田中 慶彦氏

4K/8Kの商機獲得へ視野を広げれば
オーディオ市場は
ケーブルテレビ局のユニークさが際立ってくる
ジャパン ケーブルキャスト株式会社
代表取締役社長
田中 慶彦氏
Yoshihiko Tanaka

4K/8K放送の普及に伴い、放送の伝送方式がIP放送へと置き換わる。すなわちそれは、あらゆる世帯にブロードバンドが必須となることを意味し、そこへ、様々なビジネス・チャンスが生まれてくる。ケーブルテレビ業界にとっても、存在意義を再認識させ、新たなビジネスの創造の担い手となる大きなチャンス。今後の市場環境の変化をどのように展望し、成長戦略を描くのか。ジャパン ケーブルキャスト・田中慶彦社長に話を聞く。

 

家電店とケーブルテレビが
相互に歩み寄れば
もっとシナジーを発揮できる

4K/8Kがもたらす
ブロードバンド化の恩恵

── 4K/8Kへの対応は、放送を取り巻く環境へ大きな変化を迫ります。それがケーブルテレビ業界にとってはどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

田中ケーブルテレビ・プラットフォームとして急ぎ充実させていくテーマは、4KのIPリニア放送とIP・VODをメインとしたスマートテレビのサービスです。

放送が2Kから4Kになると、これまでの無線による伝送は帯域確保が困難になります。それに替わる広帯域の伝送ができる回線が必要となる。それが、FTTHを中心としたブロードバンドインターネット接続回線です。提供できるのは、NTT、KDDI、ソフトバンクのメガキャリア、そして、ケーブルテレビです。

いままでテレビを見るためには、テレビを買ってアンテナを立てれば無料広告放送が見られました。しかしこれからの4K/8Kの時代には、ブロードバンドに接続しないと見られなくなる世界がやって来ます。すなわち、ケーブルテレビを含むラストワンマイルのキャリアにとっては大きなビジネス・チャンスとなるわけです。

── 御社は、CSの多チャンネル放送の配信やデータ放送サービスをケーブルテレビ局に提供されています。

田中一昨年暮れに総務省が「放送サービスの高度化に関する検討会」を立ち上げ、4K/8Kに関するワーキンググループ(WG)、スマートテレビに関するWG、CATVプラットフォームWGの3つのWGが設けられました。我々も「CATVプラットフォームWG」に参加していますが、他の2つとまったく関係がないのではなく、これからは、それらを機能させることができるプラットフォームとして業務を実施していくことが求められています。

総務省が示した4K8Kロードマップに沿って、「NexTV-F」(次世代推進フォーラム)が試験放送の免許をとり、6月2日からスカパーの衛星放送を使って開始されることが発表されましたが、同時にケーブルテレビでも、それを再送信する方式で同じく6月2日からスタートを切ります。

2020年の東京オリンピックの時点では、4K放送にすべて置き替わるくらいの勢いで今後、環境が整えられていきます。我々も今、2Kで流しているものはいずれ4Kに置き換えていかなければなりませんので、今年から予算をとり、まずは1チャンネルでのスタートですが、その準備を始めました。メーカーは関連商品の普及など恩恵が見通せますが、放送局側には、地デジ化が終わったばかりでまた投資になりますので、そこへ向き合うためのプラスαをきちんと可視化することも、取り組みを加速させるひとつの鍵になると考えています。

── IP放送化されることで、他にはどのようなメリットがありますか。

田中例えば、「見逃し視聴」や「おっかけ再生」は、自らHDDなどを購入することなくクラウド上で可能になります。また、私が注目しているのは「エリアフリー化」です。

多チャンネルサービスが充実して、色々な放送が見られるようになりましたが、唯一見られないのがローカル局の番組です。私は大阪出身なのですが、東京へ出てきた当時には、あまりにもテレビ番組が違うことにカルチャーショックを受けました。日本全国で、そんな地方の番組がどこにいても自由に見られるようになる。それがエリアフリー化です。「radiko」でやられているように、自分の地域内は無料広告放送で区域外は有料のプレミアサービスというのもひとつのやり方です。強力な商品になりますし、インターネットを販売する場所も確実に拡がってきます。もちろん、法制度上の様々な課題があることも理解していますが、一視聴者としては非常に魅力あるサービスです。ジャパンケーブルキャストでは、もっとも時間と資金を要する映像信号の中継網において、すでにIP専用網の全国展開が完了しており、これは大きな強みになります。

もうひとつのIP・VODについては4Kとまったく関係ないように思われるかもしれませんが、ここでも、海外ではすでに4KのVODが出始めています。これからどんどん増えていくわけですから、当然、VODサービスにも4K対応であることが求められるようになります。

もうひとつのキーワード
「スマートテレビ」

久保 省三氏── 4Kと並ぶ新しいテレビの方向性として、総務省「放送サービスの高度化に関する検討会」でもスマートテレビに対するWGが立ち上げられています。若者のテレビ離れも指摘される中で、スマホやタブレットなどとのマルチデバイス化も注目されていますが、御社でも次世代サービス「cottio」を4月からスタートされました。

田中当社と当社ユーザー様であるケーブルテレビ局の東京ケーブルネットワークさんが中心となり、「J.COTT」という会社を昨年1月に設立しました。通信にカテゴライズされるスマートテレビのサービスはこの会社で行います。

