久保允誉氏

世の中が変わり売り方も変わる
2011年はその幕開けとなる
(株)エディオン
代表取締役社長
久保允誉氏
Masataka Kubo

本誌2001年8月号に(株)デオデオの代表取締役社長として登場された久保允誉氏だが、10年ぶりのインタビューとなる。デオデオは、その後(株)エイデンと経営統合して(株)エディオンを設立。2009年10月にはエイデンの商号を(株)エディオンEASTに、さらに子会社化した(株)ミドリ電化とデオデオとが合併し商号を(株)エディオンWESTとした。そして2010年10月にはエディオンEASTとエディオンWESTをエディオンに合併して一つの会社となり、久保氏は代表の立場として全体を束ねている。日本の家電業界が様々な意味で転機を迎えている今、未来を見据え目指すべきものは何か。エディオン代表の久保氏が語る。

 

人を育てて勝ち残る、
それが経営ということ

テレビの「第三の革命」が
売る側にも革命を起こす

── 久保社長には2001年以来、10年ぶりに本誌のトップインタビューにご登場いただくことになり誠に光栄です。我々の業界は今、大きな転機の中にあります。今年7月の地上デジタル放送への完全移行や家電エコポイント制度の施行の多大な影響を受けてテレビ販売が拡大していますが、“地デジ後”、そして数年先をも見据えた新たな価値の訴求が急務となってきました。このあたりについてのお話を伺っていきたいと思います。

久保 もう10年も経ちましたか。久しぶりですね。よろしくお願い致します。2010年度は家電エコポイント制度の影響もあって我々も増収増益となり、年度末にはいい決算を迎えられそうな見通しです。テレビは今国内で1億1000万台が普及している中、昨年の12月までにデジタルテレビが6700万台販売され、アナログテレビが4300万台残っていると言われています。今年の1月から3月までの間でその中から600万台がデジタルに買い替えられるという見通しがあり、あと3700万台が4月1日の時点で残ることになります。

2011年度のテレビ販売については各メーカーさんが様々な予測をたてておられますが、上期でアナログからデジタルへの買い替えが進むのは1200万?1300万台、そして地デジの移行が終了した下期は300万台くらいと言われています。年間通して1500万台くらいにはなるでしょうか。

今年1月のテレビの販売構成比を見ると、32インチ以下のウェイトが3%ほど上がっており、平均単価は全体で1万円ほど下がって6万2000円ほどとなりました。しかし、今年後半に付加価値の高いものが売れると見ており、2011年度の平均単価は6万6000円ほどになると思われます。2010年度のテレビの販売台数が2650万台予測であるのに対して、2011年度はその56%くらいになると思います。しかしながら2007年度、2008年度あたりの例年の販売台数900万台というところからみれば、台数、金額ともに2011年度は伸長すると言えます。

つまりは2011年度もテレビが業界をけん引することになるのですが、テレビ販売は変化しており、テレビを中心にしたいろいろな周辺商品との提案や、それに対応して売り場の変革も必要ですし、また社員教育の強化ということもポイントになってくるでしょう。

── テレビはここまでけん引してくれましたが、ここから先もテレビということですね。家に入った数千万台の薄型テレビに対して、BDレコーダーや周辺商品とのリンク、またテレビから展開するホームシアターも大きなテーマと考えられます。フロントサラウンドの簡単シアターから、あらためてテレビとプロジェクターとの2WAYシアターという提案も有効になってきそうです。

久保 当社でも、60インチのテレビとシアターシステムで値ごろ感を出したオリジナル商品のセット提案を2月から行っていますが、2月だけで500セットは出そうです。ホームシアターの分野は、さらに期待できそうですね。経済環境はまだいろいろと言われていますが、我々の業界は様々な商品がどんどん出て来ます。テレビは50インチ、60インチといったサイズでも視聴距離が短くなっているので一般家庭に十分設置できますし、画面が大きく、薄くて壁かけ、壁よせも可能になると、ますますシアターにも関心が向かいます。

