加藤修一氏

景気に左右されるのではなく
どんな状況でも収益を出す
(株)ケーズホールディングス
代表取締役会長兼CEO
加藤修一氏
Syuichi Kato

テレビ販売が落ち込む中、ケーズホールディングスの連続増収記録も65年目で初めて停滞することとなった。しかしまったく意に介さないのが加藤会長。需要に合わせて収益を出す構造で、これまでどおりゆっくりと成長を続けていくという。困難な時代にひときわ意味を増す、その「がんばらない経営」の本質に迫る。

 

効率的には無駄であっても
お客様のためにやらなくては
それが専門店の魅力です

 

テレビは異常な需要に反動
ほかは何も変わっていない

── 以前に取材をさせていただいてから1年余りが経ちました。昨今の御社の状況はいかがでしょうか。

加藤 家電販売の売上げが落ち込んでいます。しかし冷静に見るとアナログ停波でここ3年ほどの間にテレビの需要が先食いされたということで、それ以外のことは本質的に何も変わっていません。世間のリアクションが過大になっていると思います。

テレビ販売はアナログ停波で需要が急角度で伸びましたが、それ以外の商材はなだらかな伸びでした。当社の2012年度第2四半期、映像商品の売上げは前年度1052億円のところ、今年度367億円と684億円のマイナスです。トータル売上げは前年度3850億円のところ今年度は3180億円と669億円のマイナス。映像商品の減よりトータルの減が少ないですね。つまり映像商品を除けば普通の状況です。

ただ残念ながら64年間連続してきた当社の増収は、65年目にして初めて下がり、今年度で2年連続となります。その前のテレビ販売の状態がいきすぎだったということですね。想定を大きく超えた異常なものだった。今の数字は、3年前に想定した成長の軌道の上にちゃんとあるのです。ですからケーズデンキの幹部も社員も、まったく何も不安をもたずに、また来年度以降も店を増やして、売上げが伸び、利益を出していくから安心だと、余計なことを考えずに普通に商売をしています。

テレビの売上げはあと2〜3年は今年度と同等の水準だと思います。今年度は昨年度より下がりましたが、その下がり方の読みはメーカーも販売店も甘かった。2011年の7月を経て8月にテレビの売上げが下がり、業界ではそこで底を見たと思っていたのですが、その時点ではまだ2台目、3台目のテレビを買い替えていないご家庭は結構あった。それで8月も9月も買い替えがあり、12月まで続いたのです。東北では2012年3月の停波まで続きましたね。つまり2011年8月以降は、落ちてはいたけれどもまだ需要が続いていたということなのです。それで2012年の8月は、さらに前年比が落ち、それ以降もまだ落ち続ける結果となりました。

こうしていくと、2013年は横ばいになっていくのではないかと思われます。しかし横ばいといってもそれは下がった状態の横ですから、テレビに対してはあまり期待できません。しかし前年比としては落ちなくなってきますから、その数字に対して利益が出るような組み立てをして運営すればいいということです。

売れなければだめだというのではなく、売れ方に応じて収益の出る構造にすればいいということ。需要が横ばいでも利益を出す。需要がわかっているのですから、そういう構造はつくれるはずなのです。当社ではどんなときでも、困った、どうしようということはありません。ただやるべきことをやるだけです。

1993年3月に出た雑誌に私の記事が載っています。当時から私は、需要が横ばいであっても儲かる状況が当たり前であり、そうでなくてはだめだと言っています。景気がよくないと困る、というのではだめで、今の需要で十分成り立つように自らを合わせていけばいいのです。景気はよくなくてもいい。逆に景気がいいときに勢いにのって大きな体制にしてしまうから、よくないときに大変になってしまうのです。それを20年前に言っているわけですが、未だに世の中はそうでない方に動いていますね。当時もバブル崩壊で不景気と言われていましたが、あれから20年間、振り返ってみればずっと不景気。今が特別な状況というわけではないのです。

