- 誰にでも楽しめるデジカメを提案し
こだわりの日本市場にバリューを提供
- ジェネラル・イメージング・ジャパン(株)
- 代表取締役社長
- 小宮 弘氏
Hiroshi Komiya
米国ロスアンゼルスに総本社を置くジェネラル・イメージング社は、GEブランドのデジタルカメラ独占販売権をグローバルベースで取得し2007年2月に発足。さらに09年3月にジェネラル・イメージング・ジャパンが設立され、その商品は2009年に続き、デジタルカメラグランプリ2010
SUMMERでも金賞を獲得するなど早くも日本市場で頭角を現している。同社の成り立ちや理念、事業戦略について、小宮社長が語る。
長期間変わらない価値で
バリュー・フォー・マネーを貫く
「倍速」で仕事をこなし
設立1年でGEをメジャーに
── 小宮社長には本誌に初めてご登場いただきます。ご自身の経歴と、御社の成り立ちをご紹介くださいますか。
小宮 私は東京で生まれ、戦災で父の郷里の福岡に行き、大学入学で上京しました。そして新卒でブリヂストンタイヤに入社し、50歳を過ぎてからオリンパスに入って、64歳となる07年1月にジェネラル・イメージングを創立して今に至ります。
ブリヂストンでは色々なことをさせていただきましたが、一番印象的だったのは1年半ほどのアフリカ長期出張です。タイヤのカットサンプルを20〜30個分もって国から国へと行商してまわるのですが、気候はHOT(暑い)、HOTTER(より暑い)、HOTTEST(もっとも暑い)、食べるものはほとんどなく一ヵ月ほど目玉焼きで過ごしたときもありました。
そこで40カ国くらい、その後40年余りであわせて101カ国くらいまわりました。その後組合の連合会書記長の仕事を4年ほど、工場の寮で2年間単身赴任してやっていましたが、そこではモノづくりの厳しさを勉強させていただきました。
アフリカでの経験を経てアメリカに行ったり戻ったりした頃、ファイアストンを買収してトータルで8000億円くらい使ったでしょうか。私は北米本部長を担当して430億円の赤字を出し、ボロクソに叩かれました。15000人ほどのリストラも行って2年後には黒字になりましたが、私もリストラをすべきだという思いもあってブリヂストンを辞めました。
その頃仕事をするにあたって私は、「4倍速」のスピードでということを考えていました。50歳になったとき、75歳までの25年間を4倍速でやれば、100年間になると。これが私の最初の「100年計画」になります。
ブリヂストンを退職した後、52歳のとき声をかけていただき経営企画部長としてオリンパスに入りました。リストラのあとでしたから、私はしばらくゆったり楽しく過ごそうという気持ちでしたが、やはり第一線にいくことになり映像の営業部長になりました。
その後、どういうわけか3年足らずで取締役にしていただきました。しかし私はその頃のモノづくりを改革するため、現場である中国の董事長という職を自分で希望し、営業部長職は若い人にゆずって勝手に行ってしまったのです。開発陣も連れて行き、徹底的にコストを下げるべく中国発ビジネスを開始したのです。
それからは取締役会も出ず、たまに日本に帰って来ますと社長が「最近『勝手赴任』というのが評判になっているが、どういう意味か?」と私に尋ねます。「それは勝手に赴任することですよ」と申し上げたら「ああ、そうか」と、赴任を認められたわけですね(笑)。
その後分社化でオリンパスイメージングカンパニーをつくり、そこの社長になりましたが、その間赤字から150億円の利益を出したり、また赤字に転落したりと色々ありました。オリンパスでは11年くらい勤続し、自分の好きなことをさせていただいたという思いです。働かせていただいて今でも大変ありがたく思っています。
60歳の頃には「修正100年計画」をつくりました。ブリヂストンでノーマルスピードの30年を過ごし、オリンパスで4倍速の10年を過ごしましたから、その後10倍速で3年を過ごせば、全部合わせて100年になります。そこで63歳の時点であと3年で「100年計画」を遂行できると考え、オリンパスを辞めました。そして85歳・スコア85でゴルフコースをまわるブラックプラン、79歳・79でまわるゴールドプラン、そして75歳・75でまわるダイヤモンドプランも用意し、エージ・シューターを目指してゴルフに専念しようとしました。
