パイオニア(株)
取締役社長

須藤 民彦
Tamihiko Sudo

2008年、意識を変えて
新たな価値創造を実現
成果へと結びつけていく

AV専業メーカーとして打ち出した新たな価値提案を、プラズマテレビ「KURO」をはじめスピーカーTAD−R1、フラグシップAVアンプなど、商品として、またマーケティング戦略として素晴らしいかたちで結実させたパイオニア。2008年に創業70周年を迎える同社の、昨今の厳しい状況を打ち破る戦略と、これからのテーマとは。2008年新春インタビューとして、パイオニアの取締役社長 須藤民彦氏にご登場いただきお話しを伺った。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

須藤民彦氏
社内で築かれてしまう壁を低くし、
技術をもちよることで価値を生み出す
本当の意味でのAとVの融合目指す

「ディスラプション」による
新たな方向性

―― プラズマテレビ「KURO」のイベントをはじめ、御社が示された新しい方向性が業界でも話題になっています。まず須藤社長のお立場から、この一連の歩みについてお聞かせください。

須藤 当社がプラズマを始めとするビジュアル商品を市場に出し続ける限り、他のメーカーさんと同じようなブランドアイデンティティや、価格が安い・高いといった単純な物差しだけでは存在価値はないという状況で、今回、抜本的な取り組みを行いました。プラズマテレビのブランドも、「ピュアビジョン」から「KURO」に変えましたが、国内でも予想以上に浸透しております。また今回17都市で実施した体験イベントについても、コンセプトや考え方が好評をもって受け容れていただけたと思います。
ただし社長の立場、また株主様のお立場からしますと、マーケティングや商品は良くとも、業績はどうかということです。正にそれがパイオニアの課題であり、私の大きな宿題です。それについては、緊急課題であると認識しています。

―― 今回の御社の動きに対して大手量販店も快くそれを受け容れ、新しい売り場展開を実現しました。それは何故かと考えますと、やはり御社が販売店とともにしっかりと歩んで来られた歴史、営々と築いてきた伝統、ブランドといった背景が挙げられると思います。
>最初にダイレクトマーケティングを始められ、また須藤さんが携ってこられたカーオーディオも花開きました。当時はなかったカーコンポというカテゴリーを作られたのも須藤さんでしたね。

須藤 カロッツェリアXを出して十数年になりますが、それ以前にはカーコンポーネントシステムがありました。やはりあの時代から、パイオニアは他社と同じではいけないという思いがありました。また世間の方々も私どもをそのように見ておられますから、他社と同じような性能の商品を出すと「パイオニアらしくない」と言われるのです。お客様はそのように認識されていますし、私どももそういうお客様の意識を無視して商品政策を進めることはできないと思っています。
今回の「KURO」というワードやキャンペーンなどについても、原点を辿ると「ディスラプション」ということなのです。それはスクラップ&ビルトとほぼ同義の言葉で、新しい価値創造にあたり、自分たちはどうありたいか、どうなりたいかといったことを自ら口に出し表現しようということから始めました。すると、今の状態とありたい状態とのギャップが見えてきます。
このギャップを埋めることがマーケティングであり、会社としてやらなければならないことです。当社のホームエンタテインメントビジネスグループやモーバイルエンタテインメントビジネスグループ、管理部門といろいろな部署で社員にヒアリングしたことをまとめ、パイオニアがなりたい姿、あるべき姿を定めました。
そこで出てきた言葉が商品名の「KURO」であり、キャンペーンワードとなった「Seeing and hearing like never before」であるわけですが、そこには他社にないものをつくろうという我々の意志が表れているのです。
そういう動きと、一方で黒の画質にこだわる開発の中で、20000対1のコントラストが実現したということがうまく同期して、あのようなマーケティングメッセージになったわけです。今後はそういった延長線上で、商品づくりやメッセージを決めていくことになるだろうと思います。