そのほかテレビ以外では、高級オーディオの動きも底堅いですね。さらに昨今のデジタルカメラはコンパクトでも質感があって望遠も高倍率ですし、一眼レフも伸びています。さらにネット関連についても広がりがどんどん出てきそうです。

── エコポイント終了後はどうなるのかという懸念がありますが、これから楽しみだということですね。10年前のインタビュー当時、久保社長はブロードバンドの幕開けということをおっしゃっておられましたが、まさにそのとおりの世の中になりましたね。

久保 そうですね。本当にそうなったと思います。そして今年は、我々の業界が大きく変わる元年となりますね。テレビにも「第三の革命」が来ようとしています。最初の革命は白黒からカラーテレビに、次はアナログからデジタルに。そして今、テレビは、スマートテレビともネットテレビとも言われる多機能テレビになろうとしています。

WiFiの機能がテレビ本体にも周辺のさまざまな機器にも搭載されて無線ネットワークの構築が可能になり、さらにiPadのようなタブレット端末とも連携して非常に使い勝手がよくなりました。またWiFi対応機能がついたデジタルカメラなどの登場によって、撮影した静止画や動画をすぐテレビで楽しめる、ネットにアップロードできるというようにもなっていますね。

そういう中で、モノを所有するということからさらなる価値が広がってきました。テレビを所有することから、テレビを通じて色々なアプリケーションやコンテンツを買うという時代になり、そこに新たな価値が生まれます。毎月基本料金を払ってコンテンツを楽しむとか、何かを使うことに対して料金が発生するというようなことです。

今年は、本格的にそういう時代になる幕開けの年と私は捉えています。そう考えると世の中はがらりと変わりますし、我々の売り方というものも変わります。我々売る側の立場にとっても大きな革命が起こる年になると思っています。

業界で「第三の革命」と言われているテレビですが、現実にどんどん多機能になり、今までできなかった色々なことができる状況になってきました。機器そのものの価格だけでなく、ネットワークの便利さを享受するために、通信のインフラを整備する費用やコンテンツのやりとりに関わる費用が幾らかというようなことへの対価が発生します。それに伴って我々の売り方も変わる。今年から少しずつ、そんな動きが出て来ると考えています。

店頭づくりとサポートで
WiFi推進に注力

久保允誉氏── スマートフォンの販売予測は、2011年に2000万台、2012年に3000万台に推移するとも言われています。AVにも当然ながら大きな影響を及ぼしますね。

久保 アメリカでお店を見ますと、携帯電話はもうスマートフォンしか並んでいないような状況です。日本もスマートフォン市場の拡大によって、ネットワーク、通信の環境が大きく変わって来ますし、それがテレビのネット環境にも波及してきます。今ネットにつながっているテレビは5%ほどですが、2013年頃には6割近くがつながっていることになると思います。そういう状況を踏まえた上で我々がすべきことは、しっかりとした体制をとりながら、いかに楽しい生活提案ができるか、それをイメージしやすい売り場づくりや接客ができるかということです。

その第一弾として我々は、「WiFiパーク」という売り場提案を始めました。ミドリ中環東大阪店を皮切りに、今春にも各ストアブランドで展開拡大し、合わせて30店に展開する考えです。テレビとその周辺のさまざまなものとのネット融合が、ご家庭でどんな風に実現できるのかというところをお見せする新しい売り場です。トライ&エラーで売り場づくりも商品構成も変えていきながら取り組んでいきます。

また新しい売り場の取り組みとして、スマートフォンを中心とした売場展開と、修理などのアフターサービスの受け付けもできる“ケータイeモール”というインショップを、ミドリ中環東大阪店で2月5日から、ミドリ伊丹店では2月26日から導入します。“ケータイeモール”はエディオンコミュニケーションズという携帯電話専門の子会社で運営していますが、そこと「WiFiパーク」を融合させて、スマートフォンやテレビなどのハードと、それらを結ぶネット環境などを関連させた売り場を考えています。今懸命に作り込みをしているところで、今後お客様の反応をみながら次の手を打っていきたいと思っています。

