梅村 充氏

「モノとコト」を徹底追求し
信頼と憧れのブランドを築く
ヤマハ(株)
代表取締役社長
梅村 充氏
Mitsuru Umemura

音・音楽の事業を全世界で展開するヤマハの梅村社長にご登場いただいた。モノづくりに必要なのは感性、加えて大切なことは何ができるか、どう楽しめるかの「コト」の提案と語る梅村氏。創業125周年を経て次なる前進へ、大いなる意気込みを聞く。

 

「いい音」を、あらためて問う
そこから新しい提案が始まる

創立125周年から
さらに次へ

── 今年は御社の創業125周年目であり、中期計画「YMP125」の最終年となります。あらためて御社の経営ビジョンについてお聞かせいただけますか。

梅村 私どもの企業理念で最も大切にしている概念は「感動を・ともに・創る」であり、「音・音楽を原点に培った技術と感性で、新たな感動と豊かな文化を世界の人々とともに創り続けます。」ということをヤマハグループの存在目的としています。

ここでもっとも大切なのは、「感性」です。メーカーとして商品をつくる「技術」は欠かせませんが、それだけでなく、そこに私ども、技術やマーケティングや企画といった様々なプロセスに携わる人間の「感性」を重ねてお届けするということ。そこにヤマハならではのものを実現したいという思いがあります。

「YMP125」は創業125周年を迎える年に照準をあてた中期計画であり、今年はその最終年です。ここではヤマハならではというところの実現に向け、経営資源を集中させて参りました。前任の伊藤の時代から、多角化した事業を整理し、音・音楽の事業領域に仕事を集中させておりますが、リゾートやリビング用品、金属事業などはそれぞれにステークホルダーの支持が得られるかを議論した上で縮小、あるいは撤退を判断してきました。そして音・音楽として、楽器、コンシューマーオーディオとプロオーディオに事業を集中させてきたのです。

振り返るとリーマン・ショック以降のここ数年、どの企業にとっても経営環境を巡る激しい変化がありました。激変する事業環境、激化していくグローバル競争の中で生き残っていくことは並大抵ではありません。私どもにとっても厳しい環境の中、ここ3年間はもう1つ集中を進めると同時に、「YMP125」の「次」を見据え、そこであらためて成長できる基盤づくりを行ってきました。

創業125周年を今年おかげさまで迎えることができましたが、会社としてこれから先の25年、創業150周年に向かっていくと考えますと、ますますヤマハらしさを強化しなくてはなりません。「YMP125」と同時に策定した「経営ビジョン」では音・音楽をコアとすることをあらためて明確化したことに加え、さらに2つの考え方を掲げました。

ひとつは、「信頼と憧れのヤマハブランドになりたい」ということ。ヤマハブランドは安心であるとのご支持はいただくのですが、次の成長のためにはもっとわくわくするような、憧れてもらえるような製品サービスをご提案しなければと考えています。

もうひとつは、「モノとコト」。技術イノベーションによる優れた製品で信頼感やわくわく感をご提供するだけでは足りません。お客様は、その商品で何ができるか、どう楽しめるかを求めておられ、それを私は「コト」と申し上げているのです。

ヤマハはもともとオルガンやピアノからスタートした楽器メーカーであり、そこでは「コト」の訴求はごくあたり前のこと。楽器はどんなに優れたものであっても、それを弾けなければ何もなりません。いい楽器を出したらそれを使って楽しめるというところまでご案内しないと、お客様の満足は得られない。そのために、「ヤマハ音楽教室」の取り組みも長い間続けてきたのです。

楽器の事業はモノとコトが常に一体となっていることは当然なのですが、音・音楽に集中するのであれば、プロフェッショナルオーディオ、コンシューマーオーディオでもこれは同様ではないかということです。いいスピーカーがあって、さらにソフトがあって、再生環境があって、そこで初めて音楽が楽しめるのですから。

この考え方を、我々のコアである音の事業領域全体に行き渡らせ、お客様満足を高めていただく努力をしたいと思い、「経営ビジョン」という形で社内にもアピールしています。

── 楽器も再生系も手がけておられる企業は、世界的にもほかに見当たりません。楽器を弾くには努力が必要ですが、習熟していく楽しさもある。AVでもそうした提案が必要ということですね。

