- 情報発信の最大のステージは売り場
その提案のノウハウは、小泉成器の生命線である
- 小泉成器株式会社
- 代表取締役社長
- 松本良一氏
Ryoichi Matsumoto
小物家電を中心に自社商品と代理店業務を展開してきた小泉成器。昨今はオリジナルブランドにも注力して活動の幅を広げ、有力商品が参集する新製品展示会や提案性の高い売り場づくりは家電業界を大きく刺激する。注目される同社の戦略を、松本社長に聞く。
お客様が求めているものは何かを
常に念頭におき、短い言葉でアピールする
ちょっとした違いでも
存在価値を表現できる
── 松本社長のご経歴と、御社の歩みをお聞かせください。
松本 私は1947年生まれの団塊世代で、1970年に当時の小泉産業に入社しました。本社で1年間助手をした後、営業として岡山へ配属されたのを皮切りに、中四国地域の拠点で21年営業を経験し、大阪の近畿営業部に赴任しました。その後本社で経営企画室に入り、西日本の営業本部長も兼務し、2年ほど商品部長も経験しています。そして平成18年から現職です。
小泉成器はルーツから振り返ると300年が経とうとしています。この長い時間を生き抜いて来られたのは、時代に応じた我々なりのイノベーションを遂げてきたからと認識しています。小泉成器としての歴史は25年ですが、この短い期間でも我々は、時代にマッチした変化を自ら求めてきたと思っています。特にここ7〜8年は継続的な商品構成の見直しなど、高い意識で強力にチャレンジしてきたのです。
当社は89年に小泉産業より分社独立してできた会社です。小泉産業時代より家電製品を扱い、地域の問屋に卸していました。その後、家電小売店の規模が着実に大きくなり、問屋が弱体化していく中、我々は小売店への対応を強化するようにシフトしたのです。卸売業主体の営業形態から、家電量販店にウエイトを置いた営業形態へと基軸を移してきたわけです。
当初は代理店業務で、我々が大卸という立場で専業メーカー様の商品をお取り扱いする仕事が多かったのですが、現在では我々の独自性を活かしたオリジナルブランドの展開や、専売権を持つ海外ブランドの展開も行っています。このように様々な変化を遂げてきた、ということです。
── 御社のマーケティング戦略をお聞かせいただけますか。
松本 代理店業務としてただ商品を仕入れて売るだけでは、我々の存在価値がなくなります。そこで何に対してもちょっとした違いを求めることに重点を置いています。商品はもちろん、営業政策にも、経営にも、システムにも。何についても、小泉成器はちょっと違うと言われるようでありたいのです。
世の中の企業で、たとえばオンリーワンの革新的な技術が注目された発売当初の液晶テレビのように、絶対価値商法を行っているのは2%、我々を含めて残り98%は相対価値商法なのですね。ですから我々は、モノづくり、営業マンの質、提案内容、確実な納期といったところで、ちょっとした違いをどれだけ出していけるかにチャレンジします。それをたくさん集めると大きな違いになる。これが我々にとっての存在価値です。そして商品には付加価値を追求しています。その根底には、量の追求より質の追求、価値を訴求する、質の豊かさを求める、規模よりも豊かさだという信念があります。
またそうした考え方を言葉に置き換え、全社員が共有しています。会社が考えていることが、皆同じレベルで理解できるのも強みです。当社には、「小泉成器は幸せの器」という言葉があります。当社の社員として、サラリーマンの立場でお金や地位があるだけでは不十分。仕事の達成感ややりがい、報われ感、いろいろなものを含めて個人の豊かさが実現できるようなものを幸せの器と考えており、小泉成器はそういう会社でありたい、ということです。この言葉も全員が共有し、豊かさの実現を求めているのです。
取り扱いブランドをまとめ
カテゴリーを群展開する
── 地アナ放送停波以降、テレビの販売が落ち込み、お客様が販売店から遠退きつつありましたが、昨今は白物家電が次々と話題になり明るい要素となっています。
松本 我々の商品は、大型商品などの“目的買い”で売り場に来られたお客様が、店内を見ているうちに「こんな商品もあったのか」と“ついで買い”されるケースが多いです。ですから我々が一番怖いのは、売り場にお客様が来なくなることなのです。地上波アナログ放送停止後のこの2年間、なんとしても売り場に来ていただくこと、これに対しては我々としてもかなり貢献できたのではないかと考えています。
エコポイントや地上波アナログ放送停波によるテレビ販売の反動が顕著になると、販売店様も新たな商材に意識が動きます。たとえば新・三種の神器と言われるリフォーム、オール電化、太陽光発電システムなどですね。しかしまだまだ先行投資の段階で、すぐに大きな実需を期待するのは難しい。またスマートフォンやタブレット端末も好調ですが、利益の面では大きく期待できるものではないでしょう。
では一体どうするか。家電量販店で、その持ち味である広い売り場に小物の商品を充実させることがポイントなのです。お客様自身が持ち帰れる小物商品は、テレビや冷蔵庫と違って設置の必要もなく販売後の経費がかかりませんから、家電量販店でもトップダウンで注力する分野となっています。そういう意味で生活家電を広く取り扱う我々は、比較的恵まれた立場にいると思います。