またこの2月から、「WiFiパーク」導入店舗にて、お客様宅を訪問してネット環境の設置を有償でサポートする「WiFiサポート60」という取り組みを始めました。弊社はサービスマンを1500人ほど擁しており、これまで社外の方から人件費率の高さについて指摘されておりましたが、家庭内におけるWiFi環境がまだまだ進んでいない現状において、お客様をサポートするためのきめ細やかな体制づくりは不可欠であると考えており、弊社のサービス体制の強みが活かされると思っています。これからはこうしたサポートへのニーズがどんどん増えてくると思います。他の企業が外注化されているところを自前にすることによって、お客様に対する様々なサポートができる、これが我々の強みです。こうしたサービスマンによるサポート体制が、我々の企業としての付加価値をぐっと上げることになると思っています。

ネット接続こそが
テレビの価値を左右する

── デジタル商品の普及でさまざまなことができるようになる一方で、その使いこなしにお客様は苦労されています。その対応を独自でしっかり行えることは、まさに企業の強みですね。

久保 海外の投資家やアナリストの方々から、2012年には我々が想像もしなかったような変化がやってくると言われます。大国のトップが入れ替わると通貨がどう変わってくるか、それによって国家間の競争関係がどう変わるか。

我々の業界も、有線から無線へと通信環境が変わることにより、大きく変化していきます。端末もパソコンからタブレット型やスマートフォンに切り替わってきています。そしてテレビが多機能になり、リモコンはスマートフォンのアプリへと置き換わったり、テレビも課金システムになるでしょう。テレビを所有するだけでなく、いろいろな機能をもった商品として考え方が変わる時代が来ると思います。

我々が想像もしなかったようなネットや通信の時代に、それをいかに商売に取り込むか。だから我々の売り方も変わらなくてはならないのです。売り場はもちろん、組織も変えていかなくてはなりません。

── 立ち後れる流通も出て来ます。いままで3年かけていたものを2年で遂行する必要があり、もたもたしていると淘汰されてしまいますね。

久保 おそらく今後我々のビジネスの収益源のうち、1/3はネット関連になると思います。モノを売るということだけでなく、ネットのインセンティブなどでの収入のウェイトが高まります。弊社の2010年度のテレビ販売台数は300万台ですが、その中でネットに接続されているのはまだ10万台ほどです。テレビをネットにつないでコンテンツをダウンロードすることによって、新しい世界が広がります。それをいかに訴求していくかです。

こうしたダウンロードでたとえば毎月500円の基本料金をいただくとすれば、年間で6億円ほどの利益になります。またきちんとしたサービスでフォローできれば、倍々のペースで増やせることにもなります。非常に大きなビジネスですね。また当社では「WiMAX」を利用してワイヤレスブロードバンドを推進するエディオンクオルネットという事業も展開していますが、スタートしてすぐ黒字となりました。今は通信事業で20万件のお客様をサポートしており、非常に収益性の高い事業となっています。 そして携帯電話事業のインセンティブ収入など、ネット事業というのは、それほどに大きいビジネスなのです。しっかり整備しながら、継続できるようさらに体制を整えなければなりません。

そういうネット環境、ダウンロード環境によって、ソフトの業界も変わるでしょう。アプリケーションもどんどん出ています。我々も、スマートフォンのアプリケーションとして「エディオンアプリ」というものをスタートさせる予定です。エディオンのアイコンで、いろいろなサービスをご提供するのです。他にもスマートフォンで、動画による商品説明を店頭やチラシで行うサービスなど、新しい試みも考えています。