多様化する国内市場で
求められるためには

── 国内AVは競争が激化し、厳しい環境となっていますが、現状と今後の見通しについてお聞かせいただけますか。

梅村 ハードウェアだけで差別化を図るのが非常に難しい今の時代、音・音楽、楽器のヤマハとして、ほかのAVメーカーさんの製品との違いを出したいですし、出していけると思っています。

事業ということでは、そこに投下する経営資源とそのリターンを考え、優先順位をつけることになりますが、今の時代はそう簡単にリターンは望めません。競争も激化し、特約小売店様の生き残り競争も激しくなっています。そういう中で、お店様にとっても、ヤマハを扱うと新しいお客様が来てくださる、というような展開にしたいと思います。

日本国内は人口が減っており、市場も成熟しています。お客様の満足につながる要求レベルも高い。子ども向けにピアノがたくさん売れる中国のような成長市場とは違い、ものを持つこと自体よりその結果が常に求められます。大きいステレオを買わないのはお金がないからではなく、小さいステレオの方がいいからそちらを買う。お客様は常に選択しているのです。グランドピアノも買えるけれど、デザインの素敵なデジタルピアノが欲しい、というお客様もたくさんいる。日本はニーズが非常に多様化、個別化している典型的な成熟市場なのですね。

我々の地域別のハードウェアの販売構成比では、欧米日を除いた新興国市場の方が売上げ比率が高くなってはいます。しかし管楽器やピアノはヨーロッパで評価されたいし、シンセサイザーはアメリカで評価されたい。それぞれの地域に目標とする高みがあり、特に日本はその目標レベルが高く、かつ複合的です。ここであるポジションをいただくことは、世界の事業展開にとっての原動力になります。

これから新興国もすぐに欧米日のような多様なニーズ、複雑なニーズになると思いますから、日本市場で支持を得られることがそこに対する大きな力になると思います。日本のマーケットの求める質、感性はきめ細かく、いいかげんさは許されない。いい鍛錬の場になります。

日本のオーディオ市場では、我々の場合は特に、楽器のヤマハのカラーを融合してお客様に訴えていくことが重要です。音・音楽、楽器で信頼と憧れのヤマハブランドになりたいならば、そこは重ねて出さなくてはなりません。ヤマハエレクトロニクスマーケティングでは、昨今「Powered by Music」という言葉を使ってその想いを表現しています。

── AVでは、機器を通してのわくわく感の訴求に、どんな仕掛けが必要でしょうか。

梅村 昨今我々は、AVアンプを通じて映像を楽しむ音環境にも力を入れています。また薄型テレビがこれだけ普及すると、音楽をより深く楽しむ方法として、重厚長大でなくとも手軽にいい品質の音が楽しめる機器も展開しています。ステレオの前に正座して2チャンネルハイファイを聴く楽しみもあるし、アクションムービーを臨場感さながらに楽しむこともある。そうしたことを多面的に提供することが、ヤマハらしさであり、常にどう楽しむかということをメーカーとして提案できるような仕事を進めたいと思います。

店頭と手を取り合い
音の体験の場をつくる

── 地デジ化で大画面テレビが普及し、誰もがデジタル放送、サラウンドの音をキャッチできる状態です。しかしそういうコンテンツを楽しむ訴求がなかなかできていません。テレビは昨年、一昨年ともの凄い台数が出ましたが、それに対してサウンドバーも含めたシアター製品は、国内総需要でいうと年間で50万台くらい、テレビとの添付率1割以下といったところでしょうか。今のテレビの画質再生能力とスピーカーの質を考えると、低すぎる添付率だと思われます。

梅村 ひとつには若い世代の音に対する感性、こだわりのなさが考えられます。それは多様化の表れであり、良し悪しではないのです。ヘッドホンの音、デスクトップオーディオで楽しむスタイルが定着していて、あまり多くを求めていないのですね。無頓着というより、楽しみ方が多様化しているということであり、ここにお金を払わない選択をされているのです。

しかし心地のいい音環境、よりソフトを楽しめる環境は、体験すればいいものと皆さんが実感できると思います。やはり訴求には、具体的な体験が重要だと思います。

── 今、体験の場がテレビシアターもピュアオーディオも含めて欠けています。御社は日本のオーディオの黎明期から銀座のショールームで体験の場を提供されてきましたが、御社として、今後そういう場をどう展開されますか。

梅村 体験の場をつくることは非常に重要なテーマですが、メーカーが直接お客様に場を提供するには限界があります。我々は特約店様に当社の商品をより深く、より広くアピールしていただくかたちを、楽器もAVも原則としています。

