遠水 清氏

オーディオへの情熱で
苦労などなくなってしまう
すべてはお客様のために
「お客様目線」の売り場の実現は
常に問題意識をもっていてこそ
(株)ヨドバシカメラ
販売本部
店舗企画担当
遠水 清氏
Kiyoshi Tomizu

専門性ときめ細かな品揃えで、量販店とは一線を画する立ち位置にあるヨドバシカメラ。同社において、AV・オーディオの店頭づくりを一手に担っている遠水清氏に話を伺うことができた。特にピュアオーディオに関しては、新たな顧客層を呼び込む最前線としての同社の役割が業界内でも大いに注目されている。遠水氏自身の見解とノウハウなど、さまざまに語っていただいた。

エントリー層を大事にしなければ
オーディオの裾野は拡がらない

テレビは今1台でも多く売る
それが今後につながる

―― 遠水さんには10年ほど前に本誌のインタビューにご登場いただきましたが、あれから市場にも大きな変化があり、あらためてお話しを伺いたいという次第です。まずご自身のご経歴からお話いただけますでしょうか。

遠水私は昭和53年に新卒で当社に入社しました。当時は大企業より伸びゆく企業を志望したという思いがありました。当時の当社での取り扱い商品はカメラが主でしたが、時代の流れの中で新しい分野を切り開き、AV関連商品も扱うようになりました。私自身趣味でオーディオをやっておりまして、好きな分野が仕事になったというところがあります。

入社後の経歴としては、カメラ売り場の責任者からAV売り場の責任者、その後副店長、店長と経験して仕入れの責任者となり、8年ほど前に本部を離れて再び現場で売り場の責任者を経験しました。そして一大事業だった梅田店のオープン時に店舗企画という仕事を手掛け、そのままその仕事に従事して今に至ります。

それまでも新店舗のオープンに際しては私が中心になってAVコーナーの店頭づくりを行ってきたのですが、会社の方針で専属となりました。部署の名称は販売本部、私の立場は店舗企画の担当ということになります。

―― 御社は梅田店のオープン頃から超大型の店舗展開をなされていますが、そういった店舗の売り場づくりについてはすべて遠水さんが手掛けられたということなのですね。

遠水AVが中心ではありますが、私がずっとやっております。当社は社長がすべての売り場づくりを指揮しておりますが、そういう中でお互いに意見を出し合いながら、といったところです。よくバトルにもなりますが。

―― 梅田店がオープンされたのは2001年ですが、それからというもの、AVの市場は大きく拡がってきました。今は特に薄型テレビがその中心にあって、今年の北京オリンピックや2011年のアナログ停波に向けてどんどん売らなくてはならない状況になっている一方、価格下落が予想以上に進んで厳しい環境となっています。

遠水 清

遠水高単価、高収益をもたらすということで、大型の商品を売りたいのはどこでも同じだと思います。時代の流行の商品というのは、価格がバッティングして競争も激しくなります。しかし、今は売らなければなりません。メーカーさんと同じで、店も数多く販売してシェアを取っていくということが今後の商売につながるのです。多少圧迫されている部分はありますが、価格競争に負けず、1台でも多く販売したいというのが我々の気持ちです。 そこにまつわる売り場づくりも必要です。きれいというだけでなく、店頭で商品を山積みにしてどんどん売っていくような泥臭い商売というのも大事です。こういった売り方は2011年までずっと続いていくと思います。

―― テレビ市場が一段落するであろう2011年以降については、どんな見通しをされていますか。

遠水やはり市場は、一旦は冷えてくるだろうと思います。その時に確実に売れるスタイルをとっていかなくてはならないと思いますが、まだ細かな方針や戦略は出ておりません。お客様のご家庭に1台でも多く設置できる環境づくりがまず必要なのではと思います。