人を成長させるために
会社の成長をゆっくりと

── お客様を大切にし、お客様目線で対応すると同様に、社員を大事に、また仕入れ先も大事にする、そういった御社の姿勢は今こそ生きてきますね。

加藤 「人を中心とした事業構築を図り、ケーズデンキグループに関わる人の幸福を図る。事業を通じて人の「わ」(和、輪)を広げ、大きな社会貢献につなげる」という当社の企業理念がありますが、人を大事にすることに対して特別に取り組んでいることはなく、普通のことを行っているだけです。朝礼ではお客様の身になって考えましょうとは言っていますが、具体的に何をどうするかというような教育はしていません。けれども当社の社員は親切だと言われます。それは大もとの考え方が示されているということと、目先の数字を追いかけることを要求されていないからなのです。

社員に対する評価の仕方、管理の仕方次第でその行動はまるきり変わってしまいます。数字を追わせると、社員は自分の数字を上げるために、販売につながらないことをしなくなります。ですから当社の場合は、数字が悪くても怒られません。だいたい数字そのものを社員は気にしていないのです。

売り場で手をとられている社員がいたら他の社員がすかさずフォローにまわる、といったことも、教えているわけではありません。歩合制ではないですから、売るのが上手な社員に対して他の社員がバックアップし、その社員がもっとたくさん売れるようにしているということもあります。

── そうしたことが自然に動くのはすごいですね。

加藤 社員が増えていけば研修所をつくって教育に力を入れていくのが通常でしょうが、当社ではまず優秀な先輩をつくっておく。するとその下についた社員も1年もたてばよくなっていき、特別な教育をしなくても育つのです。例外的なのは、同業他社から当社に入社するケースで、そういう社員は電気屋としての知識はもっていますが、ケーズデンキとは違う考え方で仕事をしてきました。命令されて頑張ってきた社員は、そうでなくなると何をしていいのかわからなくなってしまう。今までの考え方を抜くための教育は必要で、その際は私も1時間程かけて話をしています。

1000人もの社員を一気に全員しっかりさせることはできません。当社では、まず社員が数十名のときにしっかりさせました。そして、50人を急に100人に増やしたりせず、60人、70人とゆっくりと増やしてきた。人の成長が追いつくように会社の成長速度をコントロールしてきたのです。会社の成長速度を必要以上に速めると、従業員の意識が踏襲できなくなります。急にペースを上げず、30年かけて売上げ1000倍になったわけです。私はこれ以外の方法はないと思っています。アクセルを思い切り踏んで5割アップさせてしまうと、会社の考えが実現できる前にどこかで無理がかかります。そうさせないためには、成長速度をゆるやかにするしかないのです。

設立以来前年比25%成長でやって来て、売上げ1000億円規模になりペースを15%成長に落として、5000億円規模になってからはさらに10%成長にペースを落として現在に至ります。それ以上成長速度を速めると、人が自然には育ちません。まだ育っていない人に部下がついては、お互いがだめになる。そこから人という財産も途切れてしまう、当社はそういう考えでやっています。だから、5割伸ばすチャンスがあったとしてもそこまではやらない。そこは他社とは違うと思います。

── お客様に対しては、長期無料保証も非常に好評ですね。

加藤 他のお店では保証は保険と同様で、そこからも利益を出そうという考え方ですね。長期保証を希望する際は商品価格の数%を払っていただく方式であり、当然すべてのお客様が加入するわけではありません。

昨今の商品は修理費用が高いですね。昔なら一部を取り替えればすみましたが、テレビならパネルごと取り替える場合もある。商品を買われて数年で壊れた場合のような修理費用を、1人のお客様に負担していただくのは大変なので、全体でカバーしていただこうというのが当社の考え方です。1人当たりなら小さな費用ですみます。一方、有料保証制度に加入した方だけを対象とすると、全体の数が限られますから掛け金も高くなってしまいます。また加入や脱退の際の手続きといった業務の手間も加わりコストが発生します。