ところが1年ほどの間に何社かお誘いをいただき、中でもGEが非常に熱心でした。デジタルカメラの市場でお客様ひとりひとりに親しまれることを目指すというので、私に白羽の矢を立てたようです。そこで私も決心しました。フジフイルム出身の西田専務と一緒にやることになり、2007年に私がアメリカ、専務が欧州の責任者となって世界市場に乗り出し、香港にも子会社をつくりました。
2年ほどが経過し、いよいよこれで辞めようと思っていましたら、余計なことに「三三九度」という言葉が思い浮かびました。一杯目の杯は100年分もう飲んだ、次はもっといい酒を美味しく味わおうと日本への参入を考えました。
その頃、デジタルカメラを欧米で100万台売っても、日本の市場に貢献してお客様に喜んでいただくことができないなら自己満足でしかないという思いがまずありました。しかし日本が大変難しい市場だということは、西田専務も私もよく分かっています。ですから思い切って日本に注力しようと二人同時に帰国し、集中して徹底的にやることにしたのです。二人で決めて日本で会社を設立したのが昨年の3月23日、現在ちょうど1年が経ったという状況です。
60歳から始まった4倍速での100年計画で考えますと、現在私は32歳の青年実業家といったところ。西田専務はまだ勤労高校生といったところですね。
── 「倍速」が小宮社長のキーワードですね。GEのデジタルカメラが日本市場に登場してから、あっという間に認知され、評価された理由がわかります。
小宮
GEデジタルカメラに携わってからの3年間というものは、日本の市場で本当に認知していただけるような商品づくりをしなくてはいけないという強い思いがありました。単にパートナーにODMでこちらの言う通り安く商品をつくってくれと投げるようなやり方ではなく、事業の体制や、ものづくりをするための開発、製造、技術、品質面のすべてを整え、しかもそれを短期的でなく将来までしっかりとやっていくという目線で全体をつくりあげていかないと、本当の開発力はつかないのです。たとえ数量1000万台、1500万台とやったとしてもです。
私どもはパートナーとも徹底的に、日本市場の中で他社様に伍し、あるいは凌駕するものにしていかなければという使命感をもってやっております。昨年1年目である程度の水準まできました。品質レベルでは最初は不良率1%でも、翌年が0・1%、今年は0・01%となるように改良も10倍速でやっていく気構えでおります。
デジタルカメラの事業では、オリンパスでも4倍速でやってきました。商品を出すまでの行程にはいろいろありますが、一番時間がかかるものに照準を合わせるのです。ここでネックになっているものを半分の時間でできた瞬間に、他の行程も全部半分にできます。
しかし一般には、開発は長い時間をかけるほど精緻なものができ、思い通りのものができ上がると思われています。私はそれが嫌なのです。行程を半分にすると、コストは2分の1になります。開発費の80%ほどは人件費ですから。開発も4倍速でやるくらいの気持ちでないといけません。
こだわりのバリュー商品で
日本市場にチャレンジ
── GEのデジタルカメラについてご紹介いただけますでしょうか。
小宮 日本はものに対するこだわりが強い市場ですので、それを考慮したアプローチをしています。我々がグローバルに展開するさまざまな商品の中でも、1000万画素以上、基本的に5倍ズーム以上のものといったものを特にセレクトし、タイミングをみて日本でリリースしてきました。現在全部で16機種展開していますが、Aシリーズと新たなCシリーズは乾電池駆動、GとEは実はGEからとった名称で、Gシリーズはウォータープルーフ、Eシリーズは我々にとっての最高位になります。さらにこれからXシリーズが加わり、ひとつの姿が見えてきたかというところです。
