- 時代の風を感じることが何よりも大事
素早くハンドルを切り新たな道を開く
- CAVジャパン(株)
- 代表取締役社長
- 法月利彦氏
Toshihiko Norizuki
話題の新商品で新ブランド「ブリュッタ」を立ち上げ、スマートフォン周辺のカテゴリーに着手したCAVジャパン。テレビ販売の激減で大きく揺さぶられる状況下においても、刻々と変化するユーザーニーズに素早く応えていく。高い感度で次々と新事業に着手していく同社の近況を、法月社長に聞く。
テレビ販売の激減で手を引くのでなく
新たな付加価値でシアターを上向きに
スマートフォン関連で
新たな可能性を追求
── 昨今御社では、さまざまな事業を新たに展開されています。あらためて近況をお聞かせください。
法月 昨年7月のアナログ停波で、テレビ放送の完全地デジ化が収束しました。そしてテレビの販売台数は急激に下落している状態です。ご存知のとおり私どもでは、ラックシアターを始めとするテレビ周辺のオーディオ展開に注力していましたが、やはりこうした影響を受け、大幅に売り上げが落ちています。
しかし我々としてもその状態を見越して、一昨年から次の商品の企画を立ち上げており、今年いよいよ第一弾商品を6月に発売させていただきました。これはスマートフォン関連機器という位置づけであり、新たに「ブリュッタ」というブランドを立ち上げての展開を行っています。
第一弾商品は振動スピーカーですが、いろいろな媒体に取り上げていただきました。特にテレビのバラエティ番組で放送されたところ大変な反響があり、おかげさまで多くのお客様にお求めいただいて生産が追いつかない状況でした。ようやく8月に入って第2便をお届けできたところです。
── ハイファイオーディオ、ホームシアター、デジタルオーディオと展開してこられましたが、新たなターゲットはスマートフォンということですね。
法月 世の中のニーズがどんどんオーディオから離れているという現実があります。チャネルに対する課題もありますし、何よりも昨今の若い人たちはスピーカーで音楽を聴くライフスタイルではなくなっているということです。我々はもともとオーディオのメーカーであり、そこが軸ではありますが、そういった中では今後、我々がハイファイを中心に事業を展開していくのは難しいと考えています。
ただどんな時代であっても、どんな世代の方にとっても、音楽というものは暮らしの中に絶対に必要なものです。しかし昨今のリスニングスタイルとしては、それぞれが個々に楽しむようになってきており、そうするとスピーカーよりもイヤホン、ヘッドホンのようなものが求められてくるわけです。当社でもヘッドホン「SOUL」を昨年から展開しておりますが、これが大変好調に推移しています。
今回新たなカテゴリーを構築するにあたっては、こうした新たなリスニングスタイルに当てはめようと模索していたわけです。世の中の動きを見ていますと、携帯電話がスマートフォンにどんどん移行しています。これ1台で何でもでき、音楽を聴くにも格好のツールです。そこで我々もスマートフォンに関連するものを手がけようと考えました。ただ我々はアプリ作成会社ではないですし、スマートフォンカバーのようなものですと差別化が難しい。やはり本来の軸である音に関連するものを手がけようという思いがありました。
そんな中、社内で提案されたのは振動スピーカーです。中国ではこうしたものが以前からあって、私自身も気にとめてはいました。あらためてここに可能性を感じて着手し、第一弾のバイブレーションスピーカー「BRT-G1」が誕生したわけです。
これをブランディングするにあたっては、これまで我々はCAV、CAVジャパンのブランドでオーディオを展開してきましたからその方向性もあったわけですが、この際思い切って商品ブランドをニューブランドにしました。「ブリュッタ」は、振動して音を出すその特徴を端的に表現した名称ですが、これをブランド化し、そのもとでスマートフォン周辺の商品群を展開していくこととしたのです。
振動スピーカーから
さらなる拡がりを
── 振動スピーカーに加え、すでにヘッドホンアンプも投入されていますね。
法月 バッテリーを内蔵したポータブルアンプ「BRT-PA1」で、7月に発売を開始しました。さらにこの後に続くものが幾つも控えています。近いところでは、バイブレーションスピーカーの第2弾としては、風呂場でも使用できる防水仕様となって、ハンズフリー対応で電話にも出られるものがあります。第1弾の「BRT-G1」もいずれ防水、ハンズフリーバージョンを用意するつもりです。
「ブリュッタ」ではまた、ヘッドホンも計画しています。「SOUL」では我々が国内マーケティングを行っていますが、これだけでなく、我々が企画をして商品をつくり、マーケティングするところまで手がけたいということで着手したもので、すでにアパレルブランドと一緒にスタートしており、ここではいろいろな展開を行っていきます。
