久保田孝一氏

プロジェクターで味わってこそ
3Dの本当のよさがわかるはず
セイコーエプソン(株)
業務執行役員 ビジュアルプロダクツ事業部長
久保田孝一氏
Koichi Kubota

この秋、ついに満を持して3Dプロジェクター投入を果たしたエプソン。業界が動き出した昨年から虎視眈々と爪を砥ぎ、地デジ後を模索するAV市場が待ち焦がれたタイミングであっと驚く力作を披露する。「どこでも、誰でも、何でも楽しめる」を具現化する先鋭の商品でプロジェクター市場拡大をけん引する同社、久保田事業部長が意気込みを語る。

 

新組織で商品づくりをより強化し
全社一丸で市場拡大をけん引する

高品質と使い易さを両立
強力新製品群登場

── 地デジ化終了後、プロジェクターはポストテレビと目される商材の一つとして注目されております。そこにぶつけて来られた御社の新商品は3モデル5機種、それぞれについて詳しくお聞かせください。

久保田 3Dの最上位モデルとなる「EH-TW8000」は、現行のEH-TW4500の後継です。すでにプロジェクターを楽しんでおられる方の買い替えも含めて、十分ご満足いただける品質をベースにいろいろな機能を盛り込みました。その上に3Dを実現したものであり、3D映像の明るさに関してはおそらくプロジェクターのナンバーワンだと思います。そしてただ明るいだけでなく、色づくりなども含めて自信作です。

続いて「EH-TW6000」はスピーカー内蔵モデルで、これは大画面テレビを楽しんでおられる方のさらなる大画面志向にお応えできるものです。プロジェクターを導入する際、必ずしもオーディオを含めて揃えるということでなく、まず大画面をという志向もあると考え、接続の煩雑さや予算といった導入の障壁を低くし、十分な画質・音質を楽しめる方向性を追求しました。

一般的に、ホームシアターの音響システムはそれなりのレベルが必要というイメージがあるかもしれませんが、その発想を変えて、もっと手軽に使えるものが必要と考えました。またお聴きいただければわかるとおり、スピーカーも十分な質感を備えています。これは新しいお客様にアピールしようということで、従来とは少し違うスタンスで企画し、アプローチを試みました。

お客様がプロジェクターをどう使われているかという我々のこれまでの調査の中で、様々な興味深い結果が出て来ています。天吊りの比率は約3割と意外に少なく、棚の中に設置する、使う度に持ってくるといったケースが多いのです。設置場所も専用ルームは1割ほどで、リビングルームや自分の部屋といったケースがほとんどです。

つまり設置場所が制限される、接続の煩わしさから開放されたいと思われる方が想像以上に多いということで、今回の新商品にはそこを解決するための工夫を盛り込みました。まず単焦点のレンズを採用して、6畳間や8畳間でも十分な大画面が楽しめるように、レンズシフトや横スライダーの台形補正機能もつけ、スクリーンの真正面にこだわらずに置ける。またワイヤレスHDトランスミッター採用モデルも加え、ケーブル接続そのものを必要ないものとしました。

ワイヤレスにはいろいろなメリットがあり、配線や接続の煩わしさをなくすのが一つ、さらにリビングなどの外観もすっきりとします。次に安全性。子どもさんがケーブルに足をかけるといった危険も回避できます。こうしたことでも、プロジェクターを買ってみようかという思いを後押しできるのではと期待しております。

── 3D、ワイヤレスというコンセプトは今後も継続されるのでしょうか。

久保田 3Dはプロジェクターだからこそその良さがわかる機能だと思っており、これはさらに進化させていきたいと思います。またプロジェクターはかなり進化してきたと思いますが、昔からの弱点というのはまだすべて克服できたわけではありません。値段もそうですし、接続のわずらわしさや設置場所が限定されること、こうしたことは常に克服し続けなくてはなりません。今回ワイヤレスや使いやすい台形補正機能という提案をさせていただいていますが、こういったスペックには表せない、簡単に設置でき、気軽に購入できる、楽しめるといった方向性を今後とも目指していきたいと思います。