ヤマハエレクトロニクスマーケティング(YEMJ)ではイベントなどの体験会を直接行っていますが、これは点の活動であり、面の活動はやはり特約店様がそれぞれの市場で、それぞれの売り場で行っていただいているということ。YEMJの経営資源もそこの優先順位を高くもっているわけです。

オーディオ業界も小売店の2極化が進んで、大きいチェーン店様はたくさんの商品を扱っておられますが、ヤマハもワンオブゼムの存在でしかなく、我々が望む体験の場をつくるのにはお金もエネルギーも必要とされます。専門店様のコーナーづくりも大事ですが、それだけでは広く深くというわけにはいきません。両方のお店様に対して、ひとつひとつコーナーづくりのお手伝いをさせていただくことが大事だと思います。

── お店に来た人にはアピールできますが、お店に来ない、気づいておられない方に対してはどんな掘り起こしが必要でしょうか。

梅村 手段としてネットも考えられますが、ここで音をアピールするのは難しく、やはり実際の体験の場をどう持つかです。

新しいお客様をどれだけ採択できるかはキーですが、今我々が行っている活動はどうしても過去我々の商品をお求めいただいたお客様に対しての働きかけです。YEMJが5月に東京、名古屋、大阪で行った「サラウンドの日」イベントには昨年の倍近い応募があり、お客様の関心も高まっていると実感しています。これはもちろん有効な活動ですが、そこからもう一段膨らませて新しい方向へいくために、経営資源の配分を考えつつ方策を探っていきたいと思います。

梅村 充氏家庭内でもっと
音楽を楽しむために

── ヤマハの製品はデザインにこだわりがあります。「レスティオ」もそうですが、独特のデザイン性の高さがあり、モノそのものの存在感が際立っています。

梅村 ヤマハにはデザイン研究所があり、製品はほぼ100%そこで自前のデザイナーによってデザインしていますが、この規模の会社にしては比較的しっかりとしたパワーをもった組織だと思います。機器そのもののフォルムは、いい音と親和性があるのではないでしょうか。音・音楽を楽しむのは耳ですが、やはり目で楽しむという要素もあると思います。

伝統的な楽器はフォルムは決まっていても、その中にもオリジナリティを込めています。グランドピアノやバイオリン、トランペットに突飛なデザインは存在しませんが、それでもピアノの足や譜面台などに少しずつ工夫をこらしてはいるのです。またオーディオでも、その時代時代でデザインに対するチャレンジを行ってきました。

製品の新しい機能や品質を打ち出す上でかたちやデザインは重要ですし、機能での差別化が難しい昨今ではデザインの差別化の比重が高まっており、ますますお客様に訴える力が増してます。心の豊かさ、満足感はそういう複合的な要素で高まると思いますし、そうした要素はますます重要になってくると思います。

── AVアンプの形状は率直に言って、日本のリビングに置くのは厳しいですね。

梅村 オーディオ、ホームシアター製品は、アメリカでは大きいものほど喜ばれますが、日本はスペースに限りがあり、大きい音を出すにもはばかられる住環境です。そんな中にあって、楽器分野では今「ファミリーアンサンブル」と言って、もっと家庭内で演奏を楽しむことを提唱しています。ビートルズ世代もいい年齢になり、お子さん、お孫さんと3世代にわたって、家族がリビングで音楽を楽しめるように。

今のピアノやトランペットは家の中で楽しむには音が大きい。たとえば、アコースティック楽器でももう少し小さい音で楽しめるものを研究しています。ウクレレがブームなのは、手軽で音もうるさくないからですね。そういう楽器があればもっと家でいろいろな人が音楽を楽しめ、市場も広がると思いますが、まさにオーディオもそうですね。

いい性能から最高の音を出すためには、それなりに防音設備なども必要になります。しかし普通の住環境、リビングで近所も気にせず楽しめるようなもの、しかも質のよさもキープする機器の存在も大切だと思います。ヘッドホンだけでなく、オープンで、それも家族皆がリビングルームで楽しめる。そういうものを努力して生み出せれば、オーディオのマーケットを拡げる可能性があると思います。

── いい音を楽しむために、必ずしも物量が必要だというわけではありませんね。

梅村 いい音とは何かということですね。ヤマハも今あらためてそのことを考えています。今まで、その定義があいまいだったのだと思います。音の数値化も大事ですが、そこにどういう要素が整えば皆さんがいい音だと思うか。今あらためてR&Dのテーマとして取り組んでいるのです。結局ここに戻らないと新しい提案もできないですから。