―― 新宿西口店を改装されているということですが、どんな展開になるのでしょうか。

遠水これは既存の売り場の中での改装であり、商品構成や売り場構成の変更を行っていますが、来年以降の展開を見据えたかなり大規模なものです。AV商品も充実させていますが、特にピュアオーディオに力を入れ、専門的な商品を揃えていくつもりです。 新宿西口店は秋葉原店とお客様の層が違い、特にピュアオーディオのニーズが高くなっていますから、ここにしっかりと対応していきたいと思います。

ホームシアターこそ
オーディオの最重要カテゴリー

―― ピュアオーディオはテレビと比べて非常に市場が小さい状況ですが、そういった中でもお客様にアピールするためにどういった店頭展開を心がけていらっしゃいますか。

遠水オーディオでもっともスペースをとらなくてはならないのはホームシアター分野だと思います。オーディオの中の商売ではミニコンポに次いで大きな市場だと思いますから、ここをしっかりとやった上でピュアオーディオ、という考えでやっております。そこでハード機器やアクセサリー、スピーカーなどすべてつながりがありますので、ここに合わせてピュアオーディオを展開します。

ホームシアターはフロントサラウンド、5.1chヘッドホン、ミニコンポのシアター、テレビ側からのシアターなどすべてやらなくてはならないと思っています。そして最終的にはコンポーネントAVアンプを中心としたシアターを目指す、というのが今の売り場の作り方です。当然視聴環境としては、リアスピーカーもきちんと設置しておくというのが基本です。

―― 一方でプロジェクターが今、テレビの大型化で踊り場に来ています。

遠水プロジェクターは、新製品効果が出る年末までは厳しいと思います。また今は廉価モデルがほとんどなくなった状況で、エントリーユーザーが手を出しにくいというのが昨年との大きな違いです。ハイビジョンタイプの価格がもう少しこなれたり、エントリーモデルが出てくるなりすれば、市場は必ずあります。今は堪えどきですね。

今まで当社では、プロジェクターという括りの中でAV系とデータ系を一緒にやってきたという流れがありますが、それを今どんどん移設しております。新宿西口店でもデータ系をOAの売り場に移動させ、この次のステップアップとしてAV系のプロジェクター売り場の拡張を図ります。これは年末に向けて、あくまでもシアターの中のプロジェクター展開、大画面をAV向けにしっかりとアピールしたいという意向です。

―― プロジェクターメーカーは今、廉価モデルを出したくても出せないという状況があると思います。

遠水私も各メーカーさんに大いにアプローチはしているのですが。そんなに極端な価格でなくとも、商売としてできる価格帯の中でなるべくリーズナブルな、というモデルをぜひまた出していただきたいと思います。

シアターシステムからの訴求がないと、プロジェクターは厳しい時代だと思います。通常は大型テレビでシアターを構築する方が楽です。しかしそこであえてコーナーをしっかりつくって、マニア向けに高単価なものから展開し、プロジェクターを継続して行かなくてはいけないと考えています。

―― 御社で展開されているヨドバシドットコムなど、ネットショップの展開についてお伺いしたいと思います。

遠水時代の流れとしてドットコムはやはり必要です。遠方から来られるお客様に対して、非常に有効な手段だと思います。「価格.com」などお客様も非常に興味をもっておられますし、モノを買う動機付けの有効な切り口になっています。

店頭では、当社のドットコムも含めて、ネット対策を考えて行かなくてはならない時期だと思います。そのうちAV商品も全体の15%くらいはインターネットサイトにもっていかれるのではと思っておりますから。その分店頭では、来ていただいたメリットを十分にアピールできるような店づくりをしていかなくてはなりません。ホームシアターがその最たるものですが、体感できて、品揃えが豊富で、来て良かったと思っていただけることがドットコムとの違いだと思います。

価格だけで購入されたいなら、安いところはいくらでもあります。その中で、当店に来ていただいた時の感動があって、喜んで買っていただけるような環境をつくることが一番だと思います。インターネットに載せられるアイテムには限りがあります。またアクセサリーなど、説明を受けなければわからないものも数多くあります。特にそういう商品については、お店に来ていただけるメリットが大きいと思います。