── TW6000のスピーカー搭載は、業界に衝撃を与えたDVD一体型モデル「EMP-TWD1」の考え方と同様ですね。市場拡大にとって大きな意味があると思います。

久保田 ホームプロジェクターを本格的に手がけた2003年から、我々は常に2つの方向を目指して商品開発を行っています。その当時も3モデルを発表し、本格的に性能・機能を追求するものと、市場の裾野を拡げるものをご提案しましたが、それ以来ずっとこの2つの方向性を意識した取り組みを続けています。

そして今回はもうひとつ、TWD1以来展開してきた一体型の系譜として、iPodドックを搭載した「MG-850HD」をご提案しました。我々は「どこでも、誰でも、何でも楽しめる」ということをコンセプトにプロジェクターを展開しています。裾野を拡げるという意識を常に持ち、これからもやっていきたいと思います。

それから昨年は新商品の投入遅れで、お客様、販売店様をはじめとする多くの方に大変ご迷惑とご心配をおかけしてしまいました。今年はそのようなことが無いように、製造、販売ともに万全の体制で臨み、皆様に新商品をお届けして参りたいと思いますので、是非よろしくお願い致します。

久保田孝一氏全国イベントも敢行
体感の場を大きく拡げる

── 素晴らしい仕上がりとともに買いやすい価格、コストパフォーマンスの高い抜群の新商品だと思います。専門店、特にインストーラーさんは待ち望んでいました。

久保田  日本のプロジェクター市場が落ち込んだ理由は色々あると思いますが、やはりテレビの勢いが大きかったというのが最大だと思います。しかし言い換えれば、2011年7月24日以降は逆にプロジェクターにとって大きなチャンスが訪れるということです。かつて2003年から2004年頃にプロジェクターが非常に盛り上がった時期があり、当時は量販店様にも暗室をつくっていただいていました。その後残念ながら需要がテレビに移っていくに従って、店頭の暗室のスペースも減って来たという流れがあります。

そういった中で我々は何をすべきかと考えますと、やはりまず自分たちで訴求するのだということです。地デジ化完了のタイミングに合わせて、3Dプロジェクターを投入しました。さらに体感の場を拡げるため、エプソン販売でさまざまな企画を展開しております。10月からはPRのトレーラーが日本を縦断し、全国11カ所で10000人にプロジェクターを体感していただくイベントを行います。また東京で3ヵ所、大阪で1ヵ所、そうした体感の場も常設し、プリンター部隊の「それいけ写真隊」というイベントでもプロジェクターのコーナーを設けてアピールしていきます。

こうしたことがきっかけで、販売店様にこれはいけると思っていただき、暗室スペースを広げていただくことになればと思っています。今から一気にやっていくのだという意気込みでおります。

── 地デジ化に伴って薄型テレビが昨年の11月だけで単月700万台売れるという状況でしたが、価格も大きく下落しました。日本全国の家庭に薄型テレビが入った状況の中で、かねてから我々が提唱しているスクリーンとの「2WAY」という考え方がさらにアピールしやすくなったと考えます。

久保田 「2WAY」というコンセプトは非常にわかりやすく、我々も勇気づけられます。ただこの1年ほどは地デジ化が最優先でしたが、お客様の立場からすればテレビが映らなくなるのは大変なことですから、まずテレビを買い替えるのは当然のこと。プロジェクターの販売にもネガティブな影響があったのは事実だと思います。しかしそれもここで一段落したことで、これから本格的に「2WAYシアター」に動いていくのではないかという期待を持っています。

やはり多くの方が大画面に慣れ、ホームシアターシステムを入れ始めて来ている、またいろいろな機器が3D対応になっており、課題はまだあるとしても、3Dに対して流れが一本化して来ていると思います。そういった中でプロジェクターにとっての3Dとは何かというと、いわゆる大画面テレビの3Dとは価値観の違うものだと考えます。まずプロジェクターの100インチ画面のサイズは、40〜50インチテレビに比べて4倍以上大きいものですし、画面の枠という概念もあまりありません。

