中川喜之氏

三洋電機とハイアール、双方の良い所を合わせ
新しいアクアの価値をつくりあげたい
ハイアール アクア セールス株式会社
代表執行取締役社長
中川喜之氏
Yoshiyuki Nakagawa

 

毎日の生活の中での使い心地の良さを
追求した商品作りや販促を展開

三洋電機からハイアールへ
「アクア」の新展開

── 中川社長は、三洋電機のご出身ですね。

中川 三洋電機には1985年に入社し、洗濯機を中心に小物関係を扱いながら家電畑を歩いてきました。一番の転機となったのが、2005年4月1日に始まった三洋電機の構造改革。私自身もご販売店様向けの窓口を担うために九州へ赴任し、営業販売の業務である程度の成果をあげることができました。

その後も三洋電機の構造改革が進む中、2008年に白物家電の再建と再編が図られ、洗濯機事業が「三洋アクア」という別会社となりました。私はそこに営業の取締役として参画することになり、2010年にはそこの社長となって約250人の社員と一緒に洗濯機の業務に従事しました。

そして三洋電機本体が2009年にパナソニックさんの子会社になり、ブランドはパナソニックに統一されました。両社の重複事業を解消する方針も出され、パナソニックさんの洗濯機部門と私どもの部門で互いのシナジー効果を出す検討を行い、将来的な方向性を見出そうとしていました。

当時、私は経営者の立場から、三洋アクアがパナソニックさんの中で生き残っていくのは難しいであろうと思っていたところ、2011年の年明けに中国のハイアールとの話を聞きました。ゴールデンウィークの頃には現在の私の上司であるハイアールの副総裁の杜 鏡国と話をすることになったのです。私自身は、おそらくハイアールに行った方が社員も含めて幸せだろうという思いがあり、段々と準備に入っていくようになったのです。

最終的に10月18日にその話が決定しました。日本市場の中でアクアブランドをいかに浸透させ販売するかを考えていき、いよいよ2012年1月5日に「ハイアール アクア セールス」という販売会社が立ち上がり、私が社長に就任したのです。

実は三洋電機時代の2002年に、冷蔵庫の部分では三洋ハイアールエレクトリックという合弁会社が立ち上がっており、いち早くハイアールとの提携が始まっていました。今に至る経緯はその流れもあったと思います。今我々が扱っているカテゴリーは、コンシューマー向けの洗濯機と冷蔵庫、そして業務用の洗濯機です。

洗濯機と冷蔵庫に加え
さらなるカテゴリーへ

── 日本出身のアクアというブランドや商品力は、ハイアールにとっても魅力的ですね。

中川 ハイアールは1985年に中国で設立され現在では全世界160ヵ国以上で事業を展開しており、冷蔵庫・洗濯機の台数シェアは世界一を誇ります。そこに日本の厳しい市場や消費者の目に揉まれた商品力や技術力が加われば、数量だけでなく本質的なグローバルナンバーワンになれるという期待があると思います。

── 中国企業であるハイアールが日本のブランドを受け継いだことで、その意図や今後の日本市場での戦略についてお聞きしたいのですが、中川社長のお立場では、三洋電機時代の思いがずっと根底にあると考えてよろしいのでしょうか。

中川 三洋電機時代の財産として、物の考え方、商品の作り込みの技術力や品質を保つ力、さらに営業力などは引き継ぐ考え方も大切だと思います。しかし当然、我々はハイアールの一員になったのですから、ハイアールが誇る規模の大きさ、生産力、資材の調達力、そしてグローバルの力を併せ持って新しい路線としてアクアを展開しなければならないと思っております。三洋電機とハイアール、双方の良い所を合わせて新しいアクアの価値をつくりあげたいと思います。

こうして新たな展開をするにあたり、アクアのブランド理念として「Authentic Question Unique Answer」を掲げました。すでに新しいステージへ前進しているのです。

── アクアというブランドは、お話を伺う限りほぼ完全に日本のブランドと受け止めていいようですね。

中川 そうです。私どもにとっては、資本家が中国に変わったというだけで、社員を含めた体制や行っている内容は旧会社とほとんど変わりません。ハイアールは大きなグローバル企業ですが、全世界で展開していくには各々の地域の個性や文化を尊重しつつハイアールの文化と融合させた上で事業を伸ばすべきだというのがCEOである張瑞敏の考え方です。中国のやり方や規則を日本や各国に持っていくという考え方ではありません。

── アクアの冷蔵庫にも、三洋電機の冷蔵庫のDNAは踏襲されているのでしょうか。

中川 当然あります。冷蔵庫の基本技術である冷却や省エネなどに関するところは、三洋電機の確固たる技術を踏襲しています。アクア製品の開発設計はすべて日本で行っており、その日本で培った技術を使って中国で生産していこうという考え方ですね。