加藤修一氏── こういう時代ですから、安心できるお店が支持されます。お客様の購入履歴がすべて記録される「あんしんパスポート」も好評ですね。

加藤 会員数は現在1900万人ほどになり、1年間に500万人ほど増えています。保証のために履歴が必要と考えていましたが、メーカーさんのリコールがあったときにも役に立ちました。以前は高額商品しかお客様の履歴は残していませんでしたが、あんしんパスポートのおかげで、単価の安い商品の不具合であっても、すぐお客様に連絡することができます。またプリンターの購入履歴からどのインクカートリッジが対応するといったこともわかり、やはりお客様のためになるとあらためて思います。これは決してお客様の囲い込みではなく、お客様のためにやっているのです。決して店の都合ではありません。

売上げをどう上げよう、どう伸ばそうという考えは当社にはありません。お客様がケーズデンキに買いに来られ、売ってほしいというものを間に合うようお届けするだけです。「売れても困らないようにするが、売ろうとはしません」と20年前から当社では言っています。雑誌だって発行部数を伸ばそうとすると、おもねったり刺激的な内容の記事にしたりということになりがちですね。私なら、読む人に価値のあるものを提供すれば、結果として部数が増えると考えます。難しいことですが、最初からそういう姿勢であれば、あとで努力しなくてもすむ。それが私の言う「がんばらない経営」です。

リアル店舗をもつ店だから
ネット販売の店に勝てる

── 店舗数の推移はいかがでしょうか。

加藤 年間新設40 店をめやすにしています。ただ場所がなかなか見つからず、昨年度は34店で今年度は32店の予定です。同エリアで小さい店を閉めたりしており、退店数は昨年度が12店で今年度が11店。純増数は昨年度が19店で今年度が22店です。平均売場面積は徐々に大きくなっており、10%ずつ増加させる方向できています。しかし10%増えた売場面積に対して、売上げはそれほど増えなくともいいというのが私の考え方です。それでも10年後には、今の倍くらいの数字になるかと思います。

店の出し方は既存店の商圏と一部重なるように、お客様がご自分にとって一番近い店を、道路状況などによって選んで行っていただけます。チラシも面でまいていますが、日本の世帯に対してまだ45%しかカバーできていません。当社にとっては、まだ日本の半分以下でしか商売していませんから、出店によってこれを80%にしたいと思っています。おそらく10年ほどかかるでしょう。すると迷うことはありません。これから会社が行うことは決まっているので、あとは社員が決められたことを淡々とやっていくだけです。

── 御社は家電に特化したご商売をされていますが、今後それ以外の商材を取り扱うことはないのでしょうか。

加藤 我々は家電専門店です。だからこそお客様に支持していただけるのです。ほかの法人さんが都心の駅前で展開されているようなお店は、さまざまなものを取り扱って買い物に便利だということで支持されています。しかし都心の駅前というのはそこに人がたくさん住んでいるのではなく、通勤通学の拠点として人が集まる場所。ケーズデンキは住宅に近いところに店をつくって、お客様には家から直接来ていただいていますから、都心に店を出す必要はないのです。都心のお客様も家はほとんど郊外で、勤め先と家のどちらの近所で買うかということでしかありません。当社では郊外だけで展開するということです。

私が大学を卒業した頃は、電気店は大きい店でも40〜50坪、秋葉原などは品揃えが多くて凄いと思ったものです。しかし今は郊外店ならば2000坪という店もめずらしくなく、その規模ならお客様が買いたいと思っておられる商品はほとんど揃っています。必ずしも都心まで行く必要はなくなりました。

── 昨今は家電でもネットの販売が伸びており、リアル店舗をおびやかす存在になるかとも言われています。

加藤 ネットでものを買う人は確かに増えています。しかしどちらか一方だけでなく、現物を見るため店で買う場合もあれば、その必要がなければネットで買う、状況によっていろいろな動き方をします。しかしそこで競争に勝つのはネット販売しかしていない店ではなくて、最終的にはリアルの店舗ももちながらネット販売もする家電販売店です。なぜならバイイングパワーが違いますし、売った商品の設置やアフターサービスでも家電販売店が有利だからです。また仕入れがほとんどない店が安く仕入れられるわけもなく、今後規模を大きくするということも考えられません。