音環境ビジネスに
大きな可能性

── 御社は昨今、調音パネルの展開にも注力されています。

梅村 調音パネルに関しても、音についてのバックアップデータは持っています。ただ懸念するのは、お客様ご自身がいい音になったかどうかをどう実感してくださるかということ。部屋に一枚置いただけでも音環境は変わりますが、どのように置くと一番いいかというのが分かりづらいのですね。

── 調音パネルはお客様に渡しただけでは目的は達成されません。これはあくまでもハードウェアであって、お客様が欲しいのはいい音環境なのですから。それをどう販売するかということですね。

梅村 やはり設置するサービス、アドバイスが重要です。それは専門店様でないと難しいですね。ホームセンターなどでお客様が買って、自ら設置しようとしても、「コト」の方が不十分になります。

── 音について、コンシューマーは何とかしたくともどうしたらいいかわからないというのが現実だと思います。御社の「YMP125」の中で新たな成長分野として音空間ビジネスを挙げておられますが、ここを成長分野にした理由と、その方策をお聞かせくださいますか。

梅村 プロフェッショナルオーディオの分野で、音響空間コントロール技術を製品化したAFCというものがあります。最近では東京大学にある多目的ホールに導入させていただきました。催し物によって適切な残響にホールをコントロールできるもので、これはプロフェッショナルオーディオとしてかなり前から行ってきたことです。ハードウェアだけでなく、ソフトウェアも絡んだ分野の製品です。この音響空間コントロール技術をもう少しコンシューマー寄りに応用したもののひとつが調音パネルです。

一方で防音ということも楽器分野ではやっておりますが、その延長線上で「スピーチプライバシー」という商品を出しまして、大手の薬局チェーンの薬局のカウンターでお使いいただいています。スピーカーにソフトを組み込んで、会話を周囲の人には聴き取れなくするシステムで、声は聴こえるけれど言っている内容がわからないというものです。

音環境は音を遮断する問題解決型から、調音パネルのように積極的な働きかけのできるサービスに発展させていきたい。そのためのいろいろなテクノロジーはありますから、さらに新製品の開発を進めていきます。

── 音環境ビジネスは、まだほとんど触れられていない分野であり、大きな市場になると思います。

梅村 調音パネルをどう使っていただくかを考えるにあたって、会議室や飲食店での用途も追求しています。今後そういう分野のマーケットは拡がると思いますし、最後には一般家庭がターゲットです。

調音パネルではかなり多方面の可能性を感じており、製品の進化をもっと進めていけば、事業の可能性も拡がりますし、「音・音楽を原点に培った技術と感性で、新たな感動と豊かな文化を世界の人々とともに創り続ける」ということにもつながると思います。

── いい音に触れていただくきっかけは何であれ、そこから体験に至ればお客様の感性も磨かれます。

梅村 私どもは、小さな商品であれ、音・音質は妥協していません。デザインだけ、ということではなく、音はあるレベル以上の質を保っています。

私は社内でいつも、顧客主義、高品質主義ということを主張していますが、高品質というのはハイエンド商品にだけあてはまることではなく、入門クラスの高品質もあるのです。それは、お客様の驚きやわくわく、この価格でこんな音がするのかという思いにつながり、信頼や憧れを抱いていただくということにつながるのです。

音響機器や楽器であれば、音につながるものが本質であり、そこにいいデザインを加えて、たとえばかわいいという要素もさらにプラスになるということだと思います。高品質主義とはそういうことです。

梅村 充氏時代に合わせて
構造改革を随時進行

── 4月1日付で立ち上げられた国内事業構造改革プロジェクトについてご説明いただけますか。

梅村 これには4つの中身があります。1つ目は、スタッフのスリム化。日本の外でつくって外で売る比重が大きくなると、ヤマハ株式会社としても国内本社のサイズもそこに合わせていかなくてはなりません。2つ目は半導体の事業。音に関わる非常にニッチな分野ですが、携帯電話関連の市場が大きく伸びた後、現在は縮退しつつあります。今後も半導体事業を続けていく上で、それに見合ったサイズに見直す必要があるということです。