スマートテレビのコンテンツは、ケーブルのインフラにこだわる必要はなく、オープンインターネット経由で提供できますが、サービスプロバイダーにとって最大の課題となるのが「課金」です。そこで、課金をはじめとする顧客管理や販売促進機能はケーブルテレビ局に提供してもらう。その一方で、ケーブルテレビ局にとって課題となる、コンテンツをひとつひとつ集めてくる手間を解消する。すなわち、サービスプロバイダーとケーブルテレビ局とのN対Nの複雑な関係を、1対1に整理することで手数料をいただこうというのが、J.COTTのビジネスモデルなのです。

有料のサービスプロバイダーの中には、当然映像を4Kにしていく方もいらっしゃいます。オープンインターネットですが、4Kの世界はここでも膨らんでいく。販売店にとっては、4Kテレビを推進していくひとつの役割を担う存在にもなります。

一方で、テレビだけにこだわるとIPのSTBが必須になってきますが、スマートテレビのアプリはスマホやタブレットにはすでに載っているわけですから、そこで見てもらう柔軟な発想も必要です。とりわけ、スカパー!さんが提供しているVODサービス「スカパーオンデマンド」の「Jリーグオンデマンド」をJ.COTT経由、ケーブルテレビ局に販売代行していただくサービスを開始しました。スポーツのライブ映像というコンテンツは、アウトドアでのタブレットやスマホでの視聴には大変相性がよく、潜在需要も非常に大きいと思います。

── 視聴環境がこれだけ劇的に変化してくる中で、お客様との大きな接点となる家電量販店の売り場にはどのような進化が求められているのでしょうか。

田中映画などのエンターテインメントコンテンツでお客様からお金をいただくことが、限界に近づいています。その一方で、これからの訴求となるのは生活に密着したテーマ。緊急地震速報や防災放送、ホームセキュリティや見守りなどです。テレビの画面を活かせる価値は、まだまだ色々なところにあるというわけです。

4Kでも“2K画面を4つに分割”という発想もあります。少子化対策のひとつとして、地方の活性化が叫ばれていますが、最大の課題のひとつは働き口がないことです。例えばそこで、4Kテレビの大画面に4分割した会社の映像を映し出し、家にいてもバーチャルで会社に出社している感覚を持たせたり、実際に会議や打ち合わせをしたりすることもひとつの可能性としてあるのではないでしょうか。

地域密着で高まる
ケーブルテレビの存在感

── 高齢化がさらに加速していく中で、「地域密着」というキーワードはこれからますます重視されてきます。御社が提供されているデータ放送のサービスも、地域密着という観点から大変注目度が高いそうですね。

田中ケーブルテレビ局はコミュニティ・チャンネルを持っていますが、そこには民放と同じようにデータ放送を流すことができます。しかし、そのためには、導入に必要となる機械が高価だったり、データ放送の制作そのものが非常に手間暇のかかるものだったり、高いハードルが立ちはだかります。そこへ、我々がケーブルテレビ局の希望するデータ放送の元データを制作し、それを地上回線経由でサーバーにお届けするまでの一連のサービスを行っています。

ケーブルテレビ局では、例えば、行政からの緊急情報の提供、番組として長時間を割けられない市議会議員選挙の速報など、地域に密着したサービスをデータ放送としてご活用いただいています。

また、ジャパンケーブルキャストでは、自社で編成ができる番組「チャンネル700」を用意しています。このチャンネルはいわば文化祭のようなノリで、皆が楽しめる場所として提供しています。例えば、ケーブルテレビ局さんが一生懸命に制作したコンテンツも、ローカルのコミチャンでしか配信されていないケースが多いのですが、当社のこのチャンネルにご提供いただければ、放送として日本各地のケーブルテレビ局へ流すことができるというわけです。

最近、人気が急上昇しているのがJAXAの種子島からのロケット打ち上げの中継です。JAXAのホームページにアクセスすれば見られるのですが、アクセスが集中し過ぎてきちんと見られない場合も多いようです。しかし、当社のチャンネル700経由であれば、放送サービスとしてストレス無くご覧いただくことが可能です。JAXAからもご協力いただき、科学振興にも貢献させていただいています。

せっかく制作したのだから番組として提供したい。そのような番組があるのだから是非視聴したい。我々も一緒になって楽しみながら、ケーブルテレビ局の皆さんにも楽しんでいただける、大変活気のあるチャンネルになっています。

── それでは最後に流通の方へのメッセージをお願いします。

田中ケーブルテレビ局では、STBを売り切りモデルとしているところが少ないため、これまでは量販店さんとの関係も決してパイプが太いとは言えませんでしたが、これからは相互にもっと歩み寄っていくことも必要です。

ケーブルテレビに加入しているお客様は、多チャンネル放送サービスに月何千円も払っている、量販店さんにとっても有望顧客となるお客様です。色々な商品をアピールできる存在であり、反対に、量販店さんからはケーブルテレビ局のサービスをご紹介いただくなど、相互の関係を高めていくことで、シナジーも発揮されます。

今後、4K放送の進展によりIP放送化されることで、ケーブルテレビ局がもう一度、放送サービス提供のメインプレーヤーとして存在感を発揮していく可能性は大変高い。色々な視点からビジネスを活性化していく上でも、見逃せないユニークな存在になってくると確信しています。

◆PROFILE◆

田中 慶彦氏 Yoshihiko Tanaka
1960年生まれ、大阪府出身。(株)東芝、日本通信衛星(株)(現スカパーJSAT(株))などを経て、2006年6月にジャパンケーブルキャスト(株)入社(取締役副社長)、2013年3月代表取締役社長に就任、現在に至る。趣味はランニング、座右の銘は「一事が万事」。

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