今回デジタルカメラグランプリで金賞を受賞したE1486TWは、もう少し早く出したかったのですが、目指すレベルに到達するまではという思いで半年近く改良を進めました。そして賞をいただくことができ、言葉にはならない思いがあります。この受賞は我々にとって大変な意味があり、我々はもちろん海外部門が特に喜んでいます。全世界に発信してこの名誉をアピールしていますが、これを励みにもっともっといい商品をつくっていきたいという思いでおります。
今春の新機種はE1486TWを含め6機種ですが、基本機能はすべての機種に搭載するというのが我々の基本的な考え方です。市場想定価格で7000円から2万円という価格幅になっていますが、特にこだわったのはレンズユニット。E1486TWを最薄と言わせていただいているのは、レンズの力によります。まずレンズをしっかりとつくって、これを先々まで展開していくという考え方でおります。
アメリカではXシリーズにパワーシリーズ、Gシリーズにはアクティブシリーズという名称がついています。A、J、Cはスマートシリーズというかたちです。またクリエイティブシリーズといって、ヤング・マムの35歳女性をターゲットに調査に基づいて新たにつくりあげたものも展開しています。このシリーズの日本展開については、しっかりと市場を見極めてから着手していきたいところです。
ラインナップはこれからもどんどん広げて参ります。よそから来て市場をさっとかき回していなくなるというイメージが外国ブランドにはあると思いますが、我々は自らを外国ブランドとは言わず、グローバルブランドと言っています。“世界から「美しさの、日本へ」”をキャッチフレーズに、それを今後“美しさの日本から、世界へ”という考え方に発展させ、開発から商品展開に対する思いまでもしっかりとアピールしていきたいと思います。
「和モダン」のコンセプトで
日本の伝統との融和を表現
p class="qaTxt">── そういった志向は「和モダン」の展開にも見受けられますね。
小宮 「和モダン」は、まさにそういった日本から世界へ発信するマーケティングコンセプトのご提案です。これは京都の宮脇賣扇庵という創業文政6年の老舗の扇子店にご協力いただいたカメラケースや、昇苑という組紐店のストラップと当社のA1255を組み合わせた展開です。
先方にご協力を仰ぐ際、「これはアクセサリーではありません」と申し上げました。私どものバリューがそちら様のバリューの中に包まれる、日本の伝統を表現するのだと。皆一緒になって、お客様に喜んでいただけるようなバリューを示そうと説得し、ご賛同いただいたもの、バリュー×バリューという考え方です。
私自身は外国暮らしも長く経験しましたが、日本と外国との間にある違和感をずっと抱いていました。日本人は元寇以来ずっと、外国を受けつけない体質があると感じています。日本人にとってデジタルカメラの外国ブランドは異物であり、日常生活の中に入れないのです。
バッグや車の海外高級ブランドも異物ですが、商品は家の中にはないものばかり。外で使って、あなたの持ち物とは違う、10倍価値のあるものだと主張するための道具なのです。結局生活用品では、日本人は外国ブランドを受けつけないのだと思いますし、その感覚が日本のグローバル化を阻止しているようにも思います。
しかし実際には、私たち日本人の生活にはすでに世界中のものが入ってきていて、恩恵を享受していますね。そういうグローバルな部分と日本の伝統との融和を表現していきたい。それが和モダンの考え方であり、日本人にとっての新たな世界観にもつながると思うのです。
日本市場に対する我々の姿勢を、「最チャレンジ」と私は言っています。最高の技術、最高の価格競争力、最高品質、最高のサービス、最高の人材、そういったものを全部もって、「MVCR」=モスト・バリュー・クリエイション・アンド・リライゼーション、「最高価値の創造と実現」をずっと目指していくということです。そして中国に「完美」という言葉がありますが、完全な美しさと書いてパーフェクトという意味ですね。品質において我々は「完美」=完璧を目指したいと思います。