そういった画面で見ると、登場人物が自分と同じ大きさに見えます。なおかつそれが3Dで迫ってくるとなると、その迫力はテレビではなかなか味わえないものと言えるでしょう。こうした3Dという追い風がある時にしっかりとした商品を出し、かつそれを体験する場も設け、お客様にそれを認知していただくことが重要だと考えます。

プロジェクターで映画を見る、コンサートを楽しむというのは特別な時間だと思います。やはり他のことを全て忘れて浸りきる没入感が大きい。大画面や周囲を暗くすることがまさに没入感を増長させます。

一方で、例えばスポーツイベントを楽しむ際など、大勢で集まってみるようなシチュエーションもあります。そういった時は明るい部屋でもきれいに見えるといったことが求められるでしょう。新製品はこうして色々な楽しみ方がご提供できるものと思っています。

私自身が初めて家でプロジェクターを見たとき、当時は80インチでしたが、その画面の大きさとそこから受けた感動はいまだに忘れられません。また3Dを初めて見たとき、これは200インチ以上だったかと思いますが、そのインパクトも凄いものがありました。要するに、体感する方にどのように感じていただけるか、ということだと思います。そういう場をどれだけ我々がご提供できるかが鍵となります。我々自身でどんどんやっていきたいですし、販売店の皆様とも協力してやらせていただきたいと思います。

テレビで裾野が広がった
大きなポテンシャルを活かす

── テレビの地デジ化で、プロジェクターの潜在需要を掘り起こしたという見方もできます。

久保田 昨今は経済が低迷したり、地デジ化政策があったり、それぞれの業界にとって浮き沈みがありました。しかし一時的に悪くなっても、このままだめになっていくのかというと、プロジェクターの場合は違うとずっと思っていました。テレビの場合は家庭に複数台ある、それに対してプロジェクターはいくらなんでも少なすぎると。もっと大画面で楽しみたいというニーズは必ずあるはずだと思っており、一時的な落ち込みはあったとしても、潜在的な市場はあるはずだと考えています。

また、学校向けのプロジェクターも、リーマン・ショック後の政府の補正予算で一気に導入された時期があり、特にアメリカで顕著でしたが、今は逆にぐっと落ち込んでいます。しかしそれで終わりかというと、全く違う。教室の中にどれだけ今プロジェクターが入っているかというと、まだまだですね。そう考えると、落ち込みはあっても確実に復活するはずだと常に思ってやってきましたし、一喜一憂せずにさらに強力な商品を出して行きたいと思います。

── 今後普及率はどれくらいのところを目指しますか。

久保田 学校の全教室に入れたいです。国内ではまだ20%程度であり、買い替えも含めてまだまだいけると思っています。そしてホームプロジェクターの普及率は今、テレビの100分の1ほどでしょうか。そこをどこまで伸ばせるか、そう考えると非常に大きなポテンシャルですね。

── 最後に、この秋新設された御社のビジュアルプロダクツ事業部についてご紹介ください。

久保田 もともと別の事業部で行っていたプロジェクター事業とそのコア技術であるHTPSの事業とが一つの事業組織になりました。まだまだプロジェクターを進化させていかなくてはいけない中で、技術開発をより強化し、よりよい商品をお届けする。我々も売り上げを最大化し、そしてやはり市場をもっともっと大きくしたいということです。そうした目的の組織化であり、全社一丸でやるという気持ちで、全力を尽くして参ります。

◆PROFILE◆

久保田孝一氏 Koichi Kubota
1959年、長野県生まれ。1983年3月京都大学卒業。1983年4月エプソン(株)(現セイコーエプソン(株))入社。PC・各種プリンターの海外営業部門・CS部門を経て、2003年から液晶プロジェクターの営業部門であるVDマーケティング部に。2003年VDマーケティング部長、2008年7月映像機器事業部長に就任。2010年6月業務執行役員に就任。2011年10月ビジュアルプロダクツ事業部長に就任、現在に至る。

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