―― 販売員の方々の専門知識や接客のノウハウなども素晴らしいものがありますが、教育はどのようになさっているのでしょうか。

遠水従来から各取引先様にお願いして、研修会などは行っています。あとはもう、現場での指導ですね。店長やマネージャーなど、売り場責任者の指導が重要になってくると思います。価格だけではいい買い物はできないと思いますから、我々はお客様のご予算と折り合いをつけながらも、まずいいものをご提案するということが大事です。オーディオなどは特にそうで、10万円のご予算で来られて20万円のものをご購入くださるお客様も多いですし、そうして喜んでいただく接客を心がけているつもりです。

―― この10年間というもの、AV家電業界は様変わりしましたが、それを踏まえてこれから先の流通業界の動きをどうお考えになりますか。

遠水我々としては、ブランドが減っていくということが非常に寂しい思いです。メーカーさんにまずしっかりと儲かる商売をしていただかないと、と思います。メーカーさんが価格価格というお考えでは、当然販売店も同じような状況に陥ります。その流れでこの数年間は、利益が出ないというような構造になってきていると思います。たとえばパイオニアさんがとった戦略のように、いいものを見合う価格で販売できるような市場を業界全体で作っていかなくてはいけないと思います。

まずメーカーさんには、お客様の期待に応えられるようないいものを作っていただきたいです。それと、大手のメーカーさんにはもう少しオーディオに積極的に力を入れていただきたいと思います。

いい音を体感できる場が
店頭には不可欠

―― 御社の社長は常々、メーカーさんに商品をつくっていただいているから自分たちはビジネスができるのだ、とおっしゃっています。モノづくりというのは商売の根元であり、メーカーさんが減れば、お客様の選ぶ楽しみも減るということになります。

遠水私は専門店さんに頑張っていただくことが、市場の活性化につながると思います。ハイエンドをやっていらっしゃるお店さんが残らないと、我々にも影響が出てきますし、オーディオに元気がなくなると全体的に低迷してくると思います。ハイエンドをやっていらっしゃるお店さんはお店さんで、継続できるような施策をとるべきだと思います。専門店は敷居が高く入りづらいという話もありますが、まさにその通りだと思います。そのような店づくり、商売のやり方やスタイルを、そろそろ変えるときではないでしょうか。顧客を選んで、どうしても富裕層や上の世代に向かっているというようなところが見受けられるのですが、もっと幅を広げるべきだと思います。

私どもとしては、団塊世代やその上の年齢層の方々はもちろんですが、若い方、30代から40代といった、これからいろいろと興味をもってオーディオに取り組むという層を非常に大事にしております。だからこそエントリー層重視、という考え方なのですが、そこからやっていかないと、これからますます難しくなってくると思います。

―― ご販売店としては御社と違った業態をとっていらっしゃったヤマダ電機さんが、LABIの展開などでオーディオビジュアルを含め専門色を強めてきており、駅前立地で進展されています。御社としては、このあたりでの差別化についてどうお考えでしょうか。

遠水同業として非常に歓迎しております。オーディオやAV全体の裾野を広げるという意味で、これまで扱われていなかったようなものを展開されるというのは業界全体にとっていいことだと思います。お客様が体感できる機会が増えるということですから。そこから先は店同士の競争になりますので、絶対に負けないという意気込みで頑張るしかありません。そういったお店がどんどん露出していけば、家電中心、テレビ中心ということではなく、オーディオも拡がっていくのではないでしょうか。

オーディオの潜在需要は大きいです。音楽は一生の趣味と言われますから、それを少しでもいい音で聴きたいという願望は誰しもあるのではないでしょうか。その願望を叶えるためにも、露出の機会が増えるのは喜ぶべきことだと思います。

30年ほど前は、どこに行ってもオーディオを体感できる環境がありました。私自身もそういう時にオーディオに興味をもって始めた一人ですが、その環境がどんどんなくなってきたというのは非常に寂しい限りです。今は、商売として必ず成り立つものという信念をもってやってきています。時代が逆行している部分もあり、社内での風当たりが強い時期もありましたが、それでもオーディオというのはヨドバシカメラで扱う主軸の商品だという位置付けを崩さずやってきたことで、今の売り場があるのです。

