浅井宏明氏

商品へのこだわりや思い
「語り部」を通じて
お客様に訴求し続ける
シャープ(株)
国内営業本部
副本部長 兼 シャープエレクトロニクスマーケティング(株)取締役社長
浅井 宏明氏
Hiroaki Asai

薄型テレビ市場で、シェアナンバーワンの座に君臨し続けているシャープ。たえずお客様の声に応えようとする姿勢と、商品に対するなみなみならぬこだわりを伝えようとする強い思いが、その地位を支えているのだ。同社の国内営業本部副本部長兼シャープエレクトロニクスマーケティングの新社長に就任された浅井氏。その数々の経験の中で培われた、お客様視点と商品への思いを語っていただいた。

つくり手側の独りよがりによりお客様の要望と商品とがかい離するのでは意味がない

こだわりを訴求してこそ
お客様に伝わる

―― 社長ご就任、誠におめでとうございます。

浅井ありがとうございます。私は1977年に入社し、国内の販売会社で家電の営業に携わり、2000年にブラウン管テレビとビデオデッキの商品企画の責任者として事業部の仕事を経験しました。当時の町田社長が「2005年までに国内のブラウン管テレビを液晶に置き換える」と宣言した頃です。2001年からは、その液晶テレビの営業部長として、「アクオス・ビッグバン」戦略を推進し、アクオスの市場立ち上げを担当しました。2005年には、太陽光発電の販売を担当するシャープアメニティシステム鰍ナ社長を務め、今年の5月からは、現在の業務を担当しています。

シャープアメニティシステムを担当していた時期は、補助金の廃止や太陽電池の原材料不足などが重なり、販売面では大変苦労しましたが、貴重な経験をさせていただきました。これからは、家電販売の責任者として、その経験を活かし、アクオスをはじめ更なる販売力の強化を図っていきたいと考えております。

―― 商品の立ち上げや、命運分かれるタイミングでのご着任が多いですね。

浅井宏明氏浅井そうですね。特にアクオスの立ち上げに携わった一年は大変苦労しました。2001年に第1号機(C1)を13・15・20型の3つのサイズで、価格は「1インチ1万円」を訴求ポイントに発売しました。当時では画期的な価格でしたが、商品の魅力と価格の納得性があったからこそ、新しい市場を切り開くことができたと考えています。

ただ「テレビを観る」ということだけで考えますと、ブラウン管テレビは当時20インチで2万円程度で購入できましたので、お客様が液晶テレビに10倍のお金を出してくださるわけがありません。当時はご販売店様に、「テレビを売ると思っていただいては売れません。お客様に、液晶テレビが醸し出す生活の夢や憧れを訴求することが大切です」と申し上げました。そして、液晶テレビへのこだわりを、「アクオス」というネーミングで表現し、ご販売店様やお客様に提案していきました。

アクオスは「アクア」(=水)とクオリティ(=品質)の造語です。美しい水の惑星である地球で、信頼される品質を兼ね備えた21世紀のテレビとして、アクオスを育てていきたいという思いを込めてます。さらに、従来とは違った「ライフスタイル提案」ができる店頭演出や什器を全国展開し、「これからのテレビは液晶だ」ということを徹底的に提案しました。

当社では、ここ2〜3年に入社した若手の社員を亀山工場へ集めて、アクオスのこだわりを勉強する研修会を実施しています。このようなこだわりをご販売店様やお客様にお伝えすることは、アクオスブランドを維持し、さらに発展させていくためには必要不可欠です。商品の機能や特長などを説明するだけではアクオスの本当の価値をお伝えすることはできません。研修では、ディティールまでこだわったモノ作りへの姿勢、第1号機(C1)から継承している独特なデザインの意味、液晶テレビのある生活空間やライフスタイルなど、アクオスに込められたあらゆる価値をご販売店様やお客様にお伝えすることの大切さを学び、全国で営業活動をしています。

