岡田 豊氏

専門性と提案力を備える販売店と
手を携えて次のビジネスを築いていく
株式会社ヤマハミュージックジャパン
AV・流通本部 本部長
岡田 豊氏
Yutaka Okada

専門店に向けたプレミアムショップ政策で、ハイファイオーディオの展開を精力的に推進するヤマハミュージックジャパン。ライフスタイルや市場の変化に応える5つのカテゴリーで、体感重視の訴求にも力を注ぐ。AV・流通本部長に新たに就任した岡田氏が、意気込みを語る。

高付加価値をアピールする
体験型展示を推進
プレミアムショップ政策とともに重視する

3年目となる組織で
着実な前進を遂げる

── この4月にAV・流通本部の本部長に就任された岡田さんにご登場いただきました。これまでのご経歴をあらためてお聞かせください。

岡田私は1988年にヤマハに入社し楽器の営業部門に配属され、東京支店で埼玉エリアの営業に4年ほど携わった後、海外営業部門に配属され浜松の本社に勤務しました。1998年に香港に赴任し、現地でのAVのマーケティング調査など実地の足元固めをすることになりました。急速に大きくなっていた中国市場で、販売会社の設立に向けて準備が進められていたのです。

この頃中国では活発になってきたオーディオ需要に応えようと各社が参入していましたが、中国市場で商品を展開するための入り口として、当時は広東省に一大卸市場がありました。そこを出発点に中国全土にモノを卸す商流があり、それを香港の代理店がコントロールしていましたが、我々が主体となってよりよいオペレーションを行うために、現地法人が必要とされたわけです。

ヤマハブランドは、楽器などの文化的イメージとオートバイの知名度などで中国にも広く浸透しており、ありがたいことに高いイメージを保っていました。そういう状況の中で私は、代理店の人間とともに上海や北京など主だった都市に出向き、販売網を把握していくことから始めました。

2003年に販売会社が設立され、ヤマハが主体となってフルラインナップでモノを仕入れて売れるようになりましたが、その頃からどこの会社でもメーカー自らが仕入れて全国に卸すスタイルとなっていき、南からの大卸経由の商売は役割を終えていきました。そういった切り替えの中で私は、香港から上海に異動し、販社での事業部の立ち上げに従事しながら1年ごとに上海と広州を行き来していました。手薄だった南や西の販売網を立ち上げるべく、広州では人の採用からディーラー開拓などあらゆる業務を行いました。

日本に帰国したのは2006年で、浜松本社のAV営業部で営業の業務とともに商品企画も行うこととなり、AVアンプやYSPなどを担当しました。全世界に向けた商品の企画で、中国での経験はヨーロッパや東南アジアでニーズを的確につかむことに役立ったと思います。その後2012年にヤマハエレクトロニクスマーケティングジャパン(YEMJ)に異動しましたが、これが国内営業に携わる最初の経験となりました。2013年にヤマハミュージックジャパン(YMJ)が設立され、今年4月から前本部長の猿谷を引き継ぎ、現職に就任しました。

── 設立3年目となるYMJですが、昨今の状況はいかがでしょうか。

岡田国内の販売会社であるYMJの中で私が携わるAV・流通営業本部は、電機流通を販売チャネルとします。取引先様は主に家電量販店様とオーディオ専門店様で、商材は主に民生用のオーディオビジュアル製品と電子ピアノやキーボードなどです。以前は楽器担当の特販営業課とAV担当がそれぞれ存在していましたが、YMJの設立によって同じ人間が楽器とAVを取り扱うことになりました。商材による区分を流通ルートによる区分に変えたわけで、1人が扱う商材は増えましたが、同じ法人様に対して効率よく対応できることになり、現在はいい手応えとなっています。ハイファイオーディオは今期の1Qも対前年比で2桁成長を遂げていますし、それ以外のカテゴリーも目標値をしっかりとクリアできました。計画どおり順調に推移しています。

「5本の柱」で商品展開
重点はハイファイオーディオ

岡田 豊氏── YEMJの当時から御社は、AVコンポーネント、薄型テレビオーディオ、ハイファイオーディオ、デスクトップオーディオを「4本の柱」とする商品戦略を展開されています。昨今のお取り組みはいかがでしょうか。

岡田ヤマハでは昨年度からヘッドホン、イヤホンの本格展開を開始していますが、これを新たな5本目の柱と位置づけています。高いシェアをもつAVコンポーネントと薄型テレビオーディオは現状をしっかりと維持していく方針で、昨年インテリアオーディオの新しいカテゴリーを打ち出したデスクトップオーディオは、新しいチャネル開拓も進め徐々に広げています。新たなヘッドホン、イヤホンカテゴリーは代理店を通じて訴求していますが、家電量販店様を中心に展示も順調に広がり、売上げも安定的に伸長しています。

5つのカテゴリーの中で我々が最重要視しているのは、ハイファイオーディオです。この市場は非常に安定しており、今後なお成長する可能性も秘めています。ここ2年間は前本部長の猿谷の指揮で精力的に活動し、営業の改革も図ってきました。そのひとつがヤマハプレミアムショップ政策です。トップエンドのハイファイオーディオを展開するにあたり、有力なオーディオ専門店様とのしっかりとした協力体制を構築させていただくもの。こうした政策を始め、予算編成や活動の方針も明確に打ち出してきました。