そういう志がないとだめなのです。数だけ売ろうとしても市場のシェアをとれるものではないですし、シェアの喰い合いをするのでは我々が参入する意味もないですから、我々としては裾野を少しでも広げていく、というところを目指してやっていければと思っています。
長期間下がらない価格設定も
大きなバリューのひとつ
── ご販売店対策はどのようにされているのでしょうか。
小宮
我々は昨年の5月頃から活動を始めたわけですが、私も西口専務も伊藤営業本部長も、ずっと他社でこの業界に長く携わってきましたし、流通様もいろいろな方を存じ上げています。3人で各法人様をご訪問し、我々の基本姿勢、価格についての考え方や量を求めているのではないことなどをご説明しました。
そんなことで、ご賛同をいただいたところから順次展開させていただいているところです。もう一段階で全国ネットになれるかというところまできまして、大変ありがたいと思っております。特にE1486TWはいち早く全店展開してくださり、これから先もそういうご反応が広がっていけばと思います。
── 昨年の夏、店頭で初めてGEブランドの商品を見たときからコストパフォーマンスの高さに大変驚かされました。単にコストを抑える努力をされているというだけでなく、日本という市場に商品を導入するときに、他メーカーとは違う価格戦略をとられていると感じましたがいかがでしょう。
小宮 我々が重視するのは、発売直後に買っていただけるお客様の存在です。3ヵ月たち、半年たったときに「待っていれば価格が下がったのに」と思われるようでは、お客様の最初に買うという意欲が薄れてしまいます。
デジタルカメラが100万画素から500万画素、800万画素へと進化している頃なら魅力的な新製品がどんどん出ましたが、1000万画素を超えるレベルになりますと、開発側にとっては凄い進化であると思う新製品でも、お客様にとってはそれほどでもないのです。その上すぐ5000円、1万円と値段が下がるというのでは、お客様にとって価値がありません。バリュー・フォー・マネーは買った時点だけでなく、デジタルカメラを持っていただく間ずっと続いていなくてはなりません。だから最初からそういう値段で出させていただくのです。
そのためにコスト競争力をつけ、一発でこの値段、というところを追求します。特に金賞をいただいたE1486TWは2万円という思い切った小売希望値段を設定致しました。よそ様はなかなかここまでおりてきません。仮に半年で1万円落ちたとしても私どもの値段にまでは達しませんから、最初に設定したこの値段はずっと続くということです。
このようにして、「変わらない」というメッセージをお客様にもお店様にも出していけます。価格が3000円下がったら、その途端にお客様からそういうイメージで見られますし、流通様は在庫の評価をどうするかという問題を抱えます。商品価値も1日経った生鮮食品のようにどんどん下がってしまい、悪循環に陥ると思います。
ですから私は、バリュー・フォー・マネーを最初から貫きたいという思いで、流通様にもずっと話をさせていただいています。そして数量も求めません。数だけ求めると、値段を下げてでも売ろうということになりますので。それが私どものバリュー・フォー・マネーの考え方です。そして値段は、お客様にとって本当にお求めやすいものでなくてはなりません。デジタルカメラを買ってくださる方は高校生、大学生くらいから中高年の方までと想像しがちですが、我々は3歳から80代以上の年配の方までも対象と考えます。
情操教育にもつながる
「映育」の活動を展開
── 御社の企業理念でもある「子供から高齢者まで、誰もが楽しめ、誰もが手にできるデジタルカメラを提供すること」という考え方ですね。
小宮 3歳の方も100歳の方も、本物のカメラを使っていただきたいのです。たとえば幼児が2人、両親とおじいちゃんがいる5人家族で旅行に行くとする。お父さんが一眼カメラ、コンパクトカメラをあと1台持っていくのが一般的だと思いますが、家族全員カメラを持ったらどうでしょうか。それぞれが写真を撮って活動して楽しく過ごし、帰って来て写真を見てみる。すると同じ場所に行っても皆思い思いのものを見ているのがわかり、思い出に奥行きが加わりますし、生活やコミュニケーションの楽しさも深まります。そして従来よりも売れるカメラの台数が増えることになります。