バイブレーションスピーカーではまた、ファミリーで年齢層も高いお客様をイメージして、テレビ用の手元スピーカーとしても展開していきます。かたちもいろいろに変えられますから、キャラクター展開してノベルティグッズにすることもできます。ギフトのコンセプトもあり、そういうチャネル開拓も必要だと思っています。幅広く使えるので、家電チャネルに止まらない拡がりが期待できます。いろいろな顧客をイメージし、フィーチャーをつけたりはずしたりして様々に展開していきたいと思っています。
── スマートフォン周辺では、事業の規模がどんどん拡大しそうです。
法月 バイブレーションスピーカーの販売台数は、国内50万台、海外50万台とみており、さらに海外を対象に車載用も開発中です。しかしここまでの規模になると、生産体制も新たに課題となります。現状では1日600?700台の生産ペースですが、早い段階で5倍の月10万台規模にしなくてはなりません。ここでクオリティを落とさずに生産拠点を拡げること、またキャッシュフローの問題もありますが、ひとつひとつ解決して参ります。
ハイファイ、シアターも
着実に継続する
── 「ブリュッタ」はスマートフォン周辺機器として、どのような店頭展開をされるのでしょうか。
法月 第1弾の「BRT-G1」はスピーカーだということで、量販店様ではオーディオ売り場やパソコン売り場に置かれるケースが多くなります。しかしこれは、スマートフォンの売り場でこそ展開したい商品なのです。
従来の縦割り組織に沿った店頭マーケティングではなく、顧客視点でのストアマネジメントが必要だということを、私自身今トップダウンで法人様に働きかけているところです。ある法人様ではすでに100店で、展示台を用意してスマートフォン売り場に設置することになっており、これから新たな可能性が開けると思います。
── 従来から注力しておられるハイファイ、ホームシアターは今後どのように展開されるのでしょうか。
法月 中国のCAV自体がハイファイを手がけておりますし、我々もカントンのスピーカーを取り扱っていますから、それらについては従来と変わらずしっかりとインフォメーションを行い、国内で販売して参ります。しかし今後我々自身が企画してつくる商品については、ハイファイの割合は少なくなるでしょう。
ホームシアター分野では、スクリーンの事業が広がっています。これはホームシアターと、オフィスのプレゼン用との2種類の切り口で展開しています。また埋め込みスピーカーの分野では、ブルートゥースを使ってスマートフォンと連動する新しい切り口を提案し、拡大しようとしているところです。
ホームシアター事業については、二つの考え方がありますね。テレビの販売台数が激減したことを受けて、マーケットがシュリンクして大変だという面と、そういう状態だからこそどう付加価値をつけて上向きにしていくかという面です。今は後者の芽がどんどんと出てきているという実感があります。
ただ我々のオーディオ事業のバランスとしては、今は地デジ化前のシアターがけん引していた状況から、スマートフォン周辺へとウェイトがシフトしている状況ではあります。しかしそんな中であっても、我々はホームシアターのカテゴリーをしっかりと展開していくつもりです。そしていずれ来るであろうテレビ販売の回復に備えたいと思います。
アンテナを張り巡らせ
さまざまな風をキャッチ
── オーディオ関連とはまた別の分野での事業展開も行われているそうですね。
法月 CAVジャパンとして、美容・健康グッズの代理店展開も始めます。ドライヤー、美顔器、脱毛器などといった家電品や、サプリメントなどを手がけます。
── 御社はさまざまなニーズを吸収し、いくつもの種を蒔きながら、事業の幅を拡げていくということですね。
法月 事業をやるということは、時代の風を感じるということ。そうでなくてはだめだと私は思います。一方で自分のフィロソフィを貫く、ひとつの道を追求するという考え方ももちろんあるわけですが、私の考えはそうではありません。
大手の企業とは違って当社のような規模では、時代の風を感じながらできるだけ速く動く。人よりも早く風を感じて、早くにそこへハンドルを切る。ひとつの事業に身も心も全力で捧げるのではなく、いつでも風を感じて自由に動けるようにしておかないと、気付かないうちに沈没してしまうと思っています。
そうなると当社では、ハイファイに全力を投じるのは難しい。それにあたって人員整理もしましたが、二度とそういうことのないように、退いていただいた人のためにも我々は頑張らなくてはなりません。そのためにもひとつの業務に固執する必要はなく、可能性をどんどん追求していくべきなのです。幸いにも、当社の新たな業務に賛同してくださる方も多くいらっしゃって、手応えを感じています。今後もいろいろな可能性を模索し、さまざまなチャレンジをしていきたいと思います。