3つ目は国内の生産。AVは100%海外生産ですが、楽器も外でつくり外で売る比率が高まっており、年々その環境に身体を合わせて来たところで、これをもう一段進めていきたいということです。4つ目は国内の営業の構造改革。ただこれはヨーロッパであれ中国であれ同じことで、どの販売部門も当然その時代時代の環境に体制や規模、機能を合わせていかなくてはいけません。

「YMP125」で来年以降の成長の基盤をつくるためのもので、その最後の1年が今年です。この4つの道筋をそこで明確にしていきたいということです。

── 国内営業では、規模を合わせることと、コトを売るための営業の変革も必要です。

梅村 楽器分野では国内ピアノメーカーの出荷台数がピークで30万台でしたが、今2万台を切っており、楽器店の数も減っています。卸営業はもっと小さくてもいいのですね。そこで3年ほど前に人をシフトして組織をつくり、そこでコトに集中したネタ探しをさせていますが、将来のための市場開拓に意味があると思っています。楽器分野ではこのような展開で、コト事業の可能性を追求しているのです。

AVも、卸そのものは複雑ではないですが、販売網は変化しています。エリアマーケティングを展開していますが、エリアごと、人ごとにやり方が違い、残念ながら我々のメッセージがうまく届けきれていないというところもあります。これをもう少し見直し、ある形づくりをして特約店様にメッセージを伝えられるような取り組みを1年ほど前から始めたところです。

一方でお客様の方ではメーカーからの直接の情報が欲しいという動きがあり、ネットの存在が重要になります。ここは強化し、引き続き十分な情報をご提供できるようにしなくてはなりません。昨今は誰かからのつて聞きでなく、直接の情報でなくては信頼できない風潮があります。フェイスブックも含めて、情報を直接出し、お客様と共有する展開を強化していきます。

── 情報の送り手が誰か、ますます重要視されます。メーカーか、媒体か、あるいは信頼できる友人か。それらがすべてのものが揃って納得し、買うという時代だと思います。

梅村 メーカーは自分達にも可能性があるだろう新しい市場をつくれないかと考え、製品を出します。しかし流通側の事情で、開発商品全部は扱ってもらえないという現実があります。そうなるとメーカー自らウェブで訴えるという方向にならざるを得ません。そのような場合も含めて今後情報発信を自らしていくことが非常に重要だと思います。

国内の構造改革は申し上げたような内容ですが、一言では時代対応、またエンドレスなことであり、今は3年計画の締めくくりとして重点をきっちりさせて、次の成長に備えているということです。

新市場、新顧客開拓こそ
メーカーの原点

── 梅村社長がもっとも大事にされていることは何でしょうか。

梅村 今のヤマハの存在価値は、これまでのお客様にどれだけの満足感を与えて来られたか、ということであり、顧客満足度が今のヤマハの信頼度を築いてくれたと思っています。

これからのヤマハの価値はというと、どれだけ新しいお客様、新しい市場を創れるかであり、顧客開拓が将来のヤマハの価値を上げていくと考えます。これがメーカーのあるべき原点だと思いますし、信頼と憧れのブランドになりたいということも、それができるかどうかで決まると思っております。そのために顧客主義、高品質主義は譲れない2つです。

常に新しい市場、新しいお客様を創るということ。そのチャレンジをしていけるということが、ヤマハが創業立125年を経たあとも生きていける一番の原動力だと思います。以前は、ハイスペックな機器を驚きの値段でつくれば企業の価値が計れたでしょうが、今はそれだけでは新しいお客様は開拓できません。製品があって、さらにこんな楽しみがあります、というコトを重ねて、新しいお客様を捉えていきたいと思います。

メーカーには、やはり夢があると思います。自分の責任でチャレンジできますから。そういう意味で幸せな仕事だと思います。2011年は大震災で大変な年になりましたが、音楽の大切さというものをあらためて目の当たりにしました。音楽はなくてはならない、すばらしいものとあらためて実感しています。音・音楽の世界で楽しみを提案するなりわいは、可能性もあり、幸せなことだと思います。

◆PROFILE◆

梅村 充氏 Mitsuru Umemura
1951年3月生まれ、東京都出身。1975年3月 東京大学卒業。同年4月 日本楽器製造(株)(現ヤマハ(株))入社。2000年4月 ヤマハコーポレーションオブアメリカ取締役社長。2001年2月 ヤマハ(株)執行役員。2003年5月に帰国し、楽器事業本部長、同年6月 上席執行役員、2006年6月常務取締役を経て、2007年6月より現職。

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