我々は生活を豊かにし、生活に役立てていただくという観点で考えます。企業の論理でなく、使ってくださる側にとっての論理・利点です。幼児の人格形成や高齢者の趣味に役立つものとして、デジタルカメラに勝るものはないのではないでしょうか。そういう訴求ができれば、デジタルカメラ全体のパイがふくれることにお役に立てるのではないかと思うのです。そういう意味でも、多くの方がバリューを感じていただけるような値段のつけ方をしていきたいと考えています。
我々は「映育」という考え方をご提案していますが、3歳という年齢からでも本物のツールを使って写真を撮る楽しさに触れていただくということです。
3歳の頃から本物を通して自分の目で対象を捉えていく。三つ子の魂百までと言いますが、人格形成が始まるというとき、教わるばかりでなくカメラを通じて自分で吸収していくということを提案したいのです。それもキッズカメラではなく本物のカメラを持っていただいて。落として壊す恐れがあれば、落とさないよう教育する。大切なものを自分のものとしてしっかり管理し、扱うことを教えるのです。
そして3歳の子供でも100歳の方でも買っていただけるような価格でカメラをつくる、それによって裾野が広がり、総需要が2倍、3倍と拡大するはずです。3歳の子どもに3万円の商品は高価すぎますが、新製品C1033の7000円前後という価格ならどうでしょう。
今デジタルカメラはコンパクトで持ちやすく、液晶モニターで手ブレ補正もついて、誰にでも扱いやすくなっています。本格的な作品が簡単に撮れるのです。おもちゃでは操作感や作品のでき映えが比べ物になりませんし、デジタルカメラならば使いこなすのに時間もかかりません。これこそ感性を養い、脳をいつまでも活性化させるのに優れたツールであると思います。
私ももうすぐ後期高齢者の対象になりますが、そのくらいの年齢ですとたとえ目が悪くなってもデジタルカメラの「心眼」で思ったままの風景が撮れると思うのです。
だいたい子どもは、旅行に行っても「はい、並んで」と言われて景勝地をバックに撮られる側です。それより撮った人が、自分の成長の過程がわかる作品が残っていくこと、それが素晴らしいことだと思います。3歳の子どもに本物のカメラを与えたら、小学校高学年にもなれば次を欲しがります。高校生になれば一眼が欲しいと思うかもしれません。そうしてずっと自分の作品を撮り続けていくのです。
さらに作品をストレージするという世界があります。幼い頃から50年間撮り続けても、その作品をすぐにとり出したり編集したりして、ハイビジョンテレビで見られます。それはとてつもない記録であり、そこにはさまざまなものがこめられていると思います。家族皆でテレビで写真を見て思い出に浸ったり、自分の成長過程を振り返ったりすることもできるのです。デジタルカメラで撮るということは、そういう豊かさにつながると思うのです。
── 「映育」は小さい頃からカメラを通じて感受性を養う、本物に触れていくということですね。御社ではどんなご支援をされているのでしょうか。
小宮
事例をひとつご紹介すると、川口市で開催されるワークショップで当社のデジタルカメラをお貸しして、お子さんに1日写真を撮っていただくというようなことをやっています。万華鏡をつくるというワークショップで、川口の身近な美しさを写真にとって万華鏡に貼り付けたりもするのです。もう3回ほど催されていますが、小学生以下のお子さんと親御さんが1回につき20組ほど参加されます。お子さんの撮る写真は新鮮な目線で非常に素晴らしく、情操教育にいいと親御さんにも好評です。
そこで3歳くらいのお子さんにカメラを1日お貸しして撮ってもらい、最後に返してもらおうとしたところ、「ボクのカメラだ」と泣き出したというような場面がありました。小さなお子さんでもそれくらいの思い入れが生まれるのです。