アクオスの立ち上げの時から現在に至るまで営業マンは、このような価値をご販売店様に提案することにより、アクオスの魅力をご理解いただいております。ご販売店様も「こんな高いものが売れるのか」という思いが当初はおありだったと思いますが、地道な提案活動により、店頭でも大きなスペースを割いて販売していただくことができました。売れるかどうかわからない商品に対して広い売り場面積を割いていただくことは、ご販売店様にとっても勇気のいること。けれども、当社の姿勢やアクオスの魅力を十分に納得頂けた事が成功した1つの要因です。

人の心を動かすには、このようなこだわり、思いが必要であり、若い社員にも伝えていきたいと考えてます。立ち上げ当初は「アクオス伝道師作戦」として、全国のご販売店様を巡訪しました。今後は、「語り部」を育成していくことが必要だと考えています。シェアが1位であっても、決して驕ることなく、謙虚な姿勢で語り続けていくことが大事だと思っています。今一度、原点に戻って、そういう活動を一生懸命行っているところです。

―― 今やテレビ市場は薄型が主役となり、アクオスの商品構成も大変増えました。御社はシェア1位という立場におられますが、一方では競争も熾烈になって、価格下落の波も激しくなっています。社長にご就任されてからここまでのご印象は、いかがでしたか。

大型化とシステムアップ
年末商戦に積極訴求

浅井おおかげさまで薄型テレビ市場では、現在、トップシェアですが、各社の新製品は、それぞれの独自機能や技術的進化を明確にご提案されており、ますます競争が激しくなっていくと認識しています。

競争が激しくなる中で、当社としては、先ほどの「語り部」活動をさらに強化していくことに加え、お客様の潜在需要を掘り起こす提案を強化し、厳しい競争に勝ち抜いていきたいと考えております。つまり、作り手側の独りよがりな商品とお客様の求めておられる商品イメージがかい離していては、全く意味がありません。今、ブラウン管テレビをお使いになっているお客様は、そのテレビが壊れない限りは、液晶テレビに買い替えなくても不自由はありません。当社の都合だけでお薦めしてもお客様の心には響きません。もっとお客様の潜在需要を引き出す提案方法を開発していかなくてはいけないと考えています。

それが過去から液晶テレビに取り組んできた当社の強みであり、トップメーカーの責務です。今一度、お客様の目線に立ち戻り、お客様の求めているものを発掘し、モノ作り、提案内容、販売方法を追求していこうと考えています。

―― いよいよ後半戦、今年の年末商戦についてはいかがですか。

浅井今申し上げた視点を基本に、年末商戦では、「映画」という切り口で訴求してまいります。先ほど申し上げたように、お客様の潜在需要を掘り起こすことや新しいライフスタイル提案を提案します。具体的には、「更なる大画面化」と「システムアップ」です。

液晶テレビの画面サイズは16:9ですが、映画のシネスコサイズは、ご存じのとおり21:9です。65型でシネスコサイズを見ると、実際に映画が表示されるのは画面サイズの70%ほどです。これは高さで49型相当の画面サイズです。同じく52型では、39型相当になります。大画面の液晶テレビをご購入いただくお客様は、映画も大画面で楽しみたいと考えておられます。ですから、映画を大画面でお楽しみいただくには、お客様が考えておられるサイズよりも更に大画面をご提案することがお客様にとってもメリットがあります。年末商戦に向け、さらなる大画面の実売台数をアップすることにより、金額の落ち込みを少しでもカバーしていく営業活動を展開して参ります。

またシステムアップについては、当然ながらブルーレイとのセット販売を提案して参ります。店頭展示のスペースが2段あれば、下段の中央に50型アクオスをシアターラックとブルーレイとのセットで展示し両隣に46型と42型を展示し、上段には37、42、46、50型を配置し、画面サイズの違いがわかるような展示をしながら、インチアップとシステムアップの訴求を図って参ります。