── アクアブランドでの商品展開は日本国内だけですか。また洗濯機・冷蔵庫だけでなく、たとえば小物家電など他のカテゴリーへの展開はお考えでしょうか。

中川 まずは国内展開をしっかりやっていきます。今後のグローバル展開については何とも言えませんが、私自身としてはアクアというブランドを継承していくにあたって、できることならほかの国でも展開したいという思いはあります。

また、我々がアクアブランドを展開するにあたり、当然売上げを伸ばす大きな命題があります。ハイアールでは、日本でハイアールブランドとアクアブランドのダブルブランド戦略を展開しています。今年アクアブランドで400億円の売上げを目指しています。さらに2015年には500億円を目指しています。ただし目標の達成には、冷蔵庫と洗濯機だけでは限界があり、別のカテゴリーで新規の商品を投入する必要があると考えています。現時点では様々な可能性を含め検討を進めている段階です。

中川喜之氏次のテーマは店頭で
個性をしっかり打ち出すこと

── チャネル政策はどのように行っているのでしょうか。

中川 三洋電機時代のチャネルは一旦リセットし、現在は、家電量販店の10法人様を中心に展開しています。三洋電機時代の地域専門店はパナソニックさんに移行しましたが、卸しルートについてはすこしずつ構築しています。さらにホームセンターやディスカウンター、それから通販ルートなどの新規のチャネルについても、今後伸ばしていきたいと思っています。売上げを伸ばす方法は、商品のラインナップを拡充させることと、チャネルを増やすことしかありませんから。

日本国内の家電市場では、今いくつかの海外ブランドが活躍していますが、新しいブランドが日本に来て1年目で成功した例はあまりありません。私どものアクアブランドも新規参入のつもりで、覚悟を決め新たなチャレンジを致しました。それでもハイアールへの事業譲渡の際、どうせならば1年目から300億円以上を目指さなければ日本でプレゼンスが発揮できないと350億円を目指し頑張った結果、初年度は348億円の売上げを達成することができました。皆様のお力添えに感謝しています。

── アクアのブランドは、どういったお客様にステータスを訴求するのでしょうか。

中川 ハイアールとアクアのダブルブランド戦略として、ハイアールブランドで展開するのはスタンダードな商品。アクアはデザイン性も含めて違ったジャンルを狙っていこうという高付加価値商品です。

初年度となった昨年は、小泉今日子さんをブランドのイメージキャラクターに採用させていただき、大きくPR展開しました。狙いはハイセンスファミリー層。つまり商品自体の価値を認めれば、国やブランドを問わないという判断をされる層ですね。その考え方はこれからもずっと踏襲していきたいと思っています。

日本の家電市場は大規模な先輩メーカーがいくつも存在し、我々と同じカテゴリーの商品を展開しておられます。そこに同じようなものを投入したとしても勝ち目はありません。またお客様が求めるものの平均点の家電を作っていたのでは太刀打ちできません。我々ならではの付加価値を訴求できること、そういう理念の下で商品作りを行っていきたい。毎日の生活の中で使い心地の良い家電とはどんなものか、それを次のテーマとして、商品作りや販促展開を行っていくつもりです。

昨年は小泉今日子さんをキャラクターとしてテレビコマーシャルを大きく展開したことである程度の認知は確保できたと思いますが、次のテーマは店頭です。ここでデザイン性などアクアならではの違いをしっかりとアピールできなければ、本当にお客様に認知されご支持をいただくことはできません。これは1年でできることではなく、今後も継続して注力したいと思います。

── 来年には「東京R&Dセンター」が稼働しますね。

中川 これまで群馬県にあった「冷蔵庫R&Dセンター」を埼玉県熊谷市に移転し「東京R&Dセンター」として、ハイアールグループの各国の研究・開発拠点との連携を強化します。ここには技術、品質部門、開発部門、そして企画部門もあります。またハイアールアクアセールスにもマーケティング部門があります。一番重要なのは市場でどういう商品が求められているかをキャッチすること。それは私どもの販売会社でしか掴めませんから、そういう要求を会社としてまとめてR&Dセンターに渡し、そこで具現化していくスタイルにしています。

── 今家電業界が置かれている状況を考えますと、今まで売れていたものも簡単には売れず、新しい付加価値や新しい訴求の仕方が問われる時代になっています。そういう中で、御社は社長が自らおっしゃるように「ベンチャー企業」として、新しいチャレンジで日本市場に一石を投じていただきたいです。

中川 やはりそれには物を形にして出さなくてはなりません。従来からの商品も、機能性や使い方の新提案ができるものを皆さんにご披露しなければと思っています。また新しいカテゴリーについても、できれば今年の年末から来年にかけて、何らかの形で発信していきたいと思います。

◆PROFILE◆

中川喜之氏 Yoshiyuki Nakagawa
1962年 兵庫県生まれ。1985年 三洋電機(株)入社。2005年 コンシューマ国内営業本部 国内営業ユニット 広域法人営業七部 部長に就任。2008年 三洋アクア(株)取締役、2010年社長就任。2012年 ハイアール アクアセールス(株)代表執行取締役社長に就任。現在に至る。

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