塚田祐之氏

限りない可能性を備えた8K。
魅力溢れる映像を
多くの人に体感いただく機会創造にも注力
日本放送協会
専務理事
塚田祐之氏
Hiroyuki Tsukada

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハードの技術とコンテンツの双方が
同時に進化していくことが大切

第2ステージへ突入
NHK Hybridcast

── 9月2日より、放送・通信連携サービス「NHK Hybrid cast」をスタートさせました。年末商戦へ向けて投入する各社テレビの新商品にも対応機種が拡大しています。

塚田 まずは第1段階ということで、データ放送やインターネットの「NHKオンライン」と共有するカタチでスタートしています。データ量などの制約があるデータ放送と比較すると、インターネット経由で大量のデータを取得することが可能となるため、文字の表示や色なども非常にクリアで見やすくなっているのが特長です。画面の下部に流れる「スクロールニュース」や、7日先まで表示できる現行の電子番組表に対し、過去30日まで遡って確認できるなどの新しい機能もサポートしています。

これからがいよいよ第2段階となり、本格的にサービスの充実を図って参ります。現行制度の中では、NHKはインターネットの利用について、基本として既放送番組、放送が終了した番組を活用することなどの一定の条件があります。そうした中でも、ユーザーの方々に少しでも早く「NHK Hybridcast」ならではの新しい魅力を体感いただけるよう、今、6つの新しいサービスについて、総務省へ大臣認可を申請しているところです。

── 認可を申請している新しいサービスについて、詳細を伺えますか。

塚田 例えば、チャンネルを合わせたときに、見たかったオリンピック競技がもう始まっていた、というような経験は誰にでもあると思います。そのような時に「はじめから視聴できたらいいのに」というニーズにお応えできるサービスが「時差再生」です。これまでの一過性の放送から、番組を放送している間は、さかのぼって視聴することが可能となります。

また、放送には複数台のカメラからの映像があり、それを、放送局側がスイッチングしてひとつの画面として放送しています。しかし、例えばクラシック演奏の番組で「私は指揮者の動きにだけに注目したい」といったいろいろな見方、要望があるようです。そこで、自分の見たいポジションのカメラの映像を選べるサービスが「マルチビュー」になります。

その他に、「ハイライト視聴」「番組参加」「番組関連情報」「アーカイブ動画クリップ」を加えた6つを申請しています。新しいサービスの提案に対し、視聴者からも寄せられる様々な反応・反響や、演出面、技術面といった観点からきちんと検証し、将来の新しい放送サービスの充実へ繋げていきたいと考えています。

── これまで、想像もしなかったような大きな可能性を秘めていますね。

塚田 これ以外にもさまざまな研究開発を進めています。例えば、放送を多言語化して表示したり、気象情報を自動で手話のCGに置き換えて表示したりといった研究です。必要だけれどなかなか実現できなかった、そんなサービスをどんどん提供していきたいですね。現在、申請している6つのサービスについても、認可、準備の整ったものから順次、進めて参ります。

「あまちゃん」でブレイク
NHKオンデマンド

── 新しいサービスが注目される一方、「NHKオンデマンド」が一気に花開いてきた印象があります。

塚田 2008年12月1日のスタートですから、もうすぐ6年目を迎えます。当初、定着するまでにはかなりの時間を要するのではと予想していましたが、現在、無料会員登録が120万人を突破し、視聴数は9月月間で174万回を超え、右肩上がりで推移しています。

その推進力となったひとつの要因が「あまちゃん」です。本当に数多くの方にご覧いただき、次のステージへ突入した手応えを掴んでいます。15分番組なので、おでかけ先でも小さい端末で構えずにご覧いただけたようです。実際に、スマートフォンやタブレットを利用して視聴される若い方が急増したのもひとつの大きな特徴です。

その一方では、哲学的でむずかしい番組であるNHKスペシャル「神の数式」が上半期の見逃し視聴数ランキングの第4位に入るなど、新たな出会いや発見をして視聴いただく傾向も見受けられます。

オンデマンドの用途の拡がりや可能性が少しずつですが見えてきたと感じています。先ほど「NHK Hybridcast」で説明した過去30日遡れる番組表でも、将来的には「NHKオンデマンド」につなげて視聴できるところまで進化させていく展開も考えられます。事業としても、累積での赤字解消にはもう少し時間を要しますが、単年度黒字化についてはかなり近づいてきていると感じています。

精力的に進めるコンテンツ制作
8Kの視聴機会を提供

塚田祐之氏── 2020年の東京五輪開催も決定し、市場にも明るい話題を提供しましたが、テレビもここに来て復調の兆しを見せ始めています。そうした流れを牽引しているのが人気急上昇中の4Kテレビであり、また、その先にある8Kといった話題です。ここで改めて、8Kに至るロードマップについてお聞かせください。