―― オーディオは趣味性の高い世界であり、なかなか新しいお客様を呼び込む手だてがありません。専門店は若い方やファミリー層にとって敷居が高いという中で、ヨドバシカメラは幅広いお客様に対して豊富な品揃えで店づくりをされており、オーディオの裾野を広げるという意味でも大きな存在と言えます。

遠水オーディオはまずエントリークラスが重要で、これは専門店さんの考え方とは全く異なると思います。私どもではハイエンドをやっているつもりは全くありません。初めての方がピュアオーディオに入るには、10万円クラスのシステムでいい音が聴ける環境が必要です。それを店頭で露出して目立たせ、お客様の目に入れることで興味をもっていただきます。そして商品に近寄っていただいたとき、ミニコンポクラスとは違う音を体感していただきたい、そういう店づくりを心がけています。

―― 今は多くの人がiPodなどのデジタルオーディオプレーヤーで音楽を聴いていますが、そこからハイファイと言われるオーディオに至るまでは相当の開きがあり、ここをどうつないでいくかが業界全体の課題です。

遠水当社では、デジタルオーディオプレーヤーのお客様も非常に大事にしております。まず音楽を聴きたいという欲求から、次のステップとしてもっといい音で聴きたいというところにいけるような店づくりを目指しています。iPodを中心としたポータブルのデジタルオーディオプレーヤーの売り場から、隣接するところにミニコンポがあり、ハイコンポがあり、それから興味をもっていただくためにホームシアターを中心とした売り場があり、そして最終的にピュアオーディオがあるという構成です。

まずはいい音を聴いていただくということがひとつの前提です。ポータブルのところにちょっといいヘッドホンを聴ける環境をつくるなど、触れて聴いて、体感していただくというところからアプローチすべきだと思います。カナル型、インナーイヤー型はもちろん、ある程度高額なモデルを実際に聴ける環境、そしてその延長線上にコンポーネントがあるというところにつなげます。

1万円のヘッドホンは、一般のお客様からすれば十分にハイエンドです。そこでデジタルオーディオプレーヤーに付属するものと1万円のヘッドホンとの音の違いがわかれば、いい音に対する興味が沸いてくると思います。もっといい音を聴きたいという欲求を促すようなコーナーは色々なところに仕掛けており、その積み重ねがオーディオ全体に波及していくと思います。

品揃えについてはAkiba店がナンバー1ですが、改装中の新宿西口店では真空管のアンプなども展開し、私どもとしては初めて試聴室を設ける計画もしておりまして、この本が出る頃にはほぼ完成していると思います。これまでできなかったような、お客様を招いての新製品発表会なども行ってみたいです。ハイエンドに近いお客様のご要望にもお応えできるよう、予約制にして好きなアイテムを組み合わせて聴けるようにする、などといったことも考えております。

―― ヨドバシカメラの店頭は、オーディオ商品がもっとも充実しているといって過言ではないと思います。

遠水ありがとうございます。特にAkiba店などは私の考えで品揃えをやっておりますから、今も週末はなるべく売り場に入って、品揃えから展示、販売まで手掛けております。お客様に好きなものを選んでいただくために、品揃えを充実させるのは当然のことです。お客様から見て、来れば何でもあるという環境を作ることが大事なのです。

ですからケーブル1本でも大事にしていますし、これがお客様に対する大きなアピールだと思っています。アクセサリーは私の趣味でやっているようなものですが。御社の雑誌「オーディオアクセサリー」が出るときなど、掲載された商品の問い合わせがその日に来ますから、仕入れの方に話をしていち早く品揃えをする、また取引先と事前に話をして入れてくださいということをやっております。特にアクセサリーは、入れてみないとどう動くかわかりません。個人の主観で判断せず、あくまでもお客様に喜んでいただけるように幅広くやっております。しかし、「オーディオアクセサリー」を持参して質問されるお客様は、知識が豊富で手強いですね。そういう熱心なお客様が全国から来られますから、やはり品揃えは真剣にやらざるを得ません。