また卒業記念行事などにデジタルカメラをお貸し出しするというようなご協力を、いくつもの学校にさせていただいています。デジタルカメラが数千円といった価格になれば、学校に常備してたくさんの生徒さんに触れていただくというご提案もできると思います。イベントにしても写真の教室というだけでなく、生活に密着したかたちでカメラを楽しんでいただくような、さまざまなことが考えられます。来年の「CP+」には、お子さん方が撮った写真を公開したり、年配の方にカメラを楽しんでいただいたりといった提案もしてみたいと思います。
日本の豊かさを再認識し
生き生きと暮らすために
── 「映育」の考え方は、どういったところから生まれてきたのでしょうか。
小宮 私自身がずっと企業の中で働いて来て、やり残したことがあったと言いますか、それまで自分が働いて来た世界とは異なった、生活に密着して生活者の皆様に役立つようなことがあるのではと考えました。
例えば日本での教育は一般的に受け身ですね。大学など、親が4年間で1000万円も出しているのに授業の中身をほとんど知りません。学生は授業中先生の板書を写し、4ヵ月に1度の試験だって答案用紙は返って来ませんから、どこをどう間違えたかもわかりません。4年もかけてそういうアナログの世界をずっと受け身の形で学んでいきます。
海外の大学は厳しく、学生も払った金の倍取り戻そうという意気込みで学習します。日本の受け身な教育では、試験で簡単な問題から解くように指導されますね。難しい問題を時間をかけて解いていては時間切れで落第になりますから。ずっとそんな風に教育されてしまう可能性が高いと思います。
子ども達が海外で学生生活を経験する中で、日本と海外との違いを実感しています。日本は過保護というか、大学を卒業するまでもそれ以後もずっと親が子の面倒をみている。海外では小学校高学年にもなればベビーシッターになって、よそのお子さんをあずかりながら勉強するのです。高校生、大学生になって与えられる車も、手を入れなくてはならないぼろぼろの中古車です。自分で対処する、経験するといったことが重視されているわけです。それに対して、日本はあまりにも恵まれすぎているように思います。
日本の教育を否定しているわけではないのですが、スピードは大事だと思います。日本の大学のように4年間で1000万円かけるより、4ヵ月100万円で、あるいは2週間10万円で1つのことをやり遂げるのがいいのかもしれません。もっとも結果が速く出るのはデジタルカメラですね。そしてものごとの本質を捉えるという意味でも、静止画を撮るということは有効だと思います。
そういう映育の発想で、「感、観、学、楽」とデジタルカメラの世界はもっと広げていけると思います。「映育」の下にA─iqと記してありますが、もしかしたらAシリーズの一つのモデルとして、お子さんのそういうニーズに対応できるようなモデルが考えていけるかなと思います。
── 小宮社長がさまざまな国を経験される中で、日本人に対する危機感が「映育」となって表れたようですね。
小宮 このデジタルカメラでの映育活動がライフスタイルを変えるかもしれないですし、新たなコミュニケーションツールにもなり得るかもしれません。そういう意味でも、映育というのは意味があることだと思っています。
映育については、当社が日本での展開を始めた当初からご提案し続けているものです。2000年も続いている教育に対して、映育は1年ですからまだまだです。しかしやった以上は進化を遂げたいですし、デジタルカメラは本当に楽しいものですから、それをお伝えしたいと思います。
教育はアナログ中心です。そしてデジタルカメラを使う映育はまさにデジタルなのです。アナログとデジタルの組み合わせで人間の生活が豊かになるのであって、一方だけのものではないと思います。そういうところに我々が役立てればいいなと思います。
今の日本の状況はこんなに恵まれていますが、それに対して私達日本人はあまり感謝がないように思います。一人一人が生き生きと楽しく、感謝をしながら生きていくことで日本がよりよくなっていくのではないかと、そこに少しでもお役に立てればという思いで邁進して参りたいと思います。