巻頭言

「鬼の撹乱」

和田光征
WADA KOHSEI

ことしは正月早々から風邪をひいて寝込んでしまいました。昭和43年4月に小社に入社して早40年になりますが、ほんとうに風邪をひいたんだな、と自覚したのはこれが初めてでした。

最終的に39度近い熱が出て咳も止まらずという状態でしたが、私自身、自分の平熱についての認識が低かったため、体温が38度を超えてもそれがどの程度のことかがわからず、無理をしてしまったことが苦しむ結果となったわけです。インフルエンザの予防もしていませんでしたので、正月3日に病院に行ってまず検査されたのですが、幸いなことに結果は陰性。あとは病院から供された抗生物質等を服用して安静にし、回復を待つこととしました。

とりわけ、小社の始業日である一月七日には全員に「本質回帰年=エッセンス・イヤー」の話をしなければなりませんでしたので、ともかく嗄れた声をもとに戻し、なおかつ元気な姿を見せなければと懸命に節制したのでした。

ともかくよく寝、よく眠りました。一日に何時間寝ていたでしょうか。日頃は昼、夜、土日も関係なくスケジュールを目一杯詰め込んで走り続けて来ましたが、こんなにゆっくり休んだのは入社以来はじめてのことでした。しかし正月早々、それも年始休みをずっと寝ていた訳ですから、家人から見ればことしの運勢に何かしらよくないものを感じていたかもしれませんが、私は私でどうして正月早々の休みに風邪をひき、結果として家人に気兼ねすることもなく、据え膳生活の幸福感に浸り、苦しいけれどもゆっくりと布団の中で眠り続ける幸せに、ことしの運勢は大吉ではないかと勝手に思ったものでした。正月休みに休ませていただく天の采配を感じ取り、心から感謝したものです。

休んでいる間、目が覚めればテレビを見ていました。私が好きな番組は自然紀行や世界遺産や、自然のものや動物の世界が中心です。居ながらにして味わえる世界旅行の気分が何とも言えず、まさに至福の極みでした。けれども地球温暖化の番組には、とんでもない恐怖心を覚えました。

モルジブの首相が、「わが国は、このままいけば早ければ10年以内に消滅します」と悲痛な声で訴えていました。エベレストには何と900個もの湖が氷解によって出現し、いつ決壊するか分からない危険な状態にあるとか。南極、北極の氷解含め、地球がとんでもない状態にあることの恐怖が私を襲いました。宇宙→太陽→自然→生物、そして人間と思っている私の思考思索、哲学の根本が無力になっていきました。

「自然と人間」とよく言いますが、結局、自然そのもの、そして自然流で考えることや行動することすべてを破壊してしまう人類の性は、何と罪深いことでしょうか。技術王国日本は、CO2の削減を図りつつ、温暖化防止技術を国家として早急に確立していくことこそ世界に貢献することであると思い考えたのでした。布団の中で暖まりながら、心の深奥に涙の湖が沸き上がるのを感じていました。

一月七日、ちょっと嗄れ声でしたが無事に年頭挨拶を行い、皆に温暖化のことなども話し、我々にできることはともかく実行しようと決めたのでした。

読者の皆様のご自愛ご健勝を祈念してやみません。

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