また商品の品揃えを充実させることによって、たとえばメーカーさんにお問い合わせがあったとき、ヨドバシに行けば見られるということをご案内していただけます。それがまた大きなメリットなのです。

―― 売り場づくりに際して、社長とはどのように進めていかれるのですか。

遠水バトルも相当あります。改装や特に新店でのゾーニングの際、テレビをどこに配置する、オーディオをどこに、といったいわゆるレイアウトの段階では結構ありますね。しかし単品コーナーとなると、そこは好きにやれ、と言われるようにようやくなりました。ここまで随分時間がかかりましたが。

私自身が中学生時代からオーディオファンであり、秋葉原に来ては部品を集めて、自分で作るというところから始めました。真空管アンプやスピーカーも随分作りましたが、そういう経験こそが今店頭で真空管の球を扱ったり、スピーカーユニットを扱ったりということに繋がっているのです。当時の知識は今に生きていますね。それと私はアナログが大好きで随分やっておりましたが、カートリッジとかアナログ関係の品揃えというのは、その経験から来ているのです。

今Akiba店で真空管を手掛けているのは、秋葉原のお客様のニーズがあるということと、取り扱うお店が減ってしまったということがあります。当初はショーケースに真空管アンプを入れて様子をみてみたのですが、やはり聴いてみたいというお客様がたくさんいらっしゃったのと、お客様より先に私が我慢できなくなってブースを作ったという感じです。お客様には非常に喜んでいただいています。

―― そういった遠水さんのオーディオに対する熱い気持ちを、若いスタッフにどのように伝えているのでしょうか。

遠水毎日行くたびに叱咤激励はしています。ただ、もっともっと、オーディオを好きになって欲しいです。サラリーマン的な考え方でできる仕事ではないですから。それは我々だけでなく、業界全体に言えることだとも思います。業界に今不足しているのは、オーディオに対する情熱、ミュージシャンがよく言うパッションですね、これが一番大事なのです。それがあれば、品揃えのための苦労や店づくりの苦労など、全部なくなります。すべてお客様のために、自分の考えや店の考えを理解していただきたいという思いは、どんどん広げていけるものだと思います。

国内メーカーの活躍に
寄せる大きな期待

―― 今もうひとつ懸念するのは、どうしてもテレビの販売に労力がとられがちになって、オーディオの売り場に人手が足りなくなってしまうことです。これは、テレビのブームが落ち着けば解消されることでしょうか。

遠水そうだと思います。ただお客様の立場で考えると、待たされるということは苦痛です。そのためには、今売れる商品のところにスタッフが集中するのはやむを得ません。かと言ってオーディオのお客様をお待たせするわけにもいきませんから、その配分は難しいところです。

また販売は短時間ではできません。特にオーディオは時間がかかります。スタッフにはなるべくていねいな接客をさせる方向に導いているつもりですし、そういう教え方もしています。またそうでないと、お客様にもいいものを買っていただけないですし、体感していただくこともできません。いいものをわかっていただくためには説明も必要ですし、聴きどころもおさえなくてはなりません。多少のうんちくも必要だと思います。スタッフには、そういう会話をするための最低限の用意をさせています。

とにかく、お客様がふらりと来店されても興味をもっていただける、そうしてお客様が増えていくということが一番の願いです。そのための仕掛けづくりです。お客様目線、と簡単に言われますが、なかなかそれを実践するのは難しいことです。売り場をどうしようかということは、常に考えているのです。

―― そういう意味でも、エントリークラスの重視、という考え方は大事ですね。

遠水直近では、エントリークラスは厳しい状況にあります。しかしそこで手を抜いては駄目なのです。ただ、この先はエントリークラスがメインになってくるのではないでしょうか。実販価格でアンプが10万円前後、といったクラスが中心になってくるのは間違いないと思います。

