラットフォームグループグループ長&CEO、現在に至る。趣味はゴルフ、旅行、音楽(ギター)。