AV以外では、白物商品の競争もますます厳しい状況になっています。当社では「プラズマクラスターイオン技術」を搭載した商品を核に営業活動を強化して参ります。「プラズマクラスターイオン技術」は、浮遊しているウイルスの除去性能を高め、付着菌の抑制や消臭などに効果があります、この技術を搭載した空気清浄機やイオン発生器などを発売して参ります。従来、白物商品を作っていた「電化システム事業本部」は、今年4月に「健康・環境システム事業本部」となりました。すなわち、これからの白物家電には、「健康」と「環境」へのこだわりが必要であり、営業としても、このキーワードに軸足を置いた活動をしていくことが求められます。そこで年末商戦に向けては「健康」と「環境」の切り口でキャンペーンを展開してまいります。これが当社のAVに次ぐ第2の柱になります。

お客様の求めているものは何か
原点に返って全て見直す

―― システムアップの中には、空間のレイアウトといった観点の提案も出てきます。

浅井薄型テレビの先駆者として、当社は、やはり壁掛けテレビには徹底してこだわって参ります。それがお客様に夢をお届けする大きな要素だと思います。また簡易型のスタンドタイプのラックなど、様々な設置スタイルを提案することで、個々のお客様に自分に合った設置スタイルを選んでいただく楽しみを提供して参ります。

太陽光発電の販売会社では、お取引先であるリフォーム関係、住設関係の企業様がアクオスもご販売いただいておりましたが、これがまさに、壁掛け提案の基本パターンなのです。リフォームや住宅建築のノウハウをお持ちなので、アクオスを一緒にご提案いただくことで、壁掛けのニーズにも対応していただけます。

そういう意味で、壁掛け工事や操作の説明などがきちんとできる地域専門店様への営業活動をさらに強化して参りたいと考えています。高齢化社会を迎え、商品がデジタル化されることで、ますますその傾向は強くなるでしょう。

―― 2011年のアナログ停波まであと3年を切りました。そこについてはどのような販売計画をもっていらっしゃいますか。

浅井日本全国で1億2000万台のテレビの需要があり、この7月までに3900万台が地デジ対応に切り替わったと言われています。単純に計算すると、あと8100万台の市場に対して、いかにアクオスに買い替えていただくかが大きなテーマです。

ただ、お客様は、買い替えることによってどのような価値があるのか、ということを納得されたときに初めて購入していただけます。当社として、先ほどから申し上げているような潜在需要を引き出す提案活動を継続して行っていくことが重要だと考えております。機能や特長だけを提案してもお客様は納得していただけませんし、価格が安くなったとしても欲しいと思っていただけなければ、購入していただけません。価格だけではなく、個々のお客様の心に響く価値をお伝えし、納得いただく営業スキルを極めていかなければなりません。

―― 全国のご販売店様に向けてのメッセージをお願い致します。

浅井宏明氏

浅井当社は今、「原点回帰」をテーマにしています。「原点」とは、お客様のことです。販売方法も含めて、お客様の視点で営業活動を見直し、店頭であれば展示の演出、話法、キャンペーンも含めて、お客様の満足度をさらに高めていくことが目的です。つまり、お客様を説得するのではなく、お客様に納得いただくために、営業活動全般を見直していきます。そうすれば、今まで気付かなかったヒントが必ずあるはずです。売り手側とお客様とのかい離を無くすために、お客様のニーズを汲み取ることが何よりも大切だと考えています。商売の原点はソリューションです。お客様の困っていることを解決させていただくことで、営業の価値が高まります。このような活動を通じて、ご販売店様やお客様とコミュニケーションすることで、間違いなくご支持をいただくことができると確信しています。

―― 意気込みを頼もしく聞かせていただきました。本日はありがとうございました。

◆PROFILE◆

浅井 宏明氏 Hiroaki Asai
1977年 4月シャープ(株)入社、98年10月シャープエレクトロニクスマーケティング(株) 首都圏統轄本部に所属。2000年 4月 シャープ(株) AVシステム事業本部 映像機器事業部 商品企画部長に就任、02年 4月同AVシステム事業本部 特機営業企画推進部長を経て同年7月シャープエレクトロニクスマーケティング(株) 第二営業本部東日本担当 専務取締役に就任。05年 4月シャープアメニティシステム(株)社長に就任。08年 5月より現職