新体制ですべてを一本化
さらなる合理性を追求

── 御社は昨年10月に組織が新たになりました。現状はいかがですか。

久保 当社はいくつもの事業会社が統合して今日こうなっているわけですが、システムや物流、サービスを一体化させ、完全にひとつの会社として運営できるようになりました。新年度はさらにシンプルな組織にして、新たなスタートを切っていきたいと思っています。

すべてを一本化したことによって、オペレーションも情報も一体化して流れるようになり、合理化が進み生産性が上がります。今後もっと販管費が下がることによって収益の改善が期待できます。大所帯がだんだん集約され、本部の人員もスリム化されてきました。2011年度はその成果が出て来るものと思います。将来的には店名の統一を図るといったことも視野に入れつつ、より効率化を図りたいと思います。

事業統合する中では、お互いにフィロソフィが違うところもありました。それを統一するには時間もかかりましたが、こうしてやっと一本化できましたので、2011年度は気持ちを一新してスタートが切れると思います。給与体系や人事制度も統一が進み、またひとつ生産性が上がりましたし、まだ合理化できる余地があると思っています。こういう厳しい時代を乗り切る上においても、まだ収益性の上がるのびしろがあるということです。

こうしたことは急いでやることもいいかもしれませんが、企業というものは、長いレンジで存続していかなくてはなりませんから、時間をかけ、タイミングを見ながらやってきたことも決してマイナスではありませんでした。エディオンは創業以来、2012年4月で10年となります。そういう区切りの中で変えたいという思いもありますので、それを実現させるための2011年になると思っています。

── 御社の経営理念である「買って安心、ずっと満足」について、あらためてお伺いしたいと思います。

久保 それは、お買い上げいただいた商品を常に最良の状態で使い続けていただくということです。そういったことを私どもでどうやってご提供するか、常に掘り下げております。そしていかに生産性と効率性を上げながらやり切るかということが、経営の面白さでもあります。相反することをやる中で経営の知恵も出てきます。

経営理念「買って安心、ずっと満足」の具現化のあり方も、年とともに変化していくものと思います。商品を販売して、それを長く使っていただくというのも当然のことですが、さらにもっと違う楽しさや便利さをご提供できるような企業になっていきたいということです。だから考えなくてはならないことがたくさんあります。

収益を上げなくては企業は発展しませんし、とは言え伸ばすべきところに投資していきたいという思いもあり、ジレンマも感じます。効率性と生産性を上げて収益性を高めることを追求しながらも、付加価値をもっとお客様に提供していきたいということの中で足踏みせざるを得ない状況も出てきます。

── そうしたことをしっかりやられたからこそ、それが次の仕掛けに効果的に活きてきます。また商品が高性能、高機能になればなるほどお客様が使いこなせないという状況になっており、またエコに対する考え方も今後はもっと追求しなくてはならないでしょう。そういう時に、御社の考え方が活きてくるのだと思います。御社の2011年度からの新組織において、そういったことがますます機能するものと思います。大変貴重なお話をお伺いすることができました。久保社長の今後益々のご活躍を期待しております。ありがとうございました。

◆PROFILE◆

久保允誉氏 Masataka Kubo
1950年2月18日生まれ。78年早稲田大学商学部卒業、同年4月第一産業(後のデオデオ、現エディオン)入社。81年常務取締役、87年専務取締役就任、91年6月代表取締役副社長を経て92年4月代表取締役社長に就任。2002年3月、株式会社エディオンを設立し、代表取締役会長に就任。2003年より代表取締役社長(現任)。また98年よりJリーグ サンフレッチェ広島の代表取締役社長を務め、07年に取締役会長に就任。

<<お詫びと訂正>>
本誌「Senka21」2011年3月号の同インタビューを掲載しております14ページに誤りがありました。ご関係各位にお詫び致しますとともに、ここに訂正致します。

(誤)
エディオングループ 1,101店舗の全国ネットワーク
(2011年3月末時点)

(正)
エディオングループ 1,101店舗の全国ネットワーク
(2010年3月末時点)

back