プレミアムショップ政策は、今期も引き続き営業政策の第一のプライオリティとしてしっかりと推進して参ります。営業組織の体制も、量販店様に対するエリア営業の組織とは別に専門店営業の組織を設けて対応しております。2Q以降には新製品を一気に投入しますので、営業体制を基盤に、着実に成果をあげることを意識して取り組んで参ります。

お客様に実感をもたらす
体験型の店頭展開に注力

── さまざまなチャネルで店頭展開に力が入りますね。

岡田当社では高付加価値の商品をアピールし、お客様のご満足につなげたいと考えます。それを実現する手段として前期から注力しているのが、体験型の店頭展示の推進。これを継続し、拡大を図っています。たとえば薄型テレビオーディオのYSPでは、量販店様中心に全国に約100ヵ所の体験コーナーを実現できました。店頭のレイアウト変更が随時行われる中でもエリア担当者がフォローアップし、さらに新たな店舗展示を広げていく活動を行っています。YSPはこうした状況ですが、AVアンプやハイファイオーディオになると、量販店店頭で音を体感できる展示はまだまだ少ない。全国30店を目標にそうしたコーナーづくりを推進しなくてはと思います。

専門性と提案力を備える販売店様の存在は、今後ますます重要視されると考えます。お客様のライフスタイルに、お客様自身が知らなかった新しい何かがもたらされると実感できることです。そうした提案ができ、なおかつ店頭で実感をもたらす仕掛けができれば、ネット販売などに脅かされることはないでしょう。

先日ある販売店様を訪問した際、体験、体感重視の店頭展開に感服し店長様と話をしたところ、売り手が勝手に飽きていると指摘されました。たとえばスカイプ。昨今はテレビにもネットワーク機能があり、手軽にこれを体験できます。店頭で体験の場をつくると、お客様は必ず驚きご反応するといいます。

けれどもそうした訴求をするお店は多くはない。それは売り手が勝手に飽きて止めてしまっているからではないか。実はお客様にはまだまだ届いていないだけで、大きな反応が期待できるのに。そういうテーマはたくさんあり、丹念に拾い集めて体感の場を広げていければ、リアルショップの可能性は広がる。そんなことを話しておられ、おおいに共感しました。

私どもの営業政策にも当てはまります。YSPなどは販売して10年。安定した売上げがある一方で、知らないお客様はまだまだたくさんおられる。そういう意識を常に持って、体感につなげていく活動を起こし、お客様の楽しみを広げていかなくてはと思います。

音楽の新たな楽しみ方を
次のビジネスにつなげる

岡田 豊氏── 昨今の市場環境をどうご覧になりますか。

岡田ハイファイは昨年から引き続き安定した需要が続いています。テレビまわりはテレビの需要が年ベースでまだ550万台を割り込むところで推移しており、まだ上向いていません。しばらくはゆったりとした回復になるかと思います。ここは競合関係も厳しいところですが、我々は付加価値をアピールする商売を展開していきたいと思います。

またデスクトップオーディオのカテゴリーでは、今後の変動が期待されます。いよいよ国内でも数社のストリーミング配信サービスがスタートし、アップルもそこに加わりました。欧米ではストリーミングが音楽の聴き方の主体となっておりますが、日本ではこれがどういう影響力を発揮するかが非常に注目されます。音楽コンテンツを所有する聴き方から一転し、未知のものも含めていろいろな音楽との接点が広がってきます。それが裾野を広げ、お客様が音楽を聴く時間を増加させる作用をもたらすのではと期待します。

すると当然そこからオーディオ機器への需要の高まりも期待できます。要点はネットワークへの接続ですが、ここに関連した新しいカテゴリーのマーケットも構築できる余地があります。それが何であるか、その新しい解が求められるわけですね。

日本はまだそのトレンドから離れた状況にあります。ストリーミングサービスが日本でどう広がっていくかは未知数ですが、動向によってはこれから世界の商品トレンドと方向性が合致するかもしれません。またそうでなければ「ガラパゴス」と言われてしまいますね。我々としてもしっかりと対応して参りたいと思います。

さらにハイレゾ、そしてアナログといったキーワードでオーディオはさらに盛り上がりが期待できます。アナログレコードを楽しむ動きは全世界的に広がっていますから、我々としても鉄は熱いうちにとの思いはあります。

昨今の営業活動を通じて、商品企画に専門店様の声が直接届けられる機会が増えております。プレミアムショップ政策は販社にとってのみならず、ものづくりにとってもいい影響をもたらしているのです。こうした流れを絶やさずにいい商品を市場にご提案し、販売店様と手を取り合って訴求を推進して参りたいと思います。

◆PROFILE◆

岡田 豊氏 Yutaka Okada
1965年3月20日生まれ、大阪出身。1988年4月 ヤマハ(株)入社。2015年4月 (株)ヤマハミュージックジャパンのAV・流通営業本部本部長就任、現在に至る。趣味はボウリングと観劇。

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