塚田 総務省の「放送サービスの高度化に関する検討会」の検討結果にも示されている通り、2014年には4K、16年には8Kの試験放送がスタートし、20年には8Kの本放送への移行を目指すというロードマップが公表されています。当初NHKが想定していたものと比べると、8Kで4年の前倒しになっています。

このロードマップをもとに、機材の小型化や利便性の向上、また、放送において要となる圧縮方式などの技術開発を、オールジャパン体制の「次世代放送推進フォーラム」を中心に大車輪で行っているところです。16年には8K、4K、2Kのコンパチで、どんな電波が来てもベストの状態で再生し、また、通信系からのハイブリッドキャストなどの情報も表示することができるテレビを実現する意気込みで取り組んでいます。2020年の本放送開始時に、より多くのご家庭に普及できるよう取り組んで参ります。

── 10月に開催された東京国際映画祭では、8Kショートムービー「美人の多い料理店」をはじめ、さまざまな8Kコンテンツを上映し、注目を集めました。8Kコンテンツに対する取り組みについてお聞かせください。

塚田 東京国際映画祭では、デジタルシアターに8K用のスクリーンを設置して上映を行いました。映画関係者の方にも大きな関心を持っていただく機会となりました。

8Kコンテンツではその他にも、超高精細映像を活かし、ワンカットの中でアパートの6部屋それぞれの舞台を繰り広げて見せる実験的なドラマ「コーラス」、沖縄の石垣の海で水中撮影を行った「美ら海散歩」、また、9月にNHKホールで行われたミラノ・スカラ座オペラ「リゴレット」では、8Kで撮影し、NHKみんなの広場ふれあいホールとNHK仙台放送局にライブ伝送して、パブリックビューイングを行いました。これは、劇場向けに静音性と感度を高めた8Kシアターカメラの開発により、実現しています。このようにハードの技術とコンテンツ、双方が同時に進化していくことが大切であり、いろいろなトライを行っています。

── 一方、市場では4Kテレビが大きな注目、そして期待を集めていますが、4Kのコンテンツについての取り組みはいかがでしょうか。

塚田 正月時代劇「桜ほうさら」を、NHKでは初となる全編4K制作をスタートしています。これまでも、CGとの組み合わせでは4Kが有効なことから、NHKスペシャルの「MEGAQUAKE 巨大地震U」「病の起源」「大英博物館」などで部分的に4Kの技術を活用しています。本格的にドラマを4Kで作るのは今回が初めてで、4Kでどのようなドラマの表現方法が可能になるのか、積極的にトライし、8Kの制作につなげていきたいと考えています。

── さきほど、パブリックビューイングのお話が出ましたが、皆さんにも是非、高精細の感動を自分の目で実際に見て、体感していただきたいですね。

塚田 先ごろ開催された「NHK杯国際フィギュアスケート競技大会」でもパブリックビューイングを行い、多くの方にご来場いただきました。NHKとして今後も、積極的にこうした機会を作っていきたいと考えています。

一方、映画館でもこれからは、映画だけでなく、音楽ライブのコンテンツなどにも応用していける環境が整っていくことも考えられると思います。8Kはさらに医療や教育など、放送以外の分野への応用等、さまざまな可能性を持っています。

そうしたことにもきちんと対応していくとともに、言うまでもなく、その中心にあるのはテレビ放送による超高画質映像の世界です。8Kは人間の目にとって究極的なもので、3Dメガネをかけなくても、映像を立体的に感じることもできます。将来的には先ほども申し上げた通り、8Kが表示できる受信機で4Kも2Kも表示できる。そこにブロードバンドをつなげばハイブリッドキャストも楽しめる。それが、家庭におけるテレビの進化系の姿であると確信しています。

ようやくテレビ市場も上向きになってきました。2003年に東名阪でスタートした地デジもすでに10年が経ち、初期のテレビは買い替え時期に突入しています。眼前に広がる新しい魅力を、一丸となって皆さんにお伝えしていくことがとても大切になります。売り場のみなさまにも、例えば、ブロードバンド回線を接続した形で「NHK Hybri dcast」の魅力をお伝えいただくなど、ぜひ体感できる環境をご提供いただければと思います。NHKも全力を挙げて、普及活動にさらに力を入れて取り組んで参ります。

◆PROFILE◆

塚田祐之氏 Hiroyuki Tsukada
埼玉県出身。1975年 NHK入局、徳島放送局放送部 2003年 報道局制作センター(番組)部長、05年 広報局長、07年 総合企画室〔経営計画〕局長、10年 理事、12年 専務理事。好きな言葉は「感謝」、趣味はアクアビクス。

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