特にここのところご注目いただけるようになったのが、独自ブランドも含めて展開している理美容のカテゴリーですね。我々は「Bijouna」という女性向けのオリジナルブランドを展開しています。これは本格的というより入門編のエステ家電に位置づけ、基本的にはリーズナブルな価格で買えるような価格帯のところで商品の幅を広げています。唯一エステドライヤーといって12,000円でご提案した商品もありますが、これもプレス発表以降メディア関係の皆様から大きく取り上げていただき、我々の期待以上の反響がありました。
── 理美容は男性向けも含めてカテゴリーそのものに今注目が高まっていますが、売り場を拝見していると、御社の展示コーナーには勢いを感じます。
松本 我々は専業メーカー様のブランドとコイズミブランドの双方を展開していますから、理美容でもそれなりにボリュームをもって表現できるのです。ある程度の品揃えができれば店頭での展示スペースを確保して存在感を出せる。そのためにはオリジナルブランドだけでは不十分なのですね。ナショナルブランドや海外のブランド、オリジナルブランドも含め、すべてパッケージにして提案をするのが有効です。
── 御社の展示会を拝見しましたが、具体的な売り場づくりの提案も含めて売り場での情報発信を詳細に表現されているのが印象的でした。やはり単体の商品だけでなく、ストーリー付けされたカテゴリー提案だからこそ、お客様の購買動機を引き出す流れをつくれるのですね。
松本 おかげさまで販売店様からそのまま店頭へ持ってきて欲しいというようなご要望もいただき、大きな手応えを感じていますが、それぐらいの完成度をもった提案であると自負しています。私どもの展示会は、法人のトップの方々にもご覧いただいていますが、そうした方々は、非常に熱心に見て、お客様目線でのご意見をくださいます。こういう商品いいね、欲しいね、という皮膚感覚は大事で、そうした方々に来ていただけるよう我々も注力しているのです。
── お客様が常に何かを期待して来られる魅力的な売り場にいかにしていくかですね。
松本 我々の情報発信の最大のステージは売り場です。ここで勝負しなくてはなりませんから、お客様がパッと見て足を止め、手に取っていただけるような提案のテクニック、さまざまな要素を磨かなくてはなりません。それは小泉成器の生命線として、常に努力し向上させております。実際の店頭展開の仕方についてはある程度までのひな形を作り、その上で法人様それぞれのお店の立地条件などを踏まえ、その点を良く知る営業の各担当者の創意工夫で、カスタマイズしているのです。
お客様の求めるものを
上手に提供していく
── 御社はいつの時代でも、強い訴求、どんな違いを見せていけるかという差別化をしっかりと打ち出して来られたのですね。
松本 商品には4つの価値があると思います。ひとつは機能的な価値です。ふたつめが経済的な価値、価格の値ごろ感ですね。3つ目が感性的な価値。色やかたちなどのデザインセンスですね。4つ目が社会的な価値。昨今ではエコや省エネにあたる部分です。
お客様は商品を買う場合に、こうした視点で選択しています。中でも社会的な価値は時代によって重要視されるものが変わってくるものですが、我々としては時代に応じてお客様のニーズをキャッチし、それに対して何をご提供していくかが肝心です。それがしっかりとできてこその商売だと思いますね。
── どんなに良い商品だとしても、それらが確実に伝わらなければまったく意味がなくなります。店頭表現は極めて重要ですね。
松本 商品が本来持っている価値を正しく売り場で発信する、情報発信は非常に大事です。特にお客様の気づきを生むこと、何にも知らないところから欲しい気持ちを引き出すのは大事です。世の中にこれだけ物が充足してきますと、量の飽和は間違いなくあります。しかし質の飽和はないと思います。質は多様性や高さが無限です。ここをどうやって提案していくか。それによってニーズも無限に広がるのです。そこは非常に大事なところだと思います。
たとえば調理家電のすばらしい商品が出たとしても、今使っている物が壊れなければなかなか購入には至りません。しかし、今使っている物よりどれだけ素晴らしいところがあるか、自分にとってどれだけメリットがあるかが納得できると、買い替えに至ることにもなります。そうしたことを、売り場で上手く提案していければ良いわけですね。そのためには、カタログに載っているようなメーカーサイドからのポイントを一方的に主張してもダメです。お客様が求めているのは何か、お客様にとってのメリットは何かを常に念頭においてアピールしなくては。
広告展開にしても、カタログの作り方にしても、アピールするためのポイントがあるはずです。私が日頃からよく言っているのは、一言で説明しろということ。ここだけ抑えればいいというひと言です。当社の展示会でも同様で、この展示会のポイントはこれです、とパッと短く語れるようでなければ全員で共有することはできません。アピールするべきポイントは短い言葉で、誰もが同じように語れることで、伝わっていくと考えています。
我々のこういう考え方は、近江商人から受け継がれていると思います。近江商人は売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」の心得をもつと言われていますが、特にお客様が求める商品を上手に見つけ出して提供していくことが近江商人のルーツなのです。我々のDNAも、そこに通じる気がします。