巻頭言
「ノオト」
和田光征
WADA KOHSEI
やわらかな空気は花の季節を運んできた。まさに歓喜の歌がいっぱいに奏でられる頃である。
こんな三月から四月にかけて新たなる旅立ちを用意する決まりごとは、何とも絶妙ではないだろうか。
この季節、私は様々なことを思ってしまう。例えば業界のこと、企業のこと、経営する人たちのこと、働く人たちのこと、そして何よりもユーザーのことである。
とりわけユーザーの利益は業界にとって何なのか、ということを私はいつも自問自答しており、私のノオトにはその事が多く書き留められてある。その中身は、己の思索物はもとより賢者たちの言葉等さまざまで、多いのはむしろ後者である。
「販売量を確保するために量販店に頼らざるを得ない。その結果コストダウンに行き詰まり経営難に陥ってしまう」
この一文を見て、今も昔も変わらないな、と思う。まさにこの風景は永遠のものかも知れない。量販に頼り過ぎると、強い量販ほど仕入れや条件が厳しいだろうから、頼らざるを得ない側は当然コストダウンを様々に計りながら対応するしかない。しかし結果としては行き詰まり、経営難に陥り、撤退することとなる。そこに至るまでにいかに折り合いをつけるかが経営者の要諦でもあり、また、新しい期が始まるこの季節の要諦である。
しかし、今起こっていることは数年前に判断し実行したことの表象であり、それに対する厳しい分析なくして次なる方向性はない。業界が量販頼みのしくみにある限り、量販頼みの方向性は変わらないだろう。量販同士が戦争状態にある限り、価格破壊、利益破壊は余儀なくされるし、その際限のない悪循環が続く。そこから脱する方向性を見つけない限り、結局は駄目なのである。
ノオトには、「これからの経営者はインテグリティがすべてである。つまり誠実性、情熱性、倫理観が問われる時代なのである」と、賢者の言葉を記してある。
イトーヨーカドーの創業者である伊藤雅俊氏が、創業の頃の話の中で「売ってくれない、貸してくれない、来てくれない」と言っている。取引先は商品を売ってくれない、銀行はお金を貸してくれない、顧客は来てくれないものだということであり、これが基本思想として現在でもしっかりと同社に浸透していることが、セブンイレブンを含めて同社の隆盛につながっている。
取引先が疲弊し、経営難に次々と陥っていったら、結局は売る物はなくなり、顧客を満足させることができなくなるだろう。また、勝ち残った一部のメーカーだけの商品があっても、顧客は満足しないだろう。
「つぼを見ていると しらぬまに つぼのぶんまでいきをしている つぼはひじょうにしずかにたっているので すわっているようにみえる」(まど みちお)
ノオトに記された詩である。
「諸君。政治というものは国家社会の曲がったものを真すぐにし、不自然なものを自然に戻すのが要諦であると私は思うのである」
「うのみにせず、自分で確認してから進むことが大事である」
ノオトに言葉が溢れるのもこの季節である。
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