入り口といった意味では、5万円というところがひとつの括りだと思います。そのクラスをしっかりとやっていかないと、裾野は拡がらないと思います。とにかく今は数を出していただくことが一番です。この先は国内の大手メーカーさんでも新たに取り組みたいという話も出ていましたし、各メーカーさんでピュアオーディオに対する考え方が大分前向きになってきました。

若い方のライフスタイルはパソコン中心になっていますから、それはそれで仕方がないことです。しかしそこからどこまでステップアップしていただけるか、それは店がしっかりとやっていかないとなりません。要するにきっかけづくりですね。いいものをたくさん揃えて体感できるという環境をつくることを、もっとやっていかなくてはなりません。

―― メーカーと売り場、そして我々媒体との共同作業ですね。

遠水インターネットでの情報伝搬は、御社の「ファイル・ウェブ」なども有効ですよね。お客様の情報収集は早いです、何故そんなことを知っているのかと驚かされますよ。好きな方は減らないですし、またもっと増やさなくてはならないですよね。業界自体はいくらでも広げられると思います。またDVDの登場以降は画も入ってきましたから、マーケットとしてはより大きくなると思います。それがまだ拓けていないというのは、メーカーさんも販売店も、努力が不足しているのではないかと思いますね。

―― テレビが大画面化して、シアターへと発展させやすくなり、またそこから音楽へと拡がっていきます。

遠水 清氏

遠水そして購入された後でも、いずれ買い替えというタイミングになります。そのときにグレードアップをお薦めする。そうして昔から皆さんがやってきていますからね。パッケージのシアターやフロントサラウンド、何でもいいのです。まず買っていただいて、楽しんでいただいて、よさがわかればこの次にステップアップに必ず行くと思います。私はそういう考えでやっています。ですから、裾野の商品を非常に大事に考えているのです。

売り場の工夫も常に考えています。ほかのお店がやっていないことをやれているというのも、ただの思いつきではないのです。深く掘り下げ、できるだけお客様目線で考えているのです。ヘッドホンは触れるだけでなく聴けた方がいいですし、サラウンドヘッドホンなら画面を見ながら座って聴けた方がいい。そういう考え方なのです。新宿西口店では、スタックスのヘッドホンも聴けるようになりました。非常に好評です。

こういう体感ができる場所が、業界の中では減ってきていると思います。ですから、せめて自分のところだけはしっかりやっていこうという思いです。

―― ピュアオーディオで今後期待する商品は何でしょうか。

遠水やはりスピーカーでしょうね。国産のスピーカーが、それもシアター用でなくピュアオーディオ用でようやく実績が出せるようになってきました。そこは注目しています。何故かと言いますと、国産オーディオをしっかりやっていかないと業界は伸びないと思いますし、私自身も国産が好きだからです。以前のように国産で大型3ウェイを作ってもらいたいとは言いませんが、もう少しスピーカーが元気になると、利益の面でもメーカーさんに力が出てくると思います。

クラフト商品も売れています。親子で制作するDVDを店内で流したり、ミニコンポコーナーにスピーカーの分解模型を置いたりして注目を促しています。マーケットそのものは小さいですが、自作の分野も大事にしていきたいと思います。

国内オーディオのメーカーさんにはもっともっと頑張っていただきたいと思っています。私どもはそこを、めいっぱい支援する意気込みでおります。国内メーカーさんとしっかりとタイアップしていくということで、業界は伸びると思っていますから。

―― 大変貴重なお話しでした。本日はありがとうございました。

◆PROFILE◆

遠水 清氏 Kiyoshi Tomizu
1954年生まれ。'78年(株)ヨドバシカメラ入社。'81年東口店カメラ売り場責任者、'83年西口本店AV売り場責任者に。'85年西口本店副店長、'90年横浜駅前店店長を歴任、'94年仕入れ担当に就任。2001年販売本部 店舗企画担当に就任し、現在に至るまで全店AV売り場の店頭づくりを手掛ける。