意識を変え、社内を変えて
モノづくりへと結実

―― ご就任から2年が経過しました。当時は厳しい状況がありましたが、ここまでの経過を振り返っていかがでしょうか。

須藤 あの当時、社長になってすぐ5つのテーマを出し、その課題・命題について心ある者を社内から募ってプロジェクトを運営してもらいました。
1つは、それまでの「2005ビジョン」に代わる、次の時代につながる新しいビジョンをつくること。2つめは、商品を企画・開発し、お客様にお売りして喜んでいただく仕組みであるコアプロセスを見直すこと。そして3つめは、会社の中が元気でないという状況の中、風土を左右する人事制度や企業価値を見直し、根本的になおすということをしました。
4つめとしてもう少し事業よりの話を致しますと、当社はオーディオが原点のはずなのですが、プラズマが社業の中心となってきた過程において、特にホームオーディオの分野で置き忘れられた部分があったと思います。当社が映像商品の市場で戦っていく上で、映像の価値観だけでは戦い切れないという思いが最初からありました。やはり、オーディオという当社独自の強みをしっかりと融合させ価値提案をしていくべきだと、オーディオをもう一度見直そうということです。そして5つめは、本社の部門のあり方、事業部門と本社の関わり方をもう一度見直そうと取り組んできました。
ここまで実施してきて、多少なりとも風通しはよくなったのではないかと思います。またオーディオの活性化というテーマについても、具体論がなくてはなりません。もともと当社の原点はスピーカーですが、ホームオーディオとカーオーディオが、それぞれスピーカーの開発や生産のしくみを別々にもっており、私は常々それを問題視していました。原点はホームオーディオですが、事業規模から言いますとカーオーディオの方が圧倒的に大きいわけです。お互いに生産上の効率、技術の持ち合いなどができるはずなのですが、これまではなかなか難しいところがありました。
しかし今回はそれを実現させるということで、2008年4月のテイク・オフを目指して現在、具体的に手を入れているところです。現場レベルでは納得できる感覚になっており、いい成果が出ると期待しております。
もうひとつ、スピーカーの技術の成果としてTADーR1といった商品も市場に導入してきましたが、アンプを始めそれに匹敵する商品がまだ導入しきれていません。これを反省するとともに、さらにブランド戦略としてTADのブランド構築をしっかりとやっていこうと思います。現在、高性能なアンプを集中的に開発しています。今回のCESでは、TADーR1と高性能アンプを組み合わせてお聴きいただけることになると思います。
このような取り組みを行いながら、全体的にオーディオを大事にし、フォーカスしていきたいと思います。そういったものと、今後プラズマをサポートする周辺機器として5.1chを含めた価値提案ができていくと思います。

須藤民彦氏―― おっしゃるように、商品が見事に花開きました。TADーR1、「KURO」、そしてAVアンプのSCーLX90と素晴らしい商品の数々が話題になっています。須藤社長の打たれた手が、一番大事なモノづくりのところで結果となりました。

須藤 パイオニアとはどういう会社かと、原点に触れる話を私も社内でずいぶんして来ました。それが結果となったのなら嬉しいことだと思います。
株式市場はすぐ結果を求めようとしますが、モノづくりというのは1年や2年でできることではありません。特にオーディオは一番息が長く、努力がそう簡単には結果にならず、長い時間軸の中でだんだんと報われていく分野です。ここはじっくりと腹を据えて、社員の意識を変えるところからしっかりとやっていかなくてはと思っております。

―― またこの2年の間御社には、事業所を移されるなど大きな移動がありました。本社と事業部門の関わりなど、期待通りになられたというところでしょうか。

須藤 まだまだ、私の期待値の半分も実現していないですし、もっといろいろとやっていかなくてはと考えています。
長い間実践してきた自分たちのやり方というものからは、なかなか抜け出すことができません。歴史を重ねるのは大事なことですが、一方で考え方や仕事のあり方については、もっとフレキシブルに変わっていかなくてはならないと思います。
たとえば商品開発をするにも、鉛筆をなめて図面をひくわけではなく、CADを使って3次元で設計する。またやり方にしても1つのファイルを開けたり閉じたりして進めるのでなく、幾つものファイルに同時にアクセスするといったようなことが求められているわけです。開発の仕組みもこれだけ変わっているのですから、我々の意識も変わらなければなりません。
そういった開発環境などについても、当社のカーエレクトロニクスの基準に合わせて他の分野もやり方を変えていこうとしています。なぜカーエレクトロニクスかといいますと、商品自体が小さく早くからIT化の必要性があったということ、また車メーカー様からの要求に応えてデータのやり取りなどフォーマットを合わせる必要があったということなどで、開発環境が当社で一番進んでいるからです。
そういったことも含めて、事業所にも変えていかなくてはならないことがたくさんあります。またそれに合わせて、仕事の中で築かれてしまう人と人との壁を低くして、本当の意味でAとVを融合するところまでもっていきたいと思います。
最近の車業界では、高級車などに高級オーディオブランドの商品がインストールされている、ブランデッド・オーディオが浸透してきています。実はそういう商品のヘッドユニットは当社もつくっているわけですが、パイオニアというブランドは表に出てきません。そういった意味でも、新しいブランドを育てるということは重要なのです。