家電品は買って終わりではなく、設置をどうするか、壊れたらどうするかといったさまざまな問題があり、価格はその中のひとつの要素でしかありません。販売する相手がどんな状態で商品を仕入れたのかもわからないネット販売店で買うならば、お客様自身がすべての問題を解決するだけのスキルをもっていなくてはなりません。

またネット販売は、店舗がない分コストがかからず安いというイメージがありますね。しかしそれは間違いで、一番能率よく売れる会社が価格を安くできるのです。当社ではリアル販売のために店舗がいくつもあり、それぞれ在庫もあり、そこで成り立つ仕組みもできています。ネットから注文が来たら、お客様に近い店で在庫を確認してそこに伝票が自動で出ます。これこそ無人で、在庫の心配もなく、商売ができる仕組みです。しかも売上げはリアル店舗にプラスαされます。これこそ究極のローコスト。ネットだけの店は、そのために倉庫を用意したり配達業者を手配したり、仕入れの方策を整えたり、結局コストがかかるのです。

当社のネット販売の売上げは全体の1%ほどです。これが伸びたとしても、10年で10%になるかどうかといったところと見ています。お客様はリアル店舗での買い物を楽しんでいるのです。ケーズデンキのような大きな店なら、売り場をまわると初めて見る商品がたくさんあります。ネット上では知っているものは探せますが、初めて出合ったものをそのままネットで買うのはなかなか大変です。

マスコミはよく、これからネットが主流になってリアル店舗はだめになると言っています。アメリカやヨーロッパではネットが強くなっていますが、私から見ればそれはリアル店舗が自滅している、効率を求め過ぎているということです。専門店というのは効率もほどほどに考えないといけないのです。専門店なのですから、効率的には無駄なことであってもお客様のためにやらなくてはいけません。そうでなければまったく魅力のない店になり、比べられるのは値段だけです。しかも競争相手は電気屋ではなく、ディスカウンターだったり、大手スーパーだったり、大手ネット販売店だったりします。この状況は日本とは違いますね。

順位や売上げを上げるより
会社として永遠に続くこと

── 2013年をどのようにご覧になりますか。

加藤 多少テレビが落ちたまま前年比は横ばいとなり、安心して仕事ができますね。当社は通常10%成長を目指してはいますが、テレビが厳しい分5〜6%となるでしょうか。しかしそれで収益が上げられるようにするということです。そして5〜6年後にテレビの需要が戻れば、また10%成長ができるでしょう。

ケーズデンキは会社ですから、会社として永遠に続くことを考えなくてはなりません。終わりのない駅伝競走です。社長は交代していきますが、そのたすきはつないでいかなくてはいけません。駅伝はレースが終われば表彰されますが、会社は1位になろうが2位になろうが、経営に終点はありません。会社がより強くなっていくことに対する手は打っても、順位が上がる、売上げが上がるということに興味はありません。そして走りながら選手がより強くなるよう育てていき、誰がたすきを受けてもいいようにしていきます。一昨年は社長を相応しい人に交代しましたが、何も変わっていません。基本は変わらないのです。

会社は成長していかなくてはなりません。だめだといってダメになっていくのではなく、店の魅力をつくって伸ばしていかなくてはならないのです。世の中の変化に合わせてネットでも注文を受けますし、価格競争にも応じます。そうしてゆっくりと成長していくのです。

◆PROFILE◆

加藤修一氏 Syuichi Kato
1946年4月7日生まれ。茨城県出身。69年3月東京電機大学工学部卒業。同年4月(有)加藤電機商会入社。73年9月(株)カトーデンキ代表取締役専務、82年3月よりカトーデンキ販売(株)代表取締役社長。2011年6月に(株)ケーズホールディングス代表取締役会長兼CEOに就任。“人”を尊重する企業風土と無理・無駄・ムラのない「がんばらない経営」で安定的な成長を続ける。

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