パイオニアだからこそできること
新たに目指す進化のかたち

―― これから先の3年を見据え、どのようなプランをおもちですか。

須藤 オーディオビジュアルについては、プラズマを中心にどうやって進化させていくかということが、商品計画上の大きなテーマになります。先のCEATECでも見られましたように、テレビにはより薄くという流れもありますが、これには当社なりの技術で取り組んでいこうと思います。
ただ画像がきれいだというだけでなく、私どものお客様の立場、私どもの技術のこだわりから見て、もっと違うかたちの商品提案を今模索しているところです。またコストダウンを含め、現実的な命題にも取り組まなくてはいけないと思っています。

―― 昨年はまた、シャープとのコラボレーションを発表されました。私どもとしては、実にいいかたちとみております。

須藤 今のところ具体的な事業計画を明示していませんから、早急に着手しないといけません。町田会長、片山社長とはかなりのところまでお話し合いをさせていただいております。事業上でどういう成果を出すのか計画を立てる上で、コラボレーションの象徴的なところを示し、さらにフォーカスさせていくというステップになると思います。直近ですぐ取り組んで成果を出せそうなもの、長期戦になりそうなものといろいろあります。
テレビの画面が大きく画質がよくなってきて、音もいいものを求められるとなると、お互いにできることがあると思います。また当社の強みとして、レーザーディスクからスタートした光の技術があります。DVD、BDの開発や商品化において、近未来的になにかやらなくてはと考えているところです。またカーエレクトロニクスの分野はお互い全然違うもの、魅力のあるものをもっており、いくつかのテーマが実現できると思います。

―― やはりパイオニアとして強くなられたということが、いろいろなことにおいて結果をもたらします。

須藤 パイオニアはある意味井の中の蛙というところがあり、外の世界とお付き合いをさせていただくだけで、色々な発見と気づきがあります。そういったことを、うまく自分たちの文化に採り入れられればと思います。

―― 最後になりましたが、2008年の抱負をお聞かせください。

須藤 私が当社で新春の挨拶をするのは、2008年で3回目になります。最初の年は暗い挨拶になり、2回目も決して明るいものではありませんでしたから、今度こそもっと明るい話をと社員は言っていました。
先ほどもお話しましたように、社内の協力関係によりお互いの成果を出すということで、社内にある技術やノウハウをうまく顕在化して結果に結びつけ、商品にしていく。そういうことを進めていきたいと思っています。
私どもはカーエレクトロニクスも含め、特にスピーカーで業界に貢献させていただいていると思っており、スピーカーならナンバーワンだという自負があります。その分野をはじめ、社内のそれぞれの部門で、お互いがアイデアや技術を持ち寄り、新しいものが開花するようなことをやっていきたいと思います。そういったことでオーディオの活性化という具体的な成果を出していく。ぜひ成果の年にしたいと思います。

―― 2008年の御社の活躍も大変期待しております。本日はありがとうございました。

◆PROFILE◆

Tamihiko Sudo

群馬県出身。70年4月パイオニア (株)入社/貿易部配属。88年3月 国際部ヨーロッパ部部長。89年2月Pioneer Electronic (Holland)NV.社長。00年3月モーバイルエンタテインメントカンパニーバイスプレジデント。00年6月 同バイスプレジデント 執行役員。02年6月 同プレジデント 常務執行役員。03年6月 同プレジデント 常務取締役。04年6月 同プレジデント 代表取締役専務取締役。05年6月代表取締役副社長 経営戦略部門担当 経営管理部門担当 輸出管理統括。06年1月代表取締役社長、現在に